第九十七話
セトルの町が見えるところまで戻ってきた。門に向かって並んでいるのがわかる。
「あー、街には入るのに結構かかりそうだな」
ラッドさんが背伸びしながらつぶやいた。
「そうですね。ここから見えるんだからかなり並んでますねぇ」
捕まえた盗賊たちは一列になるようにロープでつなげて、端を荷車にロープを括り付けて歩かせてきた。
「やっとこいつらも処分できるな。いくらになるんだろう」
タニアが盗賊のお頭を見ながら嬉しそうにしている。
「そんなに期待しないほうがいいんじゃない?僕には全然想像もつかないよ」
「こいつらがどれだけ悪事を働いていたかによるけど、全部で五人か。相場だと一人銀貨三枚くらいだったかな?だから最低でも銀貨十五枚にはなるよ」
嫌な相場だなぁ。でも銀貨十五枚か…多いのか少ないのかよく分からないが、貰えるものは貰っておこう。
「次の人ー」
やっと僕たちの番が来た。
「はい、冒険者証です。あと、盗賊を捕まえてきました」
首から下げていた冒険者証を見せる。
「わかった。通っていいぞ。そのまま詰所まで盗賊を連れて行ってくれ」
門を通ってすぐのところにある衛兵詰所の扉をノックする。
「入れ」
扉を開けると中には髭面の中年の男がいた。壁に向かって置いてある机で何か事務作業をしていたのか手には羽ペンを持っている。
「おはようございます。盗賊を捕まえてきました」
「話は聞いているよ。どれだい?」
髭面の衛兵は、小さい声でよっこいしょと呟き外に出てくる。結構お歳の人かな?確かに髭には白いものが混じっているな。
「こっちです」
髭面の衛兵を外で待っていたマーリさんのところに案内する。
「お!こいつはいいやつを捕まえてきたなあ。確か手配書があったぞ。ちょっと待ってろ」
そういって出てきたばかりの部屋へ戻っていったと思ったら、すぐに手に一枚の羊皮紙を持って出てきた。
「これだ。こいつだろ?赤羽あかはねの盗賊団、頭領イズチット。懸賞金は金貨十枚だ」
手配書には盗賊のお頭によく似た顔が描かれていた。しかし、なんか盗賊団にしては小洒落た名前付けてたんだなぁ、こいつら。赤い羽根なんてどこにもなかったんだけど…。
「あとの奴らは、一人銀貨三枚だな。よくやったなお前ら。また頼むぞ。それじゃあ中で処理してしまおうか。代表者は君だな、一緒に来てくれ」
髭面の衛兵と部屋の中に戻るとすぐに机に向かって書類にサインして渡してくれる。
「これ持って、あそこの受付で出してくれればその場でもらえるから。よし、俺の仕事は終わり!んじゃ、これからも頑張ってね」
髭面の衛兵はにこっと笑って仕事に戻る。なんか…いいんだろうかこれで?…ま、教えられたとおりに次にいこう。
「すいません。ここでこれを出せって言われたんですが」
受付にいたのは、感じのいい女の人だ。髭面の衛兵にもらった羊皮紙を出す。
「はい、こんにちは。拝見しますね…少々お待ちください」
奥にある部屋へ入っていった彼女を待っているとすぐに麻袋をもって出てきた。
「はい、報奨金です。金貨十枚と銀貨十二枚です。確認してこの書類に受け取りの署名をお願いします」
麻袋の中を見て金貨十枚と銀貨十二枚を確認して、書類に名前を書く。名前は本名じゃなくて冒険者証の名前と同じリュウジでよかった。
「お待たせ。じゃあ組合に行こうか」
「はい、報告しに行きましょう」
外で待っていてくれたニーナ達と合流してまず冒険者組合に報告しに行くことになった。
「私は先に商業組合に行ってるよ。そっちが終わったら来るんだよ。いいね」
マーリさんとひとまず分かれて僕たちは冒険者組合へ。
「あ、この依頼って依頼票ってあったっけ?」
「ああ、この依頼は俺が付いて行ってるだろ?だから依頼票は無いんだよ。ていうか今気が付いたのか?」
今気が付いた。依頼票を確認するのは基本だった、気を付けよう。
「そういえば渡されませんでしたね。私も気が付きませんでした。鉄級になれたのでそれで嬉しくて失念してました」
「ま、これから気を付ければいいさ。俺だって鉄級になったときは同じ失敗したからなぁ」
「ラッドさんも同じことを?」
「ああ、やっぱり鉄級になれたってことが嬉しかったからだろうな。いつもはやらない失敗をやったもんさ」
「リュウジ、早く報告に行こう。で、なるべく早くフルテームに行って、地図にあった場所へ行こうよ」
タニアの頭の中はあの地図のことで一杯みたいだな。楽しみなのはわかる。僕も行ってみたいからな。
「わかったよ、ちょっと急ぐか」
組合で報告を終わらせて護衛依頼の許可が出て、冒険者証が新しくなった。仕事が終わったラッドさんと別れ、商業組合へやってきた。
「こんにちは~」
冒険者組合と違って昼間でも人の出入りが激しい入り口を入ると元気なお姉さんがいた。案内の人かな?
「はい、いらっしゃいませ!」
「あの、マーリさんという商人の人と待ち合わせてるんですが…」
「マーリさんですね。あ、もしかしてリュウジさんですか?」
「はい、そうです」
「お話は伺っています。こちらへどうぞ」
僕たちは元気なお姉さんに案内されて受付の奥へ通され、会議室みたいなところへ連れてこられた。
「マーリさんはこちらで商談をなさっています。あなたたちが見えたら案内するようにと言われていますので中へどうぞ」
部屋の中に入るとマーリさんと組合の人なのか男の人と談笑していた。
「やっと来たね、リュウジ。早速で悪いがその台にあれ出してくれないか」
あれ?…ああ、マットか。背負っていたリュックサックからマットを一つ取り出して言われた通り台があったのでそこに置く。
「これだよ!これの登録をしてくれ!絶対売れるから!」
「ちょっと落ち着いてください、マーリさん。…それでは拝見させていただきます」
マーリさんは僕が出したマットをポンポン叩きながら興奮している。組合の男の人は上着の内ポケットから手袋を取り出してマットを見分し始めた。
「わかりました。では、後日でいいので設計図を持ってきていただければ登録します」
見分の終わったマットを収納するとマーリさんが勢い良く立ち上がる。
「よし!じゃあこのまま工房に行くよ。ついといでリュウジ」
返事をする間もなく部屋を出ていくマーリさん。付いていこうとすると声を掛けられた。
「口座の登録などは後日でいいのでまたおいでください」
「わかりました。何が何だか分かりませんが、取り敢えず後日ですね」
「はい、あんなマーリさんを見るのは久しぶりです。元気になられて良かった」
組合の男人は深くお辞儀をしてそんなことをこぼした。
「リュウジー!早く行くよ!タニアとニーナちゃんも早くおいで!」
商業組合の入り口の方からマーリさんの大きな声がする。僕も軽く会釈を返してマーリさんを追った。
「ここだよ。おーい、いるかい?」
連れてこられたのは職人街にある革職人の工房だ。マッチ革工房と看板がかかっている。
工房の中に入ると馬用の鞍とか革で出来た上衣なんかが置いてある。あ、剣の鞘もある。
「おー。ラックスの。久しぶりだのぉ、今日はどうしたぁ?」
「あんたに頼みたい仕事があるんだ。ほらリュウジ、あれ出しな」
ラックスって誰だろ?質問してる雰囲気じゃないからあとで聞こうかな。マットを取り出してカウンターの上に置く。
「あんたにゃこいつを作ってほしいんだ。こいつが出来たら絶対売れるから、絶対作ってくれ!」
なんかマーリさん、人格が変わってないかな?もしかしてこれが素か?
「ちょっと待ちなぁ。わりぃなちょいと見せてもらうぞぉ」
この人がマッチさんだろうか。結構なお年の人だなぁ。見た目で行くと六十代くらいかな。職人特有のごつい手で縫い合わせてある部分とかを確かめていく。縫い目は内側になってるから見えない。そこを上から触っていく。
あ、息を吹き込むところから中を覗いているが見えるのかな?僕も覗いてみたことはあるけど真っ暗でなにもみえなかったんだよな。
「ちぃと難しいとこもあるが、これなら出来るぞぉ。中に何が入ってるか分からんが、適度に柔らかくて適度に硬ければいいんだなぁ。ちょうど今手が空いてるからなぁ、早速明日から作ってやるよぉ」
おお、出来るんだ。破れたりしたら代わりがないからどうしようかと思ってたんだ。
「出来たら僕も買いますね。予備が無くて心配だったんですよ」
「あんたは買わなくてもいいよ。完成品をあげるからさ」
「ラックスの。前金で金貨三枚だぁ。完成したらもう二枚だぁ、それで作ってやるよぉ」
「高いね。もうちょっと安くなんないかい?」
「さっきも言ったがぁ、ちぃと難しいのよぉ。手間ぁかかる分高いのさぁ。だからぁ金貨五枚だぁ。これでもぉぎりぎりだぞぉ」
「わかったよ。金貨五枚だな。じゃあ前金で三枚、はいよ。いつできる?」
マーリさんは財布から金貨を三枚カウンターに置く。
「七日後だなぁ、その頃にまた来なぁ」
お金を掴んで奥に行こうとするマッチさん(推定)。マーリさんが思い出したのか慌てて声をかける。
「あ、マッチ!設計図起こしてくれ。組合に持ってかないといけないんだよ」
「んあ?あーじゃぁ、明日までに作っとくよぉ」
また明日来いよぉと言い残して奥へ行ってしまった。やっぱりあの人がマッチさんだったのか。
「よし。これで目途が立ったな。リュウジ、悪いが明日の昼過ぎにもう一回商業組合に来てくれよ。そこで歩合を決めて口座を登録しよう」
「わかりました。明日の昼過ぎですね」
また明日と手を振って町へ消えていくマーリさん。
「さあ、帰ろうか」
「はい、なんだか町に帰ってからの方が疲れましたね。ご飯食べに行きましょう」
「さんせーい!でも一回宿に帰って汗拭きたい。それからにしよう」
ほんとに疲れた。依頼よりも疲れたな。でもこれで依頼を受けてフルテームに行けるようになったな。ちょっと休養を取ってからにしよう。うん、そうしよう。




