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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
42/81

犬頭の友人

ウズマサ達は知らなかったが、ハンフリー・ダービーは邸宅である屋敷の他に、大規模な晩餐会用の館を春夏用と冬用に2つ持っており、対外的にはそこでしか会わない事で有名だった。二男一女に恵まれ、子供のいる屋敷に、獣人やゴブリンを入れることなどまず絶対に有り得ない人物である。

その彼が屋敷に遊撃隊の隊長たちを招待したとあって、話題に飢えていた貴族の間で絶好のスキャンダルになった。

翌朝には、リファール貴族の各サロンではこの話題で持ち切りになり、噂が噂をよんだ。


貴族議会の選挙の為に参考として招いてやったというのが大方の見解であり、ハンフリーは議長になりたいのではないか、という声が多くあがった。

この噂を気に入らないのが、貴族議会議長のカール・R・ベルジックである。

ティリウス公爵と同じ公爵の地位があり、エルフの中で議長を示す白の付け髭とカツラを公ではつけるが、まだ若く戦争当初ティリウス将軍を推挙し、異例の速さで議長までのぼりつめた権力の人だ。


カールは噂を一蹴した。

「下らない。博打商売の好きなダービー伯の事だ。首長受け入れの選挙前に生でゴブリンの卑しい顔でも見ておきたかったんだろう。」

そう言いつつ、内心はざわついていた。


(ハンフリーはよりによって、ゴブリンと屋敷で会った。あの卑しく愚かで恐ろしい宿敵ゴブリンと!

度胸か無謀か。両方か?獣人と会ったのも変だ。奴はペットが嫌いなはずだが…)

味方になった各種族に失礼極まりない事を思いつつ、カールは議会に備えサロン室を出た。


朝日が昇って、ウズマサはノックの音で目覚めた。

「少し待たれい。」

思わず古語になり、褌一枚から急いで着替えた。

メイドが時間がないと入ってきた。

「す、すまない。烏帽子を被るまで待ってくれ。」慌てるウズマサに、住み込みになる前近所にいた犬を思いだし、ついクスクス笑いをしてしまったお局なメイドに赤面しつつ、髪を手櫛で撫で付け侍烏帽子を被り、顎紐を丁寧に結んだ。

「アリガトウ。何の御用かな?」

「失礼しました。コホン、ウズマサ様、朝食の準備が出来ております。」

「朝食までご馳走になるとは。有り難く頂きます。」ウズマサは軽く礼をしたのだが、ペコリとコミカルにお辞儀をした様に見えた。

「では、こち、らに。」何かがツボに入ったらしい。必死に笑いを堪えながらメイドはプロ精神で食事の間にウズマサを案内した。


「お早う。よく眠れたかね?」快活から程遠い声で、ハンフリーが座ったまま片手を挙げた。

「お陰様で。よく眠れました。一夜泊めて頂き感謝します。」

「うむ。礼儀正しく知的で謙虚で感謝を忘れないのは貴族でも中々無い。高邁と傲慢は違う。分かるな。」ウズマサが礼をするとまた軽く手を挙げてそれに応えた。

「君も掛け給え。パンと野菜スープで良ければあるぞ。」

「有り難く頂戴します。」

(目的を達成するとつっけんどんな態度をとるのか。)

ウズマサは、ハンフリーは敵にまわったら手強い相手だと確信した。昨夜の、儲けがどうのという発言を思えば、戦さえ数字で見るタイプであり、本来ウズマサとは対極の性格だった。

「あの、ご夫人やお子さん達は?」

「ああ、あれや子供達は別の部屋で食べてるよ。子供には特にゴブリンとは会わせられん。」ハンフリーはパンを千切りながら、むっつりした顔でバターを切った。

「我々の顔は、朝から夢見が悪くなる野蛮人の顔でしたか?朝食を頂いたら、また前線まで戻ります。隊の補給や物資支援の約束、改めて有難う御座います。ゴブリンの労働者の件、オーナ首長に話を通しておきます。ゴブリンにとって彼女の言うことは絶対ですから。」ウズマサも昨夜の取り決めを反芻し、木のスプーンで野菜スープに口をつける。昨夜は銀のスプーンだった。

「そういえば、ステフ達は?」

「ああ、あの没落貴族どもか。彼らは宿屋に帰って朝食をとるそうだ。君の従者も馬を連れて帰って貰った。君は朝食をとった後、トボトボと通りを歩いて一人宿まで帰るのだ。」

貴族ならば無礼なことだっただろう貶める得意技を披露したが、ウズマサはそうですかと流した。

「子供達をウズマサさんに会わせたくない理由がありましてな。」ならば、と躁鬱病で鬱気質が出ているハンフリーがウズマサを傷つけにかかる。

「ウズマサさんに会ったあと、彼らはきっと犬のペットを欲しがるのです。」

「ダービー閣下の様な賢明な出資者に怒りを向けたくありません。信頼していますから、よく分からん侮辱はやめていただきたい。」噛んで含めるようにゆっくりと話すと、ウズマサはパンを口に放り込む。

「…。」

ハンフリーは押し黙った。


ハンフリーは、人を理解する一番簡単だが能率的ではない方法をとった。

どの辺りで怒るのかを推し量る方法だ。貴族相手には効くかもしれないが、文化と立場が違うウズマサに効くわけがなかった。


朝食を食べ終わり、ウズマサを見るともうすぐ食事が終わりそうだった。すぐに席を立つことを思ったが、ふと長男のトマスとウズマサとをあわせたくなった。息子を子供のうちから異文化異民族に触れさせるのは悪くない。

侮辱による反応を見るに、ウズマサはどうやら紳士タイプだから、息子に会わせても平気だ、という淡い信頼もあった。

「先程は口が災いを言った。お詫びとして、息子のトマスに会って貰えないだろうか?救国の英雄になりそうな人物に会って刺激を受けて欲しい。」

「犬を飼いたくなる前に帰ろうかと思ってましたが、息子さんにお会いできるのは光栄です。」

西方世界では、侮蔑に対する皮肉は頭が良い証拠とされた。みやこで育ったウズマサも自然と皮肉が出ていた。


子供部屋に父親と共にウズマサは移動した。

ハンフリーは部屋をノックする。

「トマス?」

実質年齢5か6歳位のトマスは、ドアを開けた。ウズマサはハンフリーと共に部屋の中に入る。

「お父さん。その毛だらけのおじさんだれ?」

「おはようございます。トマス殿。某はミナモトノウズマサ。貴方のお父様の友人です。」ウズマサは笑顔で、かがんでトマスと目線を合わせた。

「某は犬人で、犬豪という騎士みたいなことをしています。」

「ふーん。」トマスは大いに興味をもった。

「どうして犬と同じ頭をしてるの?」

「某達は、生まれた時から皆こうです。トマス殿が生まれた時から平地エルフであるみたいにね。」ウズマサの声は優しかった。

「あのさ、その変な帽子は何?」

「これは烏帽子という被り物です。貴方方でいう、このネクタイみたいなものですよ。」

ハンフリーに負けず劣らず、トマスも質問攻めをした。その度ウズマサは笑顔で言葉を選び分かりやすく答えた。

ハンフリーはその様子に感心していた。


今朝は怒らせて追い出すつもりでわざと蔑視した。だが、この男はどうだ?


「あのさ、ウズマサおじさん。」何となく懐いたトマスはもじもじした。

「ウズマサおじさんの顔に触ってもいいかな?」突然の申し出にウズマサはスマイルを浮かべた。

「その代わり、君の頭を撫でさせて欲しいな。」

「なんで?」トマスは母親以外から頭を撫でられるのは余り好きではない。

「本来獣人を撫でるのは、プライドがあるから余り好まれないんだよ。某を撫でるなら、君も撫でさせて?それでおあいこでどうだい?」グウェインから教わったウインクをすると、トマスは笑顔になった。

「いいよ。僕からね。」

ウズマサは烏帽子を脱ぎ、目を瞑り黙ってトマスに頭を差し出した。首は魂である。

トマスは犬人の顔を撫でた。頭をナデナデする。意外に気持ちが良い。

「おじさんの毛並みとても綺麗だね。」

「そうかい?ありがとう。」

トマスは一通り撫でると満足したらしかった。

「では次は某の番かな。」ウズマサはトマスを母親が息子を撫でる様に優しい手付きで金髪の頭を撫でた。

「優しい手だね。まるでお母さんみたいだ。」トマスは目を細めた。

「君も髪がサラサラしてて綺麗だね。」

「うん。お母さん譲りなんだ。」

「良い子良い子」ウズマサが頭を撫でると、ハンフリーは咳払いをした。

「よし。頭を撫でた者同士、これで友達だね。」ウズマサは手を放すと、そっと握手を求めた。

「うん。ウズマサおじさん。」トマスは握手に応じた。

「これから、悪い魔王モンテンノーザに戦いに行くよ。君みたいな友達を守るためにね。」

「また来てくれる?」トマスは使用人でない対等の友達を前に寂しがった。

「君のお父さんが許すならね。それまで、お父さんお母さんの言うことを守って立派な貴族を目指して下さい。また会おう。」

ウズマサは立ち上がり、息子の姿に微笑んでいるハンフリーを横目に子供部屋を出た。


「帰る前に聞きたい。君の親はどんな教育を君に施したんだ?まるで人格者じゃないか。」ハンフリーは人生初の屋敷からのぎこちない見送りをしつつ、父親としてウズマサに興味があった。

ウズマサは差し出されたコートを羽織りながら答えた。

「母上は生まれた時には既になく、父上はシュテンという山賊と戦って亡くなりました。父上から武芸を教わりましたが、教育は使用人のサクから教わったといえます。立派な人たれ、と。」両親から愛されているらしいトマスに、ウズマサは幼少期の自分を思い出しどこか寂しい気分になっていた。稽古することで厳しかった父親への理解を深めようとする行為は、結果として犬豪であるウズマサの命を助けている。

「使用人が口出しするのか。それに立派な人たれとは家訓か?我が家のモットーは常に冬に備えよ、だ。今こそ冬の時代だと思っているよ。」

朝になっても気さくな様子のハンフリーをみて、見送りに並ぶ使用人達は主人の見送りに驚いていた。

ビジネス以外でこれ程ゲストに心を砕くのを見るのは初めてだった。

「では、左様ならばこれで失礼する。」ウズマサが深く礼をすると、ハンフリーは軽く頷いた。

「武運を祈る、友よ。」この言葉にドアを開けていたグレイは驚きが顔に出た。

「ありがとう、さようなら。」コート姿のウズマサは屋敷を出た。

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