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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第六十五話

 森を歩くこと一時間余り。途中で毒消し草の群生地を見つけ、二十束ほど採取できた。


「こんなところに群生していたなんて盲点でした。もっと森をくまなく歩くと色々見つけることが出来そうですね。」


 ニーナがとても嬉しそうだ。毒消し草はあまり群生しないらしい。


「森は広いよねぇ。町の周りほとんど森だからね。」


 セトルの町は森に囲まれている。他も町への街道が通っていて町の周りだけ開けている。あとは全部森だ。多少の草原もあるが、そんなに広くない。畑もあるが町の壁の中にあるのが大半だ。町の規模を大きくしようとしているみたいで開墾もしているが森を切り開かなきゃいけないからその速度は非常にゆっくりだ。勿論重機なんてなくて人の手で斧で木を切り倒してから切り株の周りを掘って、馬を使って引っこ抜く。人海戦術でやればいいんじゃないかと思うんだけどこの世界にはゴブリンみたいな魔物がそこら中にいるし、角ウサギみたいな好戦的な獣も多いから護衛がいる。だからなかなか進まないんだって。


「ここはなかなかに厳しい世界だなぁ。」


 僕の独り言に偶々近くにいたタニアが答えてくれた。


「そうだよリュウジ。だからあたしたちみたいのがいるんじゃないか。町の外はあたしたちの領域じゃないって思ってないとすぐに死んじゃうからね。」


「冒険者になる人は若い人が多いだろ?で、若くして死んじゃうじゃないか。そうすると人がなかなか増えないんじゃないか?」


「そうだね。だから組合でもしっかり訓練してくれるでしょ?あれも死なないようにするための措置なんだ。あとはお金持ってる人は奥さんを何人持ってもいいんだ。余裕のある人は沢山子供を育ててくれってことだと思うよ。」


「やっぱり一夫多妻なのか。でもそれだと結婚できない男がたくさんいるんじゃないか。」


「それが、そうでもない。さっきリュウジが言ったじゃないか、若くして死んじゃうって。冒険者になるのは男性が多いからさ、残るのは女なんだよ。」


 そうか、この世界は女の人が多いのか。じゃあ結婚できない女の人のが多いんだ。どこの世界も上手いこといかないもんだな。


「死なないようにしないとなぁ。」


「そうですよ。リュウジさんは死んじゃだめですからね!」


 ニーナがすぐ隣にいて僕を見上げながら服の裾を握ってきた。


「うん、頑張るよ。」


「はい、頑張ってくださいね。」


「あたしはどうでもいいのか?ニーナ。」


「タニアさんも死んじゃだめです!」


 くりんとタニアの方を向いたニーナがタニアに抱き着いていた。


「あはは、ありがとニーナ。」


 その様子を見てたら無性に頭を撫でたくなったんで、ニーナとタニアの頭に手をやってポンポンと撫でる。二人とも最初はきょとんとしていたが、ニーナの顔が真っ赤になって、タニアが頭に手をやって固まっていた。


「子供扱いすんな!」


「あはは、ごめんごめん。なんだかこうしたくなったんだよ。」


 タニアに怒られてしまった。革鎧の胸を小突いてクルリと向こうを向いたタニアの耳が真っ赤になってたのが見えた。照れ隠しか。タニアも可愛いところがあるんだなぁ。






 毒消し草を採って探索を再開した。さらに小一時間を歩いたがゴブリンに会うことはなく、角ウサギさえも襲ってこない。やっぱり変だな。


「ニーナ、今どこらへんか分かる?」


「はい、もうちょっと南に行くとゴブリンの集落があるところに出ると思います。」


「見に行くのかな?もうそろそろ帰らないと暗くなりそうだよね。」


「そうですね。もうそろそろ引き上げた方がよさそうですね。」


 森は陽が傾き始めるとあっという間に暗くなる。この世界は月が大きくて明るいから多少は見えるけど戦闘行為が出来るかといえば無理かな。開けたところならともかくね。


「タニアー、そろそろ帰ろうか。」


「わかったー。」


 こっちを向いて手を振って返事をしてくれた。すぐに町の方角へ進路を変更したタニアが止まれのハンドサインを出してきた。ニーナと一緒にその場で立ち止まり背中から盾を下して装着してしゃがむ。


「ゴブリンだ。ちょっと向こうの方に八匹いる。そのうちの二匹がアーチャーだ。」


「弓が二匹か。どうする?」


「こっちはまだ見つかっていないからあたしとニーナでアーチャーをやってしまおう。それから援護するからリュウジ、頼んだ。」


 アーチャーが二匹倒れたら残りは六匹か。援護してもらえるならいけそうだな。


「わかった。援護よろしく。」


「任せてください。タニアさん炎矢ファイヤアローでいいですよね。」


「うん、それで行こう。目標はここから二十メルチ向こうにいるよ。今は休憩中みたいだ。しっかり狙って。」


「はい。万物の根源たる魔素マナよ 我の意に沿い…」


 藪から顔を出してゴブリンたちを確認したニーナは、詠唱を始める。タニアも弓を構えて立ち上がった。


 僕も見てみると、確かにゴブリンたちが丸く座って休憩している。弓を背負ってるのはこっちに背を向けている二匹だ。


「炎矢ファイヤアロー!」


「ふっ」


ニーナの放った炎矢はいつもより少し太く見える。しかも明らかに飛んでいく速度が速くなっている。タニアもほぼ同時に矢を放ったが、炎矢の方が速い。


 目標の二匹に命中したのを見てから盾を前に構えて走りだす。いつもの作戦だけど、今回は相手が六匹もいるから位置取りを気を付けないとあっという間にやられるだろうな。まずは、一匹仕留めたら走り抜けよう。


「はあっ!」


 ゴブリンたちの注意を惹き、ニーナたちに背を向けさせることができればあとは上手にやってくれるだろう。


 向かって左端にいた一匹に向けて剣を振る。ここは木が疎らで剣を横に大振りしても大丈夫だ。左端にいたやつの更に左側を走り抜け様に胴体目掛けて振り抜く。倒せたかどうかは確認しない。ただ手ごたえは良かった。予定通り走り抜けて振り返り、盾を構える。


「こっちだ!ゴブリンども!」


 残りは五匹、囲まれると不味いから常に動いて行かないと駄目だな。目の前にいるゴブリンを見るとやっぱり半包囲するつもりだ。よし、目論見通り五匹とも僕の方を向いてるな。タニアを見ると弓を構えていた。ニーナは見えないが、藪の所に杖の先が見えるから炎矢を準備してるんだろう。今の僕の役目は防御と牽制だな。盾を体から離して前に出し剣を上段にして高く構える。視線で攻撃しようとするゴブリンを牽制し、盾を動かして時々前に出してやると面白いぐらい棍棒を構えたまま動かなくなった。そこに矢とニーナの魔法が飛んできた。さすがというかもう当たり前の結果で矢と炎矢は一匹ずつ当たり、矢は頭を貫通、炎矢は胸を貫通していた。


 僕は二匹が倒れたのを見て、右にいた二匹に向かって突進し剣を振るが、横から振った剣は下から棍棒で弾かれてしまった。態勢が崩れたところに狙ったやつの隣にいたゴブリンが棍棒で殴り掛かってくる。盾を顔の高さまで持ってくるとガツンと衝撃が来た。


「くうぅ!」


 左足で踏ん張り、何とか倒れるのは避けられたがこれはヤバい!右に目をやると棍棒が胸の前にあった。ドスっと音がして胸を殴られたことで肺が圧迫され口から息が吐き出され後ろに飛ばされる。なんだ!?呼吸ができない!?


 尻もちを搗きそのまま後ろ向きに転がる。追撃が来る!何とか体を動かそうとするが動きが鈍い。手に力が入らない!?くそっ!動け体!


「ギャギャグギャ!」


 息、息が吸えないのか!息を吸うんだ!ぼうっとする頭で出来ることを考えたら、息が吸えた!吐くんだ!吐けた!その瞬間頭がクリアになって手に力が入るようになった。今どうなってる?仰向けになってる、盾だ!


「んぐ…ぶはあっ」


 かろうじて動く手で盾を体の前に持ってくる。盾に衝撃が来た。ゴブリンの攻撃か!後ろに飛ばされたのが良かったのか?体が動かなかったのがどのぐらいだったのか分からないが、盾が間に合ったんだろう。良かった。何が何だか分からないがとにかく動かないと。左に転がって起き上がる。しゃがみながら盾を構えて後ろに飛ぶ。すると今までいたところに棍棒が振り下ろされた。


 やっと立ち上がることができた。うあー危なかったなぁ。でもこれでちょっと余裕ができたな。右手が軽い?何で?あれ?剣がない!さっきの力が入らないときに手放したのか。倒れてたところを見るとゴブリンが拾うところだった。武器は…剣鉈がある!腰から剣鉈を抜き剣を拾ったゴブリンに襲い掛かる。


「それは、僕のだ!」


 三メートルほどの距離を二歩で辿り着き、剣を握った腕目掛けて剣鉈を振るう。僕の剣が重かったのか構える前だったらしく狙ったところに当たると骨を断つ感触があり、剣を持った腕が落ちる。それにかまわず手首を返して返す刀で首を狙い剣鉈を振ると、避けようとしたのか浅く入り喉を切り裂いた。ショートソードの剣と違って剣鉈は軽いから体が振り回されなくていい。今までの鍛錬で足腰を鍛えてきたから何も持ってないくらいに感じる。右足を軸にして体を捻り喉を切られたゴブリンを左回し蹴りの要領で蹴とばし、剣鉈を鞘に仕舞ってから剣を足で弾いて拾う。上手くいって良かった。


 後ろに気配を感じた。振り返らずに左に飛んでから振り向くと棍棒を叩きつけた格好のゴブリンがいた。首ががら空きだ!


「ふっ」


 軽く息を吐きその首めがけて振り下ろすと何の抵抗もなく剣が通り頭が落ちた。周りを見たら後一匹のゴブリンはタニアとニーナが倒していたみたいだ。うーん、今回も二匹しか倒せなかったなぁ。


「今回はヤバかったな。次からもっと気をつけよう。」


 革鎧を見ると右胸の所が凹んでいた。これだけ痕が付くくらいやられたら息も出来なくなるか。また修理に出さないと駄目だなぁ。


「リュウジさーん!大丈夫ですか!」


 ニーナが走ってきたのかいつかのように飛び込んできた。鳩尾の所にニーナの頭が当たりぐえっと声が出てしまう。


「うう、ニーナの頭突きが一番効いたよ。」


「ああっ、ごめんなさい!」


「あはは、冗談だよ。心配かけたな。」


「ほんとですよ!ゴブリンにやられて一瞬動かなくなっちゃったんでどうしようかと思いました!」


「その様子だと大丈夫そうだね。」


「タニアもありがとう。ちょっと吃驚させたかな?」


「ばか、ちょっとどころじゃなく心配したよ。すぐに動いたから良かったけど。」


 だけど今回戦ったゴブリンはちょっと強かったな。いつもなら剣を弾かれることなんてなかったのになぁ。


「今回のゴブリンはなんだか力が強かったような気がするな。棍棒の使い方もいつもと違った感じがしたし。」


「確かにリュウジが飛ばされるなんて初めてだよね。もしかしてソルジャーになりかけてたのかな?」


 ゴブリンがどうやって進化するのかなんて知らないけど、そういわれるとそんな感じがするな。


「ま、何とか勝てたから今日はここまでにしよう。耳と魔石を集めようか。」


「アーチャーの持ってた弓が売れそうだから持って帰りたいんだ。いいかな。」


「もちろん。そんなによさそうな弓なの?」


 ゴブリンの使ってる武器なんて冒険者が落として錆びたものか自作したものくらいしかないと思ったんだけどな。


「矢はさび付いてて羽がバサバサだから使えないけど、弓自体は結構いいものだったよ。」


「そうなんだ。他の冒険者が使ってたやつかな?」


「そうかもね。なんにせよ、早く帰ろうか。」


「そうしましょう。終わりましたよ、残りは後始末だけです。」


「ありがとうニーナ。さっさとやって帰ろうか。」


「穴掘るよ。」


「手伝う。」


 タニアと一緒に穴を掘って薪を積んでその上にゴブリンを入れて火を点ける。あらかた焼けたら穴を埋めてお終いだ。


「さあ、帰ろう。今日も疲れたね。」

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