第九話
宿に帰ってリュックサックを背負い、装備を整えて冒険者組合へやって来た。
受け付けを済ませて講義が行われる二階の部屋に案内された。
部屋に入ると中には二人が席についていた。会釈して僕も席に着く。暫くしたら午後一の鐘が鳴って部屋の前の方から人が入ってきた。
うわー、ごつい人だ。目つきは鋭く、左の頬に傷跡があって左耳の一部も欠けている。首がものすごい太くて肩や腕が筋肉でパンパンだ。鎧着けて剣持ったてたらいかにも冒険者ですっていう感じだ。
「ひよっこども、揃ってるか? 俺は今日の試験官のラルバだ。実技の方も担当するからよろしくな。早速だが始めよう。先ずは講義からだな。」
ラルバさんは、そう言って講義を始める。見た目と違って声は優しい感じだった。内容は、貰った冊子に書いてあることがほとんどで、目新しいことは無かった。三十分ほど喋って講義は終わり、休憩を挟んで実技となり、運動場みたいな所に移動した。
「これから実技の試験を始める。こちらからは攻撃はしない。よって防具は要らないから得物だけそこから選んでくれ。刃引きしてある武器だ。選び終わったら始めるぞ。」
僕は、武器なんか使ったことないので剣鉈に似ているダガーを選んだ。
他の二人は、ショートソードを選んだみたいだ。
「選んだか?じゃあ、そこのお前からだ。名前は?」
ラルバさんが僕を指していた。一番手か。
「リュウジです。よろしくお願いします。」
ラルバさんに向かって頭を下げる。
「おう、礼儀正しいな。よろしくな。よし、じゃあ好きなようにかかってこい。」
「わかりました。行きます!」
ラルバさんに向かって走り出して間合いを詰める。戦闘行為は昨日のゴブリン戦が初めてだったからどうやっていいかわからないけど取り敢えず避けにくい胴体を突きで狙ってみよう。
「はっ!」
気合いをいれてダガーを胴体の真ん中に向かって突き出す。
「おおっ、いい突きだ!」
ラルバさんは、左足を後ろにずらし体を半身にして余裕の表情で避ける。僕は、勢い余ってつんのめってしまう。なんとか転ぶことなく体勢を建て直し仕切り直す。
「ふんっ」
今度は、袈裟斬りでいってみる。剣術なんかやったことないから袈裟斬りかどうかはわからないけ
どそんな感じで右上から切りつける。ボールを投げる感じで左手を突きだし、体の捻りを効かせて腕を振り切る。
「いい感じだ。だが、振りが大きすぎて隙だらけだぞ。」
また余裕で避けられる。何やっても当たる気がしないなぁ。すごいなこの人。
「よし、わかった。もういいぞ。おつかれさん。交代だ。」
「はい、ありがとうございました。」
はあ、疲れた。でもこれだけでわかるのか。二回しか攻撃してないぞ。後は結果がどうなるか、か。合格するといいけど。ラルバさんは、他の二人も同じように余裕で避けていた。二人との試験を終えたラルバさんは、息一つ乱さず笑顔だった。
「今回の試験はこれで終わりだ。三人ともよかったぞ。リュウジ、お前は短剣じゃなく他の武器にしろ。目がいいし筋力がありそうだ。体も柔らかそうだしな。短剣でもいいが、お前は剣か鈍器あたりがいいだろう。あとは鍛錬だな。しっかりやれ。他の二人はそのまま精進していけばいいと思うぞ。三人とも合格だ。受付でカードを受け取ってくれ。」
「ありがとうございました。お金が貯まったら買うことにします。盾は使ったほうがいいですか?」
「盾は使えれば生き残れる確率が高くなるが、少し扱いが難しい。使いたかったら訓練してやるから受付で申し込むといい。盾だけじゃなく剣の訓練もしろよ。お前はそっちが先だな。リュウジはウサギくらいならいいがゴブリンなんかの討伐依頼はまだ受けるなよ。そっちの二人は基礎はできているからな。とはいえお前らもしっかりやっとけよ。」
すでにもう戦ってるんだけどな。黙っていよう。でも、やっぱり武器を使ったことないって分かるんだなぁ。
「わかりました。訓練、よろしくお願いします。」
「おう、好きなだけ訓練していけ。死んだらいかんぞ。大事な人、物も守れるようにな。」
そういってニカッと破顔するラルバさん。そうだな、気を付けよう。一緒に試験を受けた二人も頷いていた。
三人そろって受付へ戻ると受付にはケイトさんがいた。僕たちを手招きしている。
「はい、銅級の冒険者証です。無くさないようにしてくださいね。再発行は銀貨一枚になりますから。皆さんのこれからの活躍を期待しています。」
「ありがとうございます。頑張りますね。」
冒険者証を受け取って宿へと帰る道すがら貰った冒険者証を見てみる。材質は銅かな。冒険者証には、銅と刻印されていて、名前、性別、所属組合と取得年月が記載されていた。それによると今は、王国歴三百二十三年緑の月となっていた。町に入った時の許可証を返却しないといけないな。ついでに行ってしまおう。名前はちゃんとリュウジになってたよ。さすがケイトさん。




