第五十四話
次の日。
日が昇ってすぐに出発することにした。村長さんをはじめ門番のガリウさんやテリシスさん、スーンさんやほかの村人たちが見送りに来てくれてちょっと感動してしまった。村の人たちに見送られながら出発したんだけど、こうやって感謝されるとやっぱり嬉しいもんだなぁ。
また途中で野営して、ひたすら歩くこと二日目の昼過ぎ、セトルの町が見えてきた。
「久しぶりに帰ってきた気がするな。」
「そうですね、半月くらいでしょうか。リュウジさんはまだ宿の部屋はとってありますか?」
「僕?たぶんもう切れてるような気がする。また部屋とれるかな?」
この依頼を受ける前に延長した記憶がないから、もう部屋はないだろうなあ。部屋が取れなかったら違う宿を探そう。
「あたしも部屋は押さえてないから探さないと駄目かなぁ。」
タニアもか。一緒に探せばいいか。
「んじゃ、取れなかったら一緒に探そうか。」
「ええっ!リュウジさんとタニアさん宿変わっちゃうんですか!?」
僕とタニアが宿を探す話をしていたら、ニーナが大きな声で叫ぶように入ってきた。その顔は不安そうであり悲しそうで見ていてこっちまで悲しくなるようだった。
「大丈夫だよ、ニーナ。部屋が空いてなかったらっていう話だからさ。」
「そうそう。そのときはニーナも一緒に変わればいいじゃん。」
不安そうなニーナの頭をポンポンと撫でながら慰めると途端に嬉しそうな花が咲いたような笑顔になる。
「そうですね!私も変わればいいんですよね!私だけ仲間外れになっちゃうような気がして…」
「さあ、街に入る列に並ぼう。混んでないといいんだけどな。」
結果的には、部屋は空いてました。よかった。それが分かった時のほっとしたような嬉しそうなニーナの笑顔がまた眩しくて、タニアと顔を見合わせて苦笑したよ。可愛かったから良いんだけどね。
そんなこんなでまた仲良く三人並びの部屋を借りることができたので、組合に行くことにした。依頼完了の報告をしないといけないし、討伐証明部位を渡して魔石も売らないといけないからね。
組合に入ると夕前だからか結構混んでいた。皆報告に来るのは一緒の時間になるんだな。これから買い取りを済ませてお酒をのみにいくんだろう。
受付は二か所開いてるみたいだけど二列になってるんだけどどっちも結構並んでる。どっちに並んでも同じくらいかかりそうだ。僕たちも列にならんで待つか。右の列に並ぼう。
「やっぱり夕方はこんでますね。」
「そうだね。明日でも良かったんだけど時間があったからね。早く報告したかったしさ。」
「あたしはあっちで休憩してていい?席取っとくからさ。終わったら何か食べようよ。」
タニアは組合の休憩所で夕飯を済ませる気だな。今日はそれでいいか。確かにちょっと疲れたからなぁ。
「わかった。じゃ後でな。」
同じように考えてる人は一杯いるみたいで休憩所はかなり混んでいる。安いわりに美味しくて量があるから冒険者には人気がある。ここはニーナが好きじゃないみたいだから僕達はあまり使ってないんだけどね。なんでだろう?まあ、ほかの美味しいところを教えて貰ってるから使わないってのもあるんだ。
「ニーナもいい?嫌だったら帰ることもできるけど…」
「いいですよ?ただここの食堂はあまりいい思い出がなかっただけですから。でも今はもう気にしてません。」
いい思い出がないって…僕と出会う前のことかな?何があったんだろう。聞いてみるか?
「いい思い出がないって何かあったの?」
「いえ、ここはリュウジさんと出会う前に仲間を探してた頃の辛かった思い出があるだけですよ?」
やっぱりそうだったか。前にちょっとだけ聞いたことがあったけどちょっとしたトラウマになってたんだな。
「ごめん、いやなこと思い出させちゃったな。」
「今はもう大丈夫ですよ。リュウジさんと出会って、タニアさんも仲間になってくれて、今私は幸せなんですよ?」
僕を見上げて恥ずかしそうに微笑むニーナを見て安心した。今幸せなのか。良かった。この幸せがずっと続くようにしないとな。
「お?もうすぐ僕たちの番が来るな。」
「意外と早かったですね。これならタニアさんをあまり待たせなくてよさそうです。」
ゴブリンと角ウサギの討伐証明が入った皮袋は宿を出る前に取り出してあった。何体分あったかな。角ウサギは三匹だったかな?肉は食べてしまったので角だけだ。ゴブリンはソルジャーが一匹と普通のが四十四だったか五だったかそれくらいだな。
「あ、リュウジさんにニーナさん、おかえりなさい。無事に帰ってきてくれたんですね。」
「ケイトさん、ただいまです。早速ですが、これが依頼完了票と討伐証明です。」
「はい、承りました。お待ちくださいね。」
ケイトさんは受け取った皮袋を後ろにいた他の職員に渡して書類?に何か書き込んでいる。僕はそれをボーっと見ていた。
「リュウジさんリュウジさん。明日からどうしますか?すぐに依頼を受けますか。」
何も考えずケイトさんの手元を見ていた僕の袖をちょいちょいと引かれた。
「ん?タニアと合流してから話そうと思ってたんだけど、暫く休むことにしようかなって思ってるんだ。」
「わかりました。私も休みにしようと思ってたんです。やりたいこともありますし。」
「やりたいこと?何するの?」
「今回の依頼で思ったんですが、もうちょっと扱える魔法があるといいなって。だから訓練したいんです。あと体力もつけないと痛感しました。」
「ああ、それは僕も思ったよ。僕も体力をつけないといけないなって思ったから明日から走りこみもしようかなって思ってるんだ。走ってからいつもやってる素振りをしてね。」
「あ、この依頼の最中に言ってた話ですね。私も一緒にいいですか?」
「ニーナさんリュウジさんお待たせしました。こちらが引き換え票です。今回もまた無茶しましたね?ゴブリンソルジャーの魔石がありましたよ?」
やばい、ケイトさんの笑顔が引きつってる。またお説教か?
「今は忙しいので後日にしますが、あまり無茶はしないようにしてくださいね。お疲れさまでした。」
良かった。お説教タイムはなかったけど後日って言ってたからなぁ、やっぱりお説教されるのか。まあいいか。ケイトさんも心配してくれてるってことで甘んじて受けないと。憂鬱だけど。
「ありがとうございます。これからも気を付けます。」
「本当に気を付けてくださいね。この職業ですから無茶は仕方がないですが、駄目だと思ったら逃げてくださいね。命があればやり直せますから。」
「はい。肝に銘じておきます。」
ケイトさんにお礼を言って魔石を返却してもらって買い取り場所にいるアッシュ爺さんのいるカウンターに行く。
「おお、ニーナちゃんじゃないか。暫く見なかったが元気そうでよかった。」
アッシュ爺さんに引き換え票と魔石の入った皮袋を渡す。アッシュ爺さんのニーナを見る目は、孫娘を見る爺さんの目だな。気持ちは良く分かる。可愛いからな、ニーナは。
「よし、これが報酬だ。よく頑張ったな。」
「ありがとうございます。リュウジさん行きましょう。」
「ああ、ありがとうございました。」
アッシュ爺さんにお礼を言ってタニアが待っている休憩所、まあもう酒場でいいか、に行く。結構混んでいるが壁際の席が取れたみたいだ。タニアがこっちを見て手を振っている。
「おかえりリュウジ、ニーナ。」
「結構混んでるな。席取っといてくれて助かったよ。」
「さあ、今回の報酬はどうだった?」




