第四十八話
タニアに起こされて目が覚めた。
「んー…おはよう。」
「お、起きたね。交代だよリュウジ。」
「ふぁ~…お疲れさん。何もなかったかい?」
「ああ、大丈夫だったよ。じゃああとはよろしくね。」
「わかった。お休み。」
僕が起きたことを確認するとタニアは寝床に潜り込んですぐに寝息が聞こえてきた。
「はやっ!もう寝たのか。見張り、頑張るか。」
革鎧を身に着けて剣を提げたら準備完了だ。なるべく音を立てないように外に出る。もうあのでっかい月が沈んだのか外は真っ暗だ。星が空を埋め尽くしている。天の川みたいに星が集まっているところも見える。ということは宇宙があって、銀河系があるのか。星座とかあるんだろうか。星がありすぎて見つけられそうにないなぁ。それにしても凄い星の密度だな。あのどれかに太陽系があったら面白いなぁ。可能性としてはあるかな。まあもう帰れないだろうが。
降ってくるような星空を見上げて、そんなことを考えながら家の前のベンチに座りボーっとしていた。
「あ、いかん無駄な時間を過ごしてるな。素振りでもするか。」
この時間でトレーニングをすれば一石二鳥だ。眠気もなくなるし体も鍛えられるし時間もつぶせる。おお、一石三鳥だ。ラルバさんに教えて貰った動きを思い出しながらひたすら剣を振り続けた。
この世界の季節がどうなっているのか分からないが、来た時に比べて夜の気温が下がってる気がする。このまま冬が来るのか、はたまたこのまままた温かくなるのか…。今は湿度も少なくこの程度なら体を動かしても暑くて大変なことはないから有り難いな。過ごしやすいのはいい。
ひたすら剣を振っていたら空が白んできていた。幸いなことにゴブリンは出てこなかったな。革鎧と上衣を脱いで手拭いで汗を拭う。
「もうすぐ日の出か。ふー。結構動いたな。ニーナたちが起きたら体を拭くか。あー、風呂入りたいなあ!」
今日はこれから森に入って探索だ。早いとこ準備しようか。朝ご飯の準備をしよう。
「まずは鍋に水を張って湯を沸かすと。」
昨日使って洗って乾燥してあった鍋を竈に置いて薪を突っ込んで火を熾しておく。ガチャガチャやってたらニーナが起きてきた。
「おふぁようございますリュウジさん。あ、火熾しておいてくれたんですね。顔洗ったら私がご飯作りますね。」
「おはよう、ニーナ。よろしく頼むよ。」
タニアも起きてきて三人でご飯を食べてから準備して出発だ。村長さんに森に入ることを伝えて森に向かった。
「ゴブリンの巣は洞窟なのか?」
「そうだね。洞窟に巣を作ることが多いよ。でも見つけても絶対入っちゃだめだからね。特にリュウジ、わかってるよね?」
「え?何で僕?」
「そりゃあ、突っ込んでいきそうなのはリュウジしかいないでしょ?」
「そんなことしないよ!?ちゃんとタニアの後についていくからね。」
「リュウジはきっと勇者なんだからゴブリンの棲み処ぐらい一人で潰せちゃいそうだけどねー。」
「だからー、勇者じゃないって。ニーナも何とか言ってくれ。」
「ふふふ、リュウジさんなら本当に一人でできちゃいそうですけどね。」
ニヤリと笑って僕を揶揄うタニア。ニーナに助けを求めたらニーナも乗っかってきた。タニアは、突然揶揄ってくるから厄介なんだよな。まあ、いつも悪意がないからいいんだけどね。
そんなことをしていたら、角ウサギが飛び出してきた。
「あ。」
「ほいっと。」
まあ、予想通りタニアがダガーで仕留める。相変わらず素早い。まずはお肉ゲットだ。しかし、こいつらの縄張りは広いのか狭いのかよくわからんな。
「なあタニア、角ウサギの縄張りって広いのか?」
「ん?角ウサギの縄張りか?角ウサギは巣の周りの大体百メルチくらいだったと思うよ。その中を餌を食べながら見回りしてるんだ。」
百メートルってことか。ウサギにしては広いのかな?地球での野ウサギの縄張りを知らないから何とも言えないな。でもこれだけいるんだからそこらじゅうで小競り合いをしてるってことか?
「じゃあ森の中は大体角ウサギの縄張りがあるってことか?」
「そうだね、でもあたしたち冒険者や狩人が狩るからそんなにいないんじゃないかな。調べたわけじゃないからわかんないけどね。」
「角ウサギは食物連鎖の底辺あたりの動物だよな。そうすると、ゴブリンとかも狩って食べてるの?」
「ゴブリンも角ウサギ狩ってるところを見たことがあるよ。」
ゴブリンも角ウサギを食べるんだったらなんで人間を襲うんだろう?繁殖目当てかな?でも男は食料になるんだよな。うーん。考えてもわかんないなぁ。魔物のことはよくわからん、ということか。
「こういった研究してる人っているのかな。」
「そうだねぇいるとは思うけど、この辺にはいないだろうね。王都にいけばいるんじゃないかな?王都の図書館にいけばそういう書物もあるんじゃないかなぁ。」
王都か。いつかは行ってみたいが、そのうちかな。まずは目の前の依頼を熟さないとだからな。
「いつかは行ってみようか、王都。」
そういえば、この国の名前って何だったかな。セトルの町の名前しか覚えてないや。
「いつかは行ってみたいですね。」
「あたしたちは冒険者なんだから行こうと思えばいつでもいけるよ。王都に行けばたくさんの依頼があるだろうし、行く途中で寄った町や村で依頼をしていけばお金にも困らないだろうしね。」
「タニアは行ったことあるの?」
「ない!」
スレンダーな胸をこれでもかってくらい張って堂々と言ってのける。
「そうだと思ったよ。まあいつかは行くってことで。まずはこの依頼をやっつけてしまおう。」
「はい。頑張りましょう。」
角ウサギの血抜きをしながら、まだ見たこともない王都の話で盛り上がっているとタニアが唇に人差し指を立てて静かにするように促す。
「どうした?」
「静かに!ゴブリンかも。数は…三匹くらいかな?あっち。」
角ウサギをリュックに仕舞い、タニアが指さした方にゆっくり進む。あ、いた。ゴブリンだ。三匹で輪になって何か食べている。
「食事中だな。どうする?」
「あたしが一匹仕留めるよ。ニーナはもう一匹ね。リュウジがもう一匹ね。よし行こう!」
「はい頑張ります!」
「よし、行ってくる。」
剣を抜いて盾を構える。ニーナの呪文の詠唱が聞こえ、タニアの弓がキリキリと引かれていき、一呼吸おいて放たれる。カシュッと音がして矢が僕の横を駆け抜けていったときニーナの魔法も完成した。杖の先に浮かんでいた炎で出来た矢がタニアの弓に一拍遅れて真っ直ぐにゴブリンに向かっていく。それを見てから全力で駆けていく。
タニアの矢は音に気が付いてこっちを見たゴブリンの眉間に突き刺さって仰向けに倒れ、ニーナの炎矢が向こうを向いていたゴブリンの背中に命中し俯せに倒れた。最後の一匹はそれを見て逃げようとしたが、全力で走ったからか何とか間に合って袈裟切りで切り捨てることができた。
「はぁー何とか間に合った。もっと走り込みしないといけないかなぁ。」
走るのってどうやったら早くなるんだろう。地道にトレーニングするしかないか。
「リュウジ、ゴブリン逃がさなくてよかったね。見てて間に合え!って思ったよ。」
「あー、僕もそう思ったよ。こうやっていろんな場面に遭遇すると、あれやろうこれやろうって思うんだよね。とりあえず明日から走って体力つけるよ。」
「私も一緒してもいいですか?体力つけたいので。」
「いいよ。一緒に走ろうか。」
「はい、よろしくお願いします。」
ニーナと一緒なら頑張れるな。楽しみになってきた。
「おー、頑張ってねー。でもこの依頼が終わってからにしようか。」
そうだった。まだ依頼の最中だ、トレーニングは町に帰ってからだな。
「そうだね。もう少し角ウサギを探そう。まだゴブリンがいるかもしれないし、巣の場所も探さないとね。」
「よし、じゃあ出発!」




