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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
40/81

夕食会前

オーナの救出と他の首長の死はゴブリン全体に瞬く間に広まった。ゴブリンは魔王への隷属を捨て、オーガをトロルをハイウルグを裏切り、集団で命を捨てて反抗した。

そこをティリウスの正規軍は見逃さなかった。その機に乗じて敵に攻め入り、敵の区別なく虐殺した。敵の中にはゴブリンが当然含まれており、エルフの復讐心が燃え盛った。

行き場のないゴブリン達は、オーナを頼って遊撃隊に加わった。遊撃隊はゴブリンであふれたが、遊撃隊内で保護している首長オーナの命令により、ゴブリン達は極めて高い規律をみせた。



エルフの有力貴族の一人、ハンフリー・ダービーは遊撃隊の、ウズマサのゴブリンを味方につけたやり方に強い興味を抱き、使いに招待状を持たせて危険な前線にやり、彼の屋敷の晩餐会に招待した。手紙には招待客としてウズマサと他2人と書いてあるが、グウェイン達の話も聞いているらしい。

当然の如くグウェインは辞退したが、ウズマサに行くよう説得もした。隊長になり成功すれば、面倒な世辞もある。グウェインは勝利の酒宴を除いて、本当にエルフ貴族の戯言やパーティーというものが嫌いで、老獪な説得術と冷静な頭を身につけつつある犬豪ウズマサに任せようとしたのである。悪い言葉で言えば、押し付けたと言っていい。

「せめて部隊にいるゴブリン達の背中を刺されない様に、ここは隊長として貴族に取り入る義務を果たすべきだろう?ウズマサ殿。」

こう言われてはウズマサも引くわけにいかなかった。


「礼儀やテーブルマナーなどをお教えしましょう。知るのと知らないのとでは格が違います。」僧侶戦士のスノリがウズマサに貴族の基本的な礼儀、食事の礼儀を手ほどきした。

「こんなことなら狩衣と笏と履物を持ってきたら良かったですな?」クライザから合流した犬士ホウイチが無邪気に笑う。

「オラはディナシーの騎士やエルフの貴族の方々がやるように、従者としてついていきます。」通訳にガイドに獣人の生活相談に部隊での揉め事解決にと、ウズマサの右腕として活躍していたダンキチが手を上げた。

「ミモザの屋敷にあった貴族の服で、隊長に合いそうなのを貴女達(注:ゴブリン語では女性に対する敬語や用語や言い回しが沢山ある為日本語に訳すと齟齬がある)が持ってきてくれました。洗濯係が綺麗にしておりますので当日の仕立てはバッチリです。」マグが親指を立てた。

部隊は和気あいあいとしていた。その雰囲気は隊長のウズマサの他人をたてるが侮辱は許さない、誰にでも公平であろうとする態度にあった。西方世界唯一の犬豪という立場を意識しての行動だった。

貴族の服。

魔王のいない時代に服飾革命が貴族間で起きた結果、服装が平均化し貴族か貴族のような服を着ることが招待をうけた者としてマストとなっている。そうした意味で下の階級が招待されるのは障害があるし、そもそも招待されないのだが、大都市ミモザの貴族の服は、リファールの流行から遅れているが礼節を欠かない服だった。

中央大陸から寄せたらしい袖にフリルのついた絹のシャツと刺繍だらけのウエストコートを着て襟を立て、ふかふかさせた白く長いクラバットというネクタイを襟に巻き、また刺繍のあつらえた緑のコートを羽織り、白のタイツと半ズボンの様な緑のホーズをコートの色に合わせて履き、汚れて毛の抜けたつらぬきでなく革靴を履いた。

ここで金色か白の長髪のカツラを被ることもあるのだが、侍烏帽子だけは脱ぎたくなかった為敢えて烏帽子を被り、太刀をいて馬に乗ったが、履物が違う為に靴ずれをおこしかけた。

混成部隊を示すため、護衛にダンキチとマグと古参エルフのステフを連れ、臨時隊長のグウェインと副隊長のドンウクに別れを告げ、リファールまで出発した。

ウズマサは一時は貴族気分だったが、周囲からの奇異な目に高揚していた自分を恥じた。

「これでは晒し者だよ」呟いたウズマサをダンキチが励ます。

「なんのなんの。スノリ殿から太鼓判を押されたではありませんか。御主人様。」

「前々から思っていたが、御主人様と呼ばず隊長なりウズマサなり呼び直したらどうだ?お前の働きには頭が下がる。」

「と言いつつ、本当に下げないでくださいよ?御主人様。」ダンキチは誇らしいといった顔でハッハッハと大きく笑った。

「…故郷に帰れないなら、ここを故郷にするだけです。翻訳機無しでもエルフの言葉も読み書きもゴブリン語も虎語も覚え、犬士を目指さずともオラは御主人様にお仕えすれば、そこで犬士の如く生きれると気づいたのです。御主人様は御主人様だ。他の呼び方はもう知らね。」

阿島語で本音を話すダンキチに、ウズマサはそうかと相槌をうった。

「アシマゴ、スコシ、デキマス。」ステフが阿島語でからかった。

「ワタクシモ、デキマス。モット、ガムバッテ、ハナスヲ、オボエマス。」マグが張り合う。

ウズマサは緊張や羞恥心が消えていた。


ミモザからリファールまではスムーズにすすんだ。駐屯している駐留部隊は言うまでもなく、ゴブリンからも厚い歓待をうけ、魔王に内緒でためこんでいた食料を道中譲って貰った。エルフだけの村の方が閉鎖的で、貴族の格好をするウズマサに隠れてツバをはく者もいたが、遊撃隊の隊長として有名になったウズマサに面と向かってどうこう言う度胸は誰も持ち合わせていなかった。

リファールでも街行く人々から、最初に浴びたのと違う奇異な目で見られた。ダービーの屋敷に、貴族の住んでいる地区へと向かったが、今度は窓からの視線を一身に浴びた。

食い詰め下級貴族で生きるために兵隊になったステフは、ミモザで見つけたウズマサよりランクの落ちるホーズを履かない簡易の貴族の格好をしていた。


「まぁ、当たり前だけど歓迎はされないよな。私もこんな城近くの高級貴族の住宅通りには初めて来た。」ステフが指で鼻をすすると、ダンキチとマグが苦笑した。

ダンキチは洋服に着替える前提で、鎧姿で槍の穂先にカバーをつけ、マグはエルフの洋服にプレートの胴鎧を身につけフード布を被っていたが、それも奇異に見えていた。

「いつも通りの服装とはいかないだろう。」マグはフードを深く被り直した。

公爵であり将軍でありリベラル的であると自称するティリウスの激しい蔑みの反応が思い浮かぶ。


「ダービー伯爵の屋敷はまだか?」戦場でも感じなかった貴族達の覗き込んで穴の開くような視線に毛を逆立てながら、ウズマサがダンキチに問う。

地図と方向感覚が抜群に良いダンキチは、ウズマサの地位に畏まっていた街の衛兵達からダービーの屋敷について尋ね、把握していた。


ダービーの屋敷は深紫の屋根で3階建て。大きく目立った。

ウズマサは馬から降りようとしたが、ダンキチがそれを止めた。

「ちょいお待ちを。」

ダンキチはそういってウズマサの馬に自分の槍をくくりつけ、ダービーの屋敷前の囲いの中の茂みにそっと入り、大急ぎで鎧と和服を脱いで従者らしい洋服に着替えた。

クラバットタイの位置を気にしつつ、鎧と畳んだ服を脇に抱えて出てきた。

「そうか。使用人同士の挨拶周りをしようという訳か。」ステフが気がついた。

「何であれ、随分こちらの文明に毒されてきたな。俺達宿にいた方が良かったのでは?」マグが居心地悪い顔をする。


「では、挨拶行ってきます。」ダンキチは思い切り口角をあげて歯をみせた。ダンキチでも緊張しているらしく、屋敷の範囲内に入るとぎくしゃくと扉に向かった。

扉近くのドアベルを恐る恐る鳴らして、ドアノッカーを3度叩くと、待っていた使用人が扉を開けた。窓から見ていたらしい。


「晩餐会の招待状を受けて、まずは挨拶に参りました。3人とありますが、恐らく招待を受けたと思われるグウェインとドンウクは諸事情により来られませんでした。また、代わりに平地エルフで我が隊の古参で貴族の息子ステフと、ゴブリンで首長からの信頼厚いマグが参りましたが、ダービー閣下がお認めにならないのであれば、御主人様だけでお食事を共にする『覚悟』が御座います。

また、ステフ殿を除いて、御主人様のウズマサは犬人ですし、マグ殿はゴブリンです。礼儀作法は僧侶から予め学びましたが、異文化ゆえに食事中に無作法があるかもしれません。主人のダービー伯爵閣下にお伝え下さい。」ダンキチが一気に喋りきった。


「承知しました。では、使用人筆頭のグレイにお伝え致します。入口でお待ち下さいませ。」使用人のエルフは扉を閉めた。

ダンキチは入口で考えを巡らせた。ダービー伯爵の胸ぐらを掴む様な文言を含めた。全員を参加させなければ失礼に当たると暗に言ったつもりだ。


返事は程なく出た。


黒い燕尾服に執事を示す黒いリボンタイを嵌めた壮年のエルフが出てきた。

「緑の服…」ダンキチよりも馬上のウズマサのコートの色を見て思わず顔をしかめた。リファールでの貴族は燕尾服や黒い服、白いクラバットタイが流行でありフォーマルな場での正装とされた。

とはいえ、ミモザ流の昔の正装に着替えたウズマサらを無下に出来ない。執事は少し目を伏せた。


「ご主人様は確かに、ウズマサ様、グウェイン様、ドンウク様とお会いしたいという意図で招待状をしたためなさった。しかし、他のお二方にも興味を持たれ、晩餐会の出席をお許しになられた。時刻は今日の夕刻7時頃、日暮れにまた改めてお越し下さい。」

「畏まりました。この度は招待頂きありがとうございます。」ダンキチは心でほくそ笑み、賑々しく挨拶を終えた。

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