第二十一話
「リュウジさん持ってきましたよ。どうすればいいですか?」
リュウジさんが背嚢から水筒と綺麗な厚手の布を取り出しました。傷口を水で洗って厚手の布--リュウジさんはタオルと言っていました--を傷口にあてようとします。ああ、そのままではいけません。薬草を塗らないと!
「リュウジさん、ちょっと待ってください。薬草をすり潰したものを塗ります。塗っておくと傷が早く治るんですよ。」
薬草は治癒ポーションの原料です。ポーションは高いので持っていませんが、薬草は少し持っていくようにしています。石ですり潰したものを塗っておけば傷の治りが早くなります。リュウジさんとポーションの話になり、これからは一人一個持っておくことになりました。高いものですが命には代えられません。
ポーションや神聖魔法など色々話しましたが、取り敢えずはリュウジさんの防具を拡充するため、盾を購入することにしました。
暫く休憩して、リュウジさんが杖を突きながらですが歩けるようになったので町に帰ります。
町に着く前にリュウジさんの背嚢から角ウサギを取り出して私が持ちます。ここまで来るのにもかなり辛そうでしたが、何とか冒険者組合まで来ることができました。組合に入るとリュウジさんが
「ニーナ、ちょっときついんであっちで座っててもいい?」と聞いてきたので酒場の机まで一緒に行きました。
「いいですよ。報告は私がしてきますから休んでいてください。」
私が報告のために受付に行ってケイトさんにあいさつした時でした。酒場の方からドサッと何かが落ちる音が聞こえました。音のした方を見るとリュウジさんが椅子から落ちて床に倒れていました。
「リュウジさん!」
リュウジさんが倒れている!?何で?さっきまで喋ってたのに。私は持っていた袋をその場に取り落とし、駆け寄りました。
「リュウジさん!大丈夫ですか!リュウジさん!」
涙が溢れてきます。でも泣いている場合じゃありません。リュウジさんの体に触るとすごい熱でした。息はしているので気を失っているだけみたいです。
「おい、どうした嬢ちゃん。ん?その兄ちゃん大丈夫か?」
「ゴートランさん!リュウジさんが倒れてしまいました!どうしたらいいですか!」
近くに座っていた鉄級冒険者のゴートランさんが声をかけてきてくれました。気が動転していた私はおろおろするだけでしたが、ゴートランさんは仲間の人たちに一言言ってから、私にはケイトさんを呼んでくるように言いました。
「嬢ちゃん落ち着け。息はしてるんだな?じゃあひとまず安心だ。見たところ腹の傷からの出血で気を失ったんだろう。嬢ちゃんはケイトさんを呼んできな。この兄ちゃんは見ててやるからよ。」
「は、はい、わかりました。呼んできます!」
私は急いでケイトさんのいる受付まで行こうとしましたが、その時には私が落とした袋を他の職員に預けたケイトさんがこっちに来ていました。
「ニーナさん落ち着いてください。リュウジさんを救護室に連れていきましょう。ゴートランさん、手伝って下さいね?」
「おう、わかってるよ。手前ら板もってこい。こいつ救護室まで運ぶぞ。」
私が何もできない間にゴートランさんとケイトさんで物事がてきぱきと進んでいきました。リュウジさんを救護室のベッドに寝かせたらゴートランさんは、ここで終わりとばかりに手をヒラヒラと振って出て行ってしまいます。私は慌ててお礼を言いました。
「ゴートランさんありがとうございました!」
「嬢ちゃんも気をつけろよ。冒険者は簡単に死んじまうからな。」
ゴートランさんを見送るとケイトさんから聞かれました。
「ニーナさん、リュウジさんは何故こんな怪我を?」
「はい、さっき報告をしようと思ったんですが、私たちは角ウサギの依頼を受けて北の森に行きました。そこで一回り大きな角ウサギと戦闘になりました。魔物化した角ウサギだと思わなくて、大変でしたけど何とか倒しました。その戦闘の時に角ウサギの攻撃を受けてあのお腹の怪我を負ってしまったんです。薬草をすり潰したものを塗って歩けるようになったので帰ることにしましたが、もしかしたら町に帰って来るまでにまた具合が悪くなっていたのかもしれません。どうしましょうケイトさん、リュウジさんが死んでしまったら!」
話しながらどんどん悪い方向に考えが行ってしまいます。ケイトさんはおろおろしている私を落ち着かせるように両肩に手を置いて諭してくれました。
「落ち着いてください。治癒ポーションも使いましたし、今のリュウジさんを見ている限り大丈夫だと思いますよ。組合の職員も見ていますので依頼の処理をしてしまいましょう。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「それと、治療で使用した物品は実費で請求されるので注意してください。今日はまだ請求されませんが明日以降、リュウジさんが回復したら請求されると思います。」
ケイトさんと一緒に受付まで戻ると依頼完了の処理をしてもらい、アッシュさんに買い取りをお願いして、すぐに救護室へ向かいました。リュウジさんは幾分か落ち着いた様子で寝ていました。
「リュウジさん……良かった。落ち着いてますね。でもまだ熱は下がってないですね。」
リュウジさんの額に手を当てて熱を確認した私は、職員さんに会釈して部屋を出て、ケイトさんの所まで戻ってきました。
「あ、ニーナさん。査定が終わったみたいですよ。アッシュさんの所へ行ってください。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
私は、言われた通りにアッシュさんの所に行きます。カウンターに着くとアッシュさんも心配そうな顔で迎えてくれました。
「おう、ニーナちゃん、大変だったな。リュウジは大丈夫なのか?」
「はい、今のところ落ち着いているみたいです。ポーションも使ってもらいましたし怪我は良くなっていました。」
「そうかい、それは良かった。それはそうと買い取りだ。普通の角ウサギが二匹で大銅貨七枚だな。そんで問題のでかい角ウサギだが、体の中から魔石が出てきたぞ。魔物化した角ウサギだったな。これは銀貨二枚だ。あと魔石は、大銅貨八枚で買い取ろう。よく頑張ったな。」
「……ありがとうございます。でも一番頑張ったのは、リュウジさんです。私は止めの時しか炎矢を当てることができなかったんです。」
「そうか。じゃあニーナちゃんももっと頑張らんとな。」
「はい、もっともっと魔法を使いこなせるように練習しようと思います。」
それから救護室へ寄ってリュウジさんの様子を見てから宿に帰りました。本当は傍で看病したかったんですが、ケイトさんや職員の人たちに「あなたも疲れているんだからしっかり休みなさい」と断られてしまいました。
夕飯を食べてから宿に帰り、ベッドに入って今日の戦闘を思い出していました。リュウジさんは凄かったです。ほとんど一人で戦っていました。私の魔法ではあの角ウサギの速度に全くついていけていませんでした。私の実力では全く足りていないんでしょう。もっと早く魔法を撃てるようになればいいのです。
そうです!落ち込んでいる暇はないですね。明日から詠唱の練習を今までよりももっと真剣にやりましょう。今までよりももっとです。リュウジさんだって剣の訓練を頑張っているんですから私も頑張ります!




