第五十二話
手分けしてゴブリンの討伐証明部位を切り取っていく。ゴブリンソルジャーも耳を切り取り魔石を取り出す。心臓の傍に親指の爪くらいの大きさの魔石があった。
「体も大きかったけど、魔石も普通のより大きいんだね。耳も一回り大きいし。」
採取の終わったゴブリンを集めたら、全部で十四匹だった。今まで倒してきたのも数えると四十六匹!そんなにいたのか。時間はかかったけど、小出しで襲ってきてくれてよかったなぁ。一気に攻められてたら駄目だっただろう。ゴブリンソルジャーは強かった。僕が出したほとんどの攻撃を避けられてたなぁ。
「タニア、僕がした攻撃ってほとんど避けられてたよね?分かりやすいのかな?」
「うーん、あたしの攻撃でも避けられる攻撃じゃないと思うやつまで避けてたから、かなり素早い個体だったんじゃないかな。本当にそうだったかどうかはわかんないけど。」
「きっとそうだよね。あんなに避けられると自信がなくなっちゃうなぁ。」
「そうそう。決まった!と思ったら掠ってるだけだもんね。」
もっともっと剣を振って、筋トレして今よりもっと早く振れるようにならないといけないな。タニアには弓があるし、ニーナは魔法がある。僕は剣しかないから只管ひたすら鍛錬か。
「冒険者の人たち、この村を救ってくれてありがとう。今夜はちょっとした宴を開くので参加してほしい。」
ゴブリンを焼いてたら村長さんがやってきて僕たちに向かって頭を下げてくれた。ゴブリンを倒したお祝いに宴の席を設けてくれるみたいだ。
「わかりました。今夜なら大丈夫です。」
「それは良かった。じゃあ、今夜よろしくお願いしますよ。」
にっこり微笑んで村長さんは村へ帰っていった。宴会か。どんな感じなのか楽しみだなぁ。お酒も出るんだろう。日本では二十歳からしか飲めないけど、こっちでは成人が十五歳だからもう飲んでもいいんだよね。
「ニーナとタニアも参加するよね?二人ともお酒は飲める?」
「当たり前だろ。楽しみだよね。だってあたしたちが主役でしょ?」
「私もお酒飲めますよ。そんなに強くないですけど。どんな料理が出るんでしょうね。」
村の宴は盛大だった。村長さんの挨拶から始まり、一段高くなったところに僕たちとガリウさんたちが呼ばれ、上がったら凄い歓声があがったんだ。百人前後の村だったんだけど、ほとんどの村人たちが参加してくれたみたいだ。百人近くいる人たちが一斉に叫ぶとすごいことになるんだね。皆が嬉しそうで、僕たちも頑張って良かったって心から思ったよ。
この時、村を守れてよかったなんて思ってしまった。自分たちの行った行動の結果が、良い方向になったからね。これからもこんな気持ちが味わえるように頑張ろう。
村長さんの挨拶が終わったら、皆で木でできたジョッキ一杯に注がれたエールで乾杯だ。僕が乾杯の音頭を取って(取ってくれって頼まれたんだ)始まったら、そっからはもうみんなが入り乱れての楽しい宴会だった。ガリウさんたちには背中をバンバン叩かれながらソルジャーとの戦闘なんかの話しをしたりしたし、いろんな人にお礼を言われたな。
料理は村にいる女の人たちが時間がないなか、総出で拵えてくれたんだって。村の名物(って言いてもこれしかないみたいだ)だっていう小麦を練ったものをスープに入れたすいとんみたいなものや木の実を練りこんで焼いたパン、森でとれた果物で作ったジャム、山菜のおひたしみたいな料理だったりいろんな食べ物が沢山準備されていたんだ。どれも素朴なものだったけど無茶苦茶美味しかったよ。セトルの町では見たことない料理が一杯あった。
体感的に三時間くらいたってちょっと疲れたので会場の外れにあった丸太を輪切りにしてできた椅子?に座って、いい感じにアルコールが回って気分がよくなってきたなぁと思っていたところに横からタックルされ、椅子から落ちてしまった。誰だ、こんなことするのは…って思って見たらニーナが顔を真っ赤にして抱き着いていた。
「えへへ~、るーじさん♪るーじさん♪ん~!」
「ニーナ、酔っぱらってるな?大丈夫か?」
ニーナは、僕の脇腹に抱き着いて顔をぐりぐりと押し付けている。相当酔ってるな、これ。どうしよう?
「らいりょうぶれすよ~?よっれなんれないれすからね~えへへ~」
タニアに家まで運んでもらおう。タニアはどこだろう?周りを見回してみてもいないな。…僕が家まで連れていくしかないか。
「ニーナ、家まで一緒に行こうか。歩けるか?」
「あー!るーじさん!うごいたぁらめれすよー!」
アルコールのせいでニーナがかなり幼児化?してる!面倒くさいから抱っこして連れていくか。
「ニーナ、暴れるなよ。」
「んー?あにすうんですかぁ?」
膝の下に手を入れて脇の下から手を回して持ち上げる。所謂お姫様抱っこだ。こんなことするのは結婚式のとき以来だなぁ。しかしニーナは軽いね。僕も力がついてるのか。ニーナは最初は吃驚してたみたいだけど、状況を把握したらしく、僕の胸へ顔を擦り付けてきた。金色の長い髪がさわさわと揺れて猫みたいで可愛いなぁ。
「ニーナ、家行ってちょっと休もうか。連れてってやるからな。」
「あいっ!つえてってくらはい!」
僕も少し休みたいと思ってたところだったから丁度いい。僕の腕の中で大人しくなったニーナを抱えて家まで連れて行った。
「ほら、ニーナ、家に着いたよ。ほら横になって休んで。」
声をかけると返事がなく、すうすうと寝息が聞こえる。いつの間にか寝てしまったみたいだ。
「ニーナの寝床は…っと、こっちか。」
この貸家には部屋が二つあったので、一つは僕でもう一部屋はニーナとタニアで使ってもらっていた。
家具なんてなかったから、僕は床にあのエアマットを敷いて使っている。ニーナたちも同じようにして使っていたみたいだ。枕元にはそれぞれの荷物が置いてあったから、どちらがニーナの場所なのかはすぐにわかった。
寝かせて立ち上がろうとしたら、ニーナの手が僕の胸元をがっちり掴んで離してくれずバランスを崩して覆いかぶさるような格好になってしまった。
「んん~。」
うわっ!?ニーナが寝ぼけて抱き着いてきた!?酒臭いのとニーナの汗?の匂いが混ざって不思議な匂いがする。
「ニーナ、起きて。ニーナ。」
耳元で起こそうと声をかけるが、全く起きる気配がない。どうしようかな?僕も酒のせいで眠いからこのまま横になると寝ちゃいそうだ。体を揺すってみるが動くには動くんだけど、どうしても首の後ろに回した手は放してくれない。
仕方ない、手が離れるまで一緒にいるか。ニーナもまだ十六歳だからなぁ。誰かに甘えたいときもあるだろう。今日はもう寝てしまおう。僕もお酒が入って眠くなってきたし、きっと寝てる途中で離してくれる。
ニーナと一緒に横になっていると、お酒の影響とニーナの体温で睡魔が一気に襲ってきた。相変わらず離してくれないし、猫みたいに丸くなり僕にぴったりくっついて気持ち良さそうに寝ている。
夜中に目が覚めると、ニーナはまだくっついたままだった。寝返りしないの?すうすうと気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。仕方がない、また寝るか。




