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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
25/81

トランザ戦

トランザは要塞の様な西洋都市だ。

樹木の年輪の様に石の壁で囲みながら、切り立った尖塔の城が中央に鎮座している。

ティリウスの言葉よりも侵攻は深く、5つある壁の4層目が戦いの舞台となった。


ウズマサ達は戦場で敵味方を区別出来た。

巨大な体躯で股間に三角布を巻いただけの、灰色の肌のトロルや緑の肌のオーガが、森の木でも引っこ抜いた様な切り株や青銅らしい色の金棒を振り回し、緑色の肌のゴブリンから灰色の肌で黒い革鎧を着たハイウルグといった連中が、肌の白い平地エルフ達の弓矢の雨や落とし岩を浴びながら、分厚く高い壁を壊したり梯子をかけたりしているのだ。

(討つのはこいつらか。)

ウズマサが見たところ、統率のとれているというより集団の力任せに散兵的に戦っている様だった。数も思ったほど多くない。石壁をここまで越えるまでに数が減っていったのだろう。


ティリウスがウズマサ達集団に声をあげる。

「エルフの長槍部隊で彼らを接近させないようにして、エルフが弓隊で彼らを駆逐する。彼らは矢の名手だから味方の背中を撃つことはない。ディナシーは霊馬に乗って槍で抑えてる側面から突撃を繰り返す。諸君らは遊撃部隊として長槍の前にきた連中と接近戦を仕掛けて貰いたい!」


「背中に槍襖か。背水の陣というものですらないぞ。」

ドンウクが抗議の声をあげる。

「猿兵は農民育ちの弱兵ばかりで、背中に長槍を背負わないと戦わず、全滅を繰り返した。お前達は違うのか?」

「見損なうな!俺たちが突っ込むから弓矢と騎馬で援護しろ!」ウズマサが腹から大音声を上げた。

「我こそは阿島のミナモトノウズマサ!隣にあるは虎国のチョドンウク!戦にいざ参る!全員突っ込めぇ!」


えい!えい!おおお!

犬士達は鬨の声をあげた。

ヤァァァァ!

虎国の戦士達も声をあげる。

全員戦いへと突っ込んでいった。


銘刀藤一文字を勢い良く回し抜いたウズマサが小鬼の脇の下から頭にかけてをその勢いのままに両断した。返す刀で黒鎧のハイウルグの首を飛ばす様にかっ切る。

「敵は図体ばかりで強くないぞ!突っ込め!」

「先駆けとは誉れですなぁ、犬豪殿!」

ウズマサの後隣で老犬士が叫ぶと共に薙刀が突き出る。味方の犬士がウズマサに続いているのだ。


虎国の戦士達は皆一斉に身体を回転させながら、虎の爪と蹴り技を披露していた。勢い余って飛び蹴りまでする者もいた。


一気呵成とはいったもので、戦場がある意味引っ掻き回された。

白い頭しか見えない空飛ぶ霊馬に乗るディナシー達が褒め称えた。

「これならいけるかもしれない。機に乗じて我らも突撃するぞ!」

青い鎧を身にまとい、血流によって、歌舞伎の隈取りに似た顔に変身した美男達ディナシーは空から掬い上げるが如く宙を飛びランスを手に突進した。

正面から切り結んでいたウズマサ達の正面横をかっさらって槍が敵を貫いていく。

ウズマサ達は空を飛ぶ彼らに驚きつつも減った敵をさらに攻撃していく。


(勝てる、これなら勝てるぞ)

ティリウスは兵下のエルフ達に矢を放たせていた。エルフの弓の腕は矢雨を降らす時、達人ともなると味方の頭上には降らせないだけの精度を誇る。長槍隊は槍襖の形を作ってウズマサ達の隣までじりじりと前進させた。

体長2mを越えるオーガや更に巨大なトロルと対峙したとき、ウズマサ達の勢いが止まったかに見えた。


だが、


「だぁぁぁぁぁ!」


ウズマサがトロルの脇の下、股の内側を切りつけ、そして下顎から頭蓋へと突き刺した時、生命力の強いはずのトロルはだらりと身動ぎしたあと、倒れて死んだ。


「臆するな!押せ押せ押せ!」


仲間から歓声すら受けながら、ウズマサは叫んだ。

と、

「貴様の相手は俺だ!」

唸り声が翻訳され、ウズマサの耳に届いた。


緑の肌に髪の毛ではなく角が並び、他のオーガよりも筋骨隆々とした体格を持ち、筋肉を模した青銅鎧を身にまとった、知性ある眼をしたオーガが青銅の大剣を手にウズマサへ向かってきた。

ハイオーガ。

オーガの中でも上位種であり、トランザ戦における指揮官の役割を担っていた。

「貴様と一騎討ちで殺してやる!」

「望む所だ!」血を浴びたウズマサが応じる。

「貴様は見たところ大将首と見た!貴様を倒せば形勢は決まる。やらいでか!」

手近の敵を斬り倒しつつ、やがて両者は接近した。

「名前を聞いてやる。名乗れ!」

「ゴーグだ。貴様は!」

「我こそはミナモトノウズマサ!」


背中に藤一文字を担いで八相に構えなおすと、ウズマサはゴーグと相対した。

相手は虎国の戦士やエルフの長槍兵たちを叩き切って真っ直ぐにやって来た。力強さの中に振り回す技があった。


「ビョオオオオオオオ!」

ウズマサは遠吠えの型で一気に袈裟斬りに出た。

「ごあ!」

ゴーグは上から叩きつける様に袈裟斬りを受け止める。

ガッ!と音がして両者の剣は勢いが止まった。鍔競り合いの状態で二の腕に血流の筋が浮き出る。

どちらも一撃必殺の剣法の様だった。藤一文字は隕鉄銀で出来ており、丈夫で刃こぼれも無かったが、青銅剣は硬いが脆い一面があり、刃こぼれを起こした。

「くあっ!」

ウズマサは青銅剣の剣上を滑らせる様に藤一文字を動かすと、ジャリンと音がして両者の剣が離れた。両者ともにバランスを崩し、慌てて距離をとる。


正眼に構えなおすウズマサと上段に構えるゴーグ。いつの間にか周囲は戦いながらも注目が集まっていた。

(強い)

ウズマサは内心そう呟きつつ、仕掛けるタイミングを見計らっていた。

ゴーグもそう思ったらしい。両者とも足運びして戦場で位置取りを始めた。

この時には、トランザは防衛側の勝利が見えていた。後は、指揮官を殺害すれば全てが終わる。


「おおおおおおおおお!」

「ごおおおおおおおお!」

両者叫び合い、ゴーグは剣を振り下ろし、ウズマサは地面を擦るほど低い体制で剣を振り上げた。

ウズマサは毛先ほどの距離で剣をかわし、振り上げた刃は小手をとらえ、ゴーグの手首に巻かれた青銅の輪っかに当たった。

輪が藤一文字の剣によって切断されるも、手首を深く切り裂くには到らなかった。

(まだだ!)ウズマサはここでホクシンナナホシ流の型を思いだし、流れる様に小手から胸板への突きに剣の運足をかえた。

剣尖は青銅の鎧に阻まれた。一部突き刺さるだけで軽傷で終わる。

(まだだ)ウズマサはそのままグイグイと剣を押した。素早い剣速にゴーグは後退りする。

「もひとつ!」

ウズマサは剣先を抜くと更に高速に滑らせて顔か首を狙った。

しかし、ゴーグは身を後ろによじってこれをかわす。

「おおあ!」

ゴーグが胴を薙いできた時、ウズマサは剣を思い切り引っ込めてこれを受け止めた。火花が散り、青銅が刃こぼれした。一方で、藤一文字は曇りしか残さなかった。


隕鉄銀は西方世界でミスリル銀と呼ばれる魔法金属で、驚くほど頑丈だった。しかし、使い手は丈夫ではない。

ウズマサは横回転してきたゴーグの剣の勢いを刀だけでは受け止めきれず、脇腹を庇い左腕を青銅で打たれて感覚を失っていた。骨が折れたかも知れない。


だが、


「貰ったぁぁ!」ウズマサは藤一文字を思いきって手放すと、身体がくっつくほど接近し、腰に差した小太刀を抜いた。

抵抗する間も与えず、小太刀でゴーグの首をかっ切る。


「鬼隠れの小太刀。」


ウズマサはポツリと呟いた。


「‥コボッ」ゴーグは咳の様な末期の息をして倒れた。


「ゴーグ様が死んだ!」

「逃げるぞ!」

生き残った小鬼達が急いで逃げ出す。

ウズマサが小太刀の血を袖で拭ってしまうと、地面に落とした藤一文字を拾って掲げて見せた。


えい!えい!おおお!

えい!えい!おおお!

えい!えい!おおお!


生き残った犬士達が勝鬨の声を三度あげる。


戦いは勝利に終わった。

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