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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第百七十二話

 翌日朝、まだ日が昇る前に宿を出発した僕たちは、順調に湖を東周りで北上している。今日は、早速夜通し走ることになっている。馬の疲労が心配だけど、走らせなくて適度に休憩を取れば大丈夫とのことだ。馬凄い。


「今日からは模擬戦出来ねぇなぁ。結構楽しみだったのによぉ」

「まあ、僕も残念だけど、今まで結構付き合ってもらったからな。ありがとな、ライル」

「またこういう事があったらやろうぜ」

「ああ」


 今、僕はライルと一緒に馬車の横を走りながら喋っている。前世の自分からは考えられない行動だ。前の体だったら絶対無理。有難うアユーミル様。


「草原の向こうから何かが来るよ!」

「皆さん、お願いします!」


 馬車の荷台に乗っているタニアが敵の接近を察知した。ここからは何の姿も全く見えない。タニアの感覚ってどうなってるんだろう?何にせよ頼りになることは間違いない。


「私が追い払います。どこですか」

「あの辺だね」

「わかりました」


 タニアが指さした方を見ると草原の草が少し揺れているのがわかった。ニーナが呪文の詠唱を始める。これは火球だな。火事にならないといいけど…


「ニーナちゃーん、わたしがーやりますよー」

「え?」

「火球だとー火事になっちゃいまいますからー」

「わかりました。お願いします」


 呪文の詠唱を始めたニーナの肩に手をやって聞いたことのない呪文を唱え始めるルータニアさん。何の魔法だろう?水系統の魔法が得意だから水球かな?


「…敵を切り裂け、水刃(ウォーターカッター)

「水刃?」


 ルータニアさんが持つ杖の先から、水で出来た数枚の薄い半月が地面と平行に飛んでいく。


「わ、凄い」


 水の刃は、草原の草を切り飛ばしながら接近する敵に迫る。


「狼だね」

「狼ですね」

草原狼(グラスウルフ)か。リュウジ、前出るぞ」


 水刃が近づくと、茶色の大きな犬が跳ねた。狼ってでかいんだな。体高が一メートルくらいありそうだ。それが三頭こっちに向かって走ってくる。

 ルータニアさんが放った水刃は、放射状に進んでいったが左右に広がったそれが方向を変えて狼に向かっていく。


「どーですか!わたしもー魔法を操れるようになったんですよー!」

「凄いです!」

「使徒様を狙うだけのことはありますね」


 ニーナは素直に感心し、エリシャはちょっと捻くれた感じだなぁ。

 真っすぐに飛んで行った水刃は躱されたけど、左右から迫った向かって左のものは直撃し、右は狼の後ろを通過し外れてしまった。

 と思ったら、三頭の後ろにもいたようで、ギャンという声が聞こえてきた。


「うん、狙い通りですー」

「まだ四頭残ってるよ!」


 ほんとかなぁ?見た感じ狙いが外れたように見えたけど。

 さらにタニアから注意が飛ぶ。


「嘘つけ!」

「そうだぞルー。嘘はよくないぞ」

「えー?ほんとだもん」


 どうやらただ運がよかっただけだったみたいだ。ガウラスとスレインに突っ込まれている。

 それはいいとして、残った四頭がこっちに向かってきた。


「来るよっ!」

「スレイン!援護!ガウラス!来い!シア!護衛!」

「ガルト!馬車を頼む!」


 タニアとニーナなら上手く援護してくれる。タニアはもう弓を射ているし。

 ライルと僕とガウラスの三人が前衛だ。ライルは両手持ちの大剣。ガウラスと僕が盾と片手剣だ。


「いくぜっ!」

「リュウジ!狼は連携してくるから気を付けて!」


 正面から三頭の草原狼が突っ込んでくる。

 タニアから有難いアドバイスが飛んできた。そうか、狼って群れで狩りをするんだったな。

 ルータニアさんの水刃で草が刈り取られた見通しのいい場所で迎え撃つ。本当はガルトが前面に立って攻撃を引き付けるのが普通なんだけど、今回は間に合わないから僕とガウラスでその役目を担うことになる。もちろん隙が出来たら攻撃もする。


「来るぞ!」


 ガウラスと一緒に前に出る。


「こっちは任せろ!」

「わかった!」


 草原狼は、前世の大型犬よりも一回り大きく見える。勢いも凄いから衝撃も思ったよりも凄そうだ。


「くっ」


 先頭を走っていた狼が低い姿勢から太腿の付け根を狙って飛び込んでくる。その後ろから走りこんできているもう一頭が見える。

 狙われている右足を後ろに引きながら、草原狼の首を目掛けて盾の縁を使って叩きつける。


「ギャンッ」


 叩きつけられた草原狼は、そのまま地面に這いつくばりながら滑っていく。あれは後ろにいるライルに任せよう。次だ。


「おりゃ」


 その後ろから気の抜けた声が聞こえて狼が斬られたのがわかった。

 そんなことより目の前だ。もう一頭の草原狼は、突然向きを変えて僕らから逸れていく。なんだ?逃げた?

 ガウラスの方を見ると、一頭は剣で串刺しにしていて、もう一頭は眉間に矢が刺さり死んでいた。


「お疲れさん。一匹逃げちまったな」

「しょうがないよ。狼には追い付けないからね」

「違いねぇな」


 草原狼の毛皮は組合で買い取ってくれるので、ルータニアさんの魔法で倒したものも含めた綺麗に倒した三頭はこの場で解体することになった。


「ライルは思いっきりやり過ぎ」

「すまん」

「頭がぐしゃぐしゃじゃねーか」

「毛皮は駄目ね。これは肉にしましょう。ルー、血抜くから冷やして。ライルは早く持ち上げて」

「はーい」

「わかったよ」


 シアさんが手際よく、ライルに狼を持ち上げさせて血抜きと解体をしていく。解体された狼は、ルータニアさんが水魔法で洗浄と冷却していく。しかし、シアさんの手際が凄い。狼って美味しいんだろうか。


「シアさん解体上手ですね」

「え?ええ、趣味なので…」


 趣味?解体が趣味って、何と言うか珍しいね。こんな綺麗な人なのに血塗れになって嬉しそうだよ…


「そ、そうなんですね。今度ぜひ教えてください」

「!! ええ!喜んで!リュウジさんも解体に興味が?」


 クリンとこっちを向いたシアさんの目がキラキラしている。血塗れの解体用ナイフを拭いながら綺麗な顔の頬にべったりと血を付けたままとっても嬉しそうな笑顔だ。いつもクールで綺麗なシアさんが、途端に恐ろしく見えた。


「興味と言うほどでもないんですが、綺麗に解体出来たら買取が高くなりますよね?」

「そうですね!」

「僕もタニアに教えてもらったんですが、細かいところがどうしても上手くいかなくて」

「わかりました。次の一頭を一緒にやりましょう!」

「お願いします」


 シアさんに教えて貰いながら狼を解体していく。シアさんの指示はわかりやすく、注意するところもその都度教えてくれる。教えられながら進めていくとあっという間に解体し終わってしまった。シアさん凄い。


「リュウジさんのそのナイフ良いものですね」

「ありがとうございます。こいつにはよく助けられてますから」

「大事な相棒なんですね。そういう刃物は大切にしてくださいね」

「勿論です」


 結局全部綺麗に解体した草原狼は、リュックサックに入れて次の休憩地点の町で買い取って貰うことになった。リュックに入れておけば肉も腐らないからね。


「おーい、そろそろ出発するぞー」


 スレインが呼びに来てくれた。血塗れになってしまったシアさんと僕に浄化を掛けておく。僕も少しなら使えるんだよ。普段はニーナに任せてるけどね。


「ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

「ねえ、リュウジさん、ルーにその浄化魔法を教えて貰うことってできます?」

「ん?いいですよ?」

「わぁ!ありがとうございます!浄化魔法って使える人はそれなりにいるんですが、教えてくれる人が少ないんですよね」

「え?そうなんですか?僕とニーナは、フルテームで教えて貰いましたけど…」


 僕たちは相当運が良かったらしい。シアさんは、これで依頼の最中、臭いのを我慢しなくてよくなると喜んでいた。確かに依頼の最中は体を拭くことも出来ない時もあるからなぁ。暁の風も僕たちも男女が混じったパーティだからね。まあ、よっぽど我慢できなくなったら関係ないけどさ。


「ルー、ちょっといい?」

「んー、なんですかー?」

「今からリュウジさんが浄化魔法を教えてくれるから、しっかり覚えなさい」

「え?ほんとーですかー!やったー!」


 ミレナさんの出発しますよーとの声を聴きながら馬車に乗り込んでルータニアさんに浄化魔法を教える。この世界の魔法は想像力が大事なので、そこに重点を置いて教えると二時間程度で使えるようになった。肌の新陳代謝とか汗の成分とかを教えると良かったんだけどルータニアさんにはちょっと難しかったみたいで不思議そうな顔をして首を傾げていた。この人もほんわかしてる美人さんなので、そう言う仕草をされると可愛いなぁと思ってしまう。


「む」

「むむ」


 だけど、そうなると僕の両側に座って警戒しているニーナとエリシャが脇を突いてくるので、僕は苦笑いをするしかない。


「もうすぐこの湖周辺の最大の町、ルーベックです。この町には組合がありますよ」


 湖を左手に見ながら進んでいると、前方に壁に囲まれた町が見えてきた。 

 湖から爽やかな風が吹き抜け、湖面が陽の光を反射してキラキラしてて綺麗だ。ルーベックの町の外壁は真っ白でこれも陽の光を反射して輝いているように見えてとても風情がある。壁の中に見える建物の屋根は赤茶色のものが多く、建物の壁は白い。欧州の地中海にある町みたいだ。行ったことないけど。

 そのまま進んでいくと、家の壁と外壁の白色で町全体が輝いているように見える。ニーナとタニアはそれを町の輝きに負けないい笑顔で見ていた。


「綺麗な街ですね!」

「あたしも初めて見たけど、すんごいね」

「この町の名物は何だろうね。美味しいものだといいなぁ」

「使徒様は食べることが好きですね」

「美味しいもの食べると幸せな気持ちになれるだろ?」

「そうですね」


 知らない土地に行くのはちょっと怖いけど、それ以上にワクワクが湧いてきてちょっとテンションが上がるよね。

 この世界の人たちは生まれた場所から動く人が少ないんだよね。理由はわかると思うけど、魔物や時間がかかりすぎることが主なものだ。僕たちみたいに戦える力のある人たちでも、よっぽどのことがない限り一所にとどまることが多いと聞いた。遠くに行くのは行商に行く人たちくらいかな。

 僕は、せっかく異世界に来たんだから色んなところに行ってみたい。きっとニーナは付き合ってくれるはず。タニアとガルトはどうかなぁ、エリシャも付いて来てくれそうだな。ま、今はこの町を目いっぱい楽しもう。



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