第六十三話
次の薬草採取ポイントに着いた。ここもいっぱい生えているな。皆取らないんだなぁ。その方が僕たちはいいんだが。
「さあ、いっぱい生えてるからせっせと採取しますか。」
「はい、頑張りましょうね、リュウジさん。」
うわ、いい笑顔!輝いて見えるな。いつも採取は僕とニーナが行っている。タニアは周りの警戒だ。ナイフを持って薬草を刈り取っていく。三十分くらいで大体刈り取れたな。腰に来るんだよね、この作業。
「こんなもんか?ニーナ。」
「はい、十分だと思います。さ、次の場所に行きましょう。」
ここで刈り取れたのは七十三束だった。結構あったな。ん?タニアがこっちに来たぞ。顔が真剣だ、何かあったかな?
「二人ともゴブリンだ。見えるだけで八匹いる。どうする?」
どうするとは変な聞き方だな。タニアらしくないけど…
「逃げてばかりじゃだめだからな。ここはやっておこうか。」
「私とタニアさんで四匹仕留めれば大丈夫じゃないですか?」
ニーナはなんでもなさそうに言うが、タニアの顔色は優れない。あー、さっきの暁の風の戦闘があったからか。見えないところにアーチャーがいたら…って考えてるんだろう。
「さっきの例があるからな。タニアが心配してるのもそれだろ?」
「うん、アーチャーがいたらリュウジが突撃した後にあたしたちが狙われると思う。」
「あ…、そうですね…」
ニーナもあーっていう顔になってる。
僕やタニアが狙われても何とかなる。でも、ニーナが狙われるときっとダメだろう。魔法使いは呪文を唱えるのにかなり集中しないといけないから矢が飛んでくるのに気が付かないだろうな。かといって、タニアを護衛だけに専念させると僕一人でゴブリンたちを殺らないといけなくなるんだよなぁ。ちょっと自信がないが、まあやるしかないか。
「じゃあ、僕が突っ込むときに援護射撃してからすぐに二人一緒に移動してまた援護射撃、そんでまた移動してを繰り返したら駄目かなあ。」
「それだと援護が足りなくない?」
「そこは僕が頑張るよ。ニーナにはちょっと辛いかもしれないけど、出来る?」
「やってみます。私も毎朝走ってますからちょっとは体力付きましたよ?」
「ニーナの護衛は任せて。その分援護ができなくなるから頑張ってよ、リュウジ。」
「おう、任しとけ。よし。それで行くか。」
「はい、頑張ります!リュウジさんも気を付けてくださいね。」
「ニーナもね。タニアも気を付けてよ、よろしく。」
「任しときなって。じゃあ、案内するからついてきて。」
僕たちの優位性アドバンテージは、タニアの存在だ。向こうよりもはやく見つけてくれるおかげで、作戦を練る時間が取れるのと先制攻撃ができる。これが出来るから三人パーティでもやっていけてるんだと思う。
あとはニーナの努力だな。呪文の詠唱が最初よりもかなり早くなっている。ちょっと前は三十秒くらいだったのが、今では二十秒かかるかどうかまで短くなってる。さらに新しい魔法まで使えるようになったみたいだ。
なんでこんなこと考えてるんだって思うでしょ?だってニーナが新しく使えるようになったから使ってみていいですかって火球ファイアボールで攻撃したらさ、大きめのビーチボールみたいな火の玉が八匹いたゴブリンの真ん中で炸裂したと思ったらゴブリン全部黒焦げになったんだよ?と言うか炸裂点から遠くにいたやつが黒焦げになってただけで、近かったのは木っ端微塵になっちゃったんだ。おかげでさっき立てた作戦が全部要らなかったのと、ゴブリンの近くに立ってた木が幹が真っ黒に焦げてぽっきり折れちゃってたし、地面にはクレーターができてるし、一番残念だったのが討伐証明部位や魔石が八匹分全部駄目になったんだ。黒焦げだったゴブリンの魔石は割れてた。どんな威力だ、これは。
僕もタニアもニーナでさえも口をあんぐり開けて呆けたよ。一番先に我に返ったのがニーナだった。
「ご、ごめんなさいぃぃぃ!こんなに威力があると思わなくてかなり魔力を込めちゃいました!」
「凄いじゃない、ニーナ!この魔法があれば敵の数が多くてもなんとかできるよ!凄い!」
タニアは凄いを連呼しながら小躍りしている。よほど嬉しかったみたいだ。しかし、火球ファイアボールってこんなに威力のある魔法なんだ。
「ほんとに凄い魔法だねぇ。あの威力だと援護に使うと僕まで丸焦げになるな。」
「ほ、本当の火球ファイアボールはもっと弱いんです。今回は私が魔力を込めすぎたせいであんなことになっちゃいましたけど、大丈夫です!次は上手に調節します。」
「じゃあ、またゴブリン見つけたら普通の威力のを見せてね。」
次行こうか、とタニアを促す。ニーナを見ると次こそは!と決意に満ちた顔をしていた。
「ニーナの火球の威力を見ちゃうとちょっと作戦を変更した方が良いな。ニーナ、あの威力でどれだけ撃てるの?」
「えっと、あの威力だと五発くらいです。普通のだったら十五発くらいは大丈夫だと思います。」
「普通の三倍くらいの魔力を込めたのね。そうすると普通のだったら四、五匹は道連れに出来るでしょうね。」
普通の威力でもそんなに?火球って凄いな。魔力のコストパフォーマンスもいいし優秀な魔法だな。僕も攻撃魔法が使えたら良かったのに…。出来ないことを嘆いても仕方ないか、出来ることをしっかりやっていこう。
「じゃあ、数の多い目標を見つけたらまずはニーナが火球で攻撃して、それで残ったのを僕とタニアで片付けるってことでいいかな。」
「はい、火球の練習にもなりますし、いいと思います。」
「森の中だと障害物がいっぱいあるからよく狙わないと駄目だね。あたしも位置取りに気を付けてみるよ。」
火球はまだ真っ直ぐしか飛ばせないらしい。熟練してくると多少はコントロールできるようになるんだって。これは炎矢でも一緒みたいだ。あの速度で追尾出来たら恐ろしい魔法になるな。
「まあ、無理して使わなくていいからね。普通の援護でいいから。ニーナ、炎矢ファイヤアローだったらどのくらい撃てる?」
「炎矢ですか?そうですね、いつもと同じでいいなら三十くらいは行けると思います。」
「ニーナって魔力量が多いんだね。あたしが知ってる銅級の魔法使いは炎矢だったら十二、三くらいだったよ。」
「そうなの?じゃあニーナが普通だって思ったら駄目?」
「うん、駄目だと思う。金級とかになるともっと凄い魔力量だと思うけど、銅級だったら破格じゃないかな。」
ニーナって凄いんだ。ほんと他の冒険者はなんで仲間にしなかったんだろうね。ま、見る目がなかったってことか。僕にとっては物凄くラッキーだったな。こんなに可愛いしね。
「あとは、使える種類を増やすのが良いと思うよ。頑張って、ニーナ。」
「ありがとうございます、タニアさん。」
「ニーナ、魔法ってどうやって覚えるの?」
「え?えーとですね、使える人に師事して呪文と魔力を練るときの想像力?っていうのか、どんな感じで魔力を練っているのかを教えて貰います。なので自分と同じような考え方の人と巡り合うととても簡単に覚えられるそうです。」
想像力の所で人差し指を唇に当てて上目遣いで小首を傾げているのが破壊力満点で、その後の話が入ってこなかったよ。
「ごめん、もう一回教えてくれる?」
「だから、想像力が大事だってことだって。魔法は想像力!わかった?リュウジ?」
ニーナが話し出そうとしたら、タニアが簡潔に纏めてくれた。想像力、つまりはイメージが重要と。これはよくある知識チートが使えるかな?あとはニーナが理解できるかどうかだけど。今は依頼の最中だから帰って機会があったら話してみよう。
「ありがとタニア。ニーナ、帰ったら僕にも教えて貰ったことを教えてね。」
「はい、わかりました。でも、リュウジさんには使えませんよ?」
「いいからいいから。」
とりあえず酸素と燃焼のことが理解できるか話してみよう。理解出来たら魔法の威力がもっと上がるかもしれない。




