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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第三十話

「……さっきの戦闘、タニアたちだったら余裕だったんじゃないの?」


「ああ、普通あれぐらいだったら余裕だったさ。でも、あの時は依頼が達成できて油断してたんだろうね。ゴブリンが横合いから突然襲ってきたんだ。」


 話はこうだ。


 セトルの町に着いたタニアは、組合で誘われて一時的にゲルタスたちとパーティを組んだ。ゴブリンの討伐依頼を受け、僕たちが折り返したところよりも奥でゴブリンの群れを見つけて何事もなく依頼を達成したタニアたちは、町への帰路についていたところだった。

 ゲルタスと仲間の弓使い(サーバスっていうらしい)が、町に帰ったらどうのこうのと話していた時に木の陰からゴブリンに突然襲われた。運悪くゲルタスは鎧で覆われていないわき腹から心臓を一突きだったみたいだ。それでゲルタスが倒れて戦闘になったんだけど、木の陰から出てきたゴブリンの数が七匹だとわかったとたんに弓使いのサーバスが逃走したらしい。タニアは必死に反撃して二匹を倒したが多勢に無勢でもう駄目だと思っていたところで僕たちが来たと。間に合ってよかった。


「依頼で倒した討伐証明はサーバスが持って行っちまったし、これはもうゴブリンの苗床確定かと思ってたところでリュウジたちが来てくれたってことさ。ほんとにありがとね。」


 タニアは心底ほっとした表情でお礼を言ってくる。そうだった。女の人はゴブリンに捕まるととんでもないことになるんだった。ほんと間に合ってよかったなぁ。


「タニアさんでもゴブリンが七匹もいると駄目ですか?」


「そうだね。一人だったら間違いなく逃げるね。ああ見えてあいつら結構頭いいからさ、囲まれたりしてやられることも多いからね。」


 二人だとどうしても出来ることに限りが出てくるからなぁ。こんな話を聞くと心配になってしまう。やっぱりパーティ人数を増やした方がいいか。じゃあ早速勧誘してみるか。


「タニアでもそうなんだ。じゃあニーナが狙われると危ないじゃないか。」


「そうだな。こっそり後ろに回り込んだりするから注意しないとヤバいぞ。リュウジだって不意を突かれるとゲルタスみたいに足元掬われるからな。」


 うん、やっぱりタニアがパーティに入ってくれたらいいなぁ。経験豊富そうだし、ちゃんと注意してくれている。よし、それとなくニーナに勧誘するように話を持って行ってみようか。


「そうかぁ。ゴブリンって怖い魔物なんだな。気をつけような、ニーナ。…でも二人だと、なぁ。」


「そうですね。そうなると、パーティメンバーを増やした方がいいんじゃないですか、リュウジさん。」


 ニーナがウィンクしながら聞いてきた。まだ相談してなかったが、やっぱりニーナもメンバーを増やそうと思ってたのか。僕もウィンクを返す。僕とニーナは、とてもいい笑顔でタニアを見つめる。

 するとタニアは、「お?なんだ、メンバー募集中か。ちょうどいいじゃないか、あたしも探してたところなんだ。よろしく頼むよ、な?お前らなら性格もよさそうだし、な?」と揉み手で頼んできた。


「んーどうする、ニーナ。タニアはああいってるぞ?」


「どうしましょうリュウジさん。私はいいと思いますけど…」


 タニアに背を向けてニーナと小声で相談する。まあこれは決まりだろう。タニアは冒険者として先輩になるし、ちょっとだけど話した感じは裏表もなさそうで、明るいからいいと思う。


「あたしが入れば、迷宮探索の時にも罠の発見や解除なんかで有利になるからね。損はないよ。ある程度攻撃にも参加できるしね。どうだい?」


 僕たちがこそこそ話していたからだろうか、さらにアピールしてくる。あんまり焦らしてもかわいそうかな。


「僕もいいよ。実はメンバーについて、ちょうどニーナと相談しようと思ってたところだったんだ。」


「私も異論ありません。よろしくお願いします、タニアさん。」


「よしっ!こっちこそよろしくな!」


 タニアは満面の笑みで拳を突き出してきた。僕とニーナも笑顔でそれに拳を合わせる。


「よろしく、タニア。」


「よろしくお願いします、タニアさん。」


 こうして僕たちのパーティは一人増えた。これでやれることが増えるぞ。

 余談だけど、ニーナのウィンクは破壊力抜群だった。鼻血が出るかと思ったよ。





 組合に帰ってきた僕たちは依頼達成処理と早速パーティメンバーの登録を行い(そういうのがあった)、今は諸々の手続きを済ませたところだ。


 あ、忘れてた。ゲルタスの冒険者証と装備を渡さないと。


 もう一度受付に戻り、ゲルタスの装備(組合内の酒場に置いておいた)と冒険者証をケイトさんに渡して手続きしてもらう。


「承りました。結果が出たらお知らせしますね。こちらが冒険者証分の大銅貨一枚です。」


 この大銅貨一枚はパーティ資金だな。ニーナに渡しておこう。

 今日の報酬は、銀貨一枚と大銅貨五枚、銅貨八枚だった。一人当たり大銅貨七枚と銅貨八枚だ。宿屋三泊分くらいか?そういやタニアはどこに泊まってるんだろう?


「タニアは、どこの宿に泊まってるんだ?」


「あたしは、すぐそこの黄金の翼亭だよ。ニーナたちは?」


「私たちは、ちょっと離れた場所にある緑の憩い亭ってところです。」


「そこは安いの?」


「うーん、安いかどうかは分かりませんが一泊大銅貨二枚ですよ。朝食は銅貨五枚です。ご飯は美味しいです。」


「あたしが泊まってるとこよりも安いじゃないか。宿移るわ。ちょっと待ってて。」


 タニアは、そう言うと走って行ってしまった。まだ緑の憩い亭の部屋が空いてるかどうかわかんないんだけどな。


「行っちゃった。どうするニーナ。部屋って空いてたかな。」


「うふふ、もし空いてなかったら私の部屋で泊まればいいですよ。」


 組合から出て外で待っていると、十五分くらいたってタニアが大きな背嚢を背負って戻ってきた。


「お待たせー。じゃ、いこっか。」


「でっかい荷物だな。持とうか?」


「お?優しいねぇリュウジ。じゃ、お願いね!」


 タニアは、遠慮なく背嚢を渡してくる。重っ!何が入ってんだ?


「にしし、重いだろ?女は荷物が多いからな。冒険者ともなれば色んな道具が要るからな。頑張って持ってよ?」


「おう、任せとけ。ちょっと重いけど、なんてことはないからな。……よっと」


「ニーナちゃん、ポーションありがと。はい。」


「ありがとうございます。」


 タニアはニーナにポーションを返していた。律儀なのはタニアのいいところだな。

 僕はタニアの荷物を背負いなおし、先に行った二人を追って宿屋へ向かう。部屋が空いてることを祈ろう。





「アルテさん、ただいま。」


 ニーナが笑顔で挨拶していた。僕も会釈する。


「まあ、ニーナちゃんにリュウジ君、おかえりなさい。あれ?新しいお客さんかい?」


「こんにちは、タニアっていいます。パーティに入ったんで引っ越してきました。部屋って空いてますか?」


「今ちょうど空いたところだよ。これから部屋の掃除をするからそこらへんで掛けて待っててくれないかい?」


 部屋の準備ができるまで食堂の椅子に座って話すことになった。


 皆が座って一息つくとタニアは心底不思議そうに僕の顔を見ながらしゃべりだした。


「リュウジは、ほんとに冒険者になって一か月たってないのか?」


「ああ、ほんとだよ。まだ三週間くらいだな。」


 しかしまだ一か月も経ってないのに、なんでこんなに戦えてるんだろう。剣道や柔道なんかもやってないし、もちろん人なんか殺したことはない。医療従事者だったから普通の人よりは人の死は身近にあったけどね。それでも自分がこの若さで死ぬとは思ってなかったよ。今は異世界で生きてるけど。


 嫁さんと子供達には悪いことしたなーとは思うが、こればかりはどうにもしようがないし。


 とにかく、こっち(異世界)に来てから、いきなりゴブリンと戦ったけどその時もどうにかなった。なってしまったっていう方が正しいか。どういう訳か動体視力がものすごいことになってるみたいだし、身体も思ってる以上に動いてくれる。これは反則(チート)だな。僕は何も覚えてないが、こっちに来るときに何かがあったと思う。無いと思う方がおかしい。若返ってるし。


「リュウジって何歳なんだ?あたしと一緒くらいだろ?」


「ニーナにも言ったことあるけど、僕は四十五歳だよ。」


「四十五って…何言ってんの?」


 やっぱりそういう反応だよね。自分に年相応の威厳がないのは自覚してるけどさ。


「そうなんですよね。最初にあった時から四十五歳っていうんです。どう見ても二十歳くらいに見えるんですが…」


「そうか……まあ、四十五歳だって言い張っても笑われるだけだから、これからは見た目くらいの十八って言うようにしておこうか。精神年齢はそれくらいかもう少し上だしね。」


 そう、実年齢は四十五歳だけど精神年齢は二十台前半くらいだと思うんだ。精神年齢ってなかなか実年齢に追いついてこないんだよね。男って誰でもそんなもんだと思うんだが。だから思ってるように体が動いてなくて蹴躓いたり、全力で走ると足がついてこなくて転ぶんだよなぁ。


「しておこうかって……見た目通りだし。まあリュウジが良いなら何も言わないけど…」


「タニアはいくつなんだ?」


「あたし?あたしは十八だよ。」


「ニーナも十六だし、タニアも若いなぁ。冒険者って若い人が多いのか?」


「最近は冒険者になる人が多くなってるみたいです。でも一番多いのは商人だと思いますよ。」


「そうだなー、ちょっと前には大きい戦があったみたいだから孤児がいっぱい出たんだ。あたしもそうだしな。ちょうどその辺のやつらが働き口を求めてってのと、腕っぷしが自慢な奴らは冒険者になったみたいだ。あたしがいた港町じゃあ一時新人冒険者が組合から溢れるくらいいたよ。」


 戦争ってあるんだな。あっち(地球)でもあったし、国が複数あれば珍しいもんでもないんだろうが、自分の身近にそういう危険があるかもしれないとなるとちょっと嫌だなぁ。何としても関わらないようにしよう。


「そうなんですか?この町ではそんなことはなかったですよ?あ、アルテさん。」


 部屋の準備ができたのか、アルテさんがやってきた。話の途中だったが切り上げる。


「待たせたね。部屋の掃除が終わったよ。どんだけ泊まるんだい?」


「ん-、ニーナたちはどうしてんの?」


「私は十日分にしています。」


「じゃああたしも十日、朝食付きで。」


「はい毎度。銀貨二枚と大銅貨五枚だよ。」


 こうしてタニアが入った僕たちは新しいパーティで活動することになった。その日の夜はタニアの歓迎会を開いて遅くまで三人で楽しんだよ。

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