第四十七話
五匹のゴブリンの討伐証明部位の耳と魔石を取り出したら森に入った所で穴を掘り焼いて処理する。
「リュウジ、お疲れ。剥ぎ取りありがとね。穴埋めたら拠点に帰って一休みしよう。」
「ああ、タニアにニーナ、いい援護だったよ。こっちこそありがとな。」
「また来るかもしれませんからね。休めるときに休んでおきましょう。」
僕たちは借りた家に戻って鎧を脱がずに休憩している。ニーナもタニアもそんなに疲労はなさそうだ。一番疲れているのが僕かな。汗を拭きながらこの後のことについて話し合う。
「また来るかな?」
「どうでしょうか。一応外を見ていますね。」
ニーナは窓まで行って外を見張っている。僕は、タニアと休憩がてら話の続きだ。
「あたしは今夜あたりまた来ると思うよ。今までは逃げ帰ってきたゴブリンが返ってこなかったんだからもう一回くらい偵察に来そうだろ。」
「あれは偵察だったのかな?ゴブリンってそんなに賢いの?」
「うーん、賢いと言えば賢いんだけど一匹一匹はそうでもないと思う。ただ、上位個体がいる群れになると驚くほど組織立って動くこともあるみたいだよ。」
上位個体か。ホブゴブリンってやつか?
「ホブゴブリンってやつか?」
「ホブゴブリンがいたら、もっと大変なことになってるよ。ゴブリンメイジとかゴブリンソルジャーがいる群れでもある程度組織立って動くって聞いたことがある。」
タニアによると、ホブゴブリンは、ゴブリンが進化して体が二回りぐらい大きくなり、片言ながら人語を話せるくらい賢くなるらしい。ホブゴブリンに進化した個体がいる群れは、こんな村なんて一日でつぶせるくらいの被害を齎す様になるんだって。
ゴブリンメイジは魔法が使えるゴブリンで、ゴブリンソルジャーは武器を使うのが上手いゴブリンのことだ。この二種類のほかにも弓が得意な個体や、槍が得意な個体なんかがいるらしい。こいつらは普通のゴブリンよりも少しだけ頭が良くて、群れのリーダーになって統率をとることが出来る、とのことだ。
「じゃあこれからの動向で群れにリーダーがいるかもしれないってことがわかる?」
「そういうことになるね。でも、そうなるとあたしたちの手には負えないよ。」
メイジとかソルジャーがどれだけ強いのかわからないけど、タニアがいうんだから戦うなんて無謀なんだろうなぁ。
「三対一ならいけるかな?」
「あたしたち三人対ゴブリン役付き一匹だったら何とかなるかもしれないけど、そういうやつは絶対巣から出てこないだろうから、かなり不利な状況でやることになると思うよ。」
「そうなると、やっぱり僕達だけで何とかなるような状況じゃないってことか。」
「そうだねー…そうなったら村の人に町まで報告に行ってもらうしかないかな。まあ、今はゴブリンの数をできるだけ減らすことに専念するのがいいと思う。」
「そうかぁ。ん、分かった。無理はしないってことだね。」
「そうそう。無理はしないよ。」
僕とタニアが話合って方針を決まったころ、窓際で外を警戒していたニーナがゴブリンを見つけた。
「ゴブリンです!森から出てきましたよ。数は五匹です。行きましょう。」
「よし、休憩もできたしもういっちょ頑張るか!」
外に出た僕たちは、村からやや離れたところでゴブリンを迎え撃つ態勢を整えた。僕が一人前に出てニーナたちが後方で先制攻撃と僕の援護だ。先ほどと同じ戦法で行こう。僕がどれだけ上手く複数を処理できるかによるな。頑張ろう。
「さっきと同じ戦法で行こう。じゃ、先制攻撃と援護よろしく!」
この戦闘も十分程で危なげなく終わって良かった。さっきと同じように討伐証明と魔石を取り出し諸々処理して借りた家に帰ってきた。もう日も落ちて青い大きな月のおかげで周りは薄らとだが明かりはいらない程度に見える。これならゴブリンが来ても戦うことができそうだ。
「お疲れさん、二人とも。三回目はあるかな?」
「それはわかんないなー。ありそうだけどね。」
「それはそうと、腹が減ったなぁ。晩御飯にしようか。」
「はい、ちょっと待っててくださいね。今から何か作ります。」
「あたしも手伝うよ。リュウジ、食材出して。」
「はいよ。じゃあ僕は食卓の準備をしてくるよ。」
「ありがとうございます。待っててくださいね。」
今日の晩御飯は、サラダといつもの具だくさんのスープと日持ちする硬めのパンだ。生肉が手に入らないのでいつも同じメニューになってしまうから、味の変化が欲しい。醤油か味噌が欲しいなぁ。ニーナが作ってくれたのは美味しいから好きなんだけど、町で食べたオーク肉のステーキ食べたい。
「ねえ。明日は朝から森の中に入ってみないか?角ウサギでも仕留められないかな?」
僕の提案にタニアが賛同する。タニアも干し肉じゃない肉が食べたいと思ってたみたいだ。
「いいね。そうしようか。あたしも美味い肉が食べたいなって思ってたんだ。でもゴブリンの巣を探しながらね。」
「それじゃあ、今日の順番はどうしますか?また私が最初ですか?」
ゴブリンが出てくるかもしれないので夜も見張りをすることになったんだ。野営とは違うから家の中からでいいんだけど、寝る時間が短くなるのはつらいな。
「ニーナは、魔力の回復を優先してほしいから最初か最後だね。僕が真ん中でタニアが最後かな?」
「今回あたしはそんなに動いてないから真ん中でいいよ。リュウジはゆっくり休んだ方が良いと思う。」
「それは有り難いけど、タニアは大丈夫?」
「あたしは慣れてるから大丈夫。じゃあニーナが最初で次はあたし、最後にリュウジの順番で行こう。」
「わかりました。私からですね。外に行ってきますね。」
ニーナは杖を持って外へ出て行った。そうしたらなぜかタニアも出ていこうとしたので声を掛けようとしたけどあっという間にニーナについて出て行ってしまった。
僕は、声を掛けようとした恰好のまま一人残されてしまったので体を拭いて寝ることにした。
水だと冷たいので水瓶から鍋に半分くらい水を汲んで火にかけてお湯を沸かす。沸かした湯に水を足し適温になったらタオルくらいの大きさの布を浸して絞って体を拭いていく。
「うーん、やっぱり風呂に入りたいな、何とかできないかなぁ。」
体を拭き終わったころにタニアが戻ってきた。
「体拭き終わったの?」
「ああ、タニアもやるなら外に出るぞ。」
「じゃあ、よろしく。」
汚れてない服を着て外に出る。家の前にあるベンチにはニーナが座っていたので隣に座る。
「今タニアが体拭いてるからニーナも行ってくる?その間は変わるよ。」
「いいんですか?行ってきます。実は体がべたついて気持ち悪かったんです。」
笑顔でお礼を言いながら、ニーナは小走りで家の中に入っていった。相当気になってたみたいだ。冒険者とはいえ女の子、気になるだろう。っていうか僕も汗でべたついたままいるのは嫌だ。自分がされて嫌なことは他人にはやらないっていうのを親から言われて四十五年育ってきたからね。
汗を流すと言えば風呂だ。どうにかして風呂に入りたい。石鹸があれば言うことなしだが無くてもいいから風呂に入りたい。でっかい樽なら一人用の風呂くらいの大きさのものがないだろうか。町に帰ったら探してみよう。
そういや石鹸って油と草を燃やした灰から灰汁を取って混ぜたら出来るんだっけ。これも町に帰ったら作ってみるか。
あとは剣の上達だな。毎日じゃないけど素振りはやってるんだが、ちっとも上達したと思えないんだよなぁ。こうやって依頼を受けてゴブリンなんかの魔物と戦っていれば少しづつでも上手くなっていくんだろうか。
皆は無傷は凄いっていうけど、きっと一回でも攻撃を食らうと動けなくなっちゃいそうで怖いから、必死に避けてるだけだ。まだ戦う覚悟が足りないのかな?でもニーナやタニアが傷つくところは見たくないからもっと必死にならないと駄目か。要は精神こころの問題か。幸いにも若返って体は軽く思った以上に動いてくれるからまだまだ頑張れる。まずは足腰と持久力から鍛えるか。
「リュウジさん、ありがとうございました。さっぱりしてきました。ゆっくり休んでくださいね。」
「ああ、おかえりニーナ。じゃあ僕は先に休むね、気を付けてね、お休み。」
「はい、ありがとうございます。おやすみなさい。」
ニーナはにっこり微笑むと小さく手を振って挨拶してくれる。相変わらず綺麗な微笑だなぁ。これを守る為に頑張ろう。部屋に入るとタニアはもう寝ていた。起こさないように自分も床に入り眠りにつく。




