第四十一話
二日後の昼前、無事防具を受け取った僕たちは、北門から町を出た。
これから向かうのは、歩いて二日の距離にあるムサットという村だ。歩いて二日だから、一日十時間くらい歩くとして距離にすると八十キロくらいかな。遠いなぁ。途中に村はなく、道中一泊の予定だ。
「この道をずっと行けば着くのか。途中で一泊して次の日の夕方ムサット村に着く予定だね。」
「もうすぐ昼だから歩きながらご飯食べて、暗くなる前に野営する場所を探そう。」
今歩いている周りは結構開けていて一本の道がずっと北の方へ続いている。見える限りの先の方は森の中に道が続いている。街灯もないし町を出ると夜になったら真っ暗だ。これは夜空が綺麗だろうなぁ。
だから、野営するにも日が暮れる前に準備しないと駄目だな。ランタンがあるから夜間も歩けないことはないけど、魔物や動物が活発に活動するから危険なんだそうだ。視界が悪い中で戦闘するのは大変だからね。
「わかった。はい、買ってきた料理で作ったサンドイッチだよ。歩きながらで行儀が悪いけどね。」
この前、自分でも食べたサンドイッチを作って持ってきた。結構美味しく出来たから二人に食べてもらおうと思ったんだ。
「わあ、美味しそうですね。中身は何ですか?」
「角ウサギの串焼き肉と葉物野菜だよ。この間自分でこうやって食べたら美味しかったから作ってきました。」
本当はマスタードかマヨネーズがあればもっと美味しく出来たと思うんだけど、今はこれが精一杯だ。もっと調味料が欲しいなぁ。
「うわ!美味いじゃないか!これ、屋台の料理で作ったんだよな?凄いなリュウジ!」
「本当に美味しいですね。リュウジさん料理できるじゃないですか!」
「いやいや、これは料理とは言わないよ。」
料理っていうのは、もっとこう食材の下拵えからできる人たちが作ったもののことだと思うんだ。
「でも、おいしいって言われるとうれしいね。」
サンドイッチも食べ終えて、ひたすら道を歩く。三人でおしゃべりしながらだったから気が付いたらもう野営地を探さないといけない時間になっていた。辺りはそんなに深くはないが森の中だ。
「タニア、こんなところに野営できるようなところがあるの?」
「道の傍なら馬車が止まれるように開けてるところがあるんだ。そこまで行ければいいんだけど、無理だったら少し森に入って下草を刈って野営場所を作るんだ。誰かが野営した跡があればすぐにわかるよ。」
それはブッシュクラフトだな。僕はやったことがないけど、動画でよく見てた。
ブッシュクラフトっていうのは、なるべくキャンプ道具を使わずにナイフや鉈なんかを使って木を削って道具の代わりを作ったり、森の中にある木の枝や落ち葉、太めの木を使って寝床を作ったりしてキャンプすること、だったかな。要は比較的安全なところでサバイバル術を実践してるみたいなもんだな。
「じゃあ、道沿いの野営地が見つかればそこでいいんだね。見つからなかったら森の中でキャンプか。」
「そうですね。道沿いの野営地が近くにあるといいですね。」
暫く歩くと右側にちょっと開けた場所があった。乗用車だったら五台くらい置けそうなスペースだ。スペースの真ん中より森の側には焚火の跡がある。これが野営地か。
「あ、あったね。ここが野営地だよ。今日はここで野営しよう。期待してるよリュウジ。」
「わかった。準備するから、ちょっと待ってて。」
「何か手伝うことはありますか?」
「まずは、キャンプ道具を出していくからニーナたちは薪を拾ってきて。」
「わかりました。行きましょう、タニアさん。」
「はいよ。じゃあ準備よろしくねー。」
よし、じゃあ使うものを出していこう。
「えーと、テントから出すか。あ、グランドシートも出さなくちゃ。」
テントの形状にもよるけど、底があるテントを立てるときは、地面からの水分でぬれるといけないし、テントの保護にもなるグランドシートを敷いてからその上に立てるといいんだ。僕は厚手のブルーシートを使ってたんだけど、こっちに来た時に材質が変わってるはずだから…あった、これだ。厚手の布に防水加工がしてあるものになってる。
まずテントを立てるところにある小石なんかを拾っておく。それからグランドシートを敷いて、靴を脱いでシートの上を歩いてみて痛くないか確認してから、テントを立てる。これをやっとかないと寝た時や中にいるときに痛いからね。あとグランドシートはテントからはみ出ないようにしとかないと雨が降ったときシートの上に水が溜まってテントが濡れちゃうから、ちゃんとやっとかないと夜の間にそうなったら最悪だぞ。中まで水浸しになっちゃう。
夜の間はきっと一人が見張りで、交代で寝るはずだからテントは三人用のでいいかな。僕は外でもいいからね。三角柱を横倒しにした形のテントを立てる。骨を組み立ててそこにテント本体を紐で吊っていくようになっている。テント本体が形になったら、最後に防水加工がしてあるフライシートを被せて出来上がりだ。この構造のテントはダブルウォールテントっていうんだ。テントが風で飛ばされないようにペグとロープで固定していく。テントだけならここまで三十分程度だ。
「次は、机と椅子だな。よいしょっと。」
横百二十センチ、幅九十センチの机と椅子を三脚出してセッティングする。そして焚火台を出してちょっと離れたところに置く。火の粉が飛ぶから、ちょっと離れたところにしとかないとテントに火の粉が着いて燃えちゃうからね。薪が湿ってると火が付きにくいし中の水分が爆ぜて火の粉が出やすいんだ。あとは買ってきた鍋と持っていた小さい薬缶を出して机の上に置いておく。よしとりあえず設営できた。タープは立てなくてもいいかな?上は木がなくて抜けてるから葉っぱが降って来ることもないだろう。よし完成。テントの中に宿で使っていた革製のマットレスを膨らましてシーツ代わりの布をかけておけば寝床も完成だ。
焚火に火を点けておくか。暗くなってからだと大変だからね。
「薪拾いは大変だからなぁ。僕もやるか。」
薪に火を点けるには、いきなり太い薪を使うんじゃなくて、まずは着火剤を使って火を点けるといいんだ。着火剤って言ってもここにはゼリー状のものや油を染み込ませたものがあるわけじゃないから自然にある燃えやすいものを使う。枯草や松ぼっくり、地面に落ちている枯れた杉の葉なんかが一般的だな。周りを探すと杉の葉っぱに似たものがあったので一掴み分集めて焚火台に入れる。次には細い枝をたくさん用意しておく。
火打石とかだと麻紐を解したものに着火させるんだけど、魔法が使えるようになったからそれで火を点けよう。魔法っていいね!




