第二十話
町に帰ってきて、薬草の納品と角ウサギの買い取り価格が良くてとても嬉しかったです!リュウジさんに半分渡しましたが一人当たり銀貨二枚なんて今までで初めてのことです。
それから組合で軽食を食べたらリュウジさんの訓練の時間になり、見学したかったのでリュウジさんにお願いして見せてもらうことになりました。
最初はラルバさんに色々教えてもらっていてもなんだかぎこちなかったリュウジさんでしたが、徐々に動きが洗練されていったようでした。昔見たカイト兄よりも格好よく見えました。
訓練は一刻程で終了になり、リュウジさんの希望で緑の恵み亭に行くことになりました。オーク肉は美味しいですからね。
次の日組合に行くと角ウサギの依頼が出ていました。しかも報酬がかなり良いのです。何か理由があるかと思いケイトさんに聞いたところでは、南の森に魔物化した大きな猪が出たそうです。木の矢では歯が立たず鉄の矢よりも安くて手に入りやすい角ウサギの鏃が必要みたいです。角ウサギの角は削るとかなり鋭く出来るみたいです。角ウサギの突撃がまともに当たると薄い革鎧とかだと角の根元まで突き刺さるそうですからその硬さと鋭さがよくわかると思います。
角ウサギの依頼を受けた私たちは、町の北にある森に行くことにしました。薬草はまだ伸び切っていないかもしれないんですが、角ウサギは結構いるはずです。
北の森の薬草はやはりまだ伸び切っていませんでしたが、近くの茂みから出てきた角ウサギをリュウジさんがダガーを持っていた手で狩っちゃいました。手で、ですよ?あまりの痛さにダガーを落としてしまっていましたが、地面に叩きつけられた角ウサギは背骨を折られて死んでいました。でもリュウジさんの手は大丈夫でした。しっかり握っていたからですかね?
これで角ウサギ一匹確保です。ここはまだ薬草が採れなかったので、違う場所に行くことにしました。次に向かうところは採れると思います。
次の群生地に着いたのですが、残念ながら辺り一面採りつくされていました。まあこんなこともありますとちょっとがっかりしているとリュウジさんが角ウサギは動物か?と聞いてきました。
「ニーナ、角ウサギって魔物?それとも動物?」
「動物ですよ。魔物は、体のどこかに魔石があります。大体は心臓の近くですね。」
「朝、組合で聞いた猪の話はどういうこと?元は動物だったんでしょ。」
「私も聞いた話なんですが、森の中や洞窟なんかには魔力溜まりができることがあるみたいなんです。そこに動物が留まっていると魔物化することがあるみたいです。」
「へぇー、そうなんだ。魔力溜まりって見えたり、近づくとなんか変な感じがしたりするの?」
「魔力溜まりは基本的には見えないそうです。でも、魔法使いの人には分かりますよ。近くにあると肌がピリピリした感じがします。私にもわかると思います。」
魔力溜まりは目には見えません。普通の人が気が付かずに長時間その場にいると何かしら影響があるみたいです。気分が悪くなったり、イライラして喧嘩が始まったりするそうです。でも人間が魔物化したとは聞いたことはありません。
「そんな感じなんだね。じゃあ、この森に魔力溜まりがあれば角ウサギの魔物化もあるってことか。魔物化すると何か変化するのかな?」
「一番大きな変化は、体が大きくなるみたいです。あとは力が強くなったり、中には魔法を使うことができる魔物もいるみたいです。」
「うへー、そんなのには会いたくないなあ。もっと強くなってからなら考えなくもないけど…」
「そうですね。私も会いたくはありません。見かけたら逃げます!」
この時は、あんなことになるとは思いませんでした。
それからさらに角ウサギを一匹私が仕留めました。運良く杖で一撃でした。リュウジさんに褒められてとても嬉しかったです!
森の中に少し開けた場所があったので休憩することにしました。リュウジさんは背嚢から何か食べるものを取り出して食べていました。サクサクと音のする変わった食べ物です。リュウジさんを見ていたら大きな角ウサギがいると言われたので見てみると、普通より一回りちょっと大きな角ウサギがいました。
さっきの魔物化の話を思い出しましたが、ただの個体差だと思って狩ることにしました。
私たちは油断せずに態勢を整えています。私の二歩分前にはリュウジさんの背中が見えます。このままでは角ウサギの姿が見えないので少し位置をずらした時でした。リュウジさんが動いたと思ったら、白い塊が私の横を凄い速さで通り過ぎていきました。
「ニーナ大丈夫!?こいつめっちゃ速いぞ!」
「はいっ、何とか躱せました。でも凄く速いですね!本当に、さっき話していた魔物化した個体かもしれません。」
角ウサギが私の後ろに行ったので、リュウジさんは私の前に出てくれました。
「魔物化した個体か。どうする?逃げる?」
「逃げるにしてももう見つかっていますし、攻撃する気満々ですよ、あれ。」
「だよねぇ。よしいっちょ気合れますか!うおっと!」
また角ウサギが飛んできました。リュウジさんでも避けるので必死みたいです。
「頑張ってください!リュウジさん!」
「ニーナも攻撃してよ!?僕じゃ、避けることしかできないよ!」
「わかってます!魔法で攻撃しますから、引き付けていてください!」
角ウサギの攻撃対象はどうやらリュウジさんみたいです。私の方には突撃してきません。それなら少し離れて魔法の詠唱をしましょう。
「ニーナ、次にウサギが攻撃した後を狙って!」
リュウジさんの意図は分かっています。リュウジさんが避けた後、角ウサギが着地した所を狙います。
「万物の根源たる魔素よ 我の意に沿い顕現せしめ矢の形をもってかの敵を撃て 炎矢!」
角ウサギが着地した所を狙って炎矢を撃ちます。炎矢の速度は弓矢と同じか少し早いくらいだといわれています。その炎矢を避けますか!これは間違いなく魔物化した個体でしょう。私は、もう一度詠唱に入ります。
「もう一度行きます!」
この詠唱の時間がとてももどかしいです!リュウジさんが懸命に戦っているのに、私の魔法は援護にすらなっていません!
「頼んだ!僕は何とか攻撃を当てる!」
私が詠唱に入った時でした。角ウサギがものすごい速さで突撃してきて、リュウジさんがダガーを突き出したのは見えました。私は瞬きしたのでしょうか。次に見えたのはダガーを弾かれた態勢のリュウジさんとその胴体辺りから血飛沫と一緒に出てきた角ウサギでした。
「大丈夫ですか!?リュウジさん!」
私は詠唱を中断し、リュウジさんに駆け寄ろうとしましたが、止められます。
「大丈夫だ!ちょっと痛いけど、まだいける!ニーナは魔法を何とか当ててくれ!」
本当に大丈夫なんでしょうか。あの傷はちょっと痛いでは済まないと思いますが、リュウジさんを信じて詠唱を再開します。次は必ず当てます!
私が詠唱をしている間にもう一度角ウサギが突撃してきました。リュウジさんは凄く集中しているように見え、突きではなくダガーを振りかぶりました。
「うおおおぉぉぉりゃあぁぁぁ!」
リュウジさんが吠えました。凄い気迫です。そして私の詠唱も完了しています。
「ニーナ!」
「炎矢!」
角ウサギの耳が飛んだのが見え、やった!と思ったらなんと!角ウサギは着地しました。まだ生きてる!と思い魔法を放ちました。炎矢は角ウサギの胴体に突き刺さり、やっと動かなくなりました。
「やったな!ニーナ! あいたたたた。」
そうだ!リュウジさん!蹲った格好でお腹に当てた手からは血が滴っています。
「リュウジさん!?傷見せてください!」
「ニーナ、水筒と綺麗な布を出すから処置を手伝ってくれないか?いてててて。」
「ああっ!結構な傷ですから動いたら駄目ですよ!そこで待っててください。私が背嚢を持ってきます。」
慌ててリュウジさんの背嚢を取ってきます。




