第六十一話
すみません遅くなりました。
オーク肉のステーキは、相変わらず美味しかったです!安いうえにあの美味しさは凄い。前に一度戦ってあの時は勝てた。またオークが狩れるといいんだけど、あの時のこと思い出すと僕たちにはまだ難しいそうだから、今はここで食べることを楽しもう。
「美味しかったですね。」
「そうだね。また来よう。」
「ふー、満足!じゃあ、宿に帰ろっか。」
タニアはお腹をさすりながら満足そうな笑顔だ。三人で宿まで歩く。五分程かかるから腹ごなしの散歩にちょうどいい。夕焼けが綺麗で、何気なく振り返ると町の建物が朱色に染まって輝いていた。
「この町は綺麗だね。住んでる人たちもいい人たちばっかりだし。」
「そうですね。私もそう思います。」
「あたしも思うよ、この町にいる時間は短いけどさ。で、突然どうした?リュウジ。」
「いや、ゴブリンたちが襲ってきたら精一杯戦おうかなって思ったんだ。この町好きだし。」
「私ももちろん力の限り戦いますよ。育ったところですから。」
「その点でいうと、あたしはあんまり関りがないからなぁ。でも奴らにやられるのは絶対にごめんだよ。」
「今日のゴブリンたちの動きからもう近いんじゃないかと思うんだけど、どう思う?」
今まで十以上の数で纏まって行動するなんてほとんど見なかったから、もしかしたら…なんて思っちゃうんだけどまだ銀級のパーティは帰ってきてないんだったかな。近いうちだって言ってたけど間に合うのか疑問だ。
「私にはわかりませんが…いつ来てもいいように準備だけはしておきましょう。」
「そうだね、準備だけはしっかりしておこう。あたしはまた矢の補充をしておくよ。」
「じゃあ、明日はどうしようか。午前中に森に入ってゴブリンを倒して、昼からはまた買い出しかな?」
「私は、もうすぐ火球ファイアボールが使えるようになりそうですから組合で訓練します。リュウジさんは、武器と防具のお手入れをしっかりしておいてくださいね。私たちのことしっかり守ってくださいよ?」
「ああ、わかった。頑張るよ。じゃあ僕は、武器防具の整備に行ってくることにするよ。」
そうか、僕がしっかりしないとニーナたちがやられちゃうんだ。ムサット村から帰ってきて今まで毎朝晩トレーニングしてるし、素振りをしてるからか剣を振る速度も速くなったと思う。これからも頑張ろう。僕も死にたくないしね。
「二人ともお休み、また明日ね。」
「うん、お休み。」
「おやすみなさい、リュウジさん。」
宿について各々の部屋の前で別れる。よし、これから魔法の練習しよう。何事もこつこつとやるしかないからなぁ。
朝、組合に行くとまた依頼板の前に人がたくさんいた。また何かあったんだろうか。
「また人がいっぱいいるな、行ってみようか。」
ニーナたちと依頼板が見える所までくると、いつも板を埋め尽くすように貼ってある依頼票が一枚しかなかった。タニアが背伸びをして内容を読み上げてくれた。
「んー?何々…今日からは緊急依頼しか受けることができなくなります。当組合に所属している冒険者の皆さんは南の森にいるゴブリンの討伐と薬草採取をお願いします、だって。」
「あー、もうすぐ強制依頼に切り替えるんだな、これは。それまでに出来るだけ数を減らしておけってことか。」
「私たちも行きましょうか。少しでも数を減らしてきましょう。」
「そうだね、行こうか。あたしもやってやるよ。」
ニーナは杖を握る手にかなり力が入っているし、タニアは右手の拳を左手に叩きつけて挑戦的に笑っている。二人とも好戦的だな。気合が入ってるなぁ。これは負けられん。
「よし、じゃあ行こうか。でも無理せず危なかったらすぐ逃げる。いい?二人とも。」
「分かってるよ。しっかり偵察するからね。」
「わかっています。しっかり援護しますからね、リュウジさん。」
受付に行って依頼の細かいことを聞いてから組合を出る。まずは、昼飯を調達するか。
「二人ともお昼は何食べたい?」
「また屋台で買ってくの?…んー…じゃあ、あたしは肉の挟まったサンドイッチが良い!」
「私は何でもいいですよ。」
「サンドイッチにするか。じゃ、買ってくるよ。」
「あ、一緒に行くよ。あたしにも選ばせてー」
「三人で行くか。行こう、ニーナ。」
「はい!」
昼ご飯を買い込んでリュックサックに入れて南の森に来た。緊急依頼が出てるから他の冒険者パーティも結構いる。そういえば僕たちは他のパーティと交流がほとんどないなぁ。僕が知ってる冒険者といえば……ゴートランさんぐらいしかいない!?
ニーナは結構知り合いの冒険者がいるみたいだし、タニアは地元じゃ顔が広そうだ。もっと友達作らないと駄目だな。僕も冒険者じゃなければ町にはそれなりにいるけど、外で直接助けてくれないしなぁ。
「リュウジ、何ボーっとしてるんだ?森に入るよ。気ぃ引き締めて。」
「ああ、悪い悪い。周りにいるパーティを見て、ちょっと自分の交友関係の狭さに呆れてただけだよ。」
「そういえば、リュウジさんって他の冒険者の人とはあまり話さないですよね?」
「そうなんだよ。分からないことは二人に聞けばわかるし、訓練だって組合に行けばラルバさんがいるし、ほかの人から絡まれることもなかったからね。元々ちょっと人見知りなんだよ、僕。」
「ええ。全然そんな風にはみえないよ。いつも凄い社交的に見えるよ。」
「私もそう思いました。初めて会った時も普通だったですし、お店の人なんかにも紳士的な態度で接してますよね?」
「紳士的は言い過ぎだよ。まあ、商売してる人は慣れてるから気を使わなくてもいいからね。これから友達作ってみるよ。さあ、この話はここまで。森に入ろうか。」
二人を促してこの話題を終わらせて森に入っていく。緊急依頼の影響でたくさんの冒険者パーティが森に入っていく。
「これじゃあ、あんまり期待できなさそうだね。さっさと奥に行ってゴブリン狩ろうか。二人ともちゃんとついてきてね。」
いつもと同じくタニアを先頭にして進んで行くこと二十分くらい。向こうの方から戦闘の音が聞こえてきた。
「リュウジ、ちょっと見てくる。ニーナと一緒にここで待ってて。」
「わかった。」
「タニアさん、気を付けてくださいね。」
タニアは相変わらず音を立てずに進んで行った。いつ見ても凄い技術だな。
「僕たちは、周りを警戒してようか。」
ニーナと背中合わせになって周囲を警戒しているとすぐにタニアが戻ってきた。
「二人とも、あっちで冒険者がゴブリンと戦っていたんだけど、ちょっと危なそうだから助けに行こう。」
「冒険者は何人で、ゴブリンは?」
「パーティは五人、ゴブリンは十五匹くらいだった。でも一人が怪我しててかなり危なそうなんだ。急ぐよ。」
「行きましょう!リュウジさん!」
「ああ、わかった急ごう!」
急いで駆けること数分、わざと音を立てて近づいていくとタニアが大声で叫んだ。
「今から助けに入る!いいか?」
戦っていたのは、盾を持った男性の戦士が二人と弓を持った革鎧の男性と魔法使いの格好をした女性が一人だった。もう一人は魔法使いの横の地面に倒れている剣士風の女性だった。倒れている女性には矢が刺さっている。魔法使いをかばったんだろうか。ゴブリンに弓矢を使うのがいるみたいだ。
「助かる!よろしく頼む!」
弓を持った男性が、すぐに反応してくれた。ゴブリンたちは冒険者たちを半包囲しているようだ。僕達はその右側面からやってきた格好だ。
よし行くぞ!
「アーチャーとメイジがいる!気を付けてくれ!」
弓を持った男が敵の情報を教えてくれた。メイジまでいるのか。厄介だな。
「わかった!行くぞ!タニア、ニーナいつものようにやってくれ!」
僕は盾を顔の前で構えて剣を抜き、走る。タニアはもう弓を射ている。さすが早いね。走りながらゴブリンたちの方を見ると五匹は倒れているのがいた。それでもまだ十匹以上はいるな。アーチャーとメイジは離れたところにいるんだろう。ここからでは分からないな。
ニーナも負けじと炎矢ファイアアローを放つ。駆けていく目標の内の一体の側頭部にタニアの矢が突き立ち、もう一体の胴体にニーナの魔法が当たり膝から崩れ落ちる。
僕はこちらに背を向けていた一匹の首を狙い突きを放つ。コツっとした手ごたえがあり、剣が突き抜けるのを見て駆ける勢いのままに盾をぶつけてゴブリンを弾き飛ばし剣を抜く。よし、これで三匹。
次だ!と思い顔をあげた時、正面から何かが飛んでくるのが見えた。
「くっ!」
咄嗟に首を右に倒すと兜を掠めて何かが飛んでいった音が聞こえ、後ろの方でコーンという音が聞こえてきた。矢か!何処から狙われたんだ?くそぅ、やっぱり弓矢は厄介だ。
「タニア!アーチャーを探してくれ!」
「わかった!暫く援護ができなくなるから頑張れ!ニーナを頼む!」
「ニーナ!こっちに!」
「はい!」
僕たちが態勢を整えている間にも彼らはゴブリンを倒している。ここにいるゴブリンは後一匹だけだ。さすが前衛の数がいると殲滅速度が速い。
「助かったよ。君たちは?」




