第二十八話
あれから暫くゴブリンを探してみたけど見つからなかった。森を歩き回って疲れたし、腹が減ってきたな。ちょっと休憩するか。
「ニーナ、ちょっと休憩しないか?腹も減ったし。」
「いいですよ。私もちょっと疲れました。」
「じゃあそろそろお昼にするか。」
「あっちの方に川がありますよ。そこで休憩にしましょう。」
その川は、僕とニーナが初めて会った川だろうか。森の中で休憩するより周りが開けてた方がいいか。
「じゃあ河原でお昼ご飯にしよう。」
河原に着いたので早速お昼にしよう。リュックの中から椅子二脚とテーブルを取り出す。
「よいしょっと。」
「そんなの持ってたんですか!?凄いですねリュウジさん。」
本当はタープも張りたいんだけど、デイキャンプじゃないし依頼の途中だからやめておこう。椅子とテーブルをささっと組み立てて、町で買ってきた二人分のお昼ご飯と飲み物を取り出す。
「さあ、食べようか。いただきます。」
ニーナも何かつぶやいた後食事を始める。食事の前には必ず何かを言っているが、小さな声だから良く聞こえないんだよな。
食事はそんなに量を買ってこなかったからすぐに終わる。食後にお茶を飲みながらまったりしているとニーナが不思議そうに聞いてきた。
「リュウジさんの背嚢には何が入ってるんですか?こんな立派な家具が出てくるなんて…」
「僕、キャンプが趣味なんだ。あ、キャンプってのは、えーと、野営?そう野営が趣味でね、テントとか天幕とか食器類なんかも入ってるよ。」
キャンプって言ってもニーナには伝わらなかったので、一番近いと思われる野営って言ったら、納得してくれた。
「野営が趣味?変わった趣味ですね…私は今まで一人だったからしたことはないんですが、でも野営が趣味で道具がそろっているなら遠出の依頼も出来ますね。」
そう、今までの依頼はずっと日帰りだった。僕がまだこの世界に慣れてなかったのと、ニーナも気を使ってくれたのか何も言わなかったからだ。これからは選択肢の一つに入れてもいいかな?
「これからは遠出の依頼も選択肢に入れてもいいかな?」
「そうですね……もう少し討伐依頼を熟してからにしましょう。いきなり遠出する依頼は、何を準備していいかよくわからないのでまだ受けなくてもいいと思います。」
「そうだね。焦ってもしょうがないか。じゃあ今後の課題ということにしておこう。そうだ、ゴートランさんとかにどうやって準備しているか聞いてみようか。」
ゴートランさんなら経験豊富だから色々知ってそうだ。ケイトさんに聞いてみてもいいかもしれない。
「よし、休憩終わり。ニーナ、頑張ろうか。」
「はい、あと三匹ですからね。頑張りましょう。」
「ねえニーナ、討伐依頼って、一日で終わらなかったらどうするの?」
「討伐依頼に限った話ではないんですが、採取依頼も含めて町の近くの依頼には三日から一週間くらいの猶予期間がありますから大丈夫ですよ。依頼表にも書いてありますよ?」
「そうなんだ。今度からもっとしっかり見ることにするよ。」
「そうしてくださいね。あまりないことですが依頼表の注意事項を見落として諍いになることもありますから。」
余計なトラブルになることもあるのか。いかんな、僕は昔からこう、ちょっと抜けたところがあるから気を付けよう。
「これからどうしますか?もっと南に行きますか?あまり町から離れると帰りが遅くなってしまいますが。」
「そうだね……この川は南に向かって流れてるんだよね?じゃあ、川沿いにもう少し南に行ってみようか。それから森に入って北に向かって戻ろう。」
川に沿って南に歩く。河原はそんなに広くなく、石がいっぱいあって歩きにくい。
川に沿って見通しはいいが、森から突然襲われる可能性もある。周囲を警戒しながら三十分くらい歩いて森に入って引き返すことにした。
「なかなかいないね。もっとこういっぱいいるかと思ってた。」
「運が良いのか悪いのか分かりませんが、森が静かなことはいいことだと思います。薬草があったら採取していきましょう。」
「この辺りは、ニーナと会ったあの場所からは結構奥の方?」
「そうですね。私たちが会った所はもっと手前ですね。」
「じゃあ、こんなに奥に来たのにいないとなるともっと奥へ行かないといないのかな?」
「ゴブリンの討伐依頼は常時依頼ですから、他の人たちも受けてると思います。だから数が少ないんでしょうか。」
そうか、僕たちのほかにも受けてる人たちがいるから取り合いになってるのか。まあ、焦ってもしょうがないし、のんびりとやるか。
「ニーナ、今日はこの辺で帰ろうか。焦ってもしょうがないしね。」
「ええ、わかりました。……ん?リュウジさんあっちの方から何か音が聞こえませんか?」
北の方を指さしながら耳に手をやるニーナ。僕も耳を澄ましてみると、確かに金属を叩きつける音が聞こえた。
「誰かが戦ってる?」
「そうみたいですね。どうしますか?行ってみますか?」
どうしようか。……行ってみてから決めるか。トラブルは勘弁だけど困ってる人がいたらいたら助けないといけないしな。
「よし、行くだけ行ってみようか。それでどうするか決めよう。」
僕たちは、少しだけ足を速めて音のする方へ向かった。そこには五匹のゴブリンと戦っている一人の盗賊みたいな恰好をした女の子がいた。ちょっと向こうの方には、血だまりの中に倒れてる男がいる。よく見ると盗賊の女の子も傷だらけだ。加勢するか。しかしゴブリンが五匹。気を引き締めていこう。
「ニーナ、助けた方が良いよな?」
「当たり前です!行きますよ!」
「おう!援護よろしく!」
僕は、盾と剣を構えて飛び出す。狙いは女の子の左後方にいる二匹だ。
「そこの子!加勢する!こっちは任せろ、頑張れ!」
女の子がチラとこっちを確認して小さく頷いた後で攻勢に出た。あんなに傷だらけなのに心は折れてないみたいだ。
声を出したことでゴブリンに気づかれた。左のゴブリンがこっちを見ているが、右のやつはまだこっちを向いていない。この好機を逃さず、まずは右の一匹を仕留める。
「ふんっっっ!」
前回のゴブリンとの戦いを思い出してあの時よりも力を込めて。
訓練で教えて貰ったことを思い出して、左足で踏み切り剣を振ると同時に右足を地面に叩きつける感じで振り抜くと思ったよりも軽い手ごたえでゴブリンを袈裟切りに出来た。ゴブリンは血を吹きながら倒れる。
「ギギィ!!」
よしっと思た時、左のゴブリンがダガーで攻撃してきたが、何とか盾で受け止める。盾のある方からの攻撃で良かった。でも、これも訓練でやった通りだ。
「くっ!この!」
反撃しようと思ったらゴブリンは後ろに飛び退いていた。
「炎矢!」
飛び退いた先を読んだのかニーナが魔法を放つと吸い込まれるようにゴブリンの胴体に命中した。ナイスフォローだ!
ゴブリンは少しよろめいたが、まだ動けるみたいだ。僕は一歩踏み込んで首を目掛けて横薙ぎに剣を振る。今までの剣鉈では届かない間合いだったが、ショートソードだとリーチが三倍くらいある。さらに左足で踏み込むことによってさらに攻撃範囲が広がる。だからなのか自分で思ったよりも踏み込んでいたらしく、剣の根元の方でゴブリンに当たってしまった。
手に鈍い衝撃を感じゴブリンは首を半分切られダガーを落とし絶命した。よし次だと思い剣を引き抜こうとしたが、骨に食い込んでしまったらしく抜けなかったのでゴブリンを足で蹴とばして剣を引き抜いた。
「炎矢」
僕がもたついている間に、ニーナの援護が奔る。ニーナの言う通り詠唱がかなり早くなってる。盗賊の子と戦っているゴブリン三匹のうち一番遠くにいるやつを狙ったみたいだ。そいつはこっちに狙いを変更したようで、真新しい剣を振りかぶりながら走ってきた。僕も頑張らねば!
「よしっ!こっちだ!こっちに来い!」
盾を構えて待ち受ける。ちらっと女の子の方を見てみると、一匹のゴブリンを倒したところだった。だけどその様子は、肩で息をして大分辛そうだ。
「ニーナ!こっちはいいからあっちを頼む!」
「はい!」
ニーナに指示を出しながら目の前のゴブリンを迎え撃つ。ゴブリンは助走をつけて上段から切り下してくる。ちょっと怖いが、半歩前に出て盾を剣の軌道上に割り込ませる形で動かし、威力が乗る前に攻撃を弾くことに成功した。攻撃を弾かれたゴブリンが態勢を崩しているうちがチャンスだ。右下から胴体を目掛けて剣を奔らせる。が、狙ったところに当たりはしたが浅かった。弾いた剣が重かったのかゴブリンの態勢の崩れが思っていたよりも大きかったみたいだ。ゴブリンはそのまま後ろ向きに倒れたので止めを刺しに行く。倒れたゴブリンを足で踏みつけ、剣を逆手に持ち替えて心臓を突くとギギィと呻いて動かなくなった。
ニーナと女の子の援護に入ろうと思い振り返ると、女の子がダガーを振り抜いてゴブリンが崩れ落ちるところだった。
「傷は大丈夫かい?僕はリュウジっていうんだ。この子はニーナ。」
「ああ、ありがと。正直もう駄目だと思ってたところだったんだ。あたしは、タニアっていうんだ。」




