第九十話
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三日後のお昼前、僕たちは組合に来た。
「おはようございます」
「あら、おはようございますリュウジさんたち。早速依頼を受けますか?」
「お願いします」
「はいわかりました。まだお願いした冒険者が来ていないのでもう少しお待ちくださいね」
ケイトさんにここで待っていてくださいと案内された組合に併設された酒場のテーブルで待っていると、少し慌てた様子で組合に入ってくる冒険者がいた。
「わりぃ、遅れた。ケイト、すまんな」
「遅いですよ、ラッドさん。時間は守ってくださいっていつも言っているでしょう?」
「はは、ゴートランに捕まってな。これでも急いできたんだ」
あの人が、試験官なんだろうな。見たことある人だ。
「あ、ゴートランのパーティの弓使いの人だ」
タニアが指さして話しかけるとくりんとこっちを向いてにかっと笑った。
「ん?おお、嬢ちゃんたちが盗賊依頼を受けるのか。こりゃ、楽な仕事だな」
「こちらが今回の試験官のラッドさんです。階級は鉄級の二です。ほら、挨拶しなさい」
「なんだよケイト、んんっ、改めてゴートランのとこの野伏レンジャーのラッドだ。この前の戦いはよくやったな」
なんだか人当たりの良い人だな。良かった。
「よろしくお願いします、ラッドさん。僕とニーナが受けるんです」
「そうかい。基本、俺は見てるだけだからな。まあ、頑張れよ」
試験官が見知っている人だったのは有り難いな。大分気が楽だ。
「あ、そうだ。ケイトさん、依頼の詳しい内容を教えて貰ってもいいですか?」
「はい、わかりました。この依頼は盗賊の討伐依頼です。リュウジさんとニーナさんが鉄級に昇格したので鉄級から受けることができる護衛依頼を受けるために必要なものとなります。」
ここまでは聞いている内容だ。
「この依頼には試験官が同行します。試験官は、鉄級の二のラッドさんです。この依頼では試験官は手を出すことができません。そこはご了承ください。盗賊討伐依頼ですが、この町から東へ一日程度行った先で商隊が襲われる被害が報告されています。盗賊団の人数は十人未満とみられます。人が攫われたという報告はありません。街道の近くの森の中に隠れ家があると予想されています。リュウジさんたちは、出来ればこの盗賊団を壊滅させてください、というのが依頼の詳しい内容になります」
「盗賊団…十人ですか。結構いますね」
十人を一度に相手するのは無理だな。精々二、三人が限界か。うーん、何とか各個撃破できるように何か考えないと駄目だなぁ。行く道でみんなで考えてみようか。
「わかりました。この依頼は期限ってありますか?」
「期限は二週間です。その間に達成して下さい」
意外と短いな。あー、でもここまでお膳立てしてくれてるならそんなもんか。
「タニア、頼んだよ。索敵が重要な依頼だからね」
「任せときなさい!あっという間に見つけてやるよ」
こういう時は非常に頼りになるな。仲間になってくれてよかった。
「じゃあ、今から行きますか?準備は?」
ニーナもやる気だ。
「準備は万端だよ。いつでも行けるよ」
昨日までの間に使った物品は補充したし、あったらいいなと思ったものもできる限り探して買っておいた。
「食材も補充したから、美味しいご飯も作れるよ」
そう、ご飯は大事だからね。また、屋台で買い溜めしておいたんだ。
「やった!干し肉かじるだけじゃあ味気ないもんね」
「なんだ?お前らは依頼の最中に料理すんのか?」
あ…しまった、どうやってごまかそうかな?
「はい、リュウジさんが上手に料理してくれるんですよ」
まだ大丈夫。かな?
「あたしたちも作るけどリュウジの方が美味いんだよなぁ」
「ただ肉切って焼くだけだよ?」
これなら。なんとかなるか?二人とも気が付いてくれ、頼む!
「それもいいんだけど、あたしは、パンに肉と葉物野菜を挟んで食べるやつが気に入ってるんだよね」
「あー、あれは手軽に食べれていいですよね。私は、生野菜にお塩を振って食べるのが好きです」
もうダメだな。ごまかしきれそうにないぞ。タニアはサンドイッチが好きで、ニーナはサラダが好きと。
「もしかしてお前たち…マジックバック持ってるだろ」
「えっ!?な、何のことかな?」
「私には…わからないですよ?」
二人とも…下手すぎる。……まあ、鉄級になったしもういいか。
「持ってるのは、僕です」
「なっ」
「リュウジさん!?」
二人は驚いた顔で僕を見る。
「やっぱり持ってたか。まあいいや、誰にも言わないでおいてやるよ。その代り、俺にも食わせろよな」
「わかりました。ありがとうございます。まあ、もう鉄級になったからいいかなって思ったんだよね」
タニアとニーナを笑顔で睨みながら言ってみる。
「なんだ、そうならそうと言ってくれればよかったのに」
「ごめんなさい…」
二人とも反省したみたいだから良しとしよう。
「でも、鉄級になったからって大っぴらにするもんじゃないからね。なるべく内緒で。よろしくね」
ラッドさんの分もあったかな?えーと、あれ買ったし、これもあるし、んー、ま、大丈夫か。でもどれだけ食べるかわかんないからなぁ。
「んで、今から行くのか?明日にするか?」
「依頼開始は明日からでいいですよ。今から出発すると夜になってしまいますからね。それにラッドは依頼開始から二週間の契約になっていますから」
ケイトさんが笑顔で教えてくれた。明日からでいいならそうした方が良いだろうな。買い出しにも行けるし。
「じゃあ、明日からにしようか。今日はこれからまた買い出しに行こう」
「わかった。買い出しはニーナと行ってきて。あたしはちょっと情報集めてくるよ」
「わかりました。行きましょうかリュウジさん。何買うんですか」
「うん、ラッドさんの分の食材をね」
時間があるなら、物資に余裕があった方が良いだろう。出発は朝一でいいかな。
「それじゃあ、ラッドさん出発は明日の朝一番にしましょう」
「わかった、朝の一の鐘だな。遅れるなよ」
ラッドさんと別れて組合を出る。
「じゃあまたあとでね」
「はいよろしくお願いします、タニアさん」
タニアは情報収集するから別行動だ。どこで情報収集してるか知らないけど、いつも何か仕入れて帰って来る。
「じゃあ、僕達も行こうか」
「はい、行きましょう」
僕はニーナと歩き出す。夕方までいろいろな店を回って食材や調理されたものを買っていった。
翌日の朝早くに目が醒める。まだ太陽は昇ってないから薄暗い。この世界には目覚まし時計なんかないから、時間には結構ルーズというかゆとりを持っているみたいだ。朝一の鐘までは少し時間があるな。ニーナには今日の日課はなしにしようかと言ってある。素振りだけやっておこう。
身だしなみを整えて剣を持って宿の中庭で素振りをしていると女将さんが顔を出して挨拶してくれた。
「おはようさん。相変わらず早いねぇ」
「あ、おはようございます。」
「今日からまた仕事でしょ。お昼作ろうか?」
「いいんですか?ぜひ、お願いします。今日から二週間ほど出掛けてきます」
「部屋はそのままにしとくからね。三人分でいいね、気を付けて行ってくるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
ラッキーだったな、早起きはするもんだね。
「そろそろ時間か。準備しないと」
部屋に帰って鎧を着て兜をかぶって、剣を吊るす。ブーツを履いて籠手を着けたら準備はできた。さあ、鉄級昇格試験に行こうか。




