第二十七話
朝、宿の食堂で朝食を食べながらニーナと相談して、討伐依頼を受けれるようになったから受けてみようってことになった。
「リュウジさん、剣の練習はいいんですか?」
「ああ、これまでラルバさんに結構見て貰ってるし、自主練習もしてるからいけるとは思うんだよね。まあ、油断はしないようにするよ。」
油断すると魔物角ウサギの時みたいになるからなぁ。これからもあんなことが何回もあるんだろうか。あるんだろうなぁ、冒険者やってれば。せめて準備だけは怠らないようにしよう。
「私も詠唱の時間が短くなりました。前よりも半分くらいの時間で炎矢が打てるようになりましたから。あとは炎球を覚えて、もっと色々な魔法も覚えていきます。」
朝食ー今日の朝食はベーコン入りサラダとパンと目玉焼きだったーも食べ終わり、ニーナと連れ立って組合に行き依頼ボードの討伐依頼の場所を見る。ゴブリンや森狼、オーク等の依頼があった。オークの討伐依頼は倒して報酬が貰えて、さらに肉としての買い取りもあるみたいだった。角ウサギの依頼みたいだ。オーク肉は美味いからなぁ。いつか自分で狩ってバーベキューして食ってみたい。出来るように頑張ろう。
今日は、ゴブリン討伐の依頼を受けることにした。内容は、ゴブリンを五匹以上倒して討伐証明部位を持ってくることだ。一匹に付き銅貨八枚だ。証明部位は確か耳だったような気がする。あ、あと魔石もあったな。
「リュウジさんこれにしましょう。最初はゴブリンがいいと思います。魔石も取れますし。」
「初めてニーナと会った時みたいにうまくいくといいね。」
「あの時よりも装備が良くなってますし、私の魔法も良くなってますからいけますよ。」
「ふふ、自信満々だな。でも気を付けていこうか。」
ゴブリンの良くいる場所は町の南の方にある森の中らしい。南の森はニーナと出会ったところだ。あの時よりももっと奥の方にいるみたいだ。時々街道まで出てきて人を襲うことがあるらしい。どっかに巣があるのかな。ニーナに聞くとゴブリンはここら辺の森にはどこにでもいて、森の中にある洞窟なんかに住み着いていつの間にか増えてるみたいだ。僕が最初に気が付いた森の中よりもう少し奥に行くと結構見つかるみたいだ。
「おお!兄ちゃん、元気になって良かったな!」
早速依頼に向かおうかと思ったら知らない人から声をかけられた。向こうは僕のことを知ってるみたいだ。
「あ、ゴートランさん。あの時はありがとうございました。」
ニーナがお辞儀をしながらお礼を言っている?ゴートラン?……あ!倒れた時の!
「ああ!あなたがゴートランさんですか!僕が倒れた時はありがとうございました。お礼が遅れて申し訳ありません。」
「いいっていって。困ったときはお互い様だろ。有り難く思ってるなら、俺が困ったときにでも力を貸してくれたらいいからな。そん時はよろしくな。」
ゴートランさんは厳つい顔を崩して朗らかに笑いながら肩をバンバン叩いてくる。まだ若い人だな。二十代後半くらいか?随分と気のいい人みたいだ。
「はい、まだまだ微力ですが必ず。」
「ははは、固いなあ!気楽にいこうぜ。だが命だけは大事にな!依頼に行くんだろ?頑張れよ、じゃあな。」
ゴートランさんは、挙げた手をひらひら振りながら依頼ボードの方へ歩いていく。こういう人が同じ冒険者にいると思うと安心感があるな。
「あの人がゴートランさんかぁ。顔は厳ついけど優しそうな人だったな。」
「そうなんです!あの時、リュウジさんが倒れた時もとても頼りになってくれました。」
「お礼が言えて良かったよ。何かあったときは力になれるように頑張ろうか。」
「そうですね、頑張りましょう!」
受けた恩はきっちり返さないとね。いつか力になれるように強くなろう。
「よし、ゴブリンを倒しに行こう。」
「はい!」
冒険者組合を出て門に向かうまでの間にある屋台で弁当用にサンドイッチなどを買い込み、目的地の森の入り口までやってきた。
「ここから森の中に入りましょう。細いですが道があります。」
ニーナに言われてよく見ると、確かに人が通ったような跡がある。
「ほんとだ。ちょっとわかりにくいけど人が通った跡があるね。みんなここから入っていくのか。」
「道はほかにもありますがゴブリン討伐ならここがいいみたいです。」
「そうなんだね。さすがニーナ良く知ってるね。」
「リュウジさんと初めて会った時もこの森だったでしょう?私が冒険者になりたてで、最初に薬草採取依頼を受けた時にケイトさんから町の南の森にあるこの道には入らないようにって言われてたんです。この道を進んでいくとゴブリンが良く目撃されるあたりに行けるんだそうです。」
「よし、じゃあ気を付けていこうか。でもすぐにゴブリンが出てくるわけじゃないんだよね?」
「そうですね、出てくるのはもっと奥の方だと思います。でも角ウサギとかは普通にいますよ。」
「そういえば、狼とか熊はいないの?」
森を進みながらニーナに聞いてみる。熊も狼も出会ったら怖そうだ。
「森狼はゴブリンのいるもっと奥の方ですね。森狼は群れで狩りをするので標的にされると大変みたいです。あとは狸や猪、蛇なんかもいますが人を見るとすぐ逃げちゃいますからあまり気にしなくてもいいですね。蛇なんかは角ウサギの餌になってます。熊もいるみたいですががもっと北の方の山に近いところで見られるみたいです。」
「え、そうなの?あのウサギ蛇食べるの?毒蛇も?」
あのウサギ肉食なんだ…しかも悪食だったなんて。
「そうみたいですよ。あ、この森にはいませんが、気を付けないといけないのがありました。蜘蛛なんかの昆虫です。」
「虫って……人を襲うやつがいるの?」
うわーさすが異世界!僕は虫は平気なんだが、さすがにでかい虫は怖そうだ。蝉とかでかかったら怖いな。
「ええ、主に迷宮とかにいるそうですが、中には私たちよりも大きいのがいるそうです。森にいる種類では巨大蟻なんかが有名ですが、この周辺の森では発見されたことがないそうです。」
「この近辺は初心者向けなんだね。」
「初心…そうですね。この近辺はあまり強い獣や魔物が多くないみたいです。だから鉄級以上になると港町の方へ行くことが多いみたいですよ。あそこには迷宮もいくつかあるみたいですし、いつかは行ってみたいですよね。」
そんな話をしながら森の中を歩くこと暫く。そろそろゴブリンが出没する辺りらしい。
「ゴブリンってやっぱり群れているのか?」
「そうですね。二~三匹で行動してるのが普通みたいです。時には五匹以上で行動している群れもいるみたいです。」
さすがに五匹以上の群れを二人では相手に出来る気がしないな。
「なるべく数の少ない奴を探そう。きっと僕一人では二匹を相手にするのが精一杯だと思う。」
「私も魔法で援護しますが、そうですね……そうしましょう。」
森の中ではショートソードでも振り回すと木に当たりそうだな。横から振るときは気を付けよう。剣が木に食い込んだり当たって折れたらシャレにならんからな。
「でも、こう木がいっぱいあるとやりにくいね。…戦うなら広いところにしないと。」
「都合のいいところがあればいいんですが…思うようにはいきませんね。」
「そうだね。…よかった、二匹か?」
ニーナも気が付いたようだ。前方の少し開けたところに二匹のゴブリンがいた。二匹のゴブリンは手に棍棒を持っている。ゴブリンたちはこちらに背中を向けていてまだこちらには気づいてないみたいだ。僕たちは戦闘態勢を取り、ゆっくり近づいていく。開けたところの少し手前で止まってニーナに魔法の準備をしてもらう。
「ニーナ、左のやつに向かって炎矢を一発撃って。そしたら僕が突撃するから、ここから援護してくれ。」
「はい、わかりました。行きますよ。…万物の根源たる魔素よ 我の意に沿い顕現せしめ矢の形をもってかの敵を撃て 炎矢」
小声で呪文を詠唱し、炎矢を放つニーナ。僕は、それを見てからショートソードを抜き、盾を体の前に構え突撃していく。炎矢はあっという間に左にいたゴブリンの背中から心臓の辺りに命中し貫通した。声もなく倒れるゴブリン。それに遅れること数秒で右のゴブリンに到達した。
ゴブリンは、突然仲間が倒れたことに驚いたのかそっちの方を見た後で僕が接近していたことに気が付いたが、もう目の前だ。僕はゴブリンの首を目掛けてショートソードを振り下ろした。
「はあ!」
ショートソードはゴブリンの背中側から首の骨に当たり、ガツンと固い手ごたえを返しながらも首を飛ばした。
「ふうぅぅ、何とかなったか。」
うまくいって良かった。しかし、魔物とはいえ生き物を切るっていうのはなんて力がいるんだ。まだ手がビリビリと痺れてる。骨って固いんだなぁ。
「やりましたねリュウジさん。討伐証明部位を切り取って魔石を回収しましょう。」
ニーナが木の陰から出て来てゴブリンの耳を切り取っている。
「そうだね。血の匂いで動物や魔物が集まってきたら大変だね。」
僕は、ショートソードを布で拭ってから鞘に納め、剣鉈を取り出しゴブリンの魔石を取り出す。やり方はニーナに教えて貰ったんだ。実際にやるのは初めてだけどね。四苦八苦しながらなんとか魔石を取り出すことができた。
取れるものを取った後は軽く穴を掘って薪を敷き詰め、ニーナの基礎魔法で火を点けて焼いてしまう。
基礎魔法っていうのは生活魔法とも呼ばれていて一番簡単な魔法らしい。指先に火を点ける魔法とか水を出す魔法、そよ風を起こす魔法なんかがあって、呪文の詠唱も短いんだ。例えば点火の魔法は「指先にともれよ炎、点火」だけ。この魔法で薪なんかに火を点けるんだ。
「僕も基礎魔法ぐらい使えるといいんだけどなぁ。」
「練習はしてますか?体の中の魔力が分かれば基礎魔法くらいはすぐに使えるようになりますよ。」
「短い時間だけど寝る前に練習してるよ。でもねぇ、なかなかできないんだよね。」
「すぐには出来ないと思いますよ?地道に頑張りましょう。」
「そうだね。焦ってもダメか。……よし、次に行こうか。」
「まだ二匹ですからね。頑張りましょう。」
ゴブリンを五匹以上だったかな。体感的にはまだ朝九時くらいか?まだ二匹だからな。夕方まで頑張ればいけるかな?いや、無理はしないようにしよう。




