第五十一話
最初はこっちからだ。タニアとニーナで、まず二匹はいける。スーンさんも狩人だし行けるだろうから三匹だ。残りは九匹か。
ゴブリンたちは、森から出てこっちを見つけると五匹と六匹に分かれて突っ込んできた。
「さあいくよ!」
「……矢の形をもってかの敵を撃て 炎矢ファイヤアロー!」
ニーナの魔法とタニアとスーンさんの矢が二本、三本と飛んでいく。スーンさんは狩人だけあってタニアよりも矢の速度が速い。こっちに突っ込んできていたゴブリンを次々と倒していく。もうすでに五匹は戦闘不能になっている。弓矢って強すぎる。
「あー、これだけで決着がつくんじゃないだろうか。」
「リュウジ!ぼさっとしてないでいくよ!」
「あいよ!ガリウさん、テリシスさん、無理しないで下さいね!行きます!」
「おう!」
「うおォォォ!」
いつものように剣を抜いて盾を構え走る。少し後ろをこちらもショートソードを抜いたタニアが走っている。ガリウさんたちも槍を持って追いかけてきている。
ゴブリンたちも棍棒やナイフを持って雄たけびを上げながら突っ込んでくる。ソルジャーはまだゴブリンの後ろの方で動いていない。
「タニア!二匹いけるか?」
「もちろん!行くよリュウジ!」
僕達二人で四匹を引き受ければ、残りは二匹とソルジャーだ。ガリウさんたちで二匹なら任せてもいいだろう。
盾を構えたままゴブリンと接敵する。目の前のゴブリンが棍棒を振り上げて攻撃してきた。走ってきた勢いを足を踏ん張って殺し、慌てずに盾を棍棒の軌道に割り込ませ弾き返しながら、剣を下から振り上げる。
「はあっ!」
ゴブリンの胴を右下から左上に両断する。すぐ隣でタニアがもう一匹を倒していた。
ゴブリンたちは僕とタニアの方に集中してきた。ゴブリンソルジャーが指示を出してるみたいだ。喚いている声が聞こえる。いつもならピンチに陥るところだけど、今はガリウさんたちもいる。
「雑魚ゴブリンは任せろ!俺たちだってやれる!」
こっちに集中してきたところを背後から槍で攻撃してくれる。ゴブリンたちの注意が逸れた!今だ!
「タニア!行くぞ!」
「わかってる!」
目の前にいたゴブリンの首を薙ぎ、その後ろにいたもう一匹に右肩からタックルして弾き飛ばしてきっちり止めを刺してソルジャーに向かって走り出す。タニアももう一匹を倒して追いかけてきた。
ゴブリンソルジャーは、なんだか余裕の表情をしているような気がする。よっぽど自身があるんだろう。まあ、相手に自信があろうがなかろうが僕は出来ることをするだけだ。
「うおぉぉ…りゃあ!」
助走をつけて切り込んでみたが、避けられてしまった。普通のゴブリンとは違うな!しかもこっちが防御しにくい右側に避けたのか!
「ウギャア!」
ソルジャーが真上から剣を振り下ろす。 ゴブリンよりは早いがそれでも間に合う!右足を踏ん張り剣を引き戻すと剣同士がぶつかり耳障りな音が鳴る。
「くっ!重い!」
弾き飛ばせるかと思ったが、思っていたよりも力が強かったみたいだ。僕の方が分が悪い。剣が弾かれたのは僕の方だった。
「やあぁぁ!」
そのすきを狙ってタニアが胴を狙って攻撃するが、ソルジャーは後ろに飛んで避けてしまう。その間に態勢を整える。
「助かった。力が強いな。動きも早い。強敵だな。」
「危なかったね。もうすぐニーナも参戦してくれるよ、それまで頑張ろう。」
ここから仕切り直しだ。力は強いが、動きは対応できないほどでもない。タニアと二人、いやニーナも合わせて三人ならば問題なくいけそうだ。
「じゃあ、それまで頑張ろうか。気をつけろよタニア!」
「攻撃食らうんじゃないよ!リュウジ!」
「ギャッギャア!]
ソルジャーが切りかかってきた。左から袈裟切りか!盾を割り込ませると直前で軌道を変えてきた!?狙いは頭!?
「くっ!」
顔をそらして躱す。視界を黒い何かが舞った。前髪を切られたのか。危なかった!心臓がバクバクしている。上位種って凄ぇなぁ!ここで手が出せれば簡単に勝てるんだろうけど、吃驚して駄目だった。
「たあぁぁ!」
ソルジャーの攻撃が空を切った所を狙い澄ましたかのようなタニアの横薙ぎは脇腹を掠めていたのか
血が飛び散る。あの体勢からさらに体を捻って躱そうとしたみたいだ。タニアの攻撃はかなり早いのにそれを避けるのか!決まったと思ったのに。
「くそー!浅かったか!」
「うおりゃぁぁ!」
タニアの攻撃が掠って少し動きが鈍った。チャンスだ!胴に向かって突きを繰り出した。
「グギュウゥ!」
ギャギィンと音を立てて僕の剣が弾かれる。ソルジャーが自分の剣で払ったんだ。くぅぅ、手が痺れる。しかし凄い身体能力だ。あそこから防がれるのか!反撃がくる!素早く剣を引き戻し盾を構えたが、ソルジャーはまたしても後ろに間合いを取っていた。よく見ると向こうは呼吸が荒くなっているみたいだ。僕の方はまだ余裕がある。ここは手数で休ませない方が良いと見た。
「タニア、一気に行こう。」
「わかった。あたしは左からいく。」
「ああ、僕は正面だ。行くぞ!」
左の方に位置どったタニアが僕の後ろをちらっと見てウィンクしてきた。ニーナの援護が期待できるんだろう。小さく頷いておく。これで援護があれば教えてくれるだろう。さあ、再開だ。
「行くぞ!ゴブリン!」
まずは右上から振り下ろす袈裟切りだ。見え見え過ぎるからこれは受けられるだろう。案の定、ギィインと剣で受けられる。僕はすぐに剣を引く。タニアがソルジャーの右肩目掛けて剣を振るが、体をずらして避けられる。それを見て足を狙って攻撃するとこれも避けられる。
まだまだ!盾をソルジャーの顔に向かって突き出して視界を塞ぐ。ここで胴に向かって突きだ。いけるか!タニアも同時に突きを出している。僕の攻撃は剣で弾かれたが、タニアの攻撃がソルジャーの右肩にヒットした!が、浅い。肩が少し裂けただけだ。なんであそこから避けれるんだ?
ん?なんだ?タニアがこっちを見た。
「リュウジ!」
タニアが叫ぶ。僕が咄嗟に右に飛ぶとすぐ左側を赤い塊が通り過ぎた!?炎矢ファイアアロー!ニーナか!
「ギャア!ググギャア!」
突然の痛みで悲鳴を上げるソルジャー。さすがのソルジャーもこれは避けれなかったみたいだ。胴体に貫通はしていないが、かなり大きな傷ができている。ニーナが作ってくれたチャンスだ!
下からの切り上げ!ソルジャーが右足を引き半身になって避けられた!半歩踏み込んで切り下し!左手の籠手で合わせられて逸らされた!ソルジャーが突きを放ってきた。頭を振って避ける!が、痛ぇ!頬に痛みが走る。少し斬られた!まだまだ!右足を下げて突きを放った後の伸びた腕を狙う!手を引くのが早い。空を切った。ソルジャーがまた突きを放ってきた。盾で防ぐと、ガキッと音がして押され少し後退させられる。修理に出して鉄片を入れてもらってよかった。無かったら貫通してたんじゃないか。
「ぶはぁ!はぁっ、はぁっ」
苦しかった。息をする暇もなく攻撃してたからなぁ。肩で息をする。しかし強い!強敵だ。今はタニアが攻撃しているが分が悪そうだ。あれだけ力が強いとタニアじゃ長い間は持たないか。息も整ったしやるぞ!
「タニア!」
「リュウジ!遅い!」
僕も攻撃に参加するとソルジャーが飛び退いた。飛び退いたソルジャーの足元に矢が刺さる。スーンさんか!あっちも片が付いたみたいだ。遠距離の援護が二人になったな。これで勝てるか。もうひと踏ん張りだ。タニアとソルジャーを牽制しながらガリウさんたちの方を見ると二人ともへばって座り込んでいた。あの人たちはもう無理か。
「タニア、出来るだけ僕達だけで仕留めよう。」
「ん?…ああ、わかった。」
タニアは一瞬なんでって顔をしてからニーナの方を見て納得したみたいだ。ニーナは杖を支えにして立っている。きっともうすぐ魔力が底を尽くんだろう。スーンさんの矢も残数が心許ないはずだ。援護はしてもらえるだろうがあと少ししかないだろうからないものとして考える。相手も限界が近そうだしもうちょっとで倒せるはずだ。
気合を入れ直してソルジャーとの間合いを詰めていく。焦れたのかソルジャーが攻撃してきた。突きだ。盾で受けずに剣で弾いて逸らす。反撃に移ろうとしたところでソルジャーがさらに突っ込んできた。
「ぐっ!」
「リュウジ!」
ソルジャーはそのまま左手で殴り掛かってきた。右頬に鈍い痛みが走り、顔が持っていかれる。攻撃に移ろうとしていたから踏ん張れずに殴り倒される。口の中が切れて血の味が広がる。間違いなく追撃が来るから横に転がって勢いをつけて起き上がる。すんなりと起き上がれたのは、どうやらタニアがソルジャーを抑えていてくれたみたいだ。口の中にある血を吐き出し剣を構える。咄嗟に歯を食いしばったから折れなかったな。
「きゃあぁ!」
剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてタニアが弾き飛ばされた!ソルジャーが追撃をしようとしている!間に合うか!盾を構えてソルジャーに盾ごと体当たりする。何とか間に合いソルジャーを弾き飛ばした。転んだソルジャーに矢が刺さる。スーンさんいい仕事をしてくれる!今だ!剣を振り下ろすが、横に転がって避けられた。
「くぅ!」
剣が地面を叩いた衝撃で手が痺れた隙を突かれて起き上がられてしまった。だが、起き上がったと同時に背中にニーナの炎矢が命中した。命中した弾みでこちらに押される形でソルジャーがよろけてきた。あっ!と思った瞬間、体が無意識に動いて剣を握っていた手に力をありったけ込めて振り上げていた。
ゴブリンソルジャーの体に青い線が走り、握っていた剣がカランと音を立てて地面に落ちた。ソルジャーの体が二つに分かれて崩れ落ちる。
「ははっ、やった。」
あー、疲れたっ!強かったなぁ、ゴブリンソルジャー。何とかなって良かった。皆のおかげだ。両膝をついて両手を挙げ、雄たけびを上げる。
「うおおー!やったー!勝ったぞー!」
そこに後ろからドンっと衝撃があった。何だ!?
「やったな!リュウジ!倒したんだよな?あたし達で!」
タニアが抱き着いてきた。相当嬉しかったんだな。強かったもんなソルジャー。本当に勝てて良かったよ。
「リュウジさーん!」
今度は前からニーナが飛び込んできた。革鎧があるから痛くないかな?下から覗くニーナの顔は心配そうだ。
「大丈夫でしたか?ああっ、頬が腫れてるし血が出てるじゃないですか!」
ニーナは自分のポシェットからポーションを取り出して飲ませようとしてくる。
「これを飲んでください!すぐに良くなりますから!」
「あ、ありがとう。」
有り難く受け取りひと口含み飲み込むと、腹の底から暖かくなってきて体が軽くなっていく感じがする。右の頬の腫れは無くなり、斬られた傷も塞がったみたいだ。痛みが無くなっていく。ポーション凄ぇ!タニアが後ろから頬を撫でてくる。
「ありがとうニーナ。痛くなくなったよ。しかし、最後の援護は最高だった!」
「ありがとうございます!あそこは勝負所だと思って気合を入れて撃ちました。リュウジさんのお役に立てて嬉しいです!」
顔を擦り付けてくるニーナの頭を撫でていると、ガリウさんたちがやってきた。
「凄い戦いだったな。俺とテリシスはあまり役には立たなかったな。スーンの奴が何とか役に立ってくれてよかったよ。」
「面目なかったな、坊主ども。この村救ってくれてありがとよ。」
「そんなことないですよ!残りのゴブリンを引き付けてくれたおかげで僕とタニアが集中して戦えたんですから。」
「あと、ポーション使っちまったよ。すまんな。」
二人の姿を見ると服が所々破れたりしている。結構怪我をしたんじゃないだろうか。ポーション渡しておいてよかった。ガリウさんたちがいたところを見るとゴブリンの死体が三匹ほどある。あれ?あんなにいたっけ?
「もしかして、ゴブリンて増えました?」
「ん?ああ、あとから二匹ばかり増えたんだ。何とか倒せたがね。」
「伏兵がいたってことですか?侮れないなゴブリン。」
ガリウさんたちがいて本当に良かった。二匹とはいえソルジャーと戦ってるときに後ろから襲われると考えたらぞっとするな。
「よし、ニーナ、タニア疲れてるとこ悪いがもうひと頑張りしようか。」
「はい、私まだ動けますよ。」
「しゃーない、頑張ろう。」




