第三十八話
よし、これで今日の予定は終わったかな。これからどうしよう……
そうだ。魔法の練習をしよう。早く使えるようになりたいからな。そうと決まればまずは腹ごしらえか。屋台で何か買って宿で食べてそのまま練習しよう。
「おっちゃん、串を三本ください。」
「おう、毎度あり。いつもありがとよ。ほい、銅貨六枚だ。」
最初に寄ったのは、角ウサギの串焼きを売っている屋台だ。ここは依頼の時の昼ご飯用によく使うから顔なじみになった。次はサンドイッチ屋かな。
「おばちゃん、これ下さい。あと、このパンだけって売ってもらえる?」
「はーい毎度ありがとねぇ。パンだけでいいのかい?野菜は買わないのかい?」
「じゃあ、この葉物を少しちょうだい。いくら?」
「銅貨四枚でいいよ。その代わりまた買っておくれよ。」
「また買いに来るよ!」
ここのパンは全粒粉みたいだけど他と比べても柔らかいんだよね。おばちゃんが自分で焼いてるみたいだ。
宿に帰ってきてさっき買ったパンに葉野菜を敷いてその上に塩のきいたウサギ肉の串二本分を乗せてパンで挟んで串を引き抜く。今までやろうと思っててもつい忘れてそのまま食べちゃってたんだよね。よし食べよう。
「うーん、美味しいんだけどなんか一味足りないなぁ。何だろう……あ!マスタードか!」
あとは焼肉のたれみたいなものがあったらいいなぁ。でも胡椒はあっても滅茶苦茶高い世界だから他の香辛料もバカ高いんだろうな。でもマスタードって何から出来てるんだろう。考えたこともなかったからよくわからないな。もっと色んな事に興味を持っておけばよかったか。
兎にも角にもお腹は満足したから、魔法の練習をしよう。
まずは、精神を落ち着けて意識を自分の内側に向かわせる。それから自分の内側にある魔力が分からないと駄目なんだっけ。
「…………。………………………?」
? 今、自分の中に何かあったような気がする。一瞬、何かに触ったみたいな感触があったような?これが魔力かな?
「リュウジさん、いますか?」
何かが分かりかけた時扉がノックされ、ニーナの声がした。
「どうぞー。」
扉を開けてニーナとタニアが入ってくる。二人ともリフレッシュできたみたいだ。表情や雰囲気が柔らかくなってる。
「あ、ごめんなさい。何かしてるところでしたか。」
「ああ、魔法の練習してたんだ。何かあった?」
「邪魔しちゃってごめんなさい。次の依頼のことで相談したかったんです。」
「そのことなんだけどね、剣は新しいのを買ってきたんだけど、盾と他の装備を買ったら三日後までかかるって言われてね。受けるのはそれまで待ってくれないかな。」
「あ、そうなんですね。じゃあ受けるのは三日後で、野営する必要のある依頼でいいんですよね?」
「うん、いいよ。そういう依頼も張りだしてあるの?」
「そうですね。張り出してあるものもありますが、ケイトさんに相談してみてもいいと思うので、そうしようかと思ってます。」
ああ、ケイトさんに吟味してもらった方が良いかもしれないな。明日にでも行ってみた方が良いかな?
「それなら、明日にでも行ってみる?準備もあるだろうし、中身も詳しく聞けたらいいしね。」
「そうしましょう。タニアさんもそれでいいですか?」
「いいよ。三日後だな。それまでは自由にしてていいのか?」
買い出しは僕とニーナがいればいいかな?何か買っておいた方が良い物ってあるだろうか。
「僕とニーナだけで買い出しすればいいかな?なんか買っておいた方が良い物ってある?」
「うーん。リュウジが何持ってるか分からないからはっきりとは言えないんだけど、鍋と火打石、外套と敷布なんかがあればとりあえずはいいと思うぞ。あとは、天幕があればいいんだけどこれはなくてもいい。ナイフと長い編み込んだ紐やハンマーがあれば言うことなしだ。」
言われたものは一通り持ってるな。
「薪は?持って行った方が良い?」
「薪はあればいいけど、基本的には現地調達でいいと思う。」
「それぐらいでいいなら全部持ってるよ。ただ、鍋が一人用で小さいのしかないから買った方が良いかな。あと外套も持ってないな。」
僕はソロキャンプが多かったし、こっちに来た時もソロキャンプの帰りだったから……って前に見た時は持ってきてなかった道具までリュックの中にあったから探せば入ってるかもしれないな。
「じゃあ、明日は組合に行った帰りに鍋と外套を買いに行こうか。」
「わかった。じゃあ僕はまた魔法の練習をするよ。さっきニーナたちが来る前に何かに触れそうだったんだよね。」
「本当ですか!?私も見てていいですか?」
ニーナが見ててくれるなら心強いな。ぜひ見ててもらおう。
「お願いするよ。ぜひ見てて。」
「はい!頑張ってくださいリュウジさん!」
さっきやったように自分の中に意識を向けていく。一回できたからかすぐに同じ感触がする。
「うーん。これが魔力なのかな?自分の中に何かある感じがする。」
「そうです!リュウジさんそれをしっかりと掴んでみてください!」
掴む?どうやって掴めばいいんだろう?フワフワしていて掴み処がないんだけどなぁ。えーっと、砂を集めるように周りから集めてみるか。………お、出来た出来た。じゃあ掴んでみようか。
「できたよ、ニーナ。これからどうすれば?」
「それができたら、体中に循環させるんです。それができれば、魔法が使えるようになりますよ!」
体中に循環?血流みたいなもんか?じゃあこれを心臓まで持ってきて、血流に乗せればいいのかな。よしやってやってみよう。
まず、臍の下あたりにあるこの塊を動かす。む、むむむ。なかなか難しいな。お?動いたぞ!そーっと、そーっと。いい感じだ。っとよし心臓まで持ってこれた。あとは循環させるだけだ。お?おおー!体が温かく感じる。成功したんだろうか。
「どう?ニーナ。出来たと思うんだけど…。」
「待ってくださいね、今見ますから。……あ、出来てますよ!うっすらとですけど体の周りに魔力の靄が見えます!良かったですねリュウジさん!魔法が使えますよ!」
「え?ホントに?やったー!」
やった!魔法が使える!ものすごく嬉しい!あとは何が使えるかだな。
「あの、とても喜んでいるところ申し訳ないんですが、とても薄いので生活魔法ぐらいしか使えないかもしれないです…。」
「それでもいいさ!水が出せたり、火がつけれたりするんだろ?とりあえずは十分だよ!」
使えるなんて思ってなかったからそれだけでも使えるなら有り難いよ。重い水を持ち歩かなくてもいいし、火打石で着火しなくてもいいんだ。荷物が減るし何より僕がワクワクする!
早速ニーナに呪文を教えて貰おう。
「ニーナ、早速着火の呪文を教えてくれないか?」
「いいですよ。呪文は、指先にともれよ炎、点火です。」
指先にともれよ炎、点火ね。よし!やってみよう。人差し指を立てて、指先に魔力が集まるように念じて…
「指先にともれよ炎、点火」
呪文を唱えると指先からちょっと離れたところからライターの火みたいな大きさの炎がでた!できた!
「できた!できたよニーナ!やった、僕にも魔法が使えた…!」
これは滅茶苦茶嬉しいな!水も出してみたい!
「ニーナ、水を出す呪文は?」
「え?えーと、溢れよ水、流水です。」
「わかった。…溢れよ水、流水!」
今度は手で器の形を作って呪文を唱えると、掌から水が出てきた!出てきた水は、手から零れて床に沁みを作っている。凄いなこんなに出せるんだ。零れた量を考えると一回で出せるのは多くても五百㏄くらいかな。魔力を込めるともっと量を出せるんだろうか。時間があるときに実験してみよう。
「リュウジさん、嬉しいのは分かりますけど、あまり使うと魔力が減って気分が悪くなりますよ?」
「あ、そうなの?じゃあこの辺でやめとこうか。ありがとう、ニーナ。」
今日の一番の収穫は魔法が使えるようになったことだな!剣と防具も買ったし有意義な一日だったなぁ。




