第八十八話
お昼過ぎに昨日と同じ場所に肉を置いて待つこと一時間余り。最初に釣れたのはまたもやゴブリンが三匹。サクッとタニアとニーナが仕留めて腹を裂いて転がしておく。
「なんかもうゴブリンじゃ相手にならなくなってきたなぁ。あのホブゴブリンとの戦いが効いてるのかな?」
「あたしね、リュウジとパーティになってから調子いいんだよね。前はこんなに当たんなかったからさ」
隠れているところに帰ってきて零したら、タニアが不思議そうに弓を見ながら呟く。
「私もどれだけ練習しても上達しなかった詠唱が、リュウジさんとパーティを組んだころから凄い勢いで上達したような気がします」
ああ、それはアユーミル様のお陰です。僕じゃありませんから。
「二人とも、それは今までの努力の賜物だ。けど、帰ったら神殿でアユーミル様にお礼を伝えてくれ」
「?わかりました。帰ったら一緒に行きましょう」
「しっ!釣れたよ」
タニアの声に仕掛けたところに目をやると、森狼が二頭ゴブリンの腸はらわたの匂いを嗅いでいるところだった。
「タニアさん、やりましょう」
「あいよ」
二人が弓と魔法で森狼を狙う。なんだか楽に終わりそうだなこの依頼。この調子なら、僕の出番はほとんどなさそうだ。
「……炎矢ファイヤアロー」
ニーナの魔法に合わせるように弓を放つタニア。タニアの矢は頭に、ニーナの炎矢は首に命中して倒れる森狼二頭。
僕は剣鉈を取り出して首を切ってとどめを刺すと、リュックサックに収納する。
「これで、四頭だね。あとどれくらいいるんだろう」
「村長さんの話では、全部で十頭だったと思います」
「十頭か。実際にはもっといるんだろうけど、とりあえず五頭倒せば依頼は終了かな?」
森の中にはもっといるんだろうが依頼内容は森狼五匹の討伐だったと思う。あれ?討伐数ってあったかな?
「依頼内容に討伐数ってあったっけ?」
「は?覚えてないの?森狼が十匹くらいいるから半分くらいにしてくれっていう内容だよ。ちゃんと覚えといてよね」
「あー、そうだったそうだった。狩りすぎるとゴブリンとかが増えすぎるからってあったな、確か。ありがとう、タニア。」
「そうでしたね。そうしたら、あと一頭討伐すれば完了ですね」
今、リュックの中には四頭の森狼が入っている。
「よし!もうちょっと頑張ろうか!」
「はい!」
「よし!頑張ろう!」
それから一時間くらいでもう一頭倒すことができた。ゴブリン様様だ。あの血の匂いで寄ってきたんだろうな。
「よーし、収納完了。帰ろうか」
「はい!やりましたね」
「今回はリュウジの出番はなかったなぁ」
僕がやったことと言えば、ゴブリンの処理と森狼の収納だけだ。
「まあ、荒事にならなくてよかったじゃないか」
「そうだけどさ、折角鎧を新調したのに活躍の場面が無かったのが残念だったねー」
「そうですね。リュウジさんの作戦が上手く行きましたからね。良かったです」
ほんと、嘘みたいにうまくいったなぁ。なんか拍子抜けだけど、これで依頼完了だ。村長さんに報告しよう。
「そうだ。この森狼、どうやって出そう?」
「ん?どうやってって?」
「いや、いつもは町に入る門からちょっと離れたところで出すでしょ?村に入る前だとどこで出しても丸見えだし、今出すと持っていくのが大変じゃない?」
「あーそうかぁ。あんまり考えてなかったなぁ。んー…森との境目で取り出して、皆で持っていけばいいんじゃない?」
「そうですねぇ、私でも一頭なら持てると思います。境目で取り出して行きましょう」
「タニアも一頭か…僕が三頭…行けるかな?」
二頭を紐で括り付けて背負って、残りの一頭を手で持っていくしかないか?
「一頭は木にぶら下げて行けばいいよ。あたしとリュウジで持てばいいからさ」
それならいけそうだな。
「そうしようか。木の枝を探そう」
すぐにぶら下げることが出来そうな木の枝は見つかった。リュックサックから一番大きい森狼を取り出して、足をロープで縛って木の枝に通してタニアと二人で持ち上げると意外と軽く感じる。
「タニアは大丈夫?重くない?こいつ三十キロじゃなかった、三十ガオンスくらいあるでしょ」
「うん、これくらいなら平気。じゃあいったん仕舞って帰ろうか」
木の枝に括り付けたままの森狼をリュックに仕舞って森の出口に向かって歩き出す。
村との境目に近づいたところで森狼を取り出し、ニーナとタニアに小さめの個体を一頭づつ渡す。僕は、二頭を抱えてさっき木の枝に括り付けた一頭をタニアと一緒に肩に担ぐと牧草地を歩いて村に入る。村長の家に着くとラーリルさんが出てきて驚いた顔をして中庭の方へ案内される。
「凄いですね、皆さん。もう退治してきてくれたんですか。父を呼んできますから待っててください」
森狼を下して待っていると村長さんとラーリルさんがやってきた。
「おお!ありがとうございます。これで安心できるというものです」
村長さんは、ほっとした顔を、ラーリルさんは僕達を尊敬の眼差しで見ている。
「これで依頼達成ですね。本当にありがとうございます。報酬をお渡ししますので居間でお待ちください。ラーリル、案内してくれ」
森狼をその場に置いたまま、ラーリルさんと一緒に居間に向かう。
「ラーリルさん、あの狼は持って帰ってもいいんですよね?」
「はい、毛皮が売れるんですよね?リュウジさんたちが倒してきたものなので私たちは手を出しませんよ。あ、預かっておきましょうか?」
良かった。夜のうちに収納してしまおう。
「いえ、僕の方で何とかしておきますから、大丈夫です」
居間で話していると、村長さんが麻袋を持って入ってきた。
「お待たせしました。こちらが報酬となります」
持ってきた麻袋を僕たちの前に置いて頭を下げる村長のジッタさん。
「ありがとうございます。これでこの依頼は終わりですが、また何かありましたら連絡してください」
「その時はよろしくお願いします。今日は泊っていかれますか?」
「お願いします」
その日の夕食はちょっと豪華だった。
次の日は朝から帰る準備をして朝食をいただいてから出発になった。
「本当にありがとうございました。こんなに早く解決するとは思っていなかったので大したもてなしもできなかったことが心残りですな」
「いえいえ、十分でしたよ。では、また何かあったら」
「はい、ありがとうございました、リュウジさん。これお弁当です。皆さんで食べてくださいね」
ラーリルさんがお弁当まで用意してくれたよ。