第五十六話
それから順調にゴブリンを狩りながら森の中を探索していった。いつもは森の中ほどまで入って遭遇するゴブリンを狩っていたんだけど、どうやらそのあたりにはゴブリンの巣はなさそうで、今日はもう少し奥まで行こうということになった。
「タニア、ゴブリンの足跡どう?」
「うーん、たくさんありすぎてよくわかんない。でももっと奥の方だと思う。」
「もっと奥か…三人で行けるかな?ここでいったん引き返す?」
「ゴブリンなら三人でも大丈夫だからもう少し行ってみようよ。」
「私もまだ魔法は使えますから、もう少し行ってみましょう。」
「二人がそういうなら…もう少しだけだよ?」
まだ余裕があるのか二人とももう少し奥まで探索したいみたいだ。僕もまだ行けると思うんだけど、なんか嫌な予感がするんだよね。ま、気を付けていけばいいか。
「じゃあ二人ともここからは十分に気を付けること。変わったことがあったらすぐに引き返そう。」
「わかった。」
「はい、わかりました。気を付けていきましょう。」
こうして森の奥まで来たんだけど、ゴブリンを一匹も見かけないんだ。おかしい、何かが変だ。
「タニア、ここまでゴブリンに一匹も遭遇してないね。なんだかおかしくないか?」
「確かに。あたしもおかしいと思ってたんだ。引き返そうか。」
そんな時、ニーナが何かを見つけたいで、珍しく大声で僕を呼ぶ声がした。
「リュウジさん!あそこ!見てください。すごく大きなゴブリンの集落があります!」
「うわー、ゴブリンがどんだけいるんだ。ゴブリンってこんな集落をつくるんだ。」
僕たちが今いるところから少し窪地になってるところに粗末な小屋が沢山建っている村みたいなところがあった。集落にはゴブリンが沢山うろつき、中にはやたらとでかい個体まで見える。あれはゴブリンなんだろうか。一回りかそれ以上に大きいな。
「バカ、リュウジ。そんなことに感心してないでさっさと町まで戻るよ。組合に報告しなきゃ。ニーナも大きい声出しちゃだめだよ。見つかっちゃう。」
「あ、ごめんなさい。つい…」
見つからないように地面に伏せて様子をうかがう。
「ホブゴブリンもいる。これはヤバいことになりそうだよ。」
大きなゴブリンみたいなやつはホブゴブリンだそうだ。ゴブリンと違って体格がよくて筋肉が凄い。周りのゴブリンに指示を出しているようにも見える。
「ホブゴブリンってソルジャーとかと違うのか?」
「ゴブリンが進化したのがホブゴブリンだって言われてるよ。どうやって進化してるかはわかってないんだけど。ソルジャーとかメイジとかよりも比べようもないぐらい強いって言われてる。」
ソルジャーでも苦戦したのにそんなに強かったら僕達ではどうやったって歯が立たないから、ここからなるべく音を立てないようにして町へ戻ることにした。
「何匹ぐらいいるんだろうね。百匹以上いたと思うんだけど。」
「ざっと見て百五十くらいはいるんじゃないかな。あたしも数えたわけじゃないから正確なのは分かんないけど。」
タニアに先頭を任せ、最短距離になるように森を一時間ほど進んできた。結構奥まで来てたんだな。森の木に目印を刻みながらここまで帰ってきた。今は森の中腹あたりだと思う。いつもゴブリンを狩ってるところもこの辺りが多い。いつもなら結構ゴブリンを見かけるが、今日は何故か全く遭遇していない。これは運が良いのか将又、何かの前触れか。ゴブリンが町に攻めてくる?あの規模の町に攻めてくることなんかあるんだろうか。
「リュウジ、ニーナもうすぐ森を抜けるよ。急ごう。」
考えながら歩いていたらいつの間にか森の入り口まで来ていた。早く組合に知らせないといけないな。動いてくれるといいんだけど、どうなるんだろうか。
「組合に報告すればすぐに動いてくれるんだろうか。僕達みたいな低級の冒険者の言うことなんて聞いてくれるかな?」
「それは大丈夫。必ず調査はしてくれる。だっていつもゴブリンや魔物を討伐してるのはあたし達だよ。そのあたしたちがおかしいって言えば何らかの動きはとってくれる。」
「そうですよ。そこは心配しなくても大丈夫です。こういう情報で動かなかったら何のための組合か分かりませんから。」
「そうか…じゃあさっさと帰るか!」
町に入る列に並んでるときはなかなか進まないから気が揉んで仕方なかったよ。二十分くらい経ってやっと町に入れたからすぐに組合にやってきた。討伐証明があるから依頼報告の列に並んで順番を待つ。
「おかえりなさい、ニーナさん、リュウジさんタニアさん。完了報告ですか?」
「はい、依頼の報告と森の奥で見つけた気になる情報を持ってきました。」
「はいわかりました。では依頼の方から処理してしまいましょうか。」
ケイトさんは、慣れているみたいで淡々と仕事をしているなぁ。今回はゴブリンの討伐証明を十匹分だけだった。角ウサギに遭遇しなかったんだよなぁ。
「はい。これが今回の引き換え票です。それで、森の奥で見つけた情報って何ですか?」
「はい、実は…」
ケイトさんにゴブリンの集落を発見したこと、中にはホブゴブリンらしき姿を見たこと、森の中で感じた違和感や木に目印をつけて帰ってきたことなどを報告すると上司に報告してくるから休憩所で待っていてくれと言われたので大人しく待っていることにした。
「待ってる間に報酬をもらってくるよ。」
ケイトさんがどれだけかかるか分からないから先に引き換え票を換金してこよう。
「あ、私も行きます。」
「じゃあ一緒に行こうか。」
ニーナと一緒にアッシュ爺さんの所に行くと誰も並んでいなかった。暇そうなアッシュ爺さんに声をかけると嬉しそうに二パッと笑って出迎えてくれる。
「おお、ニーナちゃんとリュウジか。お前らでかいゴブリンの巣を見つけたらしいな。」
もう知ってるんだ。隠すことでもないからおかしいことじゃないだろうけど、ここまで情報駄々洩れだとちょっと心配になるな。
「そうなんだ。はい、引き換え票。ゴブリンがうじゃうじゃいたよ。」
アッシュ爺さんはすぐに報酬を渡してくれた。仕事早いな。
「じゃあすぐに強制討伐依頼が出るぞ。そこまででかいと戦争と一緒だからな。これからちょっと大変になるか。」
戦争。ゴブリンと戦争か。向こうは百五十以上の数でこっちはどれだけいるんだろう?数には数で当たらないと間違いなく負けると思うんだけど、この世界には魔法があるからなぁ。魔法を使える人をどれだけ揃えられるかが鍵になってくるんだろう。そうなるとニーナも大事な戦力の一人か。
「前にもこんなことがあったんですか?」
「うむ、三十年くらい前だったか。西の森からゴブリンが攻めてきたことがあったな。」
「その時はどうやったんですか?」
「儂も冒険者だったから討伐作戦に参加したぞ。何とか戦い抜いてたんまり報酬を頂いた覚えがあるわい。」
「じゃあ準備をしっかりしといたほうが良いですね。ありがとうございます。」
「いつも言ってるが、死ぬんじゃないぞ。生きて帰ってこい。」
換金を終えてタニアの所に戻って飲み物を頼んで暫くしてケイトさんがきた。
「リュウジさんたちお待たせしました。こちらに来てください。」
「はい、わかりました。」
ケイトさんについていくと受付の奥に通されて二階に上がる階段を上り、通路の一番奥の扉まで連れてこられた。
「マスター連れてきました。」
「入れ。」
おお。とうとうギルドマスターに会えるんだ。どんな人なんだろう。
「怖い人じゃないから安心してね。」
ケイトさんがニーナに声をかけている。隣を見るとニーナの顔が緊張で強張っていた。
「大丈夫だよ、ニーナ。僕達悪いことして呼ばれてたんじゃないからさ。」
「うう、はい、わかってますが…緊張します。」
タニアを見ると全くいつもと変わらない様子だった。
「ん?あたしはこれくらいじゃあ、ね。」
ケイトさんが微笑みながら扉を開けると正面に執務机に座った壮年の男性が座っていた。その男性は白いものが混じった茶色い髪を油か何かで七三にきっちり撫でつけ、鼻眼鏡をかけていた。見た目四十代後半かそこらだから老眼なんだろう。僕も掛けてたからよくわかる。近くが全然見えないからなぁ。書類仕事は目が疲れるんだよなぁ。
体は細身だがしっかり筋肉が付いていて着ている服が小さいのかパツンパツンだ。もうちょっと大きめのサイズにすればいいのに。この世界の服は伸縮性がなく洗うとめっちゃ縮むんだ。最初に買った時にえらく大きめのサイズを勧めるから聞いたら、そう教えてくれた。
執務机の前には応接セットなのか二人掛けのソファが二脚と一人用のものが二つ、三人掛けのものが一つある。
「よく来た。まあ座ってくれ。ケイト、彼らに飲み物を。」
「はい、わかりました。」
言われた通りに僕が真ん中で三人掛けのソファに座るとギルドマスターが自己紹介してくれた。
「俺の名はダレスだ。この町の冒険者組合の組合長をやっている。早速だが、君たちが発見したゴブリンの集落のことを聞きたいんだがいいか?」




