第三十三話
「リュウジさん、凄かったです!」
三人で後始末を終わらせた後ニーナとタニアから称賛された。そんなに凄いことしたかな?
「凄いじゃないか!三匹以上を相手に無傷なんてさ!」
無傷?ああそうか、確かにゴブリンから受けた傷はないな。あるのは転がって避けた時に出来た擦り傷だけだ。
「ああ、ありがとう。ヒヤッとした所もあったけど何とかね。ニーナたちも援護ありがとうね。危なくなったら援護があると思ってるから全力で行けるんだよ。」
「リュウジは目がすごくいいみたいだな。しかも思い切りが良いし。じゃないとあんな避け方出来ないよ。あたしでも無理だと思う。」
「ああ、ラルバさんにも目が良いって言われてたし、自分でもめっちゃ感じてるんだ。だからここまで出来るんだと思ってる。」
ほんとに僕の体はどうなっちゃったんだろう。まあそれで救われてるからいいんだけど。今後何か不都合が出てくるかもしれないからよく覚えておこう。
その時、クゥ~~~っていう可愛い?音が聞こえてきた。僕じゃないな。ニーナか?
「ん?お腹すいたか?ニーナ。今何時くらいだ?」
音の聞こえた方を向くとニーナの顔が真っ赤だった。
「え?私ですか?はい……ちょっとお腹すきました。」
「あははっ、あたしもちょっと休憩がてら何か食べたいよ。リュウジ昼ごはん買ってただろ?食べようよ。」
「ここじゃあちょっとあれだから、場所を変えてそこで休憩にするか。それでいい?ニーナ。」
「…はい、お願いします。」
まだ顔が真っ赤なニーナをタニアが揶揄いながら移動する。幸いちょっと歩いたところに小さな川があったのでちょっと狭い河原で昼ごはんにすることができた。
「リュウジさん、あれ出してください!あれ!」
「ん?あれ?……ああ、あれね。」
ニーナが嬉しそうに言うのは、椅子とテーブルだろう。リュックを下し、まず椅子を人数分出す。
「は?椅子?」
ニーナが期待した通りにタニアは驚いていた。テーブルも出したらもっと驚くかな?
「ええ?テーブルまで出てきたって…何でそんなもん持ってんだ?」
「うふふ、リュウジさんは野営が趣味なんですって。変な趣味ですよね?」
驚くタニアと嬉しそうなニーナの二人を見ながら買ってきたものを出していく。
「お待たせ。さあ、食べようか。」
いつものように屋台で買ってきた角ウサギの肉を焼いて野菜と一緒に固めのパンで挟んだサンドイッチと串焼きの肉なんかを取り出していく。汁物がないのが寂しいなぁ。
「はい、いただきましょう。」
「ああ、まあ……よし、食べるか。」
タニアもどうにか自分に折り合いをつけたのか、大人しく椅子に座って食べだした。まあ、追々慣れて行ってもらえればいいか。しかしキャンプってこっちでは理解されないんだ…
買ってきた食べ物が無くなって、お茶を飲みながらこれからどうするか話し合う。
「もっと南の方に行ってみる?どう?ニーナ。」
「そうですね……私は西の方に行ってみたいです。」
「うーん、この辺りにゴブリンの痕跡はなさそうだよ。」
タニアが周りを確認してきてくれた。しかし、ニーナはなんで西の方が良いんだろう?何かあるのかな。
「なんで西なんだ?何かあったっけ?」
「あまり大した理由はないんですが、私もこの辺りから西の方にはあまり行ったことなくて…行ってみたいなって思っただけです。」
「あ、そうなんだ。よし、じゃあ西の方に行ってみようか。タニアもそれでいい?」
「いいよ。ま、何かあったら儲けもんだしね。」
「そうだね。じゃあ片づけてから行こうか。」
片づけるといっても、椅子も机も折りたたんでリュックに仕舞うだけ。装備を確認して出発しようか。
「よし、僕は準備できたよ。」
「私も大丈夫です。タニアさんは?」
「よしっと、お待たせ、準備できたよ。さあもうひと頑張りしましょうか。」
出したものをを片付けて装備を点検し出発だ。目標まであと六匹か。でもまあ固執しないようにしよう。
今の時間は十四時くらいか、そうすると帰りの時間を考えるとあと二時間くらいだな。
「ニーナ、帰る時間を考えるとあと二時間くらいか?」
「はいそうですね。そうしたら進路を北寄りにしましょうか。」
「じゃあ、タニアに言わないと。タニアー!」
先行していたタニアを呼ぶとすぐに戻ってきてくれた。
「なに?なんかあった?」
「ああ、大したことじゃないんだが、帰りのことを考えて進む方向を北寄りにしようかっていう話だよ。」
「もうそんな時間か。分かった。」
森の中だと歩くのにも時間がかかるし、暗くなるのも早い。帰るにはちょっと早めだけどいいか。
暗くなってからの戦闘は慣れてないから避けた方が良いしね。タニアが北寄りに進路を変えてくれたので二人でついていく。
「あ、あんなところに薬草が生えています。採取していきませんか?」
「ん?いいよ。タニアー!」
「またなんかあったか?」
「ニーナが、薬草を見つけたんだ。採ってかないかって。」
「わかった。あたしは周囲を警戒してるからね。二人で採っちゃって。」
「わかりました。さあ、リュウジさんやりましょう。」
ニーナと二人で手早く薬草を採っていく。二十束くらいになった所でタニアが戻ってきた。
「リュウジ、ゴブリンだ。四匹いる。どうする?」
「もちろん倒すよ。ニーナもいい?」
「はい、やりましょう。」
「今回はタニアも剣でやってもらおうかな。いい?タニア。」
「ああいいよ。あたしはどっちをやればいい?」
「僕は真っ直ぐに突っ込むから、タニアは左側にいるのを任せた。ニーナは援護をよろしく。」
タニアは頷いて準備している。ゴブリンは四匹。二匹ずつ受け持てばいいだろう。ニーナは炎矢で援護だ。
「わかりました。二人とも気を付けてくださいね。」
この場にニーナを残し、タニアと二人で先行する。十メートルくらい前方に四匹のゴブリンが見えた。ゴブリンたちは、「ギャギャ」「グギャギャギャッ」と喋りながら何かを探すように動いているように見える。
「何かを探してる?」
「そんな風に見えるな。餌になるような獣でも探してるのかな。」
「でも、随分と警戒してるように見えるよ。どうする?リュウジ。」
「何を探しているのかちょっと気になるが…行くか。」
頷くタニアと共にゴブリンに奇襲する。駆けだした僕の後に続いてタニアもショートソードを提げて駆けてくる。まずは目の前の一匹の首を刎ねる。タニアが予定通り左側にいる一匹に狙いを定めて切り付け、ゴブリンの右腕を切断する。
僕は返す刀で首を飛ばした奴の隣にいるゴブリンの胴体を狙うが、ダガーで弾かれてしまった。
「く!」
剣を上方向へ弾かれたことで体勢が崩れ、右脇が無防備になってしまった。だが、すぐに盾を引き寄せ右脇を庇うとゴブリンの突きが盾で弾かれる。危なかった!
その体勢のまま右足を踏ん張り、左足に重心を移しつつ腰を入れ力を腕まで伝えるようにして、弾かれて上方向に流れていた剣を袈裟切りの要領でゴブリンに叩きつける。左肩から入った剣はゴブリンの腹から抜けた。ゴブリンが絶命したのを確認して、タニアの方を見ると二匹目を倒したところだった。
「タニア、やったな。」
「きゃあぁぁぁぁぁ」




