第六十七話
翌日、組合に来たら予想通り強制依頼が張り出されていた。依頼板の前にはたくさんの人がいたが、タニアが上手に前まで行って見てきてくれたよ。
「依頼が始まるのは、四日後だって。」
「良かった。革鎧は間に合うな。四日後か。どういう作戦で行くんだろう?」
「書いてあったのは、銀の風を中心にして鉄級パーティで正面から。銅級パーティは、周りから逃げようとするのを殲滅することを担当してもらうって書いてあったよ。」
「じゃあそんなに危険はないかもしれないね。あー、数が多いと大変か。」
「そうですね。銅級パーティは数が多いので近くにいる人たちと助け合えば大丈夫だと思います。」
「出来るだけ回復手段を確保しておくことに越したことはないから今から買いに行こうか。」
「リュウジ、今からじゃ遅いと思うよ。みんな考えることは一緒だよ。」
「あーそうかぁ。昨日初級のポーション五本と毒消しポーション三本買っておいたんだ。毒消しの方は在庫が無くて三本しか買えなかったけどね。」
「やるなリュウジ!よくやったよ!で、今何本あるの?」
「初級は僕のポーチに三本とリュックサックに十本かな?毒消しは買った三本だけだな。」
「それだけあれば十分だよ。とりあえずこの依頼中はいけると思う。あたしとニーナに一本ずつくれればあとはリュウジが使ってくれればいいよ。」
「わかった。後で渡すね。ニーナもそれでいい?」
「はい、それでいいです。リュウジさんが一番危ないところに行きますからね。」
そうなんだよね。僕が一番怪我する確率が高いんだけど、戦闘が終わらないと使えないからなぁ。
「よしそれじゃあ四日後に向けて確りと準備をしようか。」
「私は、組合で訓練しますね。」
「あたしは、ちょっと出かけてくるよ。夕方までには帰って来るからね。夕飯を食べにいこう。ステーキが良いな。」
「僕も組合で訓練できるか聞いてみよう。ニーナ、お昼は一緒に食べようか。」
ニーナと僕は組合で訓練、タニアはどこかに出かけるみたいだ。どこに行くんだろう?…詮索は良くないか。
「じゃ、タニアあとでな。」
「うん、行ってくる。ニーナも頑張れ。」
「行ってらっしゃい。がんばります。」
タニアは小さく手を振って組合を出て行った。
「ニーナは予約してあるの?」
「はい、昨日聞いてお願いしておきました。」
「そうか。じゃ行こうか。」
ニーナと受付に行くとケイトさんがいたので聞いてみる。
「ケイトさん、おはようございます。今日って訓練できますか?」
「おはようございます、リュウジさんとニーナさん。訓練ですか?ちょっとお待ちくださいね。…ニーナさんは予定がありますね。リュウジさんの方は…ああ、大丈夫ですね、ラルバさんが空いています。」
「あ、お願いします。」
良かった、訓練できるみたいだ。ラルバさんだったら久しぶりだし確り見てもらおう。
「おう、かなり良くなってるじゃないか!下半身がしっかりしてきたから、剣筋もかなり良くなってるぞ。盾も上手く使えてる。いい戦士になってきたな。」
「ありがとうございました。ラルバさんにそう言ってもらえると自信になります。」
「かなり自主練習してきたな。そのまま続けるといい。今回の強制依頼は、銅級にはそんなに危険はないはずだと思うがいつ何が起こるか分からんし、用心に越したことはないからな。死ぬなよ。」
「はい。気を付けます。」
滴る汗を拭いながらラルバさんにお礼を言って訓練場を出たところでニーナと会えた。
「お、ニーナも終わったんだね。訓練はどうだった?」
ニーナは小声で何かつぶやいていたんだけど、僕が声をかけると花が咲くような笑顔で返事をしてくれた。
「あ、リュウジさんも終わったんですね。私のほうは、新しい魔法を教えてもらいました。まだ使えないんですけどね。」
「なんていう魔法なの?」
「炎嵐ファイアストームっていう魔法です。魔力量が多くないと使えないんだそうです。私は魔力量は多いんですが魔力回路が弱いので、使えるみたいなんですけど発動するまでに時間がかかってしまうのでまだ実戦では使い物になりません。」
「そうなんだ。ほかの使えそうなのは教えてもらえないの?」
「今ここにいる先生の得意魔法が火属性なので教えてもらえるとしたら炎槍ファイアランスあたりになると思います。」
「ん?炎嵐のほうが難しいんじゃないの?」
「私にとっては両方とも難しいんです。呪文は大丈夫なんですけど、魔力を動かすのが難しくて魔法の発動に時間が掛かってしまうんです。炎嵐も炎槍も発動に必要な魔力が多いので…それで、どちらも難しいなら攻撃範囲の広い方を教えて貰おうと思って炎嵐にしました。」
そうだった。ニーナは魔力回路が弱いんだった。まあ、僕みたいに魔力が少なくないから魔法を使っていけばそのうち良くなるんじゃないかな?
「ニーナも頑張ってるんだね。僕もラルバさんに褒められたよ。でももっとやらないとニーナたちを守れないからね、もっと頑張るよ。」
「私ももっと頑張ってリュウジさんの役に立ちたいです!」
「よし、訓練も終わったし昼ご飯を食べに行こうか。」
「はい、行きましょう!」
ニーナとお昼は何にしようかと話しながら並んで歩く。とりあえず屋台がたくさん出ている通りに来てみたが、昼時だけあって人が多い。かなり歩きにくくてはぐれそうだな。
「ニーナ、手、つなぐか?」
左手を差し出すと、不思議そうな顔をした後、耳まで真っ赤になって俯きながらつないできた。
「え?いいんですか。お願いします。」
手をつないだらニーナがぴったりと体を寄せてきた。歩きにくかったかな?ニーナの方を見ると背が低いこともあり上目遣いで真っ赤な顔をして微笑んでいるニーナの顔があって、その可愛さに鼻血が出るかと思うくらい動揺してしまった。
「ニ、ニーナ、あ、歩きにくくないか?大丈夫?」
「はい!これがいいです!」
何という破壊力!お昼の日の光で金髪がキラキラと輝いていて、耳まで真っ赤になりながら花が咲くような笑顔を見せるニーナを直接見ることが出来なくなって、前を向いて歩き出す。
「何か食べたいものある?」
「ステーキ!…は夜に食べますよね?うーん、このまま歩きませんか?いいところがあったらそこで食べましょう。」
「そうしようか。何か新しい物売ってないかな?」
二人で手を繋ぎながら通りを歩いて気になった屋台で買って広場のベンチで食べた。ニーナが気になったのは野菜がたっぷり煮込まれたポトフだった。それを二人分買って、フランスパンみたいなパンも買ってきた。パンは二人で分けた。
「このスープ美味しいですね!野菜の旨味が溶け込んでいてとっても美味しいです!」
「ほんとだね。煮込まれてる野菜も味が染みてて美味しい。ホッとする味だ。」
この屋台は覚えておこう。また買いに来ないとね。
「これからどうする?どっか行きたいところある?」
「私は大丈夫ですよ?リュウジさんの行きたいところへ行きましょう。」
「じゃあ、その辺をぶらついてみようか。」
器を返して歩き出したらニーナから手をつないできた。ちょっと吃驚したが、軽く握り返したらまた体を寄せて嬉しそうにしてるんで、ま、いいかと思い歩き出す。その後はずっと手をつないだまま夕方になるまで町を見て回ったんだ。もちろん楽しかったよ。
そろそろ帰ろうかとなって宿に着いたとき、ちょうどタニアも帰ってきたところだった。
「あ、タニアおかえり。」
「リュウジたちもちょうど帰ってきたところか。ん?ニーナいいことあったの?」
「はい!とっても!」
これまたとってもいい笑顔で返事をするニーナ。
「そうかぁ、良かったなニーナ。何やったんだよ、リュウジィ。」
心なしか艶々してるニーナを見て、僕にジト目を向けてきた。
「なんにもしてないぞ?二人で町を散歩しただけだが。」
「はい!二人で手をつないで散歩しました!」
ニーナのその言葉を聞いて、あーそういえばそんな子だったぁという顔をしたタニアはすぐに良かったねぇという顔してニーナの頭をポンポンと撫でていた。
「そういうタニアはどうしてたんだ?」
「ちょっと情報収集に行ってきたんだ。晩御飯の後で話すから帰ってきたらリュウジの部屋に集まってね。」
ありゃ、タニアは働いてたんだ。悪いことしたなぁ。
「さあ、ステーキ食べに行こう!」




