第五十九話
組合から帰ってきて宿でぎりぎり夕食が間に合ったので三人で食べたあと明日の予定を話し合う。
「明日は、薬草採取を主にしてゴブリンや角ウサギを見つけたら仕留めるってことだよね。」
僕が誰とは無しに聞くとタニアが食後のお茶を飲みながら答えてくれる。
「そうだね、いつもと違って緊張感があんまりないから油断しないようにしないとね。」
「でも、薬草を探していると角ウサギには良く出会いますよ。明日は狩れるといいですね。」
「今日の報酬は薬草五束だけだったから銅貨五枚しかなかったもんなぁ。」
「明日は私とリュウジさんが出会った場所へ行きましょう。あそこならあると思います。」
ニーナと出会った場所か。なんだか懐かしいなぁ、もうすぐ半年くらい経つだろうか?あの時はなんだかわからずにゴブリンを倒したんだけど、今考えるとかなり無謀なことしたんだなぁって思う。この身体能力はチートなんだろうか。そうだと嬉しいが過度な期待はせずにコツコツと努力していこう。
「どうしたんだリュウジ?いきなり黙って。」
「ああ、ニーナと初めて会った場所かぁと思ってね。あそこで初めてゴブリンと戦ったんだ。自分の体が思ってた以上によく動いてくれたことを覚えてるよ。」
「へー、そうなんだ。あたしでもリュウジの反応速度はすごいと思うよ。鍛錬していけば自分に向かってくる矢くらいなら掴めそうじゃない?」
「あー、それできたらめちゃくちゃ恰好いいな!飛んでくる矢を片っ端から剣で切り払ったりできるようにもなるかな?」
それができたら漫画の世界の主人公になれるかも。どうやって訓練すればいいのかなぁ。ああ、木の枝にロープで吊るしてやるあれか。時間があったらやってみよう。
「リュウジなら出来るようになるんじゃないかな?今までの戦いの中でも見えないところから攻撃されても避けてたことあったでしょ?」
「そんなことあったかな?そういう時はもう目の前のことで精一杯であんまり覚えてないんだよね。」
「あれ?そうなの?なんか結構簡単に避けちゃってるから分かってるんだと思ってたけど。」
「そうですよね、戦闘の時リュウジさんを見てると、あ!危ない!って思ったら避けてる時があるので凄いなぁと思ってたんですよ?」
「あー、そういう時はきっと予測で動いてるから凄そうに見えるだけだと思うよ。自分の態勢がこうで相手がこんな態勢だろうからこう来るんじゃないかって感じで動いてるだけだよ。」
そう言うとタニアは呆れたように何言ってんだこいつって顔で見てきた。
「それができるだけでも凄いことだよ。だからあんまり怪我しないのかぁ。」
「なんにせよ、これからももっと頑張って鍛錬するよ。明日はそういうことでいい?タニア。」
「ん、いいよ。頑張りましょ、薬草集め。」
その日はそれで解散になった。あんまり成果が出ないと疲れも増すなぁ。
次の日、僕たちは予定通りニーナと出会った森の中にやってきた。そこには薬草がたくさん生えていた。
「採りに来る人いないのかな。めちゃくちゃ生えてるね。」
「本当ですね。これは一杯採れますね!さあ、採ってしまいましょう。」
ニーナの採取魂に火が点いてしまった。でもこれだけあると報酬が期待できるな。頑張ろう。
「じゃ、あたしは周りを警戒してるね。頑張ってリュウジ。」
「おう、そっちも気を付けてな。」
声を掛け合って自分の出来ることをやる。ニーナはすでに黙々と薬草を採取していた。僕もここ最近使ってなかった剣鉈を取り出し、薬草を刈っていく。
そうして暫く草刈りをしていたら、タニアが焦った様子で戻ってきた。何かあったんだろうか。
「二人とも一旦手ぇ止めて。ゴブリンがいた。数は三匹、あっちから向かってくるよ。」
タニアが指さしたほうは、ゴブリンの集落の方向だ。斥候かな。
「わかった。ニーナ大丈夫?いける?」
「はい、いつでも行けます。」
ニーナは杖を手に持ち準備万端だった。刈り取った薬草は綺麗に足元に纏めてあったのでリュックサックに入れておく。僕も盾を背中から外して左手に装備する。
「よし、行こう。」
森の中をいつものようにタニアを先頭にして三分くらい行くと前方にゴブリンが三匹いた。
「よし、いつものようにタニアとニーナで一匹ずつ攻撃してくれ。僕はその間に近づいて残ったやつを倒すから。」
「わかった。ま、三匹だったら余裕だね。」
ニーナは頷きながら詠唱を始めている。タニアは弓を構えていつでも射れる態勢だ。ニーナが詠唱を終えタニアに目配せしたのを見て盾を前に出して走り出す。直後に弓を弾く音と「炎矢」という声が聞こえ、僕の両脇をタニアの放った矢とニーナの炎矢が通り過ぎていく。
「ギャアア!」
ゴブリンの悲鳴が聞こえ地面に重たいものが倒れる音が二つ。そこに向かって剣を後ろに流して持ちながら走り、残った一匹に向かって剣を振り下ろす。ゴブリンは棍棒で防御したようだが僕の剣は蒼い航跡を引きながら棍棒ごとゴブリンを断ち切っていた。
「やったな。リュウジ。」
「耳と魔石を取り出しましょう。」
一人一匹づつ手早く耳を切り取り、魔石を取り出し襤褸布で血を拭きとり、それぞれ皮袋へ放り込む。リュックサックに仕舞って残りの処理をしてまた薬草採取を再開する。十分ほどで刈り取りは終了した。
「これでここは終わりかな。全部で八十三束か。」
「どうします、次の所に行きますか?」
「そうだね。もう少し採取していこうか。」
「じゃあ、こっちです。」
ニーナとタニアに先導されて次のポイントへ向かう。森の中にある細い獣道みたいな道?を三十分ほど行くと木が疎らになった場所に着いた。ここは来たことない場所だ。木が少ないので地面まで良く陽の光が当たっていてここにも薬草がたくさん生えていた。
「ニーナはいろんな場所を知ってるね。」
「ここは他の冒険者の人たちもあまり知らないと思います。最近見つけたんですよ。」
ニーナがにっこり微笑みながら嬉しそうに薬草を刈り取っていく。なかなかの群生地だ。しかしこの森は薬草がいっぱい生えてるんだなぁ。早速僕も薬草を刈り取る。
「でも、ゴブリンいないね。しかも角ウサギもいないねぇ。」
「ほんとだね。角ウサギがいないのはおかしいな。ゴブリンたちが食べるために狩るのか?」
「集落には百匹以上いるんだろ?食べるものだけでも凄いことになるよね?ゴブリンたちって何食べてるんだろうね。」
「組合にある魔物辞典には、動物や木の実、私たち人間も食べるとありました。さらに女の人はもっと酷いことになると…」
「そう。あいつらは必ず倒さないと駄目だからね。倒せなかったら逃げること。逃げれなかったら自害しろって、あたしはそう教えられたよ。だからあの時はありがとう、リュウジ、ニーナ。」
「どういたしましてって、ゴブリンってそんな恐れられてるんだ…」
「私もリュウジさんと初めて会った時に助けられましたからね。」
「じゃあ、今回の集落からあんな数のゴブリンが町に襲って来たら…大変なことになるじゃないか!」
ムサット村もヤバかったんだな……被害がほとんどなかったのは奇跡だったのかもしれないな。
「だから今度の緊急依頼は一生懸命頑張るんだよ?リュウジ。」
「おう。でもタニアも頑張るんだぞ?まあ、そんなこと聞いたら頑張るしかないじゃないか。」
「私もやりますよ。もうすぐ火球が使えそうなんです。使えるようになれば、今よりももっと倒せるようになりますからね。」
そうなんだ。ニーナも頑張ってるんだなぁ。これは負けてられないぞ。僕も頑張って地道に筋トレしよう。最近ちょっと腕が太くなってきたような気がするんだよね。成果が見えると嬉しくなるなぁ。
「よし、ちょっと早いけどお昼にするか。」
「やった。おなかすいてたんだよねー。」
タニアが笑顔でお腹をさすっている。ニーナもちょっと困った笑顔でお腹を摩りながら僕のほうを見ている。さあ、ご飯にしよう。いつもの屋台で買ってきた出来合いだけど美味しいんだよね。
 




