第八十九話
帰りもひたすら歩いて二日と半日。疲れたよ。まだ荷物が軽いからいいんだけど、これで数十キロの荷物があったら二日半では無理だろうなぁ。
門を通って街に入るといつもの喧騒でなんだかほっとする。
「やっと町に着いたな。体力付けんといかんなぁ」
「朝の運動の時にその鎧着てやればいいんじゃない?」
「鎧着てかぁ。やってみるかな」
「私も一緒に走りますから頑張りましょう。ね、リュウジさん」
慣れてきたら段々と重くして負荷をかけていけばいいか。体力つく前に膝にこないといいけどなぁ。あ。若くなってるから心配しなくても大丈夫か。
「じゃあ、明日から一緒に頑張ろうね、ニーナ」
「よーし、話も纏まったことだし、組合に行って完了報告と買取してもらおうよ」
村長さんから貰った報酬は、一人当たり銀貨二枚だった。結構奮発してくれたらしい。
組合の受付にはケイトさんがいた。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい。リュウジさん、ニーナさん、タニアさん。御無事で何よりです」
「ありがとうございます。依頼の完了証です」
「はい、確かに。森狼の解体は済んでますか?」
「いえ、血抜きはしてきましたけど解体はまだです」
帰り道の途中で血抜きだけはやってきた。解体は毛皮を傷つけるといけないから組合に任せようって話しで纏まったんだ。
「ルーダスさんにお願いしようと思ってます。どんな風に解体するのか見学させてください」
「はいわかりました。ルーダスが空いてるか聞いてきますのでお待ちくださいね」
ルーダスさんは組合の解体担当の人の名前で、なんだか独特の間を持っているおじさんだ。
「あ、空いてるみたいですね。では解体が終わってから処理しましょう。またあとでお願いします」
すぐにやってくれるとのことなので、裏口から出て解体所に入るとルーダスさんが待っていた。
「…いらっしゃい。…そこに出しといて」
リュックサックから森狼を五頭取り出して並べる。ルーダスさんは僕が無限収納インベントリを持ってるって知ってる人だ。
「…森狼ね。…綺麗に倒してあるね…見る?」
見る?…ああ、解体を見るかってことか。
「はい、お邪魔じゃなければお願いします」
「……じゃあ、こっちに」
こっちに来て見てろってことだな。じゃあ遠慮なく。
「タニア、ニーナも見るよね」
「うん」
「はい」
僕たちが移動すると、棚から綺麗なナイフを一本取り出してまずは顎の下側に刃を入れて腹側に切れ込みを入れていった。
「毛皮を綺麗に剝ぐためにそこから刃を入れるんですか?」
「……そうだね。まあ……見てて」
それからは早すぎてよくわからなかった。ただ、お腹側から背中に向かって皮を剝いでいったことしかわからんかったなぁ。森狼は魔物じゃないから魔石はなくて、肉も美味しくないらしい。ただ毛並みも薄い茶色の毛皮もとても美しいからコートとかに加工されるんだって。今回はタニアのおかげで皮に傷がなくて上手く剥ぐことができたから敷物みたいにして卸すらしい。
「…これ買い取りに持っていけ……毛皮の分だ」
手渡された木札は二種類あって、一つには優、もう一つには良とあった。優は三枚で良が二枚。
今回倒した獲物は、ゴブリン五匹と森狼五頭だ。渡された木札を持って受付に戻るとケイトさんが呼んでいる。
「リュウジさん、ニーナさん、ちょっとお時間良いですか?」
「はい、いいですよ。なんですか?何かありました?」
僕とニーナだけ呼ばれたみたいだ。タニアに木札を渡して買い取り窓口へ行ってもらう。
「お二人とも、おめでとうございます。鉄級へ昇格しましたよ」
「えっ」
「ほんとですかっ!」
あれから受けた依頼はこれだけだから、本当にもうちょっとだったんだなぁ。しかし、僕なんかが鉄級になってもいいんだろうか。
「ケイトさん、鉄級になると何ができるようになるんですか?」
「護衛依頼が受けられるようになりますよ。あとは、鉄級から上の階級は内部で三段階に分かれています」
「え、初めにもらった規約にはそんなこと書いてなかったような気がするんですが…」
「そうですね、あの規約なんですがほとんどの人は読まないんです。リュウジさんは読んでいただけたようですね、ありがとうございます。なので、細かいことは書かれていません」
そうだったんだ…
「そうすると僕たちは鉄級の何になるんですか?」
「鉄級になったばかりの人たちは、鉄級の三という階級になります」
「鉄級の三…それはまた、なんというか…」
「そうですね。そのままです。更に鉄級の一になると銀級への昇格試験を受けることができるようになります」
銅級から鉄級へは組合だけの判断で昇格できて、それから上にいくには外部の誰かに見てもらわないといけないってことか。
「但し、護衛依頼を受けるには一度盗賊の討伐依頼を受けてからでないといけません」
やっぱりそういうのがあったか。
「魔物じゃなくて、人を殺すことができないといけないってことですか?」
「はい、そうです。護衛依頼で一番戦闘することになるのが盗賊ですからね。人を斬ることを躊躇っている冒険者は鉄級に上がっても護衛依頼は受けることができません。というか銅級のままとなります」
「ということは、この依頼を達成しないと鉄級になれないってことですか?タニアはその依頼を受けていないと思うんですが…」
人を斬ることのできる覚悟か…確か、タニアはそんな依頼を受けたとは聞いていない。
「タニアさんは、港町のフルテームで冒険者活動しているときに盗賊の討伐依頼を達成した記録がありますから免除されました。ニーナさんとリュウジさんはそういった依頼を受けたことはありませんよね?ですから、今回盗賊討伐の依頼を受ける必要があるんです」
なるほど。鉄級に上がるには組合が認めればすぐに上がることができるが、条件があるってことか…これが昇格試験だと思えば受けるしかないな。
銅級の時でも盗賊の討伐依頼を受けることができたんだ。受けとけばよかったかな?でも銅級にはそういう依頼は無かったみたいなんだよなぁ。
「わかりました。受けます。ニーナもそれでいいよね?」
「はい、私も受けます」
「はい、わかりました。この依頼はパーティで受けても問題ありません。ただし、この依頼の際は組合が選んだ鉄級以上の冒険者が一人同行することになります」
「その依頼はすぐに受けれるんですか?」
「はい、すぐにでも大丈夫ですよ。どうしますか?」
ニーナを見るといい顔で頷いている。タニアにも相談してみないといけないか。
「いえ、ちょっと皆で相談してみます」
「わかりました。そんなに急がなくてもいいので、よく考えてからでいいですよ」
ケイトさんの用事は済んだらしく、「それではお待ちしています」ととてもいい笑顔で言われ、タニアのところへ行く。
「あ、リュウジ早かったね。なんだったの?」
「ああ、僕たちも鉄級になれるみたいなんだ。でも盗賊の討伐依頼を受けないといけないみたいでその説明を受けてきた」
「やったじゃん!おめでとう、二人とも!今日はお祝いだね!」
「はい!やりました!」
「美味しいものたくさん食べような。んで、報酬はどうだった?」
森狼の毛皮はどれくらいで買い取ってもらえるんだろう。
「森狼の毛皮で優が大銀貨一枚だったから三枚で大銀貨三枚と、良が銀貨五枚で二枚あったから大銀貨一枚でしょ。森狼の討伐報酬が一頭銀貨三枚だから、えーと、何枚?」
首を傾げるタニア。計算苦手か?
「銀貨十五枚だね」
「そうそう、銀貨十五枚。それにゴブリンが五匹だったから、銀貨一枚と大銅貨四枚だったよ」
「凄いですね!全部でえーと……大銀貨五枚と銀貨六枚、大銅貨四枚!凄いですね!」
「おお!凄いな!一回の依頼でこんなに稼げるんだ」
往復で五日、村で四日だったかな?十日程度で五十六万四千円!!一人当たり…十八万八千円!ほぼ一か月分の給料だ…
「これ、何か月分の生活費?」
「え?えーと町の人たちだったら一月銀貨二から三枚ですか?」
「あたしがいたフルテームだったら、月銀貨三から四枚くらいだったかな」
町の生活費は、月二~四万円ってことか。物価やすいなぁ。とすると…
「大体半年分を十日で稼いだのか!…凄いな」
「でも私たちみたいな冒険者だと武器や防具の整備費だとかポーションなんかの雑費がかかりますから、大体三か月分くらいになりますか」
最初のころ、薬草採取で凄い稼げるなぁと思ったけど、これ知っちゃうと少なかったんだと思うよ。まあ危険度がかなり違うからその分だと言われるとそうなんだけどね。
「それで、タニアに相談があるんだ」
「なに?」
「僕とニーナが鉄級になるために盗賊討伐受けるんだけど、タニアも一緒に受けてくれる?」
「ん?いいよ?なんで?」
「え、だってタニアは受けなくてもいいんだよ?」
「あたしたちパーティでしょ?一緒に受けるのが当然でしょ」
「良かったですね、リュウジさん」
「うん、ほっとしたよ。じゃあ、ケイトさんに知らせてくるよ」
受付へ戻って、ケイトさんに伝えると三日後のお昼前にまた来るように言われた。
「その時までに、試験官の人を決めておきますので」
了承の返事をして二人の所に戻り、そのあとは宿に帰る途中で三人で話をして、盗賊討伐依頼を受けるまで休みしようということで意見が一致した。皆も疲れてたんだね。体を拭いてベッドに横になったらいつの間にか寝てたよ。




