第二話
生水はそのまま飲んではいけませんね。ご指摘ありがとうございます。変更しました。
森の中を体感で二十分ほど歩くと水の流れる音が聞こえてきた。
「川か? そういえばのどが渇いたな、ありがたい。」
少し早足になって歩いていくと、小川があった。
「よし、ここでちょっと休憩しよう。」
手近なところに座るのにちょうどいい岩があったので腰掛けて、リュックからコップを取り出す。
「アルミのコップだったけど、やっぱり材質が変わってるな。金属だけどなんだろう?見たことがないな。 まあ、あんまり気にしてもしょうがないか。使えればいいや。」
岩から降りて小川からコップで水をすくう。きれいな水に見える。でも生水は飲むとお腹壊すんだよな。確実を期すなら煮沸してからがいいんだけどすぐに飲みたいなぁ。確か簡易型の浄水器があったはずだから…リュックに手を突っ込んで浄水器と念じる。よしあった。使ってみよう。コップに汲んだ水を浄水器を通してひと口含んでみる。美味い!一気に飲む。あまりに美味かったので三杯も飲んでしまった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
そうして暫く休憩していると、川下の方から悲鳴が聞こえてきた。
「悲鳴?人がいるのか? よし行ってみるか。」
リュックを背負い、腰に剣鉈があることを確認し川下に向かって小走りで走り出す。
少し行くと前から背の低い女の子が駆けてきた。
「あああ、よかった! 人がいる! 助けてください!」
右手に身長より少し短い杖を持ち、服装は生地の厚そうなワンピース?ローブ?みたいなものを着ている。
ゲームでよくある魔法使いみたいな格好だな。
「助けてください!ゴブリンが!私まだ死にたくありません!」
「ええ? ゴブリン?」
きょとんとして女の子が走ってきた方を見ると、小学生高学年くらいの身長の緑色の肌をしたがりがりの人?が二人走ってくるのが見えた。彼らは、三メートルくらい手前で立ち止まると、ギィギィと鳴きながら石を投げてきた。
「うわっ あぶねぇ」
飛んできた石を避けて、腰に吊ってあった剣鉈を抜く。剣鉈を構えたのはいいが喧嘩なんて数えるくらいしかしたことがない。
「私、魔法が使えます!少しの間引き付けてください!」
女の子がそう言うと何やらぶつぶつ言い始めた。
魔法!見たい!と思ったが、前からゴブリンたちが棍棒を振り上げながら近づいて来た。
思ったよりもゴブリンの動きが遅く感じる。これぐらいなら避けて時間稼ぎなら出来そうだ。
しかし、戦闘なんてやったこともないのに相手の動きがなぜこんなに見えるんだろう?
そんなことを思いながらゴブリンが攻撃してきたのを避けて、右手に持った剣鉈をゴブリンの首めがけて振り抜く。右手に軽い衝撃を感じたと思ったら、ゴブリンはそのまま前にゴロゴロと転がって動かなくなった。
「………の敵を撃て 炎矢!」
転がっていったゴブリンを見ていたら、女の子が杖を前に出すのが見えた。
杖の先端から炎でできた矢みたいなものが結構な速度で飛んでいき、もう一体のゴブリンの胴体に突き刺さる。でもゴブリンは、怯みはしたが倒れずに向かってきた。命中したところは炎で焼かれたのか血も出ず穴が開いている。ゴブリンはまっすぐ僕に向かってきたと思ったら棍棒を振り上げながら突然こっちにジャンプして攻撃してきた。魔法に見惚れていた僕は、慌てて右側に避ける。ほんとに体が気持ち悪いくらい思う通りに動いてくれる。
僕がいた場所に棍棒を振り下ろしながら着地したゴブリンの首に剣鉈を振る。だがゴブリンはバランスを崩したようで首を狙ったはずが、その左肩を浅く切り裂いた。
「ギギィィィィィィ!」
「おっと!」
ゴブリンが棍棒を振り上げてきたが、それを避けて少し離れる。
「炎矢!」
ゴブリンの背後から炎の矢が放たれる。炎の矢はゴブリンの背中から心臓のある(と思われる)場所を貫通して消える。ゴブリンは前のめりに倒れた。
「はぁ、はぁ、ありがとうございました。あなたのお陰で助かりました。」
「ああ。どういたしましてかな。 何が何だかわからないままだったけど、怪我がなくてよかった。」
「私一人では無理だったのでよかったです。えーと、あなたは…」
「ああ。僕は龍次郎っていうんだ。君は?」
「リュウジローさんですか。私は、ニーナといいます。この近くにある町の冒険者です。なったばかりですけど…」
「リュウジでいいよ。でもそんなに小さいのに凄いね。魔法なんて初めて見たよ!」
「小さいって……子供じゃないですよ!もう16歳です!」
「ええ?そうなの?でも一人なの?僕が言うのも何だけど、誰かと一緒じゃないの?友達とか?」
「さっきも言いましたけど、冒険者になったばかりで今日の依頼を受けて薬草をとりにきたんです。薬草を採取していたら突然ゴブリンが出てきて、逃げてきたんです。あんな入口の所にいるなんて思わなくて…」
「そうなんだ、それは災難だったねぇ。実は、僕も困っててね。気が付いたら森の中で、どこに行ったらいいかわかんなくて、川があったんで休憩してたら悲鳴が聞こえてきたからね、人がいるって思って声のした方へ来てみたんだ。」
「そうだったんですね。じゃあ町まで一緒に行きましょう!リュウジさんが一緒に来てくれると心強いです。」
そう言ってにっこりと笑う。うお、何だこの子、めちゃくちゃ可愛いじゃないか!
身長は百五十センチあるかないかくらい。ゴブリンとの戦闘で髪の毛が凄いことになってるが茶色の強い金髪で背中の中ほどまであり無造作に一括りにしている。目は大きくクリっとしていて、垂れ目でおっとりした印象を受ける。瞳の色はエメラルドグリーンでとても奇麗だ。
「あ、ちょっと待っててください。倒したゴブリンの討伐証明を取ってきます。」
と言ってニーナは腰のポーチからナイフを取り出し、ゴブリンの耳を切り取る。さらに、心臓の辺りを切り裂いてナイフで器用に何かを穿り出す。可愛い顔してエグいな。
「それはなに?」
「魔石です。ゴブリンのは小さいですけど買い取って貰えるので。」
「ま、魔石!? 見せて!」
「え? 良いですよ。」
ニーナは、川の水で血を洗い流してから僕の掌に魔石を乗せてくれた。それは、小指の爪くらいの大きさで黒っぽい紫色で綺麗な石だった。魔石を空にかざしてみると中で何か靄みたいなものがゆらゆらしていた。
「宝石みたいだねぇ。綺麗だなぁ。」
「なんかオジサンみたいですよ?」
「ん?僕はおっさんだよ?四十五歳だもん。」
「えええっ?どう見ても私と同じくらいにしか見えませんよ!鏡見たことあります?」
ニーナは、もう一匹のゴブリンから採取していた手を止めて振り返って言う。
「もう。冗談が上手ですね。はい、これでおしまいです。町に行きましょう。」
「わかった。行こう……というか、連れてってください。」
「ふふっ、行きましょう。町まではちょっとありますけど三の鐘までには着けると思いますから。」
「これは、そのままでいいの?」
僕は、ゴブリンの死体を指して聞いてみた。
「森の中には狼やスライムがいて、全部処理してくれるそうです。私は見たことがありませんけど。ずっと傍にいると狼なんかが寄ってくるみたいですから早く離れましょう。」
と言って川に沿って下流の方へ歩き出す。
スライム!いるんだ。あの有名な形をしてるんだろうか。いつか遭遇する事もあるかな?
「逃げるときに背嚢を置いてきてしまったので取りに行きたいんです。」
ニーナは、ちょっと恥ずかしそうにそう言って微笑んだ。