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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
26/81

転戦前

服に血を浴びていたウズマサは生まれてはじめての洋服、麻のシャツとズボンに着替え、勝利の割にはささやかな酒宴がティリウス主宰で行われた後で、瓦礫に腰かけ、死体処理や瓦礫撤去の終わりきれてない国の姿、街の様子をぼんやりと眺めていた。

左腕は内出血が酷かったが骨折まで至っていなかった。不幸中の幸いだが大鎧の左肩当てになる大袖がいきなり駄目になった。

ハイオーガを倒した功績により、ティリウス❨多分もっと上の位のものからだろう❩の特別なはからいによって、チェインメイルといわれる鎖かたびらの上に、残った大鎧の鎧の胴丸と右肩当てを上に着ることで代用することになった。

犬士が一人も欠けることが無かったのは犬豪という立場からみて単純に嬉しかったが、隣の虎族は死傷者が多く、ハイオーガを倒した自分を英雄と無邪気に持ち上げる者もいたが、故郷からの後詰めも援護もなく転戦することを思えば不利になるのは確実で、憂鬱だった。

また、エルフは獣人を差別していた。

おそらく猿族と交流するうちに芽生えた感情だろう。

猿族は中央大陸主義であり、全ての周辺国を馬鹿にしていた。

そして、青龍族から盗んだ仙術を駆使してやりたい放題し、近隣に貢ぎ物を要求していた。

それは、西洋諸国に対しても例外では無かったと考えるのは容易い。


ティリウスがいっていたが、森に住み寿命のないハイエルフから、森を捨て平地の文明を選んだ平地のエルフは呪いにより、産まれて120年で死ぬのだという。

その前に飢餓や戦や病で死ぬのだとも。

宴には領主はおろかティリウス以外の貴族さえ顔を見せなかった。そこまで他所の民族が嫌いなら森に閉じ籠っていた方が幸せだったのではないかとウズマサは思った。

顎を拳にのせ、葡萄なる果物から出来た(ワイン)に酔った自分をさましていた所で、ドンウクがきた。

「ウズマサ殿」

ドンウクの顔色は悪かった。当然だ。部下を死なせて勝利にひたる隊長など信頼に値しない。

肩を並べて戦って分かる。ドンウクは武人として誠実な男だ。

「ドンウク殿。戦働きお疲れ様だったな。そちらの怪我人はどうだ?」

ドンウクは首を振った。

「ウズマサ殿が倒した大男ハイオーガに突撃した者は皆死んだか重症だ。他にも次の戦場に連れていけない者が約半数。部隊で動けるのは全員合わせて10名といった所か。近接戦で怪我を負うのは武人の勲章だが、今回は多すぎた。」

ウズマサ同様有り合わせの洋服をきたドンウクがウズマサの隣に座る。

各人の血まみれの鎧や服は洗濯婦の所にいっている。身体は皆で川の中に入って洗った。その際しばらく川は赤く染まったので、獣達の血の川と呼ばれる様になる。

「国から手助けはくるだろうか?」ウズマサがポツリと呟いた。

「猿王の命令とはいえ、あの魔方陣が安定しているのか分からないし、あの時は最悪帰れないと否が応でも覚悟して入らなければいけなかった。応援は間に合わないまま転戦するだろう。消耗戦になる。このままでは仲間がすり減っていくだけだ。」

ドンウクも同じ想いだったらしい。地面にツバをはくと、苦い顔をした。

「その割に仲間への信頼も連携もないのも問題だ。言葉の壁もあるが、それ以上に宴の席でひそひそと話してるのが聞こえた。奴らエルフは使い勝手のいい駒としか俺達のことを思ってはいない。槍を並べて何人が我らと戦ったか?お得意の弓矢とやらで遠巻きに援護しただけではないか!所詮異民族は異民族ということか!」

度を薄めたワインの入った木のジョッキを片手に、二人に近づく影があった。

青いフルプレート姿の美男子、ディナシーの一人だ。

戦いの時は充血して顔に隈取り模様を浮かべるが、今は獣人からみても美しいほっそりとした顔立ちと綺麗な黒い長髪を風にまかせていた。

「ウズマサ殿に、こちらは虎人達の隊長かな?」

「チョ・ドンウクだ。そちらは?」

「申し遅れた。私はグウェインという。獣人とは何度も肩を並べて戦ったが、貴殿らの様な勇敢な獣人は初めてで感銘を受けた。」

グウェインは瓦礫の上に座っている二人の近くの壁に寄っ掛かった。

「我らディナシーは神話の時代、神々の戦に敗れ、地上に降りてきたものたちの子孫だと聞かされてきた。湖畔の王国ダグザを住みかとし、武芸を磨き、騎士たれ、と。だが、騎士は東方にもいたようだ。そのことを私は嬉しく思っている。」

見た目の割に歳を経たベテランらしい口調で話したグウェインに、ウズマサは頭を軽く下げた。

「騎士というのがどういうものか知らないが、我々犬士は時に武士や(サムライ)とも呼ばれ、貴族の求めに応じ戦いに精をだしてきた。貴族である白狐の民が決めた犬士諸法度に従い、多くの武芸に励み(みやこ)を守護してきたものだ。」

ドンウクが重ねていった。

「我らは虎国でサホダといわれる武人階級のものだ。阿島の貴族と武人との比較的緩やかな関係に憧れてサウラビなどと糞みたいな階級名を名乗る若手がいるが、もし部下が自らをサウラビなどといったら無視してくれ。我らは青鱗青龍王時代に輸入された儒教に乗っ取り厳しい上下関係を築きつつ、花舞剣という武芸を中心に技を磨いてきた。」


「つまり、両者とも生まれながらの武人というわけか。」

グウェインは納得顔で二人を見た。

「あの猿王は武人でない無能な兵を送り込んでばかりだったが、異国の武人と出会えて光栄だ。今後とも宜しく頼む。」

グウェインはワインで口を潤した。

「異民族の武人を扱うとなると、ティリウス将軍は役者不足で使い物にはならんかもな。トランザを治めるエルフの領主や貴族共は奴だけ呼んで別に宴を開いている。勝利に貢献した責任者だからというよりも、エルフでリファールの将軍というだけで、だ。」

三人で何となく通じ会えるものがあった。

どんな戦をしてきたかを三人で話した。

グウェインは、ディナシーの王オーベロンを守る騎士としての名誉と誇りある決闘や自己献身の文化を。

ドンウクは、国内政治に差し障りのない程度に自らが支える王子ワン・シウォンに迫る脅威を排除してきた半生を。

そして、ウズマサは犬豪としての今までを。

朝陽が白く昇り始めた時には、三人は程なくして戦友という友になっていた。

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