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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第六十話

 森の中のちょっと開けた場所を見つけて、今日はシートを敷いてお昼を食べて、いくつかある革の水筒から果実水の入った物を取り出してコップに注いで飲んでいるとタニアがバッと後ろを振り返ったと思ったら「リュウジ、すぐに全部仕舞って戦闘準備だ。」といってコップの中身を飲み干してから突き出してきた。受け取ってリュックサックに入れて慌てて自分のも全部飲んで入れる。リュックの蓋を開けたままにして出したものを適当に放り込む。


「ゴブリンか?」


 そう聞いてもタニアは森の向こうを睨んだまま静かにのゼスチャーをしている。リュックサックを背負って盾を装備しておく。ニーナは僕の隣で杖を握りしめてタニアが見ている方をじっと見ている。


「リュウジ、ニーナ、すぐに逃げよう。かなり大人数で移動している集団がいる。金属音があまりしないから冒険者じゃなくてゴブリンだと思う。」


「わかった。じゃあ先頭はタニア、次にニーナの隊形でいこう。」


「ニーナ、悪いけど急ぐよ。こっちに向かってきてる。」


「はい、わかりました。」


「リュウジ、後ろ任せた。」


 そういうや否やタニアは早足というより駆け足で動き出す。僕とニーナも遅れないようについていく。


「なるべく音立てないようにして早足で頑張って!」


 難しいことを言ってくれる。タニアとニーナは音の出るような装備をあまり持っていないから移動の時も音はそんなに出ない。金属音って森の中だとかなり目立つ。僕の装備が一番音が出るからなぁ。


「あ、そうだ。」


 鎧と兜は革製だからそんなに気にならない。音が出るのは剣帯と鞘だ。だったら仕舞っちゃえばいい。


「タニア、ちょっと待って。」


「どうしたリュウジ。早くしないと追いつかれるぞ。」


「ああ、すぐに済むから。」


 リュックサックの蓋を開けて剣帯を外し鞘ごと中に放り込む。


「よし、お待たせ。行こう。」


 リュックサックを背負いなおし剣を右手に下げて走り出す。さっきより断然音が少ないな。ウェストポーチの中のポーション瓶は破損防止で布が巻いてあるから音は殆どないし割れる心配もあまりない。


 森の中を走ること二十分くらいかな、先頭のタニアが速度を落とした。


「ここまでこれば街道まであと少しだからもういいだろう。」


「結局何だったんだ?」


「姿を見てないから何とも言えないけど、おそらくゴブリンの集団だよ。十匹以上はいたと思う。」


「あそこで音を聞いただけでそこまでわかるんですか?」


「あたしも一応盗賊シーフやってるから、それくらいは出来るよ。しかも耳はいい方なんだ。」


「ゴブリンが十匹以上か。この間戦ったからいけるんじゃない?」


「バカリュウジ。この間とは状況が違う。平地と森の中、この前は六人だったよね、今は三人だよ?しかも相手の規模が分からないし、戦力が推定できていないし遭遇戦だし。逃げるが勝ちだよ。」


 確かにそうか。この間は六人だったな。やっぱり数は大きいな。でも、タニアがパーティに入ってくれたのは大きいな。ニーナと二人だったら全然気が付かずに襲撃されて負けてたってことだよな。


「やっぱり、偵察っていうか索敵って重要だね。タニアが入ってくれて良かったよ。」


「本当ですよね。これからもよろしくお願いしますね、タニアさん。」


「なんだよ二人とも。そんなに褒めても何にもないよ!」


 二人で褒めたらタニアが真っ赤になって照れていた。でも僕たちの言葉は間違いなく本心からだ。


「これからどうしようか。もう帰る?」


「そうですね。薬草も結構採れましたし、ゴブリンも三匹倒したからいいんじゃないでしょうか。」


「もう一回森に入っても、あの集団に鉢合わせするかもしれないから今日はもう帰ろう。」


「薬草は、えーと八十三束あるね。じゃあ帰ろうか。」


 リュックサックの中に手を突っ込んで頭の中に浮かんできた薬草の数を確認して手を抜く。取り出すのはもう少し町に近づいてからにしよう。萎れちゃうといけないからね。


「今日の出来事は報告した方が良いのかな?」


「した方が良いだろうね。近いうちに何かあるかもしれないからさ。」


 今までになかった行動があったってことを伝えればいいか。あとは向こうが判断することだし、情報は多いほうがいい。


 町に続く街道を行くこと三十分程で門までたどり着いた。


「あー、今日も結構並んでるなぁ。町に入れるのは大体三、四十分後かぁ。」


「今日はそんなに疲れませんでしたね。」


「まあ、あんまり戦ってないからね。あとはひたすら薬草採取だったし。」


「あたしたちの実力じゃできないことも多いからね。ゴブリンだって一度に十匹も来られると逃げるしかないよ。」


「もっともっと力をつけないと駄目かぁ。なんかこう凄い魔道具でもないかねぇ。」


「リュウジ、無い物強請りしても駄目だよ。地道に努力さ。あたしもなりたての頃はそう思ったけどね。」


 タニアは頭の後ろで両手を組んでちょっと遠くを見ながらそう言った。昔を思い出しているんだろう。タニアは若いんだからそう遠くない過去なんだろうな。


「苦労したんだねぇ、タニア。あ、もうすぐ僕たちの番だよ。」


 もうすぐとは言ったがそれから十分くらいかかり、特に何事もなく門を潜って町に入る。


「町に戻ってくるとなんだかほっとするね。」


「そうですね。今日も一日頑張りましたからね。」


「さ、早く組合行って宿に帰ろうよ。あたし、お腹すいた~。」


「あはは、じゃあ今日はオーク肉食べに行く?」


「おお、久しぶりのオーク肉!早くいこう!」


 組合に行き、諸々済まして報酬を受け取る。今日の稼ぎは、一人あたり銅貨五十六枚だから端数の銅貨十八枚をパーティ用の財布に入れる。で、今日逃げてきたことをケイトさんに報告する。


「…というわけで、姿は見てないんですけど逃げてきました。」


「それはいい決断でしたね。無理はしないということを理解している冒険者は大成しますよ。」


「そうだといいんですけどね。ああ、違うか。…そうなれるように頑張ります。」


「うふふ、頑張ってくださいね。」


 それでは、とケイトさんに手を振って組合を後にする。さあ、ステーキを食べに行こう!

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