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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第七十六話

 小鳥の声と朝日で目が覚める。ここはどこだ…んん?宿の部屋…じゃないな。


 あ!ここは組合の救護室だ。右手を動かそうとしたら何か温かいものに包まれているみたいで動かしにくい。


「う…ん。」


 その右手の辺りから声がした。


 ニーナ?


 声のした方を見ようと顔を上げてみると窓から入る朝日の光で綺麗に輝いている髪が見えた。その瞬間ホブゴブリンとの戦闘が思い出された。記憶にある最後に見たのは真っ二つになったホブゴブリンとその向こうに見えた人影だ。あの時ニーナがゴートランさんと言っていた気がしたけど、あんまり覚えてないや。ただ良かったぁと思ったんだっけ。


 あ!怪我は!?左腕と胸を触ってみるが全く痛くない。皮膚の傷はポーションか。左腕と肋骨の骨折はどうなったんだろう、というかどうして治ってるんだろう?


「ニーナ、ニーナ。」


「ううん、なんですか。リュウジさん…はっ!?リュウジさん!?」


ニーナを揺すって起こし、僕と目が合うとみるみるうちに瞳に涙が溜まっていく。ああ、また心配かけちゃったか。


「ごめんね、ニーナ。心配かけた。」


「いいえ。あ、心配は凄くしましたよ?凄く!…でも、私もタニアさんも無事に帰ってこれたのは、リュウジさんが命を懸けて頑張ってくれたおかげですから。」


 瞳に溜まった涙を拭いもせずに綺麗に笑うニーナ。シーツで申し訳ないが涙を拭う。


 命を懸けて…か。僕自身そんなつもりは全くなく、とにかくニーナとタニアを守らなくちゃという思いでいただけなんだけどなぁ。


「とにかく二人が無事でよかったよ。で、僕、骨折してたと思うんだけど、なんで治ってるの?」


「あ、それはですね…」


 ニーナの話を聞いて納得がいったのと回復魔法すげぇと思ったよ。今回の僕の腕の骨折は地球向こうならギプス固定で一か月くらい、肋骨の骨折は手術しないと治らないのに回復魔法一つで完璧に治ってる!


 やっぱり回復魔法が使える仲間がほしいなぁ。


「そうだったんだ。今度会った時にお礼をしないといけないね。」


「そうですね。でも今回は謝られると思いますよ?」


 向こうが謝る?なんでだろう?


「ゴートランさんたちは救援に来てくれたんだから、こっちがお礼を言わないといけないんじゃないかな?」


「リュウジさんは気を失っていたので知らないと思いますが、あのホブゴブリンはゴートランさんたちが仕留めきれずに逃げられてしまったそうですよ。だから、帰りの時もすまなかったってずっと言ってました。」


「そっか。でも、やっぱりお礼は言わないといけないね。助けてもらったからさ。えーと、なんていう人だったっけ、回復してくれた人。」


「はい、フィルメアさんですね。豊穣の女神アユーミル様に仕える神官の方です。」


 フィルメアさんね、フィルメアさん。よし、覚えたぞ。


「その人にもお礼を言っとかないとね。体が動くようになったら会いに行くか。」


「その時は、私も一緒に行きます。」


「わかった。一緒に行こうか。ふー、まだ体がだるいな。もうちょっと寝るよ。ニーナも宿に帰って休んでくるといいよ。ずっと付いててくれたんでしょ?」


「まだ、体が本調子じゃないんでしょう。あんなに怪我したんですから仕方がないです。あ、リュウジさん…その、冒険者は続けますか?」


「なんでそんなこと聞くんだ?やめないよ?冒険者。」


 僕の答えを聞いてほっとした顔を見せるニーナ。何だろう?…ああ、ひどい怪我したからか。


「ニーナ、現状で僕に出来ることが冒険者これ以外に思い浮かばないんだ。だからやめないよ?」


 だから安心しなと頭を撫でる。サラサラとしたニーナの金髪の感触を楽しんでみる。


「はい!これからもよろしくお願いします!」


 冒険者は楽しいしね。怪我してもポーションとか回復魔法とかで何とか出来るからね。この考えは少し危ないかもしれないけど、命に対する保険があるって考えるとちょっとは無理できそうだ。


「リュウジさん、私はもう帰りますが、しっかり休んでくださいね。」


 それでは、おやすみなさいと部屋を出ていくニーナ。しかし、今回のホブゴブリンは強かったなぁ。防具は軒並み破壊こわされちゃったから新調しないといけないか。あんなに手負いだったのにほとんど歯が立たなかったし、ニーナの火球もあんまり効果がなかったしな。


「まあ、これからのことは起きてから考えるか。寝よ。」




 二度寝から覚めたら昼だった。


「あら、目が覚めたんですね。お昼出ますけどどうされますか?」


 声をかけてくれたのは、前もお世話になったミーミリアさんだった。そういえばお腹減ったな。


「出るなら、是非とも。」


「うふふ、わかりました。持ってきますから待っててくださいね。」


 持ってきてもらったお昼ご飯を食べる。どんぶり一杯のパン粥だ。おかずはない。物足りないが文句は言えないなぁ。


「ふう。御馳走様でした。」


 食器を持って下膳棚へ持っていく。まだ立つとふらつくなぁ。


「リュウジさん、まだ歩いちゃだめですよ。怪我は治ってますけど、血が足りないんですからね。」


「ああ、だからふらつくんですね。でも大丈夫ですよ。寝てばかりいると鈍っちゃいますから。」


 そうか、貧血の症状だな。こればかりは鉄分取って時間が経たないとどうしようもない。輸血なんてないだろうからなぁ。ニーナかタニアにお願いして鉄分取れるものを買ってきてもらおう。


「わかりました。大人しくしてますね。」


「そうしてください。じゃないと私がケイトさんに怒られてしまいますからね。」


「ははは、ケイトさん怒ると怖いですからねぇ。」




 それから三日間帰れなかったよ。三日目のお昼にミーミリアさんから退院の許可が出たと聞かされた。医者には会ったことがないんだけど誰が許可出してるんだろう…いつも来るのはミーミリアさんだけなんだよなぁ。


「それじゃあ、お世話になりました。」


「もう来ちゃだめですからね!お大事に。」


 ニーナとタニアが迎えに来てくれて一緒に帰ることになったんだ。僕は一人で帰れるからって断ったんだけどニーナがどうしてもってきかなかったからこっちが折れたよ。ちなみに入院費用は掛からなかったんだ。強制依頼中の怪我の治療費はすべて依頼主が持つんだって。だから今回は組合が出してくれたみたい。僕のほかにも数人怪我した人がいたんだけど一番ひどかったのが僕だったそうだ。怪我自体はフィルメアさんの魔法で治ってたんだけど、どうやら出血が酷くて危なかったみたい。確かに肺が傷ついたら出血が半端ないからなぁ。よく窒息しなかったよ。


「さあ、行こうか。」


「はい!まずは組合の受付に寄ってから宿に行きましょう。」


「吃驚するなよ、リュウジ。」


 吃驚するな?何かあるんだろうか。


「何かあるのか?」


「まあまあ、とにかく行こうよ。」


 まあいいか。とりあえず行こう。


 救護室は組合の奥にある。受付は訓練場を通り過ぎて解体場の横にある入り口から入ることになる。その扉を開けるとたくさんの人がいて、そこにいた人たちが一斉にこっちを見る。


 次の瞬間、部屋の中がどっと沸いた。なんだ?何が起こってるんだろう?


「さあ、リュウジさん行きますよ、こっちです。」


「なに?どうしたの?」


「いいからこっちだって!」


 状況が全く把握できていない僕は、ニーナとタニアに連れられて皆の前にある台の上に連れていかれた。


「やっと来たか、リュウジ!」


「ライル。なんでここにいるんだ?」


「今から今回の依頼の功労者に表彰を行うんですよ。」


 ライルの向こうには、ガウラスもシアもルータニアにスレインもいる。暁の風だ。


「私たちと暁の風の皆さんが今回の功労者ですよ。さあ、前を向いてください。」


「そうだぞ、リュウジ、ほら胸張って!」


 僕の隣に並んだニーナとタニアも誇らしげに前を向いて立っている。言われるまま前を向くと組合長が僕たちの前に進み出た。


「皆!今回の依頼で一番の功績を上げたパーティが揃った!このパーティに限らず皆も良くやってくれた!皆のおかげで町には一切の被害なくゴブリンの巣を殲滅することができた。ゴブリンの巣には三匹のホブゴブリンがいた。巣の発見が少し遅れていたら多大なる被害が出ていたと予想される。銀級と鉄級のパーティが多数いてくれたおかげだ。ありがとう。銅級の皆もゴブリンを通さず良く町を守ってくれた。ありがとう。皆も知っての通り特にこの二つのパーティは手負いだったとはいえホブゴブリンを討伐した。暁の風の五人とリュウジ、ニーナ、タニアだ。本当に良くやってくれた。彼らには報酬を増額することを約束しよう。この後はささやかだがここで祝賀会を行うので皆楽しんで行ってくれ。今回は本当に良くやってくれた。以上だ。」


 組合長のダレスさんの話が終わったとたん、うおおおぉぉぉぉーという雄たけびが組合を染める。そこかしこから聞こえる、酒だー!酒もってこい!だの、飯食わせろー!だの、こっちに来てお前ら凄いじゃねーか!と肩を組んで背中をバンバン叩かれたり、組合長の話が終わったばかりなのにもうすでに組合のロビーは滅茶苦茶だ。併設の酒場兼食事処から大量の料理と大量の酒が運ばれてきて食卓に置かれ、皆取り皿を持って好きなように食べているし飲んで騒いでいる。


「リュウジ、元気そうだな!よかったぜ。」


「あ、ゴートランさん!ありがとうございました。おかげさまで生き残れました。」


「よせよ、お礼を言われちまうと恐縮しちまうぜ。すまんかったな。俺たちのせいで死にそうになったんだからよ。」


 ゴートランさんがわざわざ僕たちのところまで来てくれて頭を下げそうになったので、先回りしてお礼を言ってみた。ゴートランさんは申し訳なさそうな顔で後頭を掻きニーナの言っていた通りに謝ってくれた。


「いえ、ホブゴブリンは強かったですね。あんなに手負いだったのにあそこまでで精一杯でした。フィルメアさんにもお礼が言いたいんですが、一緒じゃないんですか?」


「あいつはこういう場が苦手でな。さっきまでいたけどよ、もうここにはいないと思うぞ。後で神殿にでも行ってみたらいい。」


「そうなんですか。わかりました明日にでも行ってみます。」


「おう、そうしてやってくれ。俺たちもしばらくは休養するからよ。俺もまた鍛えなおしだ。」


 それからしばらくホブゴブリンとの戦いについていろいろ話を聞いていたらいつの間にか周りにライルたちが座って話の輪に入ってちゃっかりアドバイスをもらっていた。


 そういえば、こっちに来てから酒飲んでなかったなぁと思い、僕は周りの皆がいい感じに出来上がっていて誰も見てないことを確認してお酒を飲もうとしたんだけど、ケイトさんとミーミリアさんがどこからともなく表れて「リュウジさんはまだ駄目ですよ」「まだ本調子ではないんですからねー」と言いながら僕の手からジョッキを奪い一気飲みされて、飲み終わったジョッキだけ返されたんで今回は諦めたよ。病み上がりだからかな?こっちでは十五歳が成人でお酒も十五歳から飲める。しっかし、二人ともお酒強いんだなぁ。


 そういえば、ニーナとタニアはどうしたんだろう?ちょっと探してみるか。


 周りには冒険者がいっぱいいるから男臭くてね…癒しを求めてニーナを探そう。……あ、いた。食事処の窓際に置いてある卓にシアさんとタニア、ルータニアさんと楽しそうにお喋りしている。タニアとルータニアさんて、名前よく似てるなぁ。偶然なのかな?タニアって名前が人気があるんだろうか?


「おー、リュウジこっちに来たのかぁ。ほら、ここに座って。」


 顔が赤くなっているタニアが横にずれて椅子を叩いている。結構飲んでるな。まだ呂律は怪しくないから大丈夫そうだけどあんまり酷くなるようだったら連れて帰ろう。


「ありがと。向こうはむさ苦しくてね。」


「で、ニーナを探してこっちにきたんだね。」


 ルータニアさんも顔が真っ赤だ。皆かなり飲んでるなぁ。


「そりゃあ男に囲まれてるより綺麗な女の人の方が良いに決まってるからね。」


「きゃあー!良かったねニーナ!綺麗だって!」


「あ、あの…」


 シアさんて、酔っぱらうとクールな雰囲気がガラッと変わって年相応になるんだ。ニーナの背中をバンバン叩いている。ニーナはこの変りようを知らなかったみたいで困惑してる。


「あはは、ニーナさんごめんねぇ、この子酔っぱらうといつもと全然違うでしょ。嫌いにならないでね。」


「いえ、あの、大丈夫ですよ?ね、リュウジさん。」


「ああ、シアさんの意外な一面が見れて良かったよ。」


 ルータニアさんは、口に手を当てて、まぁ!と言ってニーナの耳に顔を近づけて何か囁いたらもともと赤かったニーナの顔が更に耳まで真っ赤になってしまった。


 なんて言われたんだろう。聞くのは野暮か。


「でも、シアさんもルータニアさんも大きな怪我がなくて良かったよ。もちろんタニアもね。」


 あの戦いではタニアは勿論、二人の援護があってかなり助かった。ルータニアさんの魔法もシアさんの攪乱が無かったらもっと苦戦してただろう。


「なんの、なんの。リュウジ君の活躍に比べたら毛ほどもないよ。うちの男どもにも見習わせないとな。」


「そうねぇ。ライルはともかくガウラスにはもっと頑張ってもらわなきゃいけないわねぇ。」


「そうそう!あいつも脇腹の骨折れてたみたいだけどリュウジ君の方がもっとひどかったんでしょ?だって血吐いてたもんね。よく動けたね。」


「あの時は、もう無我夢中でね。今考えると良く動けてたなぁと思うよ。最初の時はポーション使ってくれたから何とかなったんだよね?その辺ちょっと記憶が飛んでて覚えてないんだ。」


「あの時は、ニーナさんが取り乱しちゃって大変だったのよ。ね?ニーナさん?」


「ぅえ?あ、あの、そうですね。ルータニアさんが横に向けてって言ってくださらなかったらリュウジさんは息が出来なくて…」


 あの時のことを思い出したのか、ニーナの瞳に涙が溜まっていく。膝の上でぎゅっと手を握り、その拳の上に涙が落ちる。


「大丈夫だぞ、ニーナ。僕は元気だからな?」


「ぐすっ、はい、わかってはいるんですが、あの時のことを思い出すと、どうしても…」


「ごめんなさい、ニーナさん。思い出させてしまって。」


 あー、かなりトラウマになってるみたいだなぁ。


「ほら、ニーナ、鼻かんで。もう大丈夫なんだから。ね?」


「タニアさん…ありがとうございます。」


 タニアが差し出したハンカチで鼻をかんだニーナは、涙を拭って笑顔を見せてくれた。ああ、またこの笑顔が見れたなぁ。生きててよかったなぁ。

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