第十七話
この話から少しの間ニーナ視点です。
私は、ニーナといいます。半年前に冒険者になったばかりの十六歳です。私は孤児でした。この町の孤児院の前に捨てられていたみたいです。
孤児院では、十人の兄弟姉妹たちと一緒に育ちました。男の子が四人と女の子が六人です。私が一番小さくよく面倒を見てもらったことを覚えています。みんな仲が良かったです。私が六歳の時に一番年上だった兄さんが冒険者になるといって孤児院を出ていきました。男の子は冒険者や商人の丁稚などになっていく子が多かったです。女の子は、お店で働いたり町の人と結婚して出ていきました。
私は、小さい頃は活発ではなかったんですが二番目の兄が良く面倒を見てくれたからか懐いていたそうです。その兄が冒険者になって家を出ていきました。
その兄はカイトと言うんですが、出て行ってから一年くらいたったころふらっと戻ってきました。
戻ってきてくれたことが嬉しかった私はカイト兄にくっついて冒険の話をよく聞いて、その頃から冒険者に憧れていたんだと思います。
カイト兄は剣士だったのですが、少し魔法を使えたそうです。初級魔法程度だったそうですが、私はカイト兄に頼んで魔法の使い方を教えてもらうことになりました。
「ニーナ、魔法はすごいことができるんだぞ。でも子供の時は使ったら駄目だからな。」
「うん!わかった!」
「ニーナには、炎矢を教えてやる。教えてやるけど人に向けて使っちゃだめだからな。」
「うん!使わないよ!でも練習するときはどうすればいいの?」
「森の中に広くなったところがあるからそこで練習しよう。今日は無理だけど俺はまだ暫くの間ここにいるから明日でもいいぞ。」
「じゃあ、明日ね。約束だよ!でも何で教えてくれるの?」
「それはな、兄ちゃんは凄いんだぞって自慢したかったからだ!剣も使えるし魔法も使えるんだぞって。兄ちゃんも仲が良くなった魔法使いの人に教えてもらったんだ。魔法使いは、魔力がある人が分かるんだ。こう、体の周りにモヤモヤってしたのが見えるんだ。ニーナにも見えるから魔法が使えると思う。魔力が少ない人のは見えないんだ。」
「へー、そうなんだ。ニーナにも見えるようになる?」
今思えば、滅茶苦茶な理由ですがその時は単純にカイト兄は凄いって思ってました。カイト兄も成人したばかりだったんです。まだ子供っぽいですよね。
次の日から私はカイト兄に魔法を教えて貰いました。
カイト兄は剣が主で魔法は得意ではなく、使えるのも炎矢と火球だけだったけど、私は幼いながら、とてもすごいことを教わっていると思って嬉しかった。それから毎日のように練習しました。
一月くらい経って私が炎矢を撃てるようになったころ、カイト兄はまた冒険してくると言って家を出て行きました。
「またな、ニーナ。魔法頑張れよ。」
「うん、カイト兄も冒険者頑張ってね!」
それからカイト兄は一度も帰ってこなかったんです。でも死んだとも聞いていないのでどこかで生きていると思っています。
それから、一人で魔法を練習し続けて十五歳になった私は、念願の冒険者になるために試験を受けましたが三回挑戦してやっとなることができました。
私も最初はパーティに入れて欲しくて色んな人にお願いしましたが、炎矢しか使えないとわかると断られてしまいました。町の人たちや組合の人たちは良い人たちばかりだったのですが、なぜか他の冒険者の人たちには相手にされません。仕方ないので一人で薬草採取の依頼を受けてばかりいました。
その日も、薬草採取依頼をしていた時でした。森の浅いところに薬草が無かったので、少し奥へ入って採取していたんです。この辺りでは角ウサギは出ますが森狼や山狼などは滅多に出ません。そんなところでゴブリンの鳴き声が聞こえたのです。
「この声は!?ゴブリン?」
私は、薬草を採取する手を止め近くに置いた杖を握ります。ゴブリンは、普段は森の奥の方の洞窟などに巣を作って、時々近くの村や道行く人を襲います。男の人は食料になるか嬲り殺し、女の人は苗床にされてしまいます。一匹で行動することは少なく二匹から四匹で群れて行動するそうです。
戦うのは私一人では無理です。魔法は使えますが、詠唱している間に捕まってしまいます。杖で戦っても少しの間は持ちますがすぐに捕まってしまうでしょう。逃げなければと思い来た方に振り返ったらそっちからゴブリンが一匹姿を現しました。太めの木の棒を振り回してグギャギャ、ギギィと鳴いています。すると左の方からももう一匹出てきました。まずいです。逃げる方向を塞がれしまいました。背中を汗が流れ落ちていきます。
森の奥か、川の方に逃げるしかありません。私は迷いなく川の方へ走り出しました。後ろからゴブリンたちが追いかけてくるのが分かります。鳴き声と足音や木の枝を踏み折る音が聞こえ来たからです。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
追い立てられる恐怖から悲鳴がもれます。いやだ!いやだ!まだ死にたくない!そんなことが頭の中をぐるぐる回っていました。そうして必死に走って逃げていたら木々の先から光が見えました。森の切れ目、川に着いたのです。後ろを振り返る余裕もなく河原を川上に向かって走ります。まだゴブリンの声が聞こえるので追ってきています。今考えるとなぜ川上に向かったのか分かりません。それだけ必死だったのでしょうか。川下に向かえば街道に出ることができたのにです。
河原の石に足を取られながら走っていると前方に人の影が見えました!人がいる!?助けてください!
「あああ、よかった! 人がいる! 助けてください!ゴブリンが!私まだ死にたくありません!」
「ええ? ゴブリン?」
その人は、黒髪の短髪でその恰好はおよそ冒険者には見えませんでした。私が彼の後ろに回るとゴブリンが石を投げてきました。
「うわっ あぶねぇ」
彼は腰からダガーを引き抜くと構えます。構えている姿はあの頃のカイト兄と比べても頼りないですが大丈夫でしょうか。
ゴブリンの標的が彼に変わりました。それから私は彼の影に隠れるようにゴブリンから距離を取り呪文の詠唱を始めます。
「私、魔法が使えます!少しの間引き付けてください!」
乱れた息を整えながら、魔法を撃つために移動していきます。彼の後ろからだと射線が確保できないのでゴブリンが良く見える位置まで来ました。
「万物の根源たる魔素よ 我の意に沿い顕現せしめ矢の形をもってかの敵を撃て 炎矢!」
呪文を詠唱しながら魔力を練り上げていきます。私は詠唱を始めてから撃ち出すまでにまだ時間がかかります。最後にカイト兄と練習したときは五十を数えるくらいでした。今もそれぐらいだと思います。魔力を練り上げるのにどうしても時間がかかってしまうのです。初めて炎矢が撃てた時は百二十くらいかかりました。
私が詠唱している間に彼はゴブリンを一匹仕留めていました。ゴブリンの攻撃を余裕をもって躱しながら首にダガーを一閃して倒してしまいました。凄いです。私も負けてはいられません。杖の先端に炎矢を出現させもう一匹に放ちます。
炎矢はゴブリンの胴体に命中しましたが、倒せませんでした。もう一度詠唱を始めます。
彼は魔法に見惚れていたみたいでしたがゴブリンの攻撃をとっさに躱して反撃していました。
「万物の根源たる魔素よ 我の意に沿い顕現せしめ矢の形をもってかの敵を撃て 炎矢」
彼の攻撃で動きの鈍ったゴブリンの心の臓を背中側から狙います。ゴブリンが棍棒を振り上げて攻撃しましたが彼は余裕で避けています。今です!
炎矢をゴブリンの心の臓を目掛けて放ちました。棍棒を振り上げて動きの止まっていたゴブリンに狙い過たず炎矢が突き刺さります。炎矢は貫通して消え、ゴブリンは前のめりに倒れました。
「はぁ、はぁ、ありがとうございました。あなたのお陰で助かりました。」
本当にこの人がいて良かった。一人だったらどうなっていたことか。考えたくありません。
「ああ。どういたしましてかな。何が何だかわからないままだったけど、怪我がなくてよかった。」
「私一人では無理だったのでよかったです。えーと、あなたは…」
「ああ。僕は龍次郎っていうんだ。君は?」
顔を見るととても優しい表情をしていました。いい人なのでしょう。なぜかちょっと胸がキュンとなりました。背は私よりもずいぶんと高く見上げなければなりません。体つきもがっしりとしています。服装は普通の町の人のようです。森の奥で防具もせずにいるなんてどうしたんでしょうか。私と同じ薬草採取をしていたんでしょうか?
「リュウジローさんですか。私は、ニーナといいます。この近くにある町の冒険者です。なったばかりですけど…」
「リュウジでいいよ。でもそんなに小さいのに凄いね。魔法なんて初めて見たよ!」
「小さいって……子供じゃないですよ!もう16歳です!」
私はよく子供と間違えられます。童顔で身長が低いので仕方ないのですが、スタイルは結構自信があるんですよ。
魔法を初めて見たって……ほんとなんでしょうか?
「ええ?そうなの?でも一人なの?僕が言うのも何だけど、誰かと一緒じゃないの?友達とか?」
失礼な! 私だって友達の一人くらいいます!でも何でパーティを組んでくる人がいないのか分かりません。魔法が一種類しか使えないことが原因だと自分でも薄々わかってはいるんですが、伸びしろはあると思うんですよ?




