第二十三話
そろそろ日暮れだなと思っていたらドアがノックされたので開けてみるとニーナだった。
「ただいまです、リュウジさん。体調は大丈夫ですか?」
「おかえりニーナ。もう大丈夫だよ。明日は一緒に仕事に行こうか。」
ニーナに部屋に入ってもらう。僕はベッドに座り、ニーナは椅子だ。
「ほんとに大丈夫ですか?リュウジさん、無理してませんか?」
僕が頷くとニーナは訝しげにじーっと見た後、微笑んでくれた。
「わかりました。それでは明日からまた一緒に依頼を受けましょう。でも無理は駄目ですからね。」
「わかったよ。無理はしない。辛かったら言うね。」
「それでは、今日の報酬です。今日は十束の薬草を採取してきたので、大銅貨一枚でした。なので一人銅貨五枚です。」
そういってニーナは律儀に銅貨五枚を渡してくれた。でもこれは貰えないな。
「僕の分はいらないからニーナが貰って。」
「え、でも……」
「だって、僕今日は働いてないからね。それはニーナの報酬だよ。」
「……わかりました。ではこの銅貨はパーティ資金にします。」
「ニーナが良いならそうしよう。明日からしっかり働くからね。じゃあこの話はおしまいにしよう。」
ニーナはちょっと不満そうだったが納得してくれたみたいだ。
「ポーションなんだけど、高いの?」
「前にも話したと思いますが、初級で大銅貨五枚、中級で銀貨一枚と大銅貨五枚です。多少値段の上下はありますが大体それくらいです。今日ポーション買ってきましたよ。はい、リュウジさんの分です。」
バッグから小さなガラス瓶を取り出して渡してくれた。瓶の大きさは十センチくらいで結構厚みがある。中には緑色の少しとろみのある液体が入っていて、コルクみたいな材質で蓋がしてあった。
「え、ほんと?ありがとう。さすがニーナ。へえー、これがポーションかぁ。ガラス瓶なんだね。」
僕は大銅貨五枚をニーナに渡す。これは自分の分だからね。
とりあえず一本だけだけど、これで安心感が増したな。使わないのが一番だけど、この間の魔物化した角ウサギのことを考えるとそうもいかないだろうな。
「袋に一纏めにしておくと割れちゃいそうだね。ウェストポーチにしまっとけばいいか。」
「確かにガラス瓶なのでいろいろなものと一緒だと割 れやすいですね。なのでベルト型の収納道具がありますよ。それを使うとすぐに取り出せて使えますから。便利だそうですよ。」
「ほほう。それはそのうち欲しいかも。まあ今はこれでいいや。」
「うふふ、そうですね。まずはリュウジさんの盾を買いましょう。明日行きますか?」
「いや、明日は薬草を採りに行こう。薬草のほかには採取依頼ってあるの?」
薬草ばっかり取ってたらなくなっちゃいそうだからな。解毒草とか下痢止めの草とかあるんだろうか。
「ありますよ。毒消し草や麻痺を治すものとかが有名です。この辺でもありますが、薬草より少なくて大して取れないんです。ただその分報酬が高いんですが、最終的には薬草の方がお得ですね。」
「そうか、ま、明日組合で依頼板で何かいい依頼がないか見てみよう。」
翌日、冒険者組合で依頼を見てみたけど薬草採取以外は僕たちにできるめぼしいものがなかった。ゴブリンとかの討伐依頼はまだ許可が出てないし、二、三匹ならともかく大量に出てきたら対処できる自信がない。
魔物化した猪は討伐されたらしく、角ウサギの依頼も終了していた。
「角ウサギの依頼は終わっちゃったんだね。報酬が良かったから残念だね。」
「そうですね。昨日退治できたって言ってましたよ。でも角ウサギは普通でも結構高値で買い取ってもらえるので見つけたら積極的に狩りましょう。」
「うん、そうだね。地道に頑張るしかないしね。」
「はい、頑張りましょう。」
「じゃあ、今日も薬草を採りに行こう。」
お昼過ぎに町に帰ってきた。今日の成果は、薬草二十三束、角ウサギ一匹、毒消し草五束だった。
毒消し草は、ヨモギみたいな形の葉で、葉の大きさは手のひら大だから十センチくらい。一本の茎は十センチで葉も合わせたら全長二十センチくらい、茎一本に一枚の葉で、一つの株は十本くらいの茎からできていた。薬草みたいに群生してなくて、ポツンと生えてるからよく見ていないと見逃がしちゃう。今日は、運よく二株見つけることができた。
アッシュ爺に買取してもらい、全部で大銅貨五枚と銅貨一枚だったので、一人当たり大銅貨二枚と銅貨五枚、パーティ資金は銅貨一枚だった。
組合の酒場で軽食を食べて、午後からは訓練だ。今日は盾の使い方も教えて貰うことにした。訓練官はまたラルバさんだった。
ニーナも魔法の訓練をするみたい。訓練場の離れたところで教えて貰ってるみたいだ。
「おう、リュウジ災難だったな。よく生きて帰ってきた。しかし、角ウサギの魔物化したやつか。どうだった?」
ラルバさんは嬉しそうに笑いながら肩を叩いて褒めてくれた。
「はい、とにかく素早かったですね。攻撃が直線的だったので何とかなりましたが、とにかく自分の攻撃が当たりませんでした。」
「そうか。角ウサギは普通の個体でも突撃が厄介だからな。魔物化したらとんでもなかっただろ?俺も若いころにやったことがあるが、あんときは苦労したぜ。」
「ラルバさんでもですか?僕、よく倒せたな。」
「やっぱり見どころあるぜ、お前。さて今日は盾の訓練だったな。」
「はい。あの時盾があればもっと有利に戦えたんじゃないかと思って。」
言いながら壁に立てかけてある直径八十センチくらいの盾を見せてくれた。他にも三十センチくらいのものや凧みたいな四角い大きい盾、長さが一メートルくらいの涙滴型の盾なんかがあった。
「これは円盾だ。一番使われているな。こいつは木製だが革製のものや金属製のものもある。よく使われているのが革製と木製だな。利点は軽くて安いことだ。盾は消耗品だから安いのはいいことだぞ。欠点は耐久性が低いことだな。剣であれば攻撃を二、三回受けると使い物にならなくなる。ただ、壊れやすいのは悪いことだけじゃないぞ。相手の武器を受け止めた際、武器が盾に食い込むことがある。そうなれば攻撃手段を奪うことができるし反撃のチャンスになる。まあこっちの盾も使えなくなるんだがな。」
「なるほど。僕が思ってた使い方とちょっと違うんですね。盾は攻撃を弾くものだと思ってました。」
「ああ、その認識も間違いではないぞ。それは金属製の盾の時だな。ただこいつは重いんだ。動きが限定されちまうから冒険者でも前衛の重装備の盾役の装備だな。そういうやつはこっちの方形盾をよく使っているが、お前には向いてないだろう。」
「そうですね。僕には円盾がよさそうですね。」
僕は円盾を装備してみる。盾の裏側の真ん中に持ち手があって、その隣の革のベルトで腕に固定するみたいだ。装備してみると盾の半径は僕の肘よりも少し長いくらいだった。
「装備したら盾を胸の前に持って行ってみろ。そうだ。それが基本の姿勢だ。そうすると顔の下から腹までが隠れるだろ?そうすると相手は、足か肩か頭を狙うしかなくなるんだ。ちょっと盾を動かせば攻撃のほとんどを防げるぞ。」
本当だ。この防御範囲は大きいな。僕が思ってた使い方は盾を前に出して半身になって構える格好だったけどそうじゃないんだな。聞いてみようか。
「あの、こういう構え方では駄目なんですか?」
盾を持った左腕を前に出して半身で構えてみる。
「ああそういった構えを取るんだったら違う盾を使った方がいいぞ。円盾でそれをやると攻撃されたときに肩が外れるか肘が壊れて腕が使いもんにならなくなるぞ。その構えだったらこいつだ。」
ラルバさんがそういって渡してくれたのは、直径三十センチくらいの鍋の蓋みたいな盾だった。表側は真ん中が鉄製で盛り上がっていて半円形になっている。周りは木製だ。裏側は、持ち手があるだけ。
「こいつは、手に持って盾を前に突き出して使うんだ。小さいと思うだろうが前に出されたら結構邪魔だぞ。ほれどうだ。」
僕の前に出された盾は結構大きく見えて言われた通りに邪魔だった。これはやりにくい。
「確かに邪魔ですね。やりにくいです。」
「そうだろ?しかもこいつはこのまま殴ることもできる。人相手には有効だな。ただ動物や魔物にはどうだろうな。使えんことはないがちょっと小さいと思うぞ。」
やっぱり使うなら円盾だな。この盾にショートソードがいい。ちょっと長めのやつがいいかな。
「使うのはこの円盾が良いです。」
「そうだな、お前は円盾にショートソードか、バスタードソードが良いと思うぞ。じゃあ実際に使ってみるか。」
それから二時間ぐらい訓練してもらった。盾の使い方は大体覚えたが、これも普段から練習しないといけないな。普段は使わない筋肉を使ったのでもうへとへとだ。明日は筋肉痛がひどそうだ。ラルバさんにお礼を言って終わろう。
「ラルバさん、ありがとうございました。また訓練してください。」
「お疲れさんだったな。いつ来てもいいぞ、暇なときはいくらでも付き合ってやるからな。」
ラルバさんも結構動いていたのに息切れ一つしないんだ。体力もつけなきゃな。
ニーナの訓練も終わったかな。見に行ってみよう。訓練用の盾と剣を片付けてから魔法の訓練をしている場所に行ってみるとちょうど終わった所だった。
「ニーナ、お疲れさま。どうだった。」
「あ、リュウジさんも終わったんですね。すぐには効果は出ないんですが、色々なコツを教えて貰いました。あとは練習あるのみです。」
ニーナは、疲れているんだろうがとてもやる気に満ちていた。なにか手ごたえがあったんだろう。
「いまからの予定はある?僕は盾を見に行きたいんだ。またあの防具屋に行こう。」
「いいですよ。行きましょう。」
盾って高いのかなあ。買えるといいんだけど。




