第四十話
外套は、古着屋だった。新しいのは高いし固いから馴染ませないといけないみたいで中古の方が良いんだって。メンテナンスは自分で蝋を塗り込めばいいみたい。フード付きの外套を僕とニーナの二人分を購入した。膝下まで丈のあるロングコートだな。結構分厚い生地でしっかりしている。所々ほつれているところがあるが古着なんで許容範囲内だ。みんな自分で補修するらしい。野営の時はこれにくるまって眠るみたいだ。だから生地が厚いのか。でもこれだけにくるまって地面の上で寝ると体がバキバキになるな。
「これで寝るのか。野営が趣味って言った時の二人の反応が理解できたよ。」
「そうだろう?何で好き好んでこんなことを趣味にしてるんだって思ったよ。」
「まあ、僕は色んな道具を持ってるから使うときにきっと驚くぞ。」
「そん時を楽しみにしてるよ。」
タニアはニヤッと笑っておどけて見せる。ニーナは期待した目で見ている。
「楽しみにしてますね!」
「でも、料理は期待するなよ。焼くだけとかなら出来るけどね。」
「料理ならあたしに任せといてくれよ。結構できるよ。」
「私も!私も出来ますよ!料理は任せてください!」
二人とも料理出来るんだな。ニーナは孤児院でやってたらしいから不思議じゃないけど、タニアも出来るんだ。さすが冒険者だなぁ。
「じゃあ、料理は任せるよ。あ、食材も買っとかないと。」
八百屋では葉物野菜、人参なんかの根野菜、豆類やトマトやキュウリみたいなのもあったな、肉屋ではオーク肉の塩漬けや角ウサギの干し肉、塩なんかを買い込んだ。
「胡椒とかって見ないけどやっぱり高いの?」
「胡椒は港町だったらあるよ、たっかいけどね。この辺りの町だったら貴族しか買えない値段なんじゃないかな。あたしも買ったことあるけどこのくらいで銀貨一枚だって言われたから、ここだともっとすると思うよ。」
タニアは指を五ミリくらい開けて見せる。それだと一グラムあるかないかか?それで銀貨一枚って、一万円!?いくら何でもそりゃあないわ。僕なら買わないな。
リュックに入ってるアウトドアスパイスは一キロくらいあるから大事に使おう。塩コショウも三百グラムくらい入った瓶があったな、こっちから使っていこうか。仮に売ったらこの二つでいくらになるんだろうか、想像できないな。
当面の食材を買い込みリュックの中に仕舞って準備は終了だ。あとは依頼を受けるだけだね。泊まり込みってどんな依頼があるんだろうか。
「これで大体のものは買ったかな?忘れ物はないかな?」
「おそらく大丈夫だと思います。新鮮なお肉は現地調達できればってところですね。」
「まあ、あとは実際に野営してみて足りないものを揃えて行けばいいと思うよ。あたしもそうだったからね。」
「泊まり込みの依頼ってどんなのがあるの?」
「よくあるのは護衛依頼です。商隊なんかを護衛する依頼です。他には、ちょっと遠くの村の依頼ですね。組合は大きい町にしかないですから、そこに依頼を出してお願いするんです。」
護衛依頼はまだやれそうにないから村からの依頼かな。あればいいけど。
まだ時間があるので組合に寄って依頼があるか聞いてみようってことになった。
「こんにちはー。あら?リュウジさんたち。こんな時間に珍しいですねぇ。」
「こんにちは、ジェシーナさん。ちょっとお聞きしたいんですが、僕たち野営をする必要がある依頼を受けようと思ってるんですが、何か手頃なのありますか?」
「今からですかー?ありますけど、今からはお勧めしませんねー。」
「あ、今からじゃなくて、二日後です。」
「二日後でしたらリュウジさんたちにちょうどいいのがありますよー。」
見せてくれた依頼は、ここから歩いて二日ほど離れた村のものだった。内容は、ゴブリン討伐。一週間前から村がゴブリンに襲われていて、何とか撃退できているがこのままではそう遠くないうちに持たなくなりそうだから依頼を出したみたいだ。
「この依頼は、一昨日持ってこられたんですけど組合での精査が終わって、明日張り出されることになっているんです。精査は完了してますから安心してくださいね。ちょっとずるいんですけど、お勧めですねー。」
「近くにゴブリンの巣があるんですか?」
「おそらくあると思いますよ。でもー、巣の殲滅はしなくていいですよ。とりあえず数を減らしてもらえればいいと思います。」
「巣を見つけてもそのままでいいんですか?」
「ゴブリンの巣は結構危険なので、リュウジさんたちではまだとっても危ないと思いますよー。見つけても中には入らない方が良いですよ。」
「わかりました。数を減らすことが目的なんですね?どうする、ニーナ、タニア。」
「私は受けてもいいと思います。」
「あたしも賛成だ。無理はしないで数を減らすことに専念しよう。」
二人とも賛成だったな。受けよう。
「でも、出発が二日後になっちゃうんですけどいいんですか。」
「いいですよ。向こうもまだギリギリではないみたいですし、大丈夫だと思われますー。じゃあ受付処理しちゃいますねー。冒険者証を貸してくださいね。」
冒険者証を渡すとジェシーナさんは受付処理をしてくれた。
「はい、受付しました。この用紙は村に着いたら村長さんに見せてください。でー、依頼が完了したら署名をしてもらって、ここに持ってきて提出してくださいねー。」
こういう依頼は初めて受けるからな。いつも受けてる依頼と処理の仕方が違うんだな。
でもこの内容だと向こうで何日か滞在しないといけなくなるな。買い込んだ食材だと足りなくなりそうだから買い足しに行くか。
「ニーナ、今日買った食材だと足りなくなりそうじゃない?」
「向こうで何日か滞在しないといけなくなりそうですね。もう少し買い足しましょうか。」
「でも向こうでの滞在は村長の家でってなることが多いから食べ物なんかはいらないかもね。あたしの経験ではそういうことになる確率が高いと思うよ。」
「それだと、向こうの迷惑になるんじゃない?」
「村なんかが組合に依頼するときは、報酬が少ない代わりに経費が掛からないようになってることが多いから多分間違いないと思うよ。」
「あ、報酬を確認するのを忘れてたよ。どうだったか覚えてる?」
「確か、普通にゴブリン討伐の報酬と銀貨一枚がこの依頼の報酬だったと思います。」
「僕には多いか少ないか分からないなぁ。どう?タニア。」
ゴブリン討伐はどれだけの数がいるか分からないからはっきりしたことが言えないけど、それを引いても銀貨一枚は少ないのかな?うーん、かかる日数が多くなれば単価が下がるからなぁ…確かに少ないかも。
「まあちょっと少ない方だと思うよ。何日かかるか分からないからね。一日いくらって書いてないなら報酬は銀貨一枚、食費宿泊費はかかりませんってとこかな。」
「そうか、少ないのか。でももう受けちゃったからね。受けたからにはしっかりやろうか。」
「はい、もちろんです!」




