第九十九話
タニアがマットについて熱く語ったあと、話し合って三日間休養にしようってことになった。
「じゃあ、あたしは出かけてくるね」
「はい、わかりました」
「気を付けてね」
朝食を食べるとタニアはどこかへ出かけていく。僕はどうしようかな?
「リュウジさんは、何か予定があるんですか?」
「いや、特にないからどうしようかなぁって思ってたところ」
「それじゃあ、私とお出かけしませんか?」
ニーナとデートか。いいね。
「いいよ。行きたいところがあるんでしょ?」
「はい!屋台通りに新しく甘いお菓子を出しているところができたんです!そこに行きましょう!」
甘いお菓子とは珍しい。この世界では砂糖は結構高価なものなので、甘味といえば果物がメインだ。
「甘いお菓子かぁ。どんなのが出てくるのか楽しみだね」
「聞いた話ですけど、薄く焼いた生地に果物を切って巻いたものらしいですよ?」
「薄く焼いた生地に…ってクレープか?」
「くれーぷですか?もう食べたんですか、リュウジさん」
「いや、ニーナが聞いてきた話を聞いて思い出したんだよ。僕が知ってるクレープは、小麦粉を水で溶かして薄く焼いて、その上に生クリームや果物をのせて折り畳んだものだよ」
「ほとんど同じものみたいですね。ここで想像していても味はわからないので、行ってみましょう!」
確かにね。百聞は一見に如かずだ。屋台に行って食べてみたほうが早いな。
「よし、行こう」
「はい!」
屋台通りに着いてさあ探すかと思ったら一つの屋台だけ物凄い行列ができていた。
「あれかな?」
「あれですね…どうします?並びますか?」
屋台から延びる行列は、どこまで伸びてるんだ?んーと、最後尾はと。げ、百メートル以上ありそうだ。
「最後尾はあそこらへんみたいだな。どうするニーナ並んでみるか?」
僕は列に並んで待つのは苦じゃないからいいんだけど、ニーナはどうかな?
「もちろん並びますよ!だって食べたいじゃないですか!」
周りでは、この屋台で購入した人たち(カップルが多い)が仲良く食べているのが見える。確かに美味しそうだ。それを見たニーナの瞳が期待に輝いていた。
並ぶこと鐘一つ分(一時間)くらい。やっと屋台が見えてくるところまで来ることができたよ。
「もう少しですね。楽しみです」
「そうだね。並んでた人数のわりに早かったなぁ」
あとは、無くならないかだけが心配だ。ニーナが悲しむのは見たくないんだけどなぁ。
更に十五分ほど経ってやっと順番が来た。
「いらっしゃいませ!おいくつですか?」
メニューは一つなんだ。商品名はフレプっていうんだな。
「二つ下さい」
「はい、ありがとうございます!フレプ二つで銅貨六枚になります」
支払いを済ませて、商品を受け取る。
「ありがとうございました!次でお待ちの方、どうぞ」
フレプの生地は、クレープより厚めでしっかりしている。これなら破れることはなさそうだから安心して手で持って食べれるな。
「やっと買えましたね!あそこで座って食べましょう」
広場にあるベンチがちょうど一つ空いていた。ニーナは、フレプを一口かじり嬉しそうに微笑む。
「とっても美味しいですね!…リュ、リュウジさんも早く食べてみてください」
嬉しそうに微笑むニーナを見ていたらニーナが不意にこっちを見て目が合うと、耳まで真っ赤になって俯いてしまった。
手に持ったフレプを一口かじる。生地の中には何だろうこれ?果物だと思うんだけど見たことないものだな。緑色のちょっと柔らかいもの…アボカドみたいな見た目だ。それが、四角くカットされて結構な量が入っている。味は甘くて瑞々しくて美味しい。生クリームや砂糖がなくてもこれだけ美味しいんだからすごい美味しい果物だ。
「これは美味いな!あれだけ並んでも食べたくなるのは納得だ」
「ですよね!また買いに来ましょうね、リュウジさん!」
最後の一欠を食べ終えて、「無くなってしまいました…」と小さく呟くニーナ。
「そうだね、今度はタニアも一緒に買いに来ようか」
「はい!そうしましょう!」
僕が全部食べ終えたところでニーナが何か聞きたそうにこっちをちらちらと見ていた。
「どうしたの?」
「いえ、あの、リュウジさん…その」
なんだか聞きにくいことでもあるんだろうか。
「なんでも聞いてくれていいよ?」
「はい、あの、鉄級昇格依頼の時に見つけた地図のことです」
「うん、あったね、地図」
あの港町フルテームの近くの半島に印が付いていた地図ね。
「あの時も言ってましたけど、行くんですよね?フルテームに」
「うん、行くつもりだけど…」
ニーナは行きたくないんだろうか?
「いつ出発しますか?私、この町から出たことがないのですごく楽しみなんです!」
あれ?すっごく楽しみにしてる?まだ休養するって決めて初日なんだけどな…
「はは、ニーナそんなに楽しみにしてたの?まだ休みって決めたばっかりだよ?」
「そうなんですけど、私、あの地図のことを思い出すと凄くワクワクするんです。元々は怖がりだったんですけど、最近は冒険するのが楽しくなってきたんです」
確かに出会った頃は薬草採取依頼だけ受けてたって言ってたし、ゴブリン二匹に追いかけられてたなぁ。もう半年ちょっと経つかな、懐かしい。
「ニーナも大分冒険者らしくなってきたってことかな」
「リュウジさんと出会って、パーティを組んでくれたのが私の転機だったんです。あれから依頼も上手くいくようになりましたし、タニアさんっていう仲間も増えました。冒険者になったばかりのころは、パーティに入れても魔法が遅くて威力もなくてすぐに辞めさせられてしまっていました」
話していくうちに段々と沈んでいくニーナ。
「でも今は違うだろ?魔法の威力だって凄いし、発動が目を見張るほど早くなったじゃないか!」
女神さまが僕にくれた能力でニーナにいい影響があった。そんなにすごい能力じゃないけど、努力が実を結ぶのは本人も嬉しいだろうし、見てるほうも嬉しいもんだ。
「そうなんです。最近よく考えてるんですけど、私の調子が良くなったのはリュウジさんと出会ってからなんですよね。私リュウジさんと出会えてほんとによかったです。これからもずっと一緒にいてくださいね?」
ニーナは僕を見て、真っ赤な顔で綺麗に、それはそれは綺麗に微笑んだ。なんだかプロポーズみたいだなぁ。
「うん、ニーナが嫌にならない限り一緒にいるよ。これからも一緒に頑張ろうね」
「!、はい」
ニーナは、一瞬驚いた顔を見せ、すぐに両手で口元を抑えて下を向いてしまった。
まあ、これがプロポーズだったとしても後悔なんてしないよ。こんなに可愛い女の子に想われるんだったら男としてはうれしい限りじゃないかな?
◇◇◇◇
今日はリュウジさんを誘って町を散歩しようと思います。そうです、逢引きデートです。いつもの街歩きとは違います。何が違うかというと。
私は今日リュウジさんに私の想いを伝えようと思っています。
長い時間並んでフレプという新発売の甘味を買って、食べ終えたところで始めます。
ううー、ドキドキします。リュウジさんは頷いてくれるでしょうか。
二人掛けの椅子に座って、一口食べたときにあまりの美味しさに笑顔になってしまいます。ふと、視線を感じて振り向いたら優しい笑顔で私を見つめるリュウジさんと目が合いました。
私はこの笑顔が大好きなんです。私の全部を包み込んでくれるような優しい笑顔です。一気に顔が熱くなります。耳まで熱くなりました。
私いまどんな顔してるんでしょうか。しっかり喋れたでしょうか。
フレプは凄く美味しかったです!また買いに来たいですね。
あ、リュウジさんもフレプを食べ終えましたね。さあ、ここからです。上手く伝えられるでしょうか。最初に話すことは決めてきました。あの地図のことからです。そのあとは勢いに任せることにします。
つ、ついに!ついに自分の気持ちを伝えてしまいました!上手に伝わったでしょうか?
話してる間に凄く恥ずかしくなって顔が火照るのがわかります。お腹のあたりで組んでいた手に力が入って痛いくらいです。
リュウジさんが褒めてくれました!
上手に笑えたでしょうか。
緊張しすぎて何を話したかあまり覚えていません。でもずっと一緒にいたいって言うことができました。
「うん、ニーナが嫌にならない限り一緒にいるよ。これからも一緒に頑張ろうね」
リュウジさんが!
一緒にいるって言ってくれました!
私がリュウジさんのこと嫌になんてなるわけがありません!
すごい!凄い嬉しい!!涙が出そう!胸から気持ちが溢れて叫びたい!今にも大きな声でやったー!って言いたいです!けど、我慢です!口を両手で押さえます。
「!、はい」
何とか返事をすることができました。
うれしい!
うれしい!!
うれしい!!!
タニアさん、気絶しなかった私を褒めてくださいね!




