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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
35/81

将棋は島国の論理

トランザに引き返した一行にティリウスは冷ややかだった。

「ゴブリンの言うことにほだされて、おめおめと戻ってきたのか?グウェイン殿も獣人達も大した事ありませんな。真に受けた?信じられない。タンジーでの戦を前に逃げ帰ったとしか思えない。防衛戦では素晴らしい働きをした貴方達を送った我々が間違っていた!」

グウェインは片眉を上げた。

「聞き捨てなりませんな、ティリウス殿。将軍として、我々をそこまで過小評価されては、後の事が困ります。」

「後のこと?まさか。」ティリウスは冷笑した。

「まさか、作り話かも知れんゴブリンの女子供を救いに何処かに旅して戦線離脱なさるおつもりか?」

「だから、それは‥!」グウェインがくってかかる。


ティリウスとグウェインの大声をあげた会話を前に沈黙するウズマサだったが、一つの確信があった。

刃物を突きつけられた時に殺してほしいと頼む程、ゴブリンは追い詰められている。

もし嘘をつくなら、これこれこうだから命だけは助けてくれなどと出任せでも、とっさに理由を添えて命乞いを頼むはずだ。

盗賊の命乞いは皆そんなだった。心を入れ替えて僧になった者もいれば、許すことは出来ない為にそのまま殺害したこともある。大半は後者だ。殺してくれという口ぶりからは、全てに限界がきた男の見せる反応だった。

また、ティリウス達平野エルフの憎しみは深く、今まで加害者であるゴブリンの捕虜など取るはずがなかったと考えられる。精々、捕虜をとってもゴブリン側の事情など知る由もなかっただろう。

その根拠として、エルフは自分の被害を一旦置いて、ゴブリンもまた、モンテンノーザの被害者だったという発想にまで至っていない。被害者であり戦争の当事者だから自分たちしか見えなくなるのは、当然だ


我々はゴブリンに襲われた、何故なら奴らは全て、魔王に無条件に仕えているからだ。

これで理屈を完結させ、数で勝っているだろう相手に、『根切り』で排除することしか考えていない。


「つまりは、冷静な頭で真ん中に立つ第三者という存在が抜けているのだな。」

ライゴウに習った思考法をもって、ウズマサは自制を保ったが、そのウズマサの独り言は大きかった。そして翻訳機は正確だった。

「何だ!犬頭!」グウェインとの口論で興奮したティリウスが礼儀を忘れ、皮肉で覆っていたメッキの剥がれた罵声をあげた。

「オラの御主人様に何てことを!」

主要な数人のみの会議でもオラは行きますと、頑なにウズマサの側に控えていたダンキチが色めき立った。拳を強く握り怒りに震える。

「ダンキチ待て。」ウズマサはダンキチを手で制した。

「ティリウス殿、一つお聞きしたい。」

「何だ?」

「貴方には、例えば我ら犬人(いぬひと)の顔の区別がつくか?」

「つくわけがないだろう。獣人共の見分けなど。どう見ても猿、犬、でかい猫だ。」ティリウスはこの際と鼻を鳴らして小馬鹿な口調で挑発した。

「俺たちが、あんたとそこらのエルフとの区別が髪の毛のあるなしや、精々髪の色瞳の色ぐらいでしか区別出来てない様に、あんたも特には区別ついてないんだな。来た国も人としての種も、各々な作法や風習も違う者同士なのに。」でかい猫と言われて一言いいたいドンウクより先に氷の様な口調でウズマサが言い放った。

「何が言いたい。犬頭。」そこらのエルフ扱いされて怒ったらしい貴族のティリウスにウズマサは続けた。

「まず、相手は違いを越えて結束しているのに、対抗する俺達は《《違い》》で足を引っ張りあっているということだ。」ウズマサは語った。

「ゴブリンは捕虜にしても言うことに嘘偽りしかない、と言うのは貴方自身か平地エルフ全体の思い込みに過ぎない。実際、魔王の軍は、シュウ・モンテローザという存在をもって一つによく纏まっているが、聞けば600年もの長い歳月を経ても仕えようと頭を垂れるなんて、これはもう彼等の崇めている暗黒神とやらか、そうでなければ人質でもとっているとしか考えられない。そうした点で間違いはないよな?」

ウズマサは友人の陰陽師の様に、噛んで含み何かを確認し合う様な口調になった。

「……。続けろ。」ティリウスは憮然と腕を組んだ。

「俺は、ただ憐憫れんびんの情だけで助けようとは思っていない。敵は多く、結束し、一方で俺達はまとまりに欠けている。戦略として提言したい。ゴブリンらがモンテンノーザを心良く裏切れる様に人質の女達を開放し、そして首長を味方につけるべきだ。少なくとも、子孫が絶えるまでお互い殺し合うより早く、魔王の軍隊の脅威を削ぎ落とすことが出来るはずだ。違うか?」

喋りながら、頭を全力で回転させ、相手との妥結を見出そうとする。犬士同士のいざこざを犬豪として中立的立場に立ち、余計な血を流さぬ様にしてきた経験が生きた。

「…それでも、その人質とやらを助けた後で、ゴブリン連中が好き勝手に略奪や民の虐殺行為に出ない理由がない。」ティリウスは西洋世界側の閉じた蔑視意識はあるが、人の話を全く聞かない無能ではない。ウズマサはここだとばかりに畳み掛けた。

「時にティリウス殿。貴方がたが仕えてる最上位のお方の名前は?」知っていたがウズマサはとぼけた。

「それはディアナ様だ。ハイエルフの血を引き、月の王冠を頂く女王陛下に神の名において仕える。」

「では、ティリウス殿は突然ディアナ様を裏切って魔王軍を利する様な行為に出ることを考えたことがあるか?」

「貴様!ふざけるな!我が忠誠は絶対だ!そして、女王陛下はリファール引いては我ら平地エルフの心臓だ!俺だけでなく、女王陛下への侮辱に一言出るなら斬首の刑にしてやる!犬頭を豚の様に転がしてやるぞ!」

激昂するティリウスにウズマサは「その心だ!」と叫んだ。

「同じことをゴブリンが首長に感じているとしたら、どうだ?奴等がわざわざ首長に逆らうか?」

「…っ!」ティリウスは言葉を失って息だけ漏らした。

「捕虜に聞いて確かめてみるといい。心臓とはよく言った。我々犬士が帝様に感じている忠義、虎族が王族に感じている忠義。ディナシーが感じている王への忠義。それにティリウス殿が感じている女王への忠義。それと同じものを敵であるゴブリンが持っているとすれば、これを利用しない手はない。そうだろう?」ウズマサはライゴウがやっている老獪な説得手段を用いていた。

腹の底で敵にも情を感じるのは阿島育ちの戦士の個性だ。

「全くもって気にいらんが、いいだろう。私は貴族だ。貴族には貴族としての矜持きょうじがあり、誇りがある。それと同じものを下賎げせんの奴等、ましてやゴブリン共が持っているとは、確かに考えたことは無かった。クライに派兵しタンジー戦に備え戦力を増長させると共に、お前達をそのまま前線から遊撃隊に切り替えてゴブリンの首長を……」


思考の果てに額を押さえ独り言の様に言葉を紡ぐティリウスよりも、片頬を上げたらしいドンウクの笑顔とグウェインの密かなウインクを見て、ウズマサは色々上手くいった事を実感した。

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