第三十六話
夕飯を食べてから宿に帰り、僕の部屋に集まって分配になった。今日の収入は合計で銅貨九百五十四枚だった。内訳は、ゴブリンが十三匹(魔石含む)で銅貨三百六十四枚、薬草が二十束で銅貨二十枚、オークが一匹(魔石含む)で銅貨七十枚に肉の買い取りが銅貨五百枚。計銅貨九百五十四枚だ。オーク肉高ぇ。
銅貨一枚が百円だから、日本円にすると九万五千四百円になる。三人で割ると一人当たり銅貨三百十八枚だ。銀貨三枚と大銅貨一枚に銅貨八枚だった。前に薬草をいっぱい採ったときに匹敵するな。あれは全部でそれくらいだったから、それが一人頭と同じになると凄い額だな。
「なんだかすごい金額になったなぁ。有り難い。」
「本当ですね。嬉しいです。怖かった甲斐がありました。」
「こんなんまだまだだぞ。迷宮に潜ればもっともっと儲かるからな。」
ダンジョンか。いつかは行ってみたいが、僕とニーナにはまだ時期尚早だろうなぁ。
「僕とニーナにはまだ早いだろうなぁ。もうちょっと経験を積まないと駄目だろ?だってまだ野営もしたことないんだぞ。」
「そうですね、今度受ける依頼は野営する必要のあるものを受けてみますか?」
「それもいいね。一回は経験しておかないと駄目だな。」
「あたしが教えてやるよ。じゃあ次の依頼はちょっと遠くに行くんだな。」
野営か。やっと持ってる道具たちの出番だな。楽しみだ。
「道具は僕が持ってるからね。楽しみだなあ。」
「そうでした、リュウジさんの趣味でしたね。期待してますよ。」
「ああ、期待しててよ。でも、明日は休みにしないか?装備の点検をしたいんだ。」
今日の戦闘で盾の損傷が結構あったからなぁ。あとショートソードも砥ぎに出さないといけないし。
「あたしも賛成だ。矢の補充もしたいし、色々買いたいものもあるしね。」
「わかりました。私も魔法の訓練をやりたいです。」
満場一致で明日は休日ということに決まった。さらに頼んでおいたお湯を持ってきてくれたのでこれで解散となった。
今日は休日にしたので朝から装備のメンテナンスに行こう。まずは、ロアンの武器屋からだな。
「こんにちはー。」
「おー、いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」
「ショートソードを研いでもらおうと思って。」
「どれ、ちょっと見せてごらん?…あー、結構戦ったね?」
ロアンさんは剣を受け取ると鞘から抜いて真っ直ぐ立てて眺めたり、刀身を上から下へコンコンと叩いたりしていた。
おお、剣を見ただけでわかるんだ。どんだけ斬ったかな?えーと、ゴブリンを二十匹ぐらいとオーク一匹だったな。
「それは良く使ったね。まだ大丈夫だけど、もう少し使ってたら折れてたかもしれないね。これは新しいもう少し丈夫な奴にするか、打ち直すかかな?まあ、これは初心者用だから耐久力もそれなりなんだよね。どうする?」
そうか、もう駄目になる寸前だったか…この際だから新しいのにするかな。新しい物って聞くだけで嬉しくなってくるからね。
「じゃあ、新しい奴を買います。おすすめはありますか?」
「君は、今の武器の威力や射程に満足してたかい?」
威力と射程かぁ。今のところ威力は足りていたように感じるけど、射程はちょっと短いかな?もう少し遠い間合いまで届くといいなあとは思ったことがあるけど。
「攻撃力に関しては現状不満はないんですが、間合いはもう少し遠くまで届いた方が良いかなと思ったことはありますね。」
「そうなると、もう少し長いロングソードかバスタードソードかな?この二つは両手持ちでも片手持ちでも出来るし、長さもショートソードより二十センタくらい長いから間合いも少し長くなるよ。ただ、柄が長いから扱いがちょっと変わって来るね。」
ショートソードより二十センチ長いならかなり有利になるか。ただ、振り下ろすと刃先が地面にめり込みそうだ。でも二十センチのリーチは魅力的だなぁ。どうしよう?買っちゃうかな?うーん。あ、値段聞いてみよう。
「ロングソードとバスタードソードの値段はいくらですか?」
「ロングソードが大銀貨二枚と銀貨八枚でバスタードソードが大銀貨三枚と銀貨五枚だよ。試しに振ってみるかい?」
「いいんですか?ぜひお願いします。」
ロアンさんはカウンターから出て、陳列棚の方に移動していく。少ししたら二本の一メートルちょっとの剣をちょっと重そうに持ってきた。
「こっちの一メルチちょっとのやつがロングソードで、こっちの一メルチ五十センタのやつがバスタードソードだよ。どっちも重いから気を付けて振ってみてよ。」
「はい、わかりました。」
まずは、ロングソードの方だ。刀身は一メートル十センチくらいかな、重さは二キロあるかないかくらいか。結構重く感じるな。片手で持ってみて振り下ろしてみる。
「うおっと。かなり力が要りますね。重さに振り回されそうだな。」
「そうだね。ショートソードと比べると結構振り回されるだろ。その代わり威力は申し分ないよ。両手で使えばグランドタートルの甲羅も叩き割れるくらいの威力は出るからね。鉄製の鎧なら切れはしないが凹ませて中までダメージが行くよ。」
グランドタートルって陸上の亀のモンスターかな?確かにこの重量をコントロール出来て振り回せれば凄い威力が出せそうだ。
よし、次はバスタードソードだ。こっちの剣はロングソードよりも剣身の幅が一センチ程度広くて長さが三十センチくらい長いし、何より長い分重い。三キロくらいあるんじゃないだろうか。こんなん片手で振れるのか?
「これはまだ扱えないですね。重いです。両手なら行けそうですが、片手だとまだ筋力が足りないですね。」
「そんな感じに見えたね。ロングソードでももうちょっと鍛えてからの方が良いかもしれないね。まあ、買ってそれを使って鍛えるのもいいと思うよ。もっと違うのも見てみるかい?」
「そうですね。ショートソードよりもちょっとだけ長くて重い奴ってあります?」
今の剣よりももう少し、十センチくらい長くて重ければちょうどいい感じになりそうなんだよな。あとはあの二本のどっちかを買うかどうか。予算はあるから迷うなぁ。
「そうだなぁ、あ、あれがあったな。ちょっと待ってて探してくるよ。」
ロアンさんは、そう言いながら店の奥に行ってしまった。僕は、カウンターに置いてあるバスタードソードを手に取り鞘のまま振ってみる。両手で握り剣道の素振りを見よう見まねでやって見たんだが。
「お、重っ!これじゃあ実戦では全く駄目だなぁ。んー、でもこれで毎日素振りすれば振れるようになるかな?やっぱこれ買おうかなぁ。」
「やあ、待たせたね。お?やっぱりそれ買うのかい?」
素振りしていたらロアンさんが奥から出てきた。手には鞘に収まった剣を持っている。
「そうですね。買うかどうか迷ってるんです。今はまだ扱えないんですが、これで訓練すればそのうち出来るようになるのかなって。」
「じゃあ、これを見てから決めてもいいよ。抜いてみてごらん。」
手渡された剣は、今使っているショートソードより少し長くちょっと重い。握りの部分はきっちり革が巻いてあってよく手に馴染む。いいなこれ。
言われた通り鞘から抜くと、刀身が鋼の色ではなく薄く青色で、陽の光を当てると青色が透けるような色に見える。何とも言葉では言い表せない色だ。
「うわぁ、綺麗な色ですね!」
「そいつは、この間君に紹介した友達が作った剣だよ。いい剣ができたって持ってきてくれてしばらく前からあるんだけど、なかなか買ってくれる人がいなくてね。変わった色してるでしょ。材料は魔鋼と何かを混ぜたって言ってたな。魔鋼だけで打ったらこんな色にはならないからね。しかも切れ味は保証するよ。なんたって鉄製の鎧でも切れるらしいからね。一品ものだから値段はちょっと高い金貨一枚だ。」
金貨一枚!百万円相当か…。ガイダークさんの打った剣か。手持ち的には買えるけど、どうしようかなぁ。打ち直すにもお金かかるし、またすぐに折れそうになると嫌だから買うか。
「ロアンさん、打ち直すといくらかかるの?」
「まあ、銀貨一枚と大銅貨五枚ってところかな?今までと同じのを買うよりもちょっと安く上がるね。」
結構かかるんだな。財布には金貨一枚と大銀貨八枚ちょっとあるのか。よし、買っちゃおう。
「じゃあ、それください。」
「毎度あり!金貨一枚だ。いい買い物したな。大事に使ってくれよ。」
今まで使ってたショートソードは引き取ってもらった。引き取り料金はなく、溶かしてまた使うんだって。ちゃんとリサイクルできるんだな。




