第七十三話
爆発音がして一呼吸遅れて衝撃波が来た。衝撃波に負けないように腰を落として踏ん張るが、小石がものすごい勢いで飛んでくる。後ろにいるシアさんが小さく悲鳴を上げて背中に抱き着いてきた。
小石が飛んでるのが収まった後、盾の上側から覗いてみたら、火球が着弾した場所は火柱が上がりその向こう側が真っ赤になって見えなくなる。
「なんちゅう威力だ……ずるいのチートは、ニーナだったか……げ、ジェネラルってしぶといんだなぁ。」
土煙が晴れて見えるようになってきた。ゴブリンは全滅。というか跡形もなく蒸発したのか?地面がガラスみたいになってるのかキラキラしてる。その向こう側で両手をだらりと下げて片膝をつき、表面の皮膚が火傷で爛れた状態だったがゴブリンジェネラルが生きていた。
「ライル!チャンスだ!行くぞ!タニア!弓!」
ここで止めを刺さないと!剣を握り直しゴブリンジェネラルに向かって走り出す。
「お、おう!スレイン、弓で射ろ!ガウラス!シア!行くぞ!リュウジに遅れるな!」
暁の風の皆も手にした武器を振り上げて走り出す。走り出した僕たちの頭の上をタニアとスレインさんが射た矢が通り過ぎていく。
「グギャアアアア!」
矢が当たると思ったらジェネラルが火傷で爛れたままの手を振り回しほとんどの矢を叩き落としてしまった。あの火傷で動けるんだ…人だったら意識を失って死亡するぐらいの火傷だと思うんだけどなぁ。ゴブリンの上位種って丈夫いんだ、覚えとこう。
「はあっ!」
ゴブリンジェネラルは、痛みからか手を滅茶苦茶に振り回している。目が見えていないのか?顔をよく見ると両目から血が出ていた。僕はその腕に向け剣を振り下ろす。
「ギィヤアアア!」
ゴツッとした手ごたえを感じ振り切るとジェネラルの右手が肘上から切れ飛んだ。僕が攻撃をするために目の前にいるのにまだ出鱈目に腕を振り回しているだけだ。
「こいつは目が見えてない!畳みかけるぞ!」
おう!とライルが返事をしてもう片方の腕を斬り飛ばしていた。そこからはもう一方的だった。攻撃手段を失ったジェネラルを前衛職の皆でボコボコにしてあっという間に決着がついた。
「いやー、良かったなぁ。ニーナちゃんの魔法があったからだな!ありがとな!」
「お役に立てて良かったです!」
ジェネラルから討伐証明と魔石を取り出して後片付けを終えた後、ライルがニーナに話しかけていた。
「でも、もうちっと威力を抑えても良かったと思うぞ。」
「そのあたりがまだ調整出来てなくて…ごめんなさい。」
「僕が、出来るだけ魔力を込めてって言っちゃったからさ、勘弁してやってくれ。これから練習するようにするよ。」
この威力だと町の防壁だって吹き飛ばせそうだからなぁ。ただの火球が攻城兵器並みの威力って普段軽々には使えないか。
「普段の依頼の時に使ってしまうと討伐証明や魔石などすべてなくなってしまいますからなかなか使いづらいですね。」
「そうだな、ゴブリンジェネラルをほぼ一発で戦闘不能状態まで追い込めたからな。ゴブリンだったら跡形もないな、今回みたいにな?」
ガウラスとライルも同じこと考えてたか。
「まあね。でもな、この威力の攻撃手段があれば一発逆転できるからな。ニーナ、魔力はまだ残ってる?」
あんなに魔力を込めたとこなんて見たことないからちょっと心配だな。
「はい、結構使いましたけどまだ半分くらいあります。」
「ええ!?あんな魔法使ってまだ半分も残ってるの!?私だったら気絶してるわ。」
ルータニアさんが吃驚している。ニーナの魔力量ってどれだけあるんだろう。後で聞いてみよう。
「リュウジ、タニアさんにまた偵察に行ってもらっていいか?」
「どう?タニア。」
周りを警戒していたタニアは二つ返事で了承してくれた。またスレインさんも行ってくれるみたいだ。
「行ってくるよ。お願いします、スレインさん。」
スレインさんが頷くとまた二人で森の奥へ消えていった。
「スレイン達が帰って来るまで休憩だな。」
「そうですね。ニーナさんも疲れているだろうし、また強敵が来るかもしれませんからね。」
皆で次にジェネラル級が出てきたときにどう行動するか話していたら、タニアたちが帰ってきた。
「お帰りタニア。どうだった?」
「ただいま。もうこっちのほうには来ないと思うよ。向こうも終わりそうだったし。」
「ああ、もう終わってるだろうな。」
二人はゴブリンの巣まで偵察に行ってきたみたいだ。二人の様子からもう戦闘は無さそうだな。そう思った時だった。
「がはっ」
ガウラスさんが藪から飛び出してきた大きな人型の何かに攻撃されたのか突然、ガゴッという音とともに吹き飛んで木に叩きつけられていた。
「ガウラス!?何が起きた!?なっ、ホブゴブリンだとっ!?」
ホブゴブリンは傷だらけだったがその体からは靄みたいなものが立ち上り憤怒の表情で仁王立ちしていた。右手には剣だったと思われる金属の棒状の武器を持ち、左手はだらりと力なく垂れさがっている。体中傷だらけだが足にはあまり傷がなさそうに見える。ホブゴブリンは銀の風が倒すはずじゃなかたっけ?目の前の
ガウラスさんは、木にもたれかかったまま動かない。気絶しているようだ。
「ニーナ!ポーションを!」
僕は指示を出しながらガウラスさんとホブゴブリンの中間地点に急ぐ。まともに当たったら一発でやられる。
「はい!」
「タニア、ニーナを頼む!」
ニーナとタニアが二人でガウラスさんのところへ急ぐのを見て、ホブゴブリンが二人を標的にした。動くものに反応したのか?やばい!戻らなきゃ!
「スレイン!援護!シア、彼女たちニーナとタニアを!ルー!ガウラスを頼む!」
ライルもメンバーに指示を出し、ホブゴブリンの元へ走る。ライルの方が僕よりもホブゴブリンの近くだったからそのまま戦闘になった。
「リュウジ!こいつは俺が抑える!ガウラスを頼む!」
「バカ!一人じゃ無理だ!僕もやる!ニーナたちを守らないと!」
ホブゴブリンの前に立つとその強者たる存在感と圧力を感じる。あんなに傷だらけなのになんという存在感なんだ。勝てるか?無理そうだなぁ。
「くそっ、無理でもやらなきゃ!」
竦みそうになる脚を叱咤激励してライルと並んで盾を構えるとホブゴブリンと視線が合った。ホブゴブリンは僕に向かって武器を下から掬い上げてきたので腰を落として衝撃に備える。盾に当たると受け止めることはできたが、その威力で体が浮いて後ろに数歩分飛ばされてしまった。
「リュウジ!大丈夫か!?」
「おう!何とか!ダメージはない!」
盾で上手く衝撃を殺せたらしく、飛ばされはしたが痛みはない。飛ばされたのがよかったんだろう。しかし、僕の体ごと後ろに飛ばす力ってどんだけだ。僕の身長は百七十五センチで体重は七十二キロあるんだぞ?あれが当たったら骨折で済むかな?まあ、当たらなければってやつだな、頑張って避けよう。
「タニア!何とかなったら援護をよろしく!」
ニーナたちの方をちらりと見たらポーションを飲ませているところだった。
「わかった!ルータニアさん、あとはよろしくね!ニーナ行くよ!」
「はい!シアさんはここでルータニアさんをお願いします。」
よしこれでとりあえず戦力は揃った。あとは倒しきれるかどうかだな!
「ライル!援護が来るから攻勢に出よう!」
僕が戻ってくるまでライル一人で支えていたから大丈夫だろうか。
「ぐっ、遅いぞリュウジ!変わってくれ、持ちそうにない!」
ライルはホブゴブリンからの攻撃を何とか防いでいた。やはり一人では無理だったか!僕よりも経験豊富なライルでも持たないんだったらもう無理ゲーじゃないか!でも、やるしかない!
「遅くなった!変わるぞ!次の攻撃を耐えるか避けてくれ!」
おう、と返事をしたライルは、器用に次の攻撃をバックステップで避けた。ホブゴブリンが攻撃後の硬直で動けないうちに攻撃を当てる!
「いぃやぁ!」
ホブゴブリンの振り切った右の肩口に向けて剣を振り下ろす。ホブゴブリンはギロリとこちらを一瞥し、さらに体を捻ったため僕の攻撃は背中の皮一枚を切っただけだった。
当たったと思ったのに!そう思ったときホブゴブリンの背中の筋肉が盛り上がったのが分かった。攻撃が来る!盾は間に合わない!後ろに飛んでよけるしかない。
「くっ!」
体重が乗っている右足に力を籠め上体を後ろにそらしながら地面を蹴る。そこにホブゴブリンの剣が飛んでくる。速い!けど、よけれる!
「がっ!」
避けれると思ったら、そこから剣が伸びてきて右肩にある肩当てに当たった。
「うわぁあ!」
肩当ては吹き飛ばなかったが、後ろに飛ぼうとして足が地面から離れていたため体が回転しながら吹き飛ばされてしまった。
辛うじて顔から地面に落ちることはなかったが、背中を強かに打って一瞬呼吸ができなくなる。体が痺れて動かない!動け!動け!ホブゴブリンを見ると剣を振り上げている。やばい!やばい!やられる!?
「リュウジ!!!」
振り上げられた剣は、僕の顔の真横に振り下ろされた。タニアがやってくれたのか。ホブゴブリンの肩に矢が刺さっている。またタニアに助けられたなぁ。飛んできた土が顔に当たっても防ぐことができなかったが、やっと体の痺れが取れてきた腕が動くようになってきたみたいだ。
「……敵を撃て、炎矢ファイヤアロー!!!」
ニーナの魔法が発動し、いつもより炎の勢いが強く見える炎矢がホブゴブリンの腹に突き刺さって貫通したように見えた。
「ギィヤアアアア!」
腹部を貫通されたように見えたが、実際はホブゴブリンの腹はちょっと焦げ跡がついて肉が抉れただけだった。
「うそ!?結構魔力を込めたんですよ!?」
ニーナが驚愕している。僕にもそう見えたが、奴の魔法防御力が勝ったんだろう。
せっかくタニアとニーナが作ってくれた隙だ。素早く起きあがり剣を横に振り抜く。
しかし、直前で気が付いたのかホブゴブリンの持つ剣で防がれてしまった。
「くっ」
「……水流よ敵を穿て、水流斬ウォーターカッター!!」
この魔法はルータニアさんか!ホブゴブリンの死角から水の刃が飛んできた。これは決まるぞ。剣に力を込めてホブゴブリンを逃げられないようにするつもりが、フッと力を抜かれ前につんのめってしまった。
ホブゴブリンは、軽くバックステップして水流斬を避け、僕の目の前を通り過ぎたそれは木を両断して消えた。あ、当たらなくて良かった。当たってたら首が落ちてたよ…
でもこれで仕切り直すことができた。と、思いたい。ホブゴブリンは右手に持った剣を一振りし雄たけびを上げる。
「ガアァァァァァ!」
僕も盾を構えて態勢を整え、気合を入れる。横にはライルが戻ってきてくれた。ガウラスはまだ回復しきっていないみたいだ。
「悪ぃな、遅くなった。」
「あれは、強いな。勝てそうか?」
「俺達じゃあ無理っぽいな。」
やっぱり無理か。
「でも、今スレインが応援を呼びに行ってる。もう少し頑張るぞ。」
「応援?どこに?」
「本隊だよ。集落にいるのは分かってるからな。鉄級以上が来てくれればいけるだろ。」
「そうか。じゃあもうひと踏ん張りしないとな!ニーナ!タニア!聞こえたか?援護よろしく!」
「はい!」
「はいよ!やられるなよリュウジ!」
二人はまだいけそうだな。
「シアとルーもいけるな!?」
「私は今まで温存してたから大丈夫!」
「私もいける。攪乱は任せて!」
ルータニアさんとシアさんもまだまだ元気そうだ。よし、やれるだけやってみようか!
今年一年読んでいただき、ありがとうございました。ブックマークの人数が増えることがこんなにも嬉しいとは思いませんでした。皆さんに感謝です!来年もどうかよろしくお願いします。




