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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第一幕 ミナモトノウズマの冒険
4/81

警護ルートは周囲を警戒しながら都を出て、獣道の様な藪を通り、モノオサメに常駐している犬士と神主に琵琶を納めればゴールとなる。



単純で、何事もなければ犬豪を呼ばずとも簡単に出来る仕事だ。




それだけに士気などあがるはずもなく、琵琶を運ぶ文官も半ばダラダラと足だけを動かしていた。




「五弦の琵琶はどのようなつくりであろうな?」チカラヲが文官に尋ねる。


螺細(らでん)といって貝の内側などを張り付けた柄で、雅で豪奢なつくりですな。」文官は玉の汗をかきながら、琵琶の入った箱を運んでいた。


「仙女と蓮花の模様が美しいのですが、帝様が今お持ちのものは貝だけでなく宝石が薄く散りばめられたより豪華な物がでして、中央大陸は青鱗青龍王時代の物が手に入ったのです。」


「青鱗青龍王か」チカラヲは呟いた。




大陸では昔、青鱗青龍王が統一し、治めていたのだが、赤巾の革命によって、今では首がすげかわって赤室猿王が中央大陸に永く君臨していた。狼人が阿島にやってきたのはその頃になる。




「貴重な逸品だな。」古きに思いをはせたチカラヲは黙って周囲を警戒しながら歩くウズマに苦笑した。


「ウズマ殿、そんなに力をいれても賊は滅多に出ませんぞ。」


また、周囲から笑い声があがる。


武装した犬士犬豪がウズマを入れて八名もいる。賊であれば襲うより逃げるだろう。


フジの手配に抜かりはない。




だが、背高い草の生えた藪の中を通り抜けようとした時だった。


「あれは何だ!?」犬士の一人が声をあげた。



誰、でなく、何、であった。


皺だらけの老人の様な黄色い顔、虎を思わせるしなやかな青い毛並みの肉体、そして蛇でなく蠍に似た形状をした、長いトゲまみれの尻尾を持っていた。それは鵺に見えた。




ウズマの配下の犬士達は即座に弓を引き絞り矢を放つが、矢は青い毛皮に弾かれた。


「効かぬか!」


弓を放った犬士が悲鳴をあげる。


鵺は死にかけた老人のような不気味な低い声をあげて、幾つもの大きなトゲがはえている尻尾を向けた。


蠍の尻尾をブルッと震わせると、尻尾のトゲが高速で吹き出し、ウズマ達に襲いかかってきた。


トゲは、犬士達に突き刺さり、倒れる者もいた。チカラヲは肩にトゲが突き刺さり「くそっ!」という悪態を漏らす。



ウズマは腰の太刀を抜いて幾つか切り落としてみせた。それでもトゲが兜や肩当てに刺さっている。

兜を脱いで侍烏帽子姿になったウズマは太刀をしまい、背中から肩にかけて紐ごと鞘を動かして、威力と重量のある大太刀を引き抜く。



ウズマが八相の構えで鵺に対峙した。小馬鹿にされた大太刀だが、全ての武器は使い手による。



ビョオオオオオオ…


遠吠えの声で鵺を威嚇する。鵺の動きが一瞬止まった。



ワゥッ!


声をあげるとウズマの大太刀は、凄まじい速さを保ちつつ、剣線が鵺の顔面を捉えた。




ゾンッ!




目を見張る一撃はしかし、老人の顔を浅く打ち据えただけだった。


ビュッ!ザンッ!


返す刀で顔面を切り上げたが、全く刃が通らず、勢い余って近くの藪まで切り取った。


ゴァアア!


鵺は正確には天竺インドでマンティコアと呼ばれる凶悪な部類の敵だった。



ガッ「うぬっ!」


鵺はウズマの左の腕当てに噛みつくと、首を振り回して引き倒そうとした。


「このっ!」


腰を落としてそれに耐えると、ウズマは大太刀の柄で鵺の顔面を何度も打ち据えた。



「こっちだ!化け物!」


体勢をたてなおしたチカラヲが金棒で鵺の背中を叩き、他の犬士も槍で突いた。


刃筋は通らないが、打撃を嫌がった鵺はウズマへの噛みつきを止めると、身を翻してチカラヲの方へと突進した。



乱戦に加わろうとしたウズマだが、左の腕立てがひしゃげ、牙が食い込んでいた腕は紫色に腫れている。


毒だ。ウズマの視界が悪くなっていく。


チカラヲが金棒を鵺に打つも、喉笛を噛みつかれて倒れる様を見ながら、いつの間にか、ウズマは自分が横に倒れていることに気がついた。



「くっ!」


毒抜きをするため、左籠手を急いで外し、腕の噛まれた部位を少し切って、口で吸っては毒を血ごと吐いた。



チカラヲだけでなく、一人、また一人と倒されるのを見て、ウズマは歪む視界の中で立ち上がろうともがいた。



よろけながら気力だけで立ったときには、ウズマを除く全ての犬士が地に伏して倒れており、多くが即死したか致命傷をおっていた。




鵺の立ち去る姿を目にしながらも、ウズマはふらふらと琵琶の入っている箱に向かって歩き始めた。



使命感のみで箱の中身をあらためると、箱の中身から見事な琵琶が現れた。



パッと見て傷ついていないかを確認しようとした所で、ウズマの意識は空を飛んだ。

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