第六十二話
彼は周囲を警戒しながら話しかけてきた。盾を持った戦士の人の一人だ。背は僕より高いから百八十くらいあるかな。
「僕はリュウジといいます。こっちはニーナ。あとタニアっていうのがいます。しかし間に合って良かった。彼女は大丈夫ですか?」
あ、残り一匹だったゴブリンが倒された。これじゃあ手助けはいらなかったかな?
「ありがとな!助かったぜ。」
もう一人の戦士の人が剣についた血を拭いながら近づいてきた。背は僕と同じくらいだけど筋肉が凄い。ガッチリした人だ。
「俺はライルっていうんだ。このパーティ『暁の風』のリーダーだ、よろしくな。んで、こっちはガウラス。あっちの魔法使いがルータニア、弓使いがスレインであそこでへばってんのがシアだ。」
最初に話しかけてきたガウラスが片手をあげてウインクする。魔法使いのルータニアはシアにポーションを使いながら会釈してくれる。スレインも笑顔で手をあげている。シアはルータニアにポーションで治療されながらも手を振ってくれている。良かった大丈夫そうだ。
「いやー、助かったよ。なあライル。」
そう言ってにこやかに微笑んでいるのがサブリーダーのスレインだ。
「ああ、いいところで助けに入ってくれたな。ほんとありがとよ。」
「いえいえ、あんまり必要なかったかもしれないですね。」
「いや、あの時は十五匹のゴブリンたちと戦闘になって三匹ほどやったときに突然ルータニアが狙われてな。援護に回ったシアが対処しきれずに矢を受けちまって動揺してたところだったんだ。」
そのとき彼らの背後の藪がガサッと揺れた。戦士の二人は盾を構えて剣を構え、スレインはもう矢を番えている。
「ごめーん、リュウジ。逃がしちゃったよ。うわっ。」
藪から出てきたのはタニアだった。申し訳なさそうに頭を掻きながらの登場だ。暁の風の戦闘態勢を見て吃驚したみたいだ。
「あ、すいません、僕たちの仲間です。タニアって言います。タニア、こちら暁の風の皆さんだ。」
「ああ、済まない。またゴブリンが来たかと思ってね。でもそうか、アーチャーとメイジには逃げられたか。」
スレインが残念そうに呟いたが、タニアは得意げに戦利品を見せてくれた。
「ん?メイジはやってきたよ。逃げられたのはアーチャーだね。二匹いたんだけど二匹ともね。で、これが討伐証明の耳と杖スタッフ。」
さすが我がパーティの斥候兼スナイパーだ。ただでは帰ってこないな。
「お疲れ様、タニア。ありがとね。」
タニアから渡された耳と杖を麻袋に突っ込み背負っていたダミーの皮製のバックパックに入れる。
「もちろん、お前達が倒したのは持ってってくれ。俺たちは後始末しておくから探索に戻ってくれ。こんど会うときは強制依頼になると思うが、そん時もよろしくな!」
ライルがゴブリンの後始末をやってくれるみたいだ。有り難くお願いしようか。
「ああ、ありがとう。よろしく頼むライルさん。」
「なんだよ、さん付けなんかで呼ぶなよ、リュウジ。呼び捨てでいいからな。」
二パッと笑ってパチリとウインクするライル。様になるなぁ。ライルの後ろでスレインたちもうんうんと頷いていた。皆ライルと同じ気持ちなんだろう。
「そうか。ありがとう、ライル。これからもよろしく。」
僕は右手の籠手を外して差し出す。ライルも同じように手を出してきたのでしっかりと握手した。
なんだ、友達って簡単に出来るんだな。でも…んー、これは友達っていうか仲間かな?ま、どっちでもいいか。
「じゃあ、僕たちは行くよ。気をつけてな。」
「おう、お前らも気をつけろよ。三人だろ?頑張れよ!」
タニアとニーナはあっちでルータニアとシアと何か話していたが、手を振ってこっちに戻ってきた。シアは大丈夫そうだ。
「お待たせリュウジ。さあ、あたしたちも仕事に戻ろう。」
「おう、行こうか。」
「はい、行きましょう。」
暁の風はもっと南に行くつもりだと言っていた。僕達は薬草を探しながら探索するつもりだから、ここから西に向かう。
「ニーナ、こっちでいいんだよね?」
「はい、こっちです。リュウジさん行きますよ。」
「ああ、今行くよ。ごめん。」
あんなに人数がいるパーティでも危機に陥るのか。これは今までよりも気合入れて行かないと全滅するかもしれないな。僕だけ前に出る今までのやり方じゃあニーナとタニアが狙われるとどうにも出来ないしなぁ。タニアがいても三人ではやれることが限られるし、うーんメンバーを増やすかなぁ。やっぱり回復できる人がいいけど、回復職はフリーの人がほとんどいないからなぁ。この町では難しいか…
「何考えてたんですか?」
「ん?ああ。さっきのパーティ見てたらさ、うちは人数が少ないんだなぁと思ってね、それでパーティメンバーを増やすんだったら回復魔法が使える人がいいなぁって考えてたんだよ。」
「回復魔法ですか…神官職ですね。あまりいないですよ。いてもすぐに取られちゃいますね。」
「やっぱりそうだよね。どうしたもんかね。」
「じゃあさ、この依頼が片付いたらあたしがいた街に行こうよ。あっちなら教会も大きいし、冒険者もたくさんいるし、探せばいると思うよ。」
タニアのいた街か。確か港町だったな。フルテームって言ってたっけ。
「そうだなぁ。この依頼が終わって余裕ができたら考えようか。そういえばタニア、助けに入るとき声掛けてたよね。やっぱり声掛けた方が良いの?」
「そりゃあ当たり前だよ。何も知らせずに突然攻撃したら、たとえ相手の敵を狙ったとしても何かしら言いがかりをつけられてあとで襲い掛かって来ることもあるからね。」
「獲物の横取りってこと?」
「そうですよ。時々それで大変なことになるって聞いたことがあります。」
「それにさ、自分がそうやられたらって事考えてみなよ。あからさまに危機ピンチだったらあとで感謝されるかもしれないけど、どういう状況か分からなくて声掛けるだけでその危険性が無くなるなら声掛けるでしょ。」
まあ、そりゃそうか。勝てるかもしれないところに救援を装って横槍を入れるってあとで絶対もめるなぁ。良かれと思ってやったことが裏目に出たら悲しすぎる。気を付けよう。
「わかった。気を付けよう。」
「納得した?じゃあ行こうか。」
頷く僕を見てからタニアはニーナと先に行ってしまった。何度か来ている森だけど置いて行かれたら迷うな、間違いなく。
「おーい、置いてくなー。」
「遅いぞー、リュウジー早くしろー。」
冒険者やってるときっと色んな事があるだろうけど、何とか頑張ってやっていこうかねぇ。でも仲間の傷つく姿は見たくないなぁ。ニーナやタニアが傷つくぐらいなら僕が…ってのは駄目か。皆三人で無事帰る、これだな。これを目標にしよう。
 




