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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第七十二話

「リュウジ!そっち行ったぞ!数は三!」


 ラウルからの注意が飛んできた。数は少ないが合間が無くて休息ができないな。


「了解!タニア、頼む。」


「はいよ。」


 僕達の戦闘の立ち上がりは静かなものだったが、三十分もするとゴブリンの姿がちらほら見えてきたから最初はタニアとスレインの弓で対処していたんだけど、ここにきてその数が増えてきたんだ。右手の森の方からも戦闘音が聞こえてくるからこっちと同じような状況なんだろう。


「僕は前に出るから援護よろしくね、ニーナ。」


「はい、気を付けてくださいね。」


 最初は、俺たちに任せとけっていうから暁の風とタニアにお任せしていたんだけど、さすがに十匹を超えてくると数が多い。


「ライル!入るぞ!」


 こっちに来た三匹をタニアの弓で一匹まで減らしてくれたからそいつを走りながら首を刎ね、そのまま主戦闘域に入る。


「頼む!シアの援護に回ってくれ!」


 こんな乱戦なのに周りがよく見えてるな。言われた通り三匹に囲まれているシアさんの援護に入る。


「シアさん!」


「お願い!リュウジ!防御で手が回らないの!」


 三匹かと思ったら木で見えないところに二匹もいた。シアさんは良く持ちこたえていたもんだ。


 これだけ敵がいれば適当に振り回しても当たりそうだな。そんなことはしないけどね!


 先ずは、シアさんの横に回り込もうとしている一匹だな。走りながら胴を狙って剣を横に一閃する。ゴブリンはこちらに気が付いたみたいだが、その時にはもう剣を振り切っていた。骨を断つ感触があったから背骨を切ったんだろう。次だ。シアさんを囲んでいる三匹にしよう。距離はあと四歩くらい。五メートル向こうだな。剣の射程範囲が大体二メートルくらいだからあと二歩あればいけるかな。


「ふっ!」


 右足で地面を蹴り左足で一歩目、腰を回しながら剣を上段から振り抜くように右足を踏み込む。こちらに背を向けていたゴブリンの右肩から袈裟切りで真っ二つになる。


 振り切った剣を引き戻し、前にかかった体重をそのままにして手だけで突きを繰り出す。崩れ落ちるゴブリンの向こう側にいたもう一匹の胸の辺りに命中する。


「ぐっ」


 すぐに引き戻さないと剣が抜けなくなっちゃうから思い切り引き抜くとするっと抜けた。


「ありがと!リュウジ!」


 まだ絶命していなかったゴブリンの止めをシアさんが刺してくれる。それを見届けて左側を向くと新たなゴブリンが八匹見えた。左側はゴブリンの集落の方だ。こっちに来るゴブリンが多いってことは、ゴートランさんたちが苦戦してるってことかな?そんなことを考えていたらタニアの少し焦った感じの警告が聞こえてきた。


「皆!防御姿勢!」


「なんだ!?」


 ライル達もゴブリンを倒しきっていたみたいだ。何があるのか分からないみたいだ。ニーナの火球ファイアボールだろう。タニアのあの様子だと魔力を込めすぎたのかな?


「いいから!盾構えて!持ってない人はその後ろに!」


 僕も盾を構えてシアさんの前に出る。


「シアさん、後ろに!」


「何があるの?」


「ニーナの魔法です!」


 そう言った時、ニーナから火球ファイアボールが放たれた。結構な大きさの火の球がこちらに向かってくるゴブリンたちの足元に落ちると同時に炸裂する。ズンッと地響きがして地面が爆発した。石がこっちにも飛んでくる。


 土煙が消えて前が見えるようになったらそこにはゴブリンの影も形もなかった。ついでに木も倒されてぽっかり空き地ができていた。


「ニーナ、魔力込めすぎ!ごほっ、ごほっ」


「ご、ごめんなさーい!」


 タニアとニーナの掛け合いで気が付いたライル達が騒めき出した。


「なんだあれ?火球ファイアボールだよな。」


「何したんですか!?ニーナさん!」


 いつもはあまり喋らないスレインさんが唖然とした表情でつぶやく。水魔法が得意なルータニアさんがニーナの方を向いて大きな声で問いただしている。


「え?火球ですよ?でもちょっと魔力を込めすぎちゃいました。」


 てへっていう感じで答えるニーナ。


「でも、この間よりは少なくしたんでしょ?」


「はい、この間の半分ちょっとにしました。だって、八匹もいたんですよ?」


 タニアがフォローに入るが、ニーナとしてはこれくらいで当然です、みたいな感じだな。


「リュウジ……なん、いや、驚いた。凄まじい威力だな。どれだけ魔力を込めたんだ?」


 ガウラスが信じられないという顔をしてこっちに来た。


「だから、見て驚けよって言っただろ。」


「だからってなぁ、あれはないぞ?」


 ライルも呆れた顔でニーナを見ている。どうだ!吃驚しただろう!僕だって最初に見た時は吃驚したからね。


「ゴブリンの増援も来ないかな?ライル、ちょっと休憩しない?」


「あ、さんせーい。あたしもう疲れたよ~。」


 タニアが真っ先に賛成してくれた。


「私もニーナさんに聞きたいことがあるので賛成です。」


「じゃあ、ちょっと休憩するか。スレイン、偵察頼んでもいいか?」


「わかった。」


 ルータニアさんがニーナに笑顔で詰め寄っていく。シアさんもその場で座り込んでしまった。それを見たライルがスレインに偵察を頼んでいた。うちの盗賊はいいのか?あれで。


「ニーナさん!あれは、どうやったんですか?私にも教えてください!」


「え?ただ、魔力を沢山込めて発動しただけですよ?」


「魔力を?沢山?込める???」


 簡単ですよ?と言いながら説明するニーナだが、ここでグワーッととか、むむむーとやったらとか擬音を多用しているからルータニアさんには全く伝わっていないみたいだ。ニーナ…さすがにそれでは僕もわからないよ。説明がちょっと残念な子だったかぁ。身振り手振りで一生懸命説明しているニーナも微笑ましいが、訳が分からない説明で質問したルータニアさんがいたたまれないなぁ。


 よし、あっちはそっとしておこう。かかわると大変なことになりそうな予感がする。




「リュウジー、何か食べるものない?」


「あるよ。サンドイッチでいい?」


 タニアが水の生活魔法で手を洗いながら聞いてきたのでリュックサックからサンドイッチを取り出して渡すと、木にもたれかかって食べ始めた。僕も食べようとサンドイッチを取り出すとルータニアさんが凄い勢いで僕の方に来た。ニーナの方は終わったのか?


「リュウジさん!それ!マジックバックでしょ?何で銅級のあなたが持ってるの!?」


 あ!しまった!つい、いつもの感じで出しちゃった。うわー、どうやってごまかそうかなぁ。そうだ。親から貰ったことにしよう。


「えー、これはですね、僕の親のものだったんです。家を出るときに譲り受けたんですよ。」


 カモフラージュ用の背嚢からリュックサックを取り出して見せる。これでごまかされてくれ。


「そうなんですか。さぞや立派な親御さんだったんでしょうね。大事にしてください。」


 何とか納得してもらえたみたいだ。良かった。


「もちろんです。親に感謝ですね。」


 ニッコリ笑顔でリュックを仕舞って背負う。ルータニアさんに内緒にしといてくださいねって言ったら、私にもそれサンドイッチ下さいって言われてそのまま差し上げました。


 ルータニアさんがサンドイッチを食べてるのを見て、ほかのメンバーがこっちを見てきたので仕方がないから皆に一つずつ渡したよ。材料は一杯買ってあるからちょっと待っててって少し離れたところで作ってきたんだ。ニーナも手伝ってくれたよ。




 あの後、結局暁の風全員に知られちゃって、リュウジは荷物持ち確定ってなっちゃったよ。いいんだけどさ。皆内緒にしてくれるように約束してくれたから一安心かな。ちなみに鉄級冒険者よりも上の人たちなら持ってる人もそれなりにいるみたいなので、鉄級になったら隠さなくても良くなるみたいだ。早く鉄級になろう。




「タニア、矢足りてる?」


「ちょっと待って……十本くらい出してくれる?」


 矢筒を確認したら残りがあと三本だったみたい。元々十五本入ってたはずだから結構使ったんだなぁ。リュックから矢を取り出してタニアに渡す。今は集落の方に向かって歩いて移動しているところだ。あれからゴブリンが来ることはなく、ちょっと集中が切れかけてるかな?こういう時程気を引き締めないといけないか。


「タニア、なんだか静かすぎると思わない?」


「向こうの方では戦闘音がするからまだ終わってはいないだろうけど…ちょっと向こうを見てくるよ。」


「ああ、頼む。」


 タニアは、スレインさんと一言交わした後、二人で偵察に行ってくれた。僕達はここで待機だ。


「始まってから二時間くらいか?そろそろ本隊の方は決着がつきそうだと思うんだけどな。どう思う?ガウラス。」


「そうですね…順調にいっていればそろそろでしょう。しかし、そうでないときはこちらにも強敵が来るでしょうね。」


「やっぱりそう思うか…リュウジ!準備しとけよ!俺の勘が外れるといいが、ヤバい感じがする。」


「ライルもそう思うか。実は僕もさっきから嫌な感じがするんだ。」


 ライルとガウラスの話を聞きながら胸にあるなんだかわからなかった不安な気持ちが大きくなっているのに気が付いた。


 ニーナに目配せして装備を整える。幸いにも怪我はない。ライル達も大丈夫だ。さっき軽食を食べたおかげでお腹も減ってない。


 その時偵察に行った二人が帰ってきた。なんだか慌てている様子だ。


「大変だ!こっちにゴブリンジェネラルが向かってきてる!」


「あと、お供のゴブリンもだ。十五匹程度いたな。もう目と鼻の先だ。逃げる時間はなさそうだぞ。」


「何!皆、聞こえたな?最悪の状況になっちまったが、何としても生き残るぞ!リュウジ達も頼むぞ!」


「ああ!わかった。最初にニーナに魔力をできるだけ多く込めて火球ファイヤボールを撃ってもらおう。いける?ニーナ。」


「はい、今から詠唱すれば間に合うと思います。」


 ニーナがそのまま詠唱に入った。これでちょっとでも数が減らせれればいいんだけどな。


「タニア、どこから来る?」


「こっちの方向。真っ直ぐだよ、ニーナ。」


 ニーナは頷いてタニアが指さす方向を向いて詠唱を続ける。


「ライル!今から火球を撃つから防御してくれ!さっきより強力だからな!」


 僕はシアさんの前で盾を構えて腰を落とす。ライルとガウラスも同じような態勢になった。後ろにはルータニアさんとスレインさんがいる。タニアはニーナの横にいて火球を放ったあと木の後ろに引っ張って隠すつもりだろう。


「ニーナ!」


「はい!火球ファイヤボール!!」


 ニーナの杖の上に浮かんでいたバランスボールくらいの火の球が尾を引きながら飛翔していく。その目標地点に先に到着していたゴブリンが火球を見て錯乱するのが見えた。その後ろからゴブリンよりも二回りは大きい立派なゴブリンが防御する姿が見えたが、その瞬間火球が着弾しズッドーン!!とものすごい音が響き渡る。

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