第七十五話
すいません。視点がころころ変わって読みにくいかもしれません。
んん?はっ!?寝てたのか?僕は。そうだっ!戦闘中だった!
「ああっ!ホブゴブリンはどうなった!?」
まだ、誰かが戦ってる音がする!起きなきゃ!上体を起こそうとしたら胸に激痛が走る。
「いてててて…」
そうだった、ホブゴブリンに蹴飛ばされたんだった。左手は動く?…痛いけど動かせるぞ。足は…問題ない!右手には…剣がある!
「きゃああぁぁぁ」
ニーナの悲鳴が聞こえる!ニーナ!行かなきゃ。仲間を守るんだ!
「ニーナ!」
くうっ、体が重い。どこだ?ニーナ!起き上がって声の聞こえたほうを見てみると、タニアがホブゴブリンの攻撃を食らって吹っ飛ばされたところだった。あれ?悲鳴はタニアだったのか?まあ、どっちでもいいか!皆、今行く!
「うおおぉぉぉぉりゃあ」
大きく叫んで気合を入れて必死に足を動かし、ライルのもとに急ぐ。いくらタニアがいてもあれ相手では支えられないだろう。
「リュウジ!何で来た!休んでろ!」
ライルもボロボロじゃないか。鎧は破損して左胸しか覆っていないし、盾だって原型を留めていないくらいにボロボロになっている。
「お前だってもうボロボロじゃないか。僕にも手伝わせてくれ。多少の力にはなるぞ。」
「いけるんだな?遠慮はしねぇぞ!」
「ああ、大丈夫だ!」
「リュウジ!大丈夫なの!?」
吹っ飛ばされたタニアが戻ってきた。さすがの身のこなしだな。ダメージはあまりなさそうだ。
「ああ、まあ、それなりにね。」
「無理するなよ!あたしだっているんだからさ。」
「そうよ、私たちだってまだいけるんだからね!」
シアさんとルータニアさんもまだいけそうに見えるが疲労の色が濃い。シアさんは立ってるのがやっと、ルータニアさんは杖に縋って立っている感じだ。あまりあてにはできないか。
「ライル、救援は来るんだな?」
「スレインを信じろ。あいつは来る。」
「わかった。それじゃあ、いくか。」
次、攻撃を食らったらそこで終わりだろう。左手は力があまり入らないが何とか盾を持てたから、その盾を運ぶときに使う革ひもを使って胸の前に腕ごと固定してある。まあ破損した革鎧の代わりだ。
ホブゴブリンは、憤怒の形相でこちらを睨みつけている。あいつももうそろそろだな。
剣を肩に担ぎ、走り出す。ライルも一緒に走り出した。ホブゴブリンの足が動いて土を蹴り上げやがった!目潰しか!くそっ防ぎようがない。
目の前に何かが飛び出してきた。なんだ!?…ライルが前に出て体を張って防いでくれたのか!
「いけ!リュウジ!俺の剣はもう駄目なんだ!頼んだぞ!」
ライルが腹に向かって剣で切り付ける!が、当たった瞬間剣が折れた。でもそれでホブゴブリンに隙ができた!
「おおぉぉぉぉぉ!」
ここだ!これで倒す!左足で地面を蹴る!右足を踏み込む!剣を上段から振る!力の限り!!
…その時だった。右胸に激痛が走り、その激痛に一瞬体が硬直する。ぐうぅ!構うものか!いけぇ!
力の限りを尽くして剣を振ったが、ホブゴブリンがあの一瞬の硬直の時に回避しようと体を捻っていたらしく当たるには当たったが致命傷にはならなかった。
胸の奥から液体が上がってくる。折れていた肋骨が肺に刺さったか。ヤバい、力が抜ける。体に力が入らん。
「がはっ、ごぼっ」
ばちゃっと血を吐く。ここまでか…
「リュウジさん!!」
ニーナ!
「リュウジ!」
タニア!
「今、行くぞ!」
ライル!
ニーナの叫ぶ声が聞こえる。タニアが心配してくれている。ライルは助けに来ようとしている。皆が心配してくれている、もう少し頑張れるか?いや!やるしかないだろうが!
ホブゴブリンが動かないと思っていた右手の拳を繰り出してきた。当たったら…終わりだな!くそっ!
「んんがあぁぁぁぁ!」
もう一回、もう一回だけでいい!言うことを聞いてくれ!僕の体!!
顔を上げホブゴブリンを睨みつける。倒れそうになっていた体に力が入る!右足を踏ん張り、振り切った剣を上に向かって振り上げる!狙いなんかない!当たれ、当たれ!
「ギャアア!!!」
右手にゴツン!と感触があった!当たった!
「グギャアアア!!!」
「ああぁぁぁ!!」
僕の顔にホブゴブリンの拳が当たった。が、少しの衝撃があっただけだった。目に映ったのは宙に飛んでいったその腕だった。肩から斬り飛ばされたホブゴブリンの右腕が地面に落ちる。
「よくやった!!ひよっこども!!」
「え?」
ホブゴブリンの後ろに人影が現れたと思ったら、剣を振ったのだろう、縦に光が走りホブゴブリンを真っ二つにしてしまった。
「ゴートランさん!?」
「おう、よく頑張ったな!ニーナ!リュウジ!すまん、遅くなった。おい、フィル、リュウジに回復魔法だ、早くしないと死んじまうぞ!」
は、はは、良かった、助かったんだ、僕たち。よかっ…た。
「大丈夫か!リュウジ!しっかりしろ!」
崩れ落ちるように倒れそうになったリュウジをを抱きとめてくれたのはライルだった。あたしもすぐに駆け付けたんだけど、それよりも早かったのはニーナだった。いつもはもっと遅いのに…これも愛のなせる業か。
「リュウジさん!!ゴートランさん!リュウジさんを!リュウジさんを…」
またニーナの瞳から大粒の涙がいくつもいくつも零れ落ちる。
ゴートランが来てくれたあとすぐにリュウジの治療をしてくれたのはゴートランのパーティメンバーのフィルメアさんという神官の女性だった。
「我が信仰する女神アユーミルよ、その名において彼のものを癒したまえ、治癒ヒール」
フィルメアさんが聖句を唱えると翳した掌が光り、その光がリュウジを包むと怪我していた箇所がどんどん治っていく。凄い、治癒魔法凄い!
弱かったリュウジの呼吸が普通になっていく。良かった、これで安心だよ。顔色も頬に赤みがさしている。
「悪かったな、お前ら。俺たちが不甲斐なかったばっかりに…しっかし、よく頑張ったな!暁の風!ニーナたちも!すげぇじゃねぇか!銅級のお前らが、手負いだったとはいえホブゴブリンを仕留めちまったなんてなぁ!」
「いえ、ゴートランさんが来てくれなかったら駄目でした。しかもリュウジたちがいなかったら生き残れませんでした。」
ライルが、悔しそうに下を向きながら拳を握っていた。
「何言ってんだよ!そんなにボロボロんなるまで戦ったんだろ?胸ぇ張れよ、ライル!生き残ったことを誇れ!」
そう言われたとたんに、ライルの目から涙が溢れだしていた。あたしもリュウジの最後の一撃が致命傷じゃなかったと分かったとき、もう駄目かもしれないと思ったもんね。ニーナの火球をまともに食らったのに火傷だけで済んだなんて信じられなかったから…
「そうだぞ、ライル。俺が帰って来るまでよく…よく生き残ってくれたな。間に合ってほんとによかった…」
「スレイン…良く帰ってきてくれたな。」
スレインさんがライルと抱き合って嬉し涙を流しながら喜んでいる。ほんとに間に合ってくれて良かった。おかげでリュウジも助かったんだから、あたしも感謝してるんだよ?
「ありがと、スレインさん。」
彼の肩にぽんと手を置きお礼を伝える。
「おお、タニアも頑張ったんだな。」
あたしも最後の戦いで少し怪我をしたけど、こんなもんはすぐ治る。リュウジに比べたらかすり傷だ。リュウジはほんとに凄い奴だ。もう動けないと思っていたのに…
「さあ、これで最後の討伐も終わったからな、町まで帰るか。リュウジは俺が背負ってやるから安心しろ。」
「ゴートラン、優しく扱って下さいよ。彼かなり酷い怪我してますからね。私の回復魔法で何とか保っているだけなんですからね!」
やっぱりそうなんだ…
「そんなにひどい状態なんですか?」
「あなたは…ああ、ニーナさんですね。彼の怪我は、左腕の骨折と左右の胸の骨が三本ずつ折れて肺に刺さっていたわ。無茶苦茶よ。よく動けたわね、彼。」
そんなに…リュウジ…
「だ、大丈夫なんですか?また冒険できるようになりますか?」
そうだ、それがあったね。こんな経験した後だとやめるっていう人だっているから、リュウジがどう思うか分からないんだよね。
「彼、リュウジ君?ていうの?彼がどう思うか分からないけど、怪我は治ってるから心配しなくてもいいわ。私が治癒を掛けたんだもの。」
「ニーナ、今は町に戻ろうよ。リュウジを休ませてあげなきゃ。」
「そうよ。彼の怪我は治せたけど、体力までは治せませんからね。早く帰って休ませてあげましょ。」
あたしとフィルメアさんに諭されたニーナは、頷くとリュウジを背負ってるゴートランの所に行ってしまった。
「彼女、あの彼のことが大好きなのね。あなたはどうなの?」
「あたし?あたしは…まあ、頼りになる仲間だと思ってる。」
フィルメアさんは青春っていいわねぇとか言いながら、こっちをチラチラ見てくる。この人だってまだ若いと思うんだけど…
揶揄うのは好きなんだけど、揶揄われるのはあんまり好きじゃないから、ここは逃げる!
「ニーナぁ、あたしも一緒に行くから待ってぇ。」
「あら、逃げられちゃったわね。うふふ…面白い子たちね。」
後ろからフィルメアさんの独り言が聞こえてきたから、あっかんべーしてやったよ!
「……お前らのほうにホブゴブリンが現れたのはほんとに偶然だ。まあ俺たちが確実に仕留めてりゃあなかった話だがよ。」
帰りの道すがらゴートランに聞いたところによると、ゴブリンの巣では珍しく三匹のホブゴブリンがいたらしい。あの規模の巣だと普通はいても一匹くらいらしい。あたしも聞いたことがあるけどホブゴブリン一匹で百匹くらいのゴブリンを従えることができるらしい。
で、銀の風とゴートランたちともう一つの鉄級パーティで二匹は倒したんだけど、こっちに来た一匹だけ倒し損ねて逃げられたんだって。ほんとに迷惑な話だ!それであたしたちは死にそうになったんだよ!もう!
手分けしてあちこち探したらしいんだけど見つからなくて、もう引き上げるかと他のパーティと合流しようと移動していたところにスレインさんに呼び止められ、事情を聴いて急いできたらしい。
「ほんと、良く生き残ったな。ライルはボロボロだし、リュウジなんか死んでもおかしくない怪我しててな…」
今あたしたちは森の中を町に向かって移動してる最中だ。あと半刻もあれば町まで続く街道に出ることができる。リュウジはまだ目を覚まさない。ゴートランの背中でぐったりしてる。あたしたちの後ろからは暁の風の皆が黙ってついてきてる。ライルとスレインの二人は、ガウラスに肩を貸している。ガウラスは最初、歩けますからと言って断っていたんだけど途中から遅れるようになってきたところで、ライルから意地を張るなと諭されてあの状態になっている。シアとルータニアも疲労がひどく、二人で支えあいながら黙々と歩いている。
あたしとニーナは疲労こそあるもののしっかりした足取りで歩けている。何故かははっきりしている。リュウジが一人で頑張ったからだ。あいつはあの時、自分に何かあったらあたしとニーナに逃げろって言った。あたしだって仲間なんだからもっと頼ってもらいたかったのに…これは一度じっくり話し合わないといけないな。リュウジは頑張りすぎだ。
「どうしたんですか?タニアさん。もう少しで町まで帰れるので頑張りましょう。」
「ああ……いや…うん、そうだね、ニーナ。もう少し頑張ろうか。」
ああ~もう!難しいこと考えるのは明日にしよ!今日はもういいや。早く宿で休みたいね!




