第四十五話
野営地を出発した僕たちは目的地のムサット村を目指してひたすら歩いている。
「しかし、リュウジの持ってた天幕もそうだけど、あの敷物は良かった!何だっけ、エアマット?だったっけ。なあ、リュウジあれ普段も貸してくれないか。宿の寝床でも使いたいんだ。」
「あ、私も貸してほしいです。いいですか?リュウジさん。」
二人ともエアマットが気に入ったみたいだ。宿のベッドは固いからなぁ。あれはほぼ板の上で寝てるのと変わらない。もっと高い宿だとふかふかの布団なんだろうか。
「いいよ。宿のベッドは固いもんなぁ。あれだと起きた時体がバキバキで疲れが取れないよね。」
「そうなんだよ。宿で寝るよりも天幕で寝た方が疲れが取れるって初めての経験だったよ。」
「とてもいい寝心地で疲れが取れました。本当に良かったです。」
「そういえば、寝る場所間違えてたよね、ニーナ。」
僕が言った瞬間、ニーナの顔が真っ赤になりあわあわと慌てだした。
「あ、あの、あれは、そうです、単に間違っただけです。ごめんなさい。」
「いやいや、そんなに一生懸命に謝らなくてもいいよ。ニーナの好きなところで寝ればいいんだからさ。」
そう言った瞬間、真っ赤な顔のまま花が咲いたような笑顔で、
「はい、わかりました!そうします!ありがとう、リュウジさん!」
と言い終わったら前にいるタニアのところに行ってしまった。
そんなに感謝されること言ったかな?でもニーナが嬉しそうだからいいか。ニーナとタニアは何やら二人で盛り上がっている。
歩くこと半日。森が開けて向こうの方に家がたくさん見えてきた。周りをよく見ると畑だったと思われるぐちゃぐちゃに踏み荒らされた跡があるのが分かる。麦が無残な姿になっている。
「これは、畑だったんだな。ひどいことになってる。」
「きっとゴブリンの仕業ですよ。村を襲うときに畑とか関係なく来ますから。」
「あいつらは、見境ないからな。女性も攫って行くんだぞ。数が少ないといいんだけど、数が集まると村人じゃあ手に負えなくなるんだよ。」
あんまり数が多いと僕達でも危ないんじゃないかな?今までは森の中っていう障害物が多いところだったし、一度に戦う数も五匹までだったから何とかなったけど視界の広いところで戦うのはあんまりやったことないから心配だなぁ。
「とりあえず、急ごうか。今は襲われてないみたいだから村長さんの所に行こいう。」
「そうですね急ぎましょうか。話を聞けばどこからゴブリンが来るのかが分かりますから。」
村の前に着くと木でできた柵と入り口があり、入り口の前にはくたびれた感じの男が立っていた。
「止まってくれ。恰好からすると冒険者だな?何しに来たんだ?」
男は防具も何もつけずに粗末な木の槍を持って警備していた。見張り兼門番なんだろう。しかしかなり草臥れている様子だ。
「あたしたちは、ゴブリン討伐の依頼を受けてきたんだ。村長の家はどこにあるんだい?」
タニアが冒険者証を見せながら言ったら、男は力が抜けたみたいで木の槍に体重を預けて大きなため息を吐いた。
「はあああ、やっと、やっと来てくれたか。ありがとうな、お嬢ちゃんたち。早速案内するからついてきてくれ。」
案内してくれた門番の男はガリウという名だった。ガリウによると、ムサット村は周りにある村と比べても大きくはないが小さくもない平均的な村だそうだ。村の中央付近にある村長の家に案内された。
「ここがこの村の村長の家だ。悪いが俺はここまでだ。仕事に戻らないといかんからな。どうかよろしくたのむ。」
そう言いながら村長の家の扉をドンドンと叩いて「おーい村長、冒険者が来てくれたぞー」と声をかけて返事を待たずに門のほうへと戻って行ってしまった。
扉の前で待っていると徐に扉が開き、六十代くらいの男が出てきた。
「はい、お待たせしましたな。この村の村長のラウデントと申します。まあ、まずは中に入ってください。」
村長の案内で家に入り、応接室へ通される。
「こちらでお待ちください。いま飲み物を持ってきます。」
応接室は結構広くて、二十畳くらいありそうだ。家具の類もあまりなく大きめの机と椅子が六脚。窓際には執務机があって村長の仕事部屋を兼用しているみたいだ。
部屋を見回していると、村長がトレーに飲み物を持って入ってきた。
「遠いところをようこそ。改めて自己紹介を。ムサット村の村長をやっとりますラウデントと申します。このたびはわが村から出した依頼を引き受けてくださったようでありがとうございます。」
「これはご丁寧にありがとうござます。僕たちはセトルの町の冒険者でリュウジとニーナ、タニアです。よろしくお願いします。」
紹介に合わせて、二人も会釈する。村長も二人を見ながら会釈している。いい人みたいだな。
早速依頼のことを聞いていくか。
「ゴブリン討伐とのことでしたが、どれくらいの頻度で、どれくらいの数がどこから来るんですか?」
「そうですな、ことは十日前からでした。…」
村長によるとムサット村は、小麦や大麦なんかを栽培して領主に納めていたが、依頼票にもあったように十日前から四~五匹のゴブリンが西の森からやってきて畑を荒らしていたそうだ。最初のころは村人数人で追い返していたが、三日たったころゴブリンの数が八匹に増え、四人の村人と戦闘になったがその時に二人の村人が負傷してしまい、何とか救出できたが怪我が治るまで戦闘に参加できなくなってしまった。
もともと若い男性は村を出て行ってしまい少なくて村に残った男性は、若すぎて戦えないもの(つまり子供だ)か女性と老人が大半だそうだ。だからセトルの町まで行って冒険者組合に依頼を出したみたいだ。
門番をしていたガリウはまだ若いうちに入るみたいだが、どう見ても四十台だ。門番ができるということは、生き残った内の一人かもしれない。もう一人いるはずだが、村長の話には出てこなかった。聞いてみるか。
「門番のガリウさんは、生き残ったうちの一人ですか?もう一人の人は?」
「そうです。ガリウとテリシスは生き残ったほうの二人です。ですが、あれからもゴブリンの襲撃は続いているのでもう二人とも疲労困憊で可哀そうなんですよ。」
「え?二人で追い払っていたんですか?」
八匹ものゴブリンを二人で追い払えるなら僕たち要らない感じがするんだけど…
「いやいや、儂たちみたいな老人も女たちも手伝ってやっとのことで追い払っていたんです。あなた方がもう少し来るのが遅かったらどうなっていたことか。」
「確かにガリウさんの疲労具合は見た目だけでも相当ですもんね。出来る限り頑張りますよ。」
「おお、期待していますよ。リュウジさん方。どうかよろしくお願い致します。宿泊場所はこの家を使ってください。部屋を用意しますので。」
村長に二部屋用意してもらった僕たちは用意してもらった部屋にそれぞれの荷物を置き、ひとまず村の被害を見て回ることにした。
まずはゴブリンがやってくる村の西側に向かう。村は活気がなく静かだ。皆家に閉じこもっているんだろう。静かな村を横切って西側に着いた。
「これは、かなりひどいな。」
「そうですね。入り口側も結構荒らされてましたが、ここはもっとひどくなっていますね。」
「それだけゴブリンたちが襲ってきてるんだな。速く数を減らさないとな。」
村の西側の畑は森を切り開いて作ったのだろう。森との境が近い。境まで百メートルくらいあるがそこまでの間の畑は無残な姿だった。
ゴブリンが来る森との境まで来てみたが、今は何事もないように静かだ。ゴブリンたちが襲って来るのは毎日ではないが、やってくるのは夕方から夜が多いそうだ。ゴブリンは夜行性だったのか?
「ゴブリンって夜行性なの?」
「いや、確か昼間の方が活発だったと思う。」
「そうだよね。セトルの森でも昼に結構いたもんね。こことあっちではなんか違いがあるのかな。」
ゴブリンにも地域性の違いとかあるんだろうか。調べてみると面白いかもね。
「とりあえず下見はこれくらいにして一度帰って装備を付けてから森に入ってみるか?」
「そうしましょう。何か軽く食べてから行ってみましょうか。」
「お、さんせーい。あたしも一日三食が普通になってきてんだよな。リュウジ、バックの中にまだ食べるもんあったっけ?」
「ああ、あったと思うよ。よし軽く食べたら森に入ろうか。」




