第五十話
あれから六日経った。毎晩襲撃があったわけじゃないけどゴブリンは一日おきにやってきてそのすべて、計十五匹退治した。どうも五匹を一単位で運用しているみたいで五匹で襲ってくることが多かった。
「倒したゴブリンは全部で三十三匹か。結構な数を倒したね。もうそろそろリーダーが出てくるかな?」
「そろそろ焦れて出てくると思うよ。今日か明日ってところかな?」
「この依頼ももうちょっとで終わりそうですね。」
「そうだね。野営ができる依頼ってだけで選んだからこんなにかかるなんて思ってもいなかったよ。」
「ニーナもリュウジもまだ終わってないよ。上位種が出てくるかもしれないんだから気を緩めないでよね。」
「そうだったね。まだ終わってないね。気を引き締めていこうニーナ。」
「わかりましたリュウジさん。私頑張ります!」
僕は、ゴブリンの巣を見つけた日からトレーニングを始めた。始めたって言っても剣で素振りと腕立て腹筋を出来る限りだけなんだけどね。前世ではちょっとぽっちゃりな普通のおっさんだったから腕立ても腹筋も二十回くらいしかできなかったけど、今の体だと百回は余裕なんだよね。筋肉痛もすぐに治っちゃうし、若いって素晴らしい!ってしみじみ思ったよ。
その日は昼前まで寝て、昼ご飯を食べてからトレーニングをしていた。腕立て腹筋を終えて素振りするかと思って外に出たら、タニアが慌てた様子でこっちに走ってきた。偵察に行ってたみたいだ。
「あ、リュウジ、動き出したよ!もうすぐゴブリンが来るよ!早く準備して!」
「え?まだ昼間だよ?」
騒がしかったんだろう、窓から顔を出したニーナに気が付いて、タニアが声をかける。
「いいから早く!ニーナ!ゴブリンだ!」
「ええ?ゴブリンですか?」
「二人とも早く!早く準備して!十匹くらいいるから!早く!あたしは村長に報告して戦える人を出してもらってくる!」
十匹!?いつもの倍だな。これは上位種が出てきたかな。革鎧を着てこよう。家に入るとニーナが準備万端な格好でいた。
「リュウジさん手伝いますから。」
「ありがとう、よろしく。」
ニーナに手伝ってもらって僕の準備も数分で出来た。
「リュウジさんポーションはいくつありますか?」
ポーションいくつあったかな?リュックに手を入れるといつものように頭の中にリストが浮かんできた。
「ポーション?えーと八個あるね。」
「私とタニアに二本ずつください。残りはリュウジさんが持っていてくださいね。」
「僕に六本もいるかな?四本でいいよ。今もここに二本あるからね。」
いつもはウェストポーチに二本だけ入れてある。ポーションの容器はガラス製なので一本ずつ布で巻いて割れないようにして持っている。そんなに大きくないウェストポーチだからあと四本くらいしか入らない。
「わかりました。後の二本は私が持っています。怪我したらすぐに使ってくださいね。」
リュックから出したポーションを一本ずつ布で巻いてウェストポーチに仕舞う。リュックはニーナに預けておこう。戦闘中に破損したら大変だ。
「このリュックはニーナが持っていてくれ。いつもはその辺に置いておくんだけど、今回は村の人たちもいるからどっかに行っちゃうといけないからね。」
「はい、しっかり背負っておきます。あ、タニアさんが戻ってきましたよ。」
村の方を見るとタニアが急いで戻ってくるのが見えた。後ろにいるのはガリウさんだ。厚手の革の服を着て槍を持っている。もう一人は見たことがない人だけどこの人も同じような格好をしている。
「準備できた?村長に伝えてガリウとテリシスに一緒に来てもらったんだ。もう一人狩人の人が来てくれるみたいだ。その人が弓を使えるからあたしも剣で戦うよ。前衛がリュウジ一人じゃ無謀だよ。」
「俺はテリシスだ。ガリウと同じ門番をやっている。多少なら戦えるぞ。あとからくる狩人はスーンっていうやつだ。なかなかの腕前だと思うぞ。」
律儀に挨拶してくれた。狩人の人も来てくれるなら有り難い。
「それは有り難い。じゃあ簡単な行動を決めとこうか。うーん、最初は、その狩人の人とタニアとニーナで遠距離攻撃してもらって数を出来るだけ減らしてもらう。そのあとに僕たちが突撃して倒していく。っていうかいつもと一緒だな。上位種が出てきたら僕とタニアで迎撃する。ガリウさんとテリシスさんは周りで他のゴブリンを引き付けてください。ニーナと狩人さんは、最初の攻撃が終わったらガリウさんたちの援護だ。こんな感じでどうかな?」
「いいと思うよ。あたしは弓を射たあとリュウジに続けばいいんだよね。」
「うん。そこからは僕とタニアの二人でゴブリンを倒していくことになるんだけど、大丈夫かな?」
僕がタニアと話しているとガリウさんとテリシスさんが質問してきた。
「俺たち二人は、周りにいるゴブリンの牽制だけでいいのか?」
「そうだ。出来る限りのことはするぞ。君たちばかりに押し付けていては我々の気が済まない。」
二人とも悲壮な顔をしているが、戦意は高そうだ。そうだなぁ、じゃあ出来るだけ戦ってもらうか。
「わかりました。無理はしなくていいので、狩人さん、スーンさんでしたっけ、その人と連携してゴブリンを何匹か受け持ってください。あ、そうだ。ニーナ、さっき余ったポーションを一本づつ渡してあげて。」
「はい。分かりました。どうぞ。」
ガリウさんとテリシスさんは布にくるまれたポーションを受け取ると大事そうに腰のポシェットに仕舞う。
「怪我したら使ってください。絶対無理したら駄目ですよ。」
「わかった。お前らも無理はするなよって言ってもあれか。頑張ってくれ。頼むぞ!」
「はい、お互い頑張りましょう。タニア、どう?」
「ちょうど森から出てきたところだよ。もう少しこっちまで来てもらおう。」
森を見るとゴブリンたちが出てくるところだった。何匹いるんだ?一、二、三…十一匹とその後ろから他のゴブリンたちよりも一回り体の大きい個体がいる。あれが上位種か。ボロボロだけど鎧も着てるし、剣だって持ってる。ゴブリンソルジャーかな。
「タニア、あれはソルジャーか?」
「うん、ゴブリンソルジャーだ。気を付けてよリュウジ。普通のゴブリンとは違うからね。」
「わかった。気を付けるよ。よし!皆準備はいいか。もうちょっとこっちまで来たら始めるぞ。」
狩人の人は間に合わなかったか。仕方がない。ニーナに伝言を頼んでおこう。
「ニーナ、スーンさんが来たらガリウさんたちの援護をしてもらうように言ってくれ。」
「わかりました。リュウジさんも頑張ってください!私も魔力が尽きるまで頑張ります。」
「悪い!遅くなった!」
弓を持った男の人が駆けてきた。スーンさんだろう。持っているのはタニアと同じショートボウだ。腰の後ろに着けた矢筒にはたくさんの矢が入っている。
「スーン、遅いぞ。もうすぐ始まるから早く準備しろ!」
「お前は、俺たちの援護だ!頼んだぞ!一匹でも多く仕留めてくれ!」
「わかった!任せろ。」
ガリウさんとテリシスさんが僕の伝えたいことを大体伝えてくれた。これで全員揃ったか。
「スーンさん。まずは弓と魔法で先制攻撃します。そのあとはガリウさんとテリシスさんの援護をお願いします。」
「ああ、任せておけ。坊主も頑張れよ!」
よし、あとは全力を尽くすだけだな。




