第十九話
朝ご飯を食べ終わって、部屋に戻って着替えます。男の人と一緒に町を歩くなんて初めてのことです。いつも着ている服はあまりかわいい服ではありませんが、いつか着る機会があるんじゃないかと思って買った服が一着あります。綺麗な若草色のワンピースです。着るならばここでしょう!
髪を梳かして前髪を整えます。小さいですが鏡も持っているので確認します。いい感じになったと思います。
あまりリュウジさんを待たせるわけにはいきません。では、行きましょう!
一階に降りていくとリュウジさんは宿の出入り口の辺りで待っていました。私を上から下まで見た後、「爽やかでいい色だね。綺麗なニーナにとても合っているよ。」と言ってくれました。
思いがけないその言葉と笑顔のリュウジさんを見ていたらなんだか胸がドキドキして頬が熱を持って顔が熱くなってきました。
「あ、ありがとうございます。さ、さあ行きましょう!」
なんだかとても嬉しくて頬が緩んでしまいました。私はいつもよりちょっと早足で歩き出します。何とかごまかせたでしょうか。
リュウジさんに町を案内している間は、私ばかりが喋っていた気がします。私がよく行く小物屋さんや町で評判のいい食事処なんかを案内しました。リュウジさんもとても楽しそうにしていたので私も嬉しくってついつい喋りすぎてしまったんだと思います。
お昼が近くなってきたころにリュウジさんがお腹がすいたというので職人通りの屋台で串焼きなどを買って二人並んでベンチに座り食べました。いつも一人で食べていたので誰かと一緒に食べるのは楽しくて、いつもより美味しく感じました。
もうそろそろ試験の時間なので宿に帰ることになりました。リュウジさんは荷物をもって組合にいきました。私は何をしましょうか。あ、そうでした。洗濯をしないといけないんでした。アルテさんに盥と洗濯用の板を借りて井戸の横で洗濯です。
井戸から水を汲むのは私にはちょっと大変です。水って重いんですよね。孤児院の時から思ってたんですがもうちょっとどうにかならないんですかね?
私には洗濯物を干すのも大変です。身長が低いので台がないと物干しまで届かないんです。宿の倉庫から木箱を持ってきて、一生懸命干していたら視線を感じました。宿屋の窓からアルテさんがこっちを見て微笑んでいました。手伝ってくれてもいいのに!
洗濯が終わり、食堂のテーブルでほっと一息ついていたらリュウジさんが帰ってきました。
「ただいまー。」
「あ、お帰りなさい。どうでした?合格しましたか?」
「うん、無事合格したよ。でも、もっと訓練しろって言われちゃったよ。今まで武器なんて扱ったことなかったからなぁ。」
良かった。合格したみたいです。でも武器を使ったことがないなんてほんとでしょうか。
「でも、あの時はすごかったですよ?」
「あの時は結構必死だったんだよ?ゴブリンの動きがよく見えたから対処できたけど、僕から攻撃したらきっと避けられてたんじゃないかなぁ。」
そんなことはないと思いますが……でもこれで二人で依頼を受けることができます。やっと私もパーティを組むことができたんです!
夕ご飯までまだ時間があったのでとりあえず防具屋さんに行くことになりました。
防具屋さんに着いたとたんリュウジさんの目の色が変わりました。なんていうかおもちゃを前にした子供みたいです。
店主さんに相談したら中古で格安の革鎧があるから買わないかと言われて購入することにしました。
なんでも四か月前に修理に出して取りに来ないんだそうです。後で聞いたところによると、時々あることみたいです。
リュウジさんが替えの服と下着が欲しいそうで古着屋さんに行って服を買った後ご飯を食べて宿に帰りました。
今日は、二人で初の依頼を受ける日です。まずは組合に行きます。薬草採取は常設依頼なので現物を直接買い取りカウンターまで持っていけばいいんですが、リュウジさんは初めてなので手順を説明しながらです。
薬草の群生地まで行く間に採取の仕方などを説明します。あと角ウサギについても注意しておきます。角ウサギ自体は弱いのですが、藪の中から飛んでくるので油断していると結構手ひどい怪我を負ったりします。でも、注意していれば私でも無傷で狩れるし、意外と買い取り価格も良いので見つけたら狩ります。
そろそろ薬草が生えているところです。人が来た痕跡が見当たらないので期待できそうです。
「誰も来た形跡がないですね。もうちょっと真っ直ぐ行った処です。リュウジさん、きっと薬草いっぱいありますよ。」
そう言った時でした。リュウジさんの左側から葉が擦れる音がしたと同時に白い塊が飛び出し、リュウジさんの左腕を掠めていきました。
「いたっ!」
「大丈夫ですか!」
「大丈夫!掠っただけだ。気を付けろニーナ!」
本当に大丈夫なんでしょうか?掠った所は服が破れて血が滲んでいます。
「ごめんなさいリュウジさん。私がもっと気を付けるように言っておけば良かったんです。」
「それは後でな。来るぞ!ニーナ!」
私も杖を握りしめて警戒していたらリュウジさんの右前方からまた角ウサギが飛び出してきました。リュウジさんがダガーを突き出したと思ったら角ウサギに深々と突き刺さっています。私は、リュウジさんの傷の処置をして謝ったんですがあまり気にしていないようです。でもリュウジさんの傷がそんなに酷くなくてほっとしました。
角ウサギを捌いている時に気になったことがありました。リュウジさんに穴を掘ってもらうように頼んだのですがその時に何かの道具を取り出したみたいなんですが、ごく微量ですが魔力の波動を感じたのです。
「こんなもんでいい?」
「はいありがとうございます。ん?何かしました?あれ?何ですか、それ?」
「これ?折り畳み式のシャベルだよ。」
「リュウジさんて変わったものを持ってますね。」
「あはは、まあね。」
なんだか上手く誤魔化されてしまいましたが、あの魔力の波動は何だったんでしょう?
時期が良くて花のついた薬草の群生地に着いて刈り取りの終わった薬草を運ぶときに、リュウジさんが背嚢に収納するときまた魔力の波動を感じました。
「あれ?その背嚢ってマジックバッグですか?入れるときに魔力の波動がありましたよ。すごいですね!貴重だしものすごく高いんですよ!何で持ってるんですか!?」
「これってやっぱり珍しくて高いのか。んー、持ってることは内緒にしてね。元々は普通のリュックサックだったんだけどいつの間にかこうなってたんだ。」
いつの間にかって……マジックバッグって凄く高価なんですよ!リュウジさんわかってなさそうです。セトルの町でも持っているのは領主様かものすごく大きな商店の人とかです。私たちみたいな駆け出しの冒険者が持っていたら絶対に盗まれてしまいます。これは何か誤魔化す手段を考えなくてはいけません。
「わかってます、言いませんよ?それに魔法使いじゃないと魔力の波動は分からないと思うんですけど、街中ではあまり使わない方がいいですね。マジックバッグは魔力を登録しないと使えませんから、リュウジさんは魔法が使えるかもしれません。」
そうなんです、マジックバッグは使用者を登録しないと使用することができないので魔力を動かせないと駄目なんですが、リュウジさんは魔力のモヤモヤがあまり見えないんですよね。 少しは見えるのでもしかしたら使えるかもしれない程度ですが……
「え?ほんと?魔法使えるの?僕が? おぉ!やった!どうやったら使えるの?」
何かすごく喜んでいます。リュウジさんにも使えるといいんですが、何とも言えないんですよね。
「えーと、その辺は町に帰ってからにしましょう。それにまだ使えると決まったわけではないですよ?」
「それでもいいよ!約束だよ!教えてねニーナ!」




