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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第八十六話

後半にグロい表現があります。気を付けて読んでください。苦手な方は、読み飛ばしてください。

「ふうん。そんなことがあったんだ」


「酷い話だよな。いくら美人さんで弱い立場だからって無理やりは駄目だよね」


「セトルの町の冒険者にはそんな人はいないと思います!」


 今朝ラーリルさんから聞いた話を二人に話した。タニアはあまり感慨もなさそうで、ニーナは憤慨している。


「まあ、どれぐらい前の話か分からないからね。今セトルの街にいる冒険者にはそんなことをする人はいないと祈ろう。さて、話は変わって依頼のことだね」


 森狼がそのまま僕達を襲ってきてくれれば迎撃するだけなんだけど、きっとそんなことはないだろう。


「依頼のこと?」


「うん、どうやって森狼をおびき出すかってことを考えておかないと、きっと時間がかかると思うんだ」


「そうですね。村長さんの話によると最後に襲ったのが二日前だったんですよね。で、その前が五日前。ということは明日か明後日にはまた襲撃してくるってことになりませんか?」


「うーん、そう上手くいくかなぁ。でもそんな予定で行動しようか」


「わかった。あたしは一人で森に入って地形を見てくるよ」


 その辺はタニアに任せておけば大丈夫だろう。誘き寄せるのには肉かな?


「じゃあ、僕とニーナで牛肉を分けてもらえないか聞いてみようか」


「はい、村長さんから聞きに行きましょう」


 罠が作れるといいんだけど、僕じゃあ難しそうだなぁ。タニアはできないかな?


「タニア、罠って作れる?」


「あー、作れることは作れるけど、森狼は大きくて力が強いから鉄で作らないと壊されちゃうと思うよ」


「そうかぁ。…ってことは、僕そんなのと戦わないといけないのか!?」


 この依頼受けたのは失敗だったかな?全然上手くいく気がしない。


「大丈夫ですよ、リュウジさん。私たちが頑張って倒しますから!」


「ありがとニーナ。タニアも頼んだよ?」


「うん、任せといて。森狼だったらやったことあるから行けると思う」


「でも、リュウジさんが弱気なのって珍しいですね?何か気になることでもあるんですか?」


「森狼がそんなに大きいなんて思ってなかったからさ、ちょっとね」


 考えてみると怖さが分かると思う。大型犬より一メートル以上大きい犬みたいに俊敏な生き物。そんなのにタックルされて圧し掛かられたら持ちこたえるなんて絶対無理!で、そのまま喉を食いちぎられて終わり、だ。しかもそれが五匹もいるって…


 ね?想像できるでしょ?どうやったって無事に帰れる想像ができないんだよなぁ…


「大丈夫大丈夫!あたしの弓の腕知ってるでしょ?リュウジは盾構えて耐えてくれれば何とかするから」


「私の火球もありますからね。もちろん威力は抑えますけど、森狼だって迂闊に近寄っては来れません!」


 そうか…そうだよな、タニアもニーナもいるから僕が何とか耐えれば…って最初にそう考えたっけ。


「よし、二人に任せたよ。僕は一生懸命耐えるからね」


「うん!任せといて!」


「はい!任せてください!」


 村長さんに使わなくて余った牛肉を皮袋一杯(大体五キロくらいかな)に貰ってから装備を整え、頼もしい二人に先導されて西側の森へ歩いていく。


 家が途切れると一面は放牧地だ。西の森の方には牛の姿が見えないが、北の方に黒い点が沢山ある。今はあっちの方で放牧しているんだろう。北の方には森が無いから襲われる心配が無いんだろう。


「タニア、牛肉はどこら辺においておけばいいか分かる?」


「えーとね、ああ、こっち」


 西側の森に入って辺りを見回してから左手の方へ歩いていくタニア。


「こっちにちょっと木が少なくて開けたところがあったんだ。そこならちょうどいいと思うよ。足跡もあったしね」


 確かにちょっと歩いたら木が少なくていいところがあった。


「ここに置いて…あっちの方で隠れて待ってみるか」


「それがよさそうですね。隠れて待つ間に準備をしっかりしましょう」


 一番広く開いているところに肉を置いて、皮袋はリュックサックに仕舞って匂いが出ないようにしておいた。あとは僕の鎧の衣嚢ポケットに布で包んだポーションを多めに入れておく。ポーションはガラスの瓶に入っているんだが、透き通っていないガラスでしかも泡がいっぱい入っていて緑色だ。コルクみたいな材質のもので栓がしてある。ガラスは分厚いから結構丈夫なんだけど戦ったりして衝撃が加わると割れてしまう。


「これでいいかな?」


 立ち上がって腰の衣嚢がある部分を鎧の上から叩いてみるけど大丈夫そうだ。拳で叩いたぐらいじゃ何ともないな。革鎧も丈夫だったけど金属片が張り付けてあるだけでこんなにも違うんだ。


「どうですか?リュウジさんその鎧は?」


「うん、かなり頑丈だね。いい感じだよ」


 そんんことをしてたら、タニアが地面にべったり座って不思議そうに呟いた。


「でもさ、なんでこんな人里近いところに森狼が出るようになったんだろうね?普通はもっと森の奥の方にいるもんだと思ったんだけど」


「普通はそうですからね。えと、森の奥に餌となる動物が少なくなったからですか?」


「あとは…もっと強い奴が現れて住処を追われたか、かな」


 実際両方とも考えられることだ。餌が少なくなったんなら間引けばいいだけなんだけど、強い奴がって方だったらそいつを倒さないといけなくなるかな?


「あたしもリュウジが言った方を警戒してるんだよね。今回は遭遇することはないと思うけどね」


「なんにせよ森狼を退治して、街に帰ってから組合と相談してみようか」


「しっ!何か来た」


 タニアが人差し指を唇に当てる。こっちでも静かにしてほしいときのゼスチャーは一緒なんだ。


 ニーナと息を殺して肉を置いたところを見つめる。そこには二匹のゴブリンの姿があった。


「あー、あいつら肉に釣られてきたのね。ニーナ、やっちゃおう」


「わかりました。じゃあ炎矢で行きますね」


 小さな声で詠唱するニーナに合わせてタニアが弓の準備をする。詠唱が終わると目配せして二人で同時に攻撃を放つ。ほぼ同じ速度で飛んでいく普通の矢と炎の矢が到達するのは同時だった。狙い違わず頭部に命中すると地面に倒れるゴブリン。


「はい、リュウジ出番だよ」


「え?」


「証明部位を切り取ってからゴブリンの腹を裂いてそのまま放置してきて。あ、矢が回収出来たらしてきてね」


 どうやらあのゴブリンも餌にするらしい。よく思いつくなぁ。


 剣鉈を取り出して言われた通り耳を切り落とし、矢を抜く。返しがついてるから足で頭を押さえて思い切り引き抜くと何とか抜けた。あとは腹を十字に裂いて転がすと内臓がデロンと出てくる。人間のものとそう変わらないんだなぁ。


 もう一体も同じようにして茂みに戻ってくる。


「お疲れ、リュウジ。でもあれはやりすぎかな?血の匂いが凄くなっちゃったじゃん」


 やりすぎっていうのは内臓を出させたことだろう。


「あら?やりすぎだったか。ごめん」


「まあいいや。でももうちょと向こうに行って隠れてよっか」


 確かに血の匂いが凄いな。三人で二~三メートルくらい遠くに移動する。ここからでもよく見えるから問題はないな。


「これだけ血の匂いが濃ければすぐにやってくると思うよ」


 果たして、タニアの言う通りそんなに待つことなくゴブリンの死体の周りに一メートル五十センチくらいの大きさの狼が二頭やってきた。ゴブリンの死体の所でフンフンと匂いを嗅いで周りを見回してから食べ始める。


 またタニアが静かにポーズをして、ニーナに目配せして頷きあう。ニーナは詠唱をはじめタニアは弓に矢を番える。僕の出番はまだだろう。でも準備だけはしておく。背負っている盾を外して左手に装備して剣を確認しておく。


 僕の隣でバシュンと矢を放つ音が聞こえて、小さな声で「炎矢ファイヤアロー」と聞こえた。


「よしっ!」


 二匹の森狼がドサッと倒れるとタニアがガッツポーズをする。ニーナの顔にも笑顔が弾ける。


「リュウジ、またよろしく!」


「わかった。って討伐部位ってどこになるの?」


 森狼の討伐部位を調べるの忘れてた。牙?爪?


「森狼の討伐部位は、尻尾か毛皮ですね。毛皮が採れるなら高く買い取ってもらえますので、とりあえずリュウジさんの背嚢に仕舞っておけばいいと思います」


「そうか、あとで解体すればいいのか。わかった、ちょっと行ってくる」


 二人が放った攻撃は森狼の頭部を正確に貫いていた。アユーミル様に頂いた異能のお陰なのは間違いないが、なんか前よりも上手くなってないか?ニーナなんて炎矢を唱えるのに十秒くらいになってるし。タニアはもともと凄かったけど、最近外したことないんじゃないかな。なんか僕だけ上達してない気がしてきた。もっと精進せねば!ま、今は仕事だ。


 森狼に刺さった矢を抜いて尻尾を持ってリュックサックの口に近づけるとにゅるんと入っていく。二匹とも収納したら元の場所に戻ってくる。


「はい、回収できたよ。これ矢ね」


「ありがと。今のところ順調ね。群れのボスが出てこないかな?」


「今の二匹は普通の大きさなの?」


「あれくらいの大きさなら普通だと思います。ボスになると二メルチを超える個体が多いそうですが…」


 あれより大きいのかぁ。でもまあ、魔物じゃないからな、そこまで手古摺らないかな。


「今倒したのが二匹だからあと三匹いるのか。まだ粘ってみる?」


「うん、もうちょっと粘ろう。今日で終われたらそれでいいからね」


 今はまだお昼過ぎだ。あと三、四時間は大丈夫か。


「じゃあ、ここらで腹ごしらえしとくかね」


 リュックから買っておいたサンドイッチを三人分取り出して二人に渡す。


「ありがとうございます。いただきます」


「ありがと!」


 サンドイッチを食べてもうひと頑張りしますか!

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