王党派
渓谷は文字通り二つの切り立った山に挟まれた道に沿っており、阿島と虎国の荷車は王子の意見通り二つ並んで固まった形で警護することとなった。
シウォン王子は荷物より前方に馬にのり、ドンウクに馬を引かせていた。
渓谷の美しい風景とは裏腹に、皆緊張しており、いつ来るであろう賊の襲来を今か今かと待っていた。
襲撃は突如始まるものだ。渓谷が夕陽に染まる頃、角笛と共に賊が姿を現した。
彼等は荷物より王子と交戦した。虎国の戦い方は手足を回転させる事で遠心力を使い、虎の爪や蹴りの威力を高めるというもので、爪や回転蹴りの応酬が始まった。
ウズマサは、馬にくくりつけた藤一文字を抜いた。馬を狙った爪の一撃を太刀で払いつつ馬に蹴らせた。蹴られた賊は動かなくなった。
「ササキ殿と荷物を守れ!」ウズマサは叫び馬を走らせた。
荷物のある外周を取り囲んだ賊の首もと辺りに太刀を『置く』。馬力と剣の鋭さで敵を切るという方法で、その他にも槍や薙刀の様に敵を突いた。
(おかしい)ここでウズマサは違和感に気づいた。
(狙いは王子か!)前の方に馬を走らせるとドンウク達が負傷する姿が見えた。賊は王子目掛けて死体を越えていく。
直剣を抜いた王子が賊の一人を切り捨てるも、次の賊はもう目の前だった。
「いぇやぁぁぁぁ!」
シウォンを狙う賊の脇腹を槍で刺したのは、意外にもダンキチだった。
荷物への賊の襲撃は、犬士達と虎国戦士が蹴散らしていた。
賊が王子狙いで荷物が陽動としたならば、数が少なすぎたのだ。
「引け!」賊のリーダーらしい黄色いスカーフを巻いた男の叫びと共に賊が逃げ出す。
「させるか!」ウズマサは逃げる賊達の背中を切りながら、スカーフの男に迫っていった。
距離がある。血のついた太刀をそのまま鞘に入れ背中に張っていた弓と、箙から矢を取り出す。
『当たれよ』
内腿に力を入れて重心を安定させると、ぐっと弓を引く。背中目掛けて放った一矢はスカーフの男の胴体に突き刺さった。男は思わず倒れこむ。
「良し!」思わず声を挙げたウズマサは腰の太刀を抜いて馬から降りた。
「こいつは生け捕りにする」太刀を喉元に突きつけられた虎族の男は血の泡を吐きながら虎語で何かぶつぶつと呟いていた。
近くにいた虎族戦士は虎の爪を手にウズマサの太刀を納めるように軽く弾く仕草を見せた。手柄を独占したいらしい。
虎族戦士はスカーフの男の話を聞いていた。
「我ら王党派こそ正義であり大義。帝国たる炎国に逆らっては国が滅びるのだ。シウォンこそ逆賊」
虎語でぶつぶつ呟き続ける男に、ドンウクが喉を引き裂いて黙らせた。
「何をする!?」状況が分からないウズマサが声をあげるも、ドンウク達は答える様子は無かった。
「賊と思いきや王党派がここまで…」ドンウクの言葉にシウォンは頷いた。
「対等外交への道は遠い様だ。阿島の人々には知られない様に。」
「なに。言葉が分かる白狐の民は荷車近くで震えております。こいつらには虎語は分かりません、が、」絶命したスカーフの男を指差して抗議するウズマサを見てドンウクはため息をついた。
「彼には説明が必要でしょうな。王子を侮辱した為、とでもしておきましょう。阿島の連中にはそれで充分です」




