第九十三話
タニアが言っていた地点のちょっと前で一旦止まる。
「マーリさんはあの木の影、ニーナはあっちの木の枝の上、あそこの茂みはあたし」
的確な指示を出すタニア。マーリさんは弓を構え、ニーナは炎矢ファイアアローの詠唱を始める。
「今!」
ニーナの詠唱が終わったのを見て、タニアが攻撃指示を出すと三人が同時に三方に向かってそれぞれの攻撃を放つ。
僕は、剣を抜き盾を構えて残りの盗賊が現れるのを待つ。
「おい!止まれ!」
「ぐわっ」「ぎゃっ」「ぐっ」
僕たちが進もうとしていた方向から抜き身の剣をもった男たちが四人現れたと同時にタニアが指示した場所から三人の男の悲鳴が聞こえてきた。
「どうしたっ!」
「なにがあった!」
僕は、態勢を低くして一番近くにいる男めがけてダッシュする。盗賊たちは何が起こったのかまだ把握していない。混乱している今がチャンスだ!
「ふんっ!」
目の前の男に向かって剣を突き出す。狙いは腹、胴体だ。胴体の真ん中だ。深く刺せば大動脈を傷つけることができる。剣の腹を地面と水平に、真っ直ぐ突き出すと、衣服で少し抵抗はあったが、剣はすんなりと男の腹に刺さっていく。
「ぐはっ」
剣が三十センチくらい刺さった所でこつんと手ごたえがあった。ここで剣を右へ薙ぐ。左手を柄に添えて思い切り押す。左足を踏ん張り、腰を回すとちょっと抵抗があったが男の腹を裂くことができた。
腹を裂かれた男はそのまま崩れ落ちる。まずは一人!
「はっ!」
そのまま右の男に斬りかかる。
「なんの!」
ぎぃぃんと金属がぶつかり合う音とともに止められてしまった。もう対応されたのか。
「うおっ!?」
しかし、僕の勢いが強かったからか相手の男は、たたらを踏んで態勢を崩した。
「はあっ!」
そこに女の声がする。タニアだ。態勢を崩した男の左胸目掛けて突きを繰り出す。
どずっと音がしてタニアのショートソードが刺さる。タニアはすぐに剣を抜こうとするが抜けなかったようで男を蹴とばして抜いていた。これで二人。あと二人。
「死ねっ!」
僕の背後から残った盗賊の男が剣を振り下ろしてくる。僕は声を聴いた瞬間に前方へ飛んで前転して難を逃れる。
「炎矢ファイヤアロー!」
「ぐあっ」
起き上がって振り向くと剣を振り切った体勢の男にニーナが放った魔法が直撃した所だった。それが右肩に当たった男の革鎧がはじけ飛び、意識を失ったのか倒れたまま動かない。
「ひいぃぃぃぃ」
それを見た残った一人が、持っていた剣を放り出して逃げ出そうとしていた。
「そうはさせないよ!」
マーリさんが逃げていく男に向かって弓を射ると、見事男の右腿に突き立つ。
「よしっ!」
矢が命中したことを確認して笑顔が弾けるマーリさん。この人結構武闘派だなぁ。
「リュウジ、死んでない盗賊を縛ろう。町に連れて行けば売れるよ」
タニアはロープを取り出して気絶している盗賊の腕を背中側で縛り襤褸布で猿轡をしている。
「わかった。僕はあっちに行ってくるよ」
僕もリュックサックからロープを取り出して男の方に歩いていく。
「うう……く、くるな…殺さないでくれ…」
マーリさんにやられた盗賊は気絶しておらず、矢が刺さった右腿を押さえながら呻いている。
「殺さないから安心しろ。一緒に町まで来てもらうからな」
男はそれを聞いて安心したのか限界だったのか気を失ってしまった。タニアに倣って後ろ手に縛って襤褸布で猿轡を嚙ませて馬車の方へ引きずっていく。
「タニア、連れてきたぞ」
「なんだ。気絶したのか?そこで一緒に転がしておこうか」
「わかった。死んだ奴らはどうするんだ?このままにするんじゃないだろ?」
「もちろん。身ぐるみ剥いで、あとはゴブリンと一緒」
ゴブリンと一緒って……穴掘って焼くのか。
「じゃないと不死者アンデッドになっちゃうでしょ」
やっぱりいるんだ。ゾンビとかグールとかワイトとかスケルトンもか。
「わかった。じゃあ穴掘ってくる。火は、ニーナ頼めるかい?」
ニーナの火球ファイヤボールなら火力も十分すぎるだろう。
「はい、任せてください」
しかし、この手で人を殺したのになんの感慨も浮かばないなぁ。僕ってこんな人間だったんだろうか?自分で言うのもなんだが、もうちょっとこう、吐き気がしたりとか思い悩むとかあると思ってたんだけどなぁ。
まあ、いいか。後でなんか感じるかもしれないしな。
「この辺でいいかな」
リュックサックからシャベルを取り出し、穴を掘っていく。シャベルは折り畳み式だからそんなに大きくない。
「もっと大きいシャベルがあればよかったんだけど、これしかないからなっ、と」
三十分くらいかけて穴というか縦二メートル、横一メートル、深さ三十センチくらいの窪みができた。そこにタニアとニーナ、ラッドさんも手伝ってくれて盗賊の死体を三人横たえる。弓使いは一人死んでたのか。
「穴足りなかったか?」
「これで十分。焼いてもらえるだけマシだよ。普通は森の中でそのままにされて獣に食われて終わりってのが多いかな」
「それで最後は不死者になっちゃうのか」
「そう。それでまたあたしたちに倒されるんだ」
喋りながら周りから木の枝とか燃えるものを集めて見えなくなるぐらい積み上げる。
「そろそろ行きますよ。…万物の根源たる魔素マナよ 我の意に沿い顕現せしめ炎をまとう球となり かの敵を撃て 火球ファイヤボール」
僕達が離れたのを確認して、ニーナが火球の魔法(破裂しないやつね)を発動する。結構魔力を込めたのか凄く熱いし大きい火球だ。
勢い良く燃えるそれを見ながらいつの間にか手を合わせていた。それぐらいはしとかないといけないだろうな。
「よし、こいつら連れて帰ろうか、リュウジ。マーリさん協力ありがとうございました!」
タニアが生き残った男たちの腰をロープでつないで町に戻ろうと提案してきた。
「まあまあ、待ちなさいタニアちゃん。夜通し歩く気かい?それに今から戻っても町に入れないよ。」
「あ、そうでした。もう夕暮れでしたね」
「それに、こいつらが帰ってこないとなったら、残ったやつらが絶対見に来るからまた襲ってくると思うよ。それよりも、こいつらから隠れ家を聞き出して襲撃しに行こう」
マーリさん……ほんとに武闘派だった。
四本の木に一人ずつ縛って、一番元気なというか、怪我の少ない男から隠れ家の位置を教えて貰った。方法は、言わない…というか察してくれ。タニアとマーリさんが活躍しました。
「隠れ家は、この先か」
森の中に一軒だけ小屋があるって言ってたな。今は、僕たち三人とラッドさんだけだ。マーリさんには捕まえた男たちの監視をお願いした。
「猟師小屋だったか?もう使われてないって話だったけど…」
「あ、あれですか?」
ニーナが指さした方を見ると、かなりボロい一軒の小屋があった。小屋の窓には鎧戸が嵌っているがそこから明りが漏れていて、中から大きな笑い声が聞こえる。
「中に捕らえられている人はいないって言ってたよね」
「そうだね。あそこにいるのは盗賊のお頭とあと二人って言ってたね。リュウジたちはちょっとここで待ってて、あたし見てくるよ」
そう言ってタニアは足音を立てずに小屋に近づいていく。相変わらず凄いなぁ。全く足音がしないし、地面の上をすべるように進んで行く。
タニアは明りの漏れている窓の下でしゃがんで中の声を聴いているんだろう。あ、戻ってきた。
「お待たせ。中からは情報通り三人分の声しか聞こえなかった。他にはいないと思う。どうやる?」
「うーん、どうやろう?あの小屋の中だと剣は振り回せないよなぁ。ニーナの火球で吹き飛ばすか?」
「私は構いませんが、あの人たちが溜めたお宝もどこかに行っちゃいますよ?」
「!それはやめとこうか。リュウジ、ここは普通に真正面から行くか」
小屋の中には三人だって言ってたな。三人なら真正面からでも大丈夫か。よし。
「じゃあ、扉をノックして出てきたやつから倒していくことにしようか」
「わかった。あたしたちは左右に分かれて出てきたやつらを狙うからね。行こ、ニーナ」
「はい、気を付けてくださいね、リュウジさん」
「ああ、じゃあニーナたちが配置についたら行ってくる」
この世界は、室内でも靴を履いたまま過ごすから扉は内開きだ。だから最初の一人は僕が片付けないといけない。
タニアとニーナが狙える位置についたみたいだ。こっちに向かって手を振っている。よし行こうか。




