第七十一話
昨日はあれから魔法の訓練をしてすぐに寝たからいつもより早く目が覚めた。すぐに身支度して朝の日課を済ませる。
「おはよう、ニーナ。早いね。」
「おはようございます。リュウジさん。そういうリュウジさんこそ早いですね。」
「じゃあ、行こうか。今日は軽く三周にしておこうか。」
「わかりました。行きましょう。」
朝も早いのにいい笑顔だなぁ。しかも髪の跳ねたところの一つもない。僕は大丈夫だろうか?一応水で撫でつけてはきたけど自信がないな。走ってるうちに直るか。気にしないでおこう。
「昨日も言いましたけど、今日は頑張りましょうね。無理せず生き残りましょう。」
「でも町に被害が出るのは防がないと。」
「この町は壁がありますし、守備隊の皆さんもいますから多少は大丈夫ですよ。」
「そうか、そうだね。でも、なるべく逃さないようにしよう。」
三周走って宿へ帰ってきたら入り口の前にタニアが立っていた。
「あれ?どうしたのタニア。」
「あ、帰ってきた。二人とも早く支度して。早めに集合場所に行くよ。」
「なにかあるの?」
「こういう時は、銅級は他の人たちより早く行かないと駄目なんだよ。早く早く。」
「わかったよ、ちょっと待ってて。すぐ準備してくる。行こうニーナ。」
「まだ、早いと思いますが…」
新人の扱いはどこの世界でも一緒かぁ。まあ、早めに行くのは賛成だ。集合場所には、少なくとも五分前には着いてないといけないからね。
急いで汗を拭いて、装備を確認して下に降りると女将さんが包みを手渡してくれた。
「朝ご飯だよ。しっかり食べて頑張っておいで。死ぬんじゃないよ!」
「ありがとうございます。頑張ってきます。」
どうやら宿に泊まっている冒険者全員に朝ご飯を渡しているみたいだ。腹が減っては戦は出来ぬっていうからね。有り難く頂こう。
ニーナも準備ができたみたいで降りてきて女将さんから弁当を渡されて、抱きしめられていた。
「ちゃんと帰って来なさいって言われました。心配してくれる人がいるのは有り難いですね。」
タニアに遅ーいと言われながら集合場所まで急ぐ。周りを見ると冒険者の格好をした人たちがちらほら見受けられる。僕達と同じ銅級かな?
「おー、早いなリュウジたち。」
「そっちこそ。調子はどうだ、ライル。」
後ろから声を掛けてきたのはライル達暁の風だ。皆、気合が入ったいい表情をしている。
「今日はよろしく頼むよ。」
「おう、そっちこそ頼むぞ。ま、上手くやろうや。」
後ろではタニアとニーナが暁の風の女子二人と仲良く話している。いつの間に仲良くなったんだろう?
「今日はよろしくお願いしますね。」
「ええ、ニーナさんの魔法を見せていただくのが楽しみです。」
ニーナと話しているのは、ルータニアさんだ。彼女も魔法使いでニーナと同じくらいの身長で小さい。水系統の魔法が得意らしい。
「もうすっかりいいの?」
「うん。あの時はありがとう。今回は油断しない。」
こちらは、タニアとシアさんだ。シアさんは、細身で軽い身のこなしが特徴の剣士らしい。腰にある剣も剣身の細いものだ。突きを主体にした戦闘スタイルなんだろうか。
「どうした?リュウジ。うちの女性陣に興味がるのか?やらんぞ?」
「え?いやいや、そういう訳じゃなくて、こっちの女性陣といつの間に仲良くなったんだろうって思ってね。」
暁の風のリーダー、ライルが力こぶを作って笑顔で話しかけてきた。相変わらず筋肉が凄い。どうやったらこんな風になれるんだろう。身に着けている革鎧が小さく感じる。
「時々四人で一緒に遊びに行ってるみたいですよ。」
話に入ってきたのは、ガウラス、顔立ちの整った爽やかな印象のイケメンだ。彼もライルと同じ戦士系で革鎧に盾を持っている。僕と同じだな。ライルと違うのは筋肉質なのに細身というところだ。所謂細マッチョだな。
「そうなんだ。友達ができて良かった。」
「リュウジさん、なんだか彼女たちの父親みたいですね。同い年くらいでしょう?」
「ん?ああ、あんまり気にしないでくれ。癖みたいなもんだから。あと呼び捨てでいいぞ。」
「癖…ですか。分かりました。そう言うことにしておきましょう。」
ガウラスはにやりと笑ってウィンクしてきた。そう言うことにしておいてくれ。
「それはそうと、今回の作戦どう思う?」
「そうだなぁ、俺にはまあこれしかないんだろうなと思うぞ。銅級って言ってもピンキリだからな。なるべくけが人を少なくするにはこうやって連携させるのが良いとは思うんだが…。」
ライルはその容貌に似合わず思慮深いらしい。いいリーダーなんだろう。
「私もそう思います。でも全てのパーティが良い関係ではないですからね。そこが少し心配なことでしょうか。」
ガウラスはモテるだろうなぁ。顔が良いうえに言葉遣いも丁寧だし。くそぅ。
「僕たちは大丈夫だな。ライル達がいい人でよかった。」
「それはこっちも一緒だ。男一人に女二人のパーティなんて大丈夫かぁと思ったが、リュウジは銅級とは思えない動きだったし、タニアって娘の弓の腕前はなんだ!凄いぞあれは!うちのスレインも相当だと思っていたが凄いなんてもんじゃないぞ!」
やっぱりタニアの弓は凄かったのか。そうじゃないかと思ってたけど、ほかの人から言われると改めて凄いんだなぁと思う。
「それにあのニーナって娘はこの町じゃ有名な娘だろ?魔法使いなのに一つしか魔法が使えないって言うし、発動も時間がかかるから使えないって言われてたのを聞いたぞ。」
そんな風に言われたのか…それでパーティに入れて貰えないなんて…今は幸せそうだから良かったね。
「そうだったんだな。そんな理由だったんだな。皆見る目がないな。」
「そうなのか?」
「ああ、今じゃあうちのパーティの主戦力だぞ。後で見て驚けよ?凄いぞ。」
あんな火球ファイヤボール見たら吃驚するからね。
歩きながら話しているうちに集合場所に付いた。そこには冒険者がいっぱいだ。
「あっちに受付があるらしいから行こうぜ。」
ライルが指さす方を見ると冒険者たちが並んでいるのが見えた。
「集合場所に来たパーティの代表者の方はこちらで受付してください。報酬を渡すのに必要になりますので忘れずにお願いします。」
列の最後尾で組合職員らしき人が大きな声で案内している。代表者って僕でいいのかな?
「僕が行けばいいのかな?」
「当たり前でしょ?あたしは行かないわよ。」
「お願いします、リュウジさん。」
「ワハハ、行こうかリュウジ。」
ライルと一緒に列に並んで五分くらいで順番が来た。
「おはようございます、リュウジさん。こちらの羊皮紙にパーティ名があれば記入してください。無ければ代表者の名前を記入してください。連携するパーティ名が分かれば記入してください。……はい、ありがとうございます。リュウジさんたちは暁の風と一緒に行動されるんですね。受け持ちは左翼になります。門に向かって左側の所でお待ちください。頑張ってくださいね。」
受付はケイトさんとジェシーナさんで、僕はケイトさんのところだった。
「ケイトさん、お疲れ様です。頑張ってきますね。」
ライルも記入し終わったみたいでこっちに来た。
「やはり、ジェシーナ嬢はいいな!力が湧いてきたぞ。」
ライルは、あの人がタイプなのか。まあ、どっちもかなり綺麗な人だからな。
パーティの所に戻って、言われたところで待っていることにしよう。
「二人ともお待たせ。僕達は左翼だって。待機場所で待ってようか。」
「わかりました。行きますよ、タニアさん。」
「はいよー。」
暁の風と連れ立って言われたところで待っていると、だんだんとゴツイ装備をしたパーティが増えてきた。
「鉄級の奴らが来たか。やっぱり装備が違うな。俺も早く金属鎧にしたいぜ。」
「あ、ゴートランさんです。おはようございます。」
「おはようございます。ゴートランさん。」
僕が怪我をしたときにお世話になった鉄級冒険者だ。あれから何かと仲良くさせて貰ってるんだ。
「おお、ニーナとリュウジか。お前らも頑張れよ。俺のパーティも左翼側だからあんまり仕事はないかもしれんがな。」
ゴートランさんは顔は厳ついが、女性と子供には凄く優しいおっさんだ。あれで独身なんだから町の女性は見る目がないのか?顔が厳ついのがいけないんだろうか。
彼のパーティメンバーとも挨拶を交わす。彼のパーティメンバーは、戦士でリーダーのゴートランさん、重戦士のタンカルさん、弓使いのラッドさん、魔法使いのウェイボスさんに回復術師のフィルメアさんの五人だ。中々いない回復術師がいるのは羨ましい。
ゴートランさんはじゃあな。と鉄級の集合場所に行ってしまった。余裕があっていいなぁ。前の僕よりも一回り以上も年下なのにあんなに貫禄があるなんて。何が違うんだろう?経験いのちのやりとりの差かなぁ。
ゴートランさんたちが来た後すぐに銀の風も登場したらしい。僕達がいる所と違うところから登場したみたいだ。さっき向こうの方で歓声が上がってたからその時かな?これで役者は揃った。
「皆!良く集まってくれた!これからゴブリン討伐に出発する!皆力の限り戦ってくれることを期待する!ただし死者は出さないことが重要だ!行くぞ!」
組合長のダレスさんが門のところで演説したみたいだ。姿は見えないけど声ははっきり聞こえた。拡声の魔法なんだろうか?何にせよ周りから「うおおおおおおぉぉぉぉ!」って叫びが聞こえてきた。僕はついていけなくてきょろきょろしていたが、タニアが脇腹をツンツンしてきたので大声を出してみたんだ。するとなんだか気分が高揚してきた。なんでだろうと疑問に思ってるとニーナが教えてくれた。
「これ、魔法の効果ですね。鼓舞の魔法です。効果は弱くなっていますが、これだけの人数に掛けるなんてすごいです。」
「そうなんだ。不思議とやってやろじゃないか!って気分になるね。よし、僕たちなりに頑張ろうかニーナ、タニア。」
「はい、無理せずに出来ることを頑張りますよ!」
「なんでもかかって来いってもんだね。多少の無理はしょうがないけど頑張って、リュウジ!」
ニーナは輝く笑顔で、タニアは僕の背中をバシバシ叩きながらいたずらっぽい笑顔で。よし!気合入ったぞ!両手で頬をパシンっと叩いて笑顔を二人に向けた。待ってろ!ゴブリン!




